ガンダムビルドライザーズ   作:shisuko

9 / 25
閃ハサ公開までもう一ヵ月切りましたね。実に待ち遠しいですね。

あと、前回の話の時に書き忘れてましたが、本作ではヒロトと()()の過去について、若干変更というか、追加要素が加わります。
今回の話ではその追加要素の片鱗っぽいのが出てきますが……まぁ、本格的に触れるのはずっと先の予定なので、今はお楽しみという事で。


第8話 俺は絶対諦めない

「――おっ」

 

 アガタ模型店、店内奥(バックヤード)

 イツキとコテツとトピアがGBNへログインするのを見送った後、店に訪れる客もいないため奥へと引っ込んで中断していたコ〇ブ〇ヤの1/6ビー〇トマ〇ターの製作を再開していたヒカルは、傍らのラックトップパソコンの反応に気づき、ニッパーを取ろうしていたその手を止めた。

 店外の小屋(GBNプレイスペース内)に設置された筐体(きょうたい)付きパソコン全てとリンクが繋がっているそれの画面には、つい先程までログイン中になっていた三台が丁度ログアウトしたというダイアログが表示されている。

 それを確認したヒカルは、左手に持っていたランナーを作業台にしていた机の上に置いて席を立ち、裏口を抜けて足早に小屋へと向かった。

 GBNから戻って来た()()()()()()を出迎えるのは、いつもの彼の習慣だ。しかし、その動きはいつもの彼に比べてやや機敏で、張り切ったものだった。

 何故ならば、今回はイツキ(始めたての初心者)がいるからだ。

 最近はログインする時間に恵まれないとはいえ、彼自身もガンプラとGBNを愛するダイバーの一人。同じ趣味を共有する仲間が増えるのは単純に喜ばしい事で、これからもガンプラやGBNを好きでいてもらえるように、そして数少ないお得意さんの一人になって店の売り上げに貢献してもらえるように、出来るだけ楽しんでもらいたいとも思っている。

 だから、現実に戻って来たイツキが目の一つも輝かせて飛び出し、すっげぇ楽しかった、と感想を口にしている様を想像し、意気揚々と小屋の引き戸を開けたヒカルは、

 

「やあ、皆お帰り! イツキ君、初GBNはどうだった、か……な?」

 

床に手と膝を着いて跪いている彼の思わぬ姿に、つい言葉を失ってしまうのだった。

 

「ど、どうしたの?」

 

 心行くまで楽しんで来た、という雰囲気にはどう見ても見えないイツキの様子に絶句したヒカルは、どうにか声を絞り出してそう問い掛ける。

 その声に、当のイツキは小屋の奥の方に体を向けたまま返答しなかったが、

 

「いや何つーか……ちょっと色々あってよぉ」

 

代わりに、隣まで歩み寄って来たコテツと、彼の肩に腰掛けたトピアからヒカルは何があったかの説明を受ける事となった。

 イツキが二度に渡って初心者狩りに遭った事。

 更にその後、カザミ(ひき)いるBULID DiVERSを見つけ、そのメンバーであると同時に彼が欲していたコアガンダムの製作者であるヒロトと接触した事。

 そして、経験・技術の面から自分では作る事が出来ないコアガンダムの製作を彼に頼み込み、見事玉砕(ぎょくさい)する結果に終わってしまった事を。

 その全てを聞き終えた時、眩暈(めまい)を覚えたヒカルは眉間を(つま)んで天を仰いでいた。

 

「……何ていうか……本当に色々あったみたいだね」

 

 “ブレイクデカール”を使う“マスダイバー”も根絶されて久しい今のGBNで、一日に二度も初心者狩りに狙われた事が既に驚きであったしイツキの様子の原因はそれかとも思ったのだが、それに加えてBUILD DiVERSやヒロトとまで出会うとは。

 総アクセス数二千万人以上のGBNの中でフレンド登録を結んでいるワケでも無い特定の誰かと出会う可能性など、砂漠の中からたった一つの米粒を探し当てられる確率にほぼ等しいものだ。フル稼働したバイオコンピュータの補助を受けた“シーブック・アノー”でもなければ難しいだろうそれがログイン初日で叶ってしまうなど、一体どんな奇跡(ミラクル)なのか。

 

「あ、あと話してみたら意外と良い人そーだったわ、カザミさん。何か他のフォースの名前パクったってのもちげー気してきたし、マジで兄ちゃんが言ったみてーに事故だったのかもな」

 

 今度会ったらピンクヤローって言った事謝っとかねーとな、とついでにコテツが言っていたりもしたが――それはともかく、だ。

 

「それにしても、思い切った事頼んだね。コアガンダムを作ってくれ、なんて」

 

 ヒロトにコアガンダムの製作を頼み込んだというイツキの行為を思い返してしみじみとそう言ったヒカルに、全くだぜ、と呆れたようにコテツが同意する。

 

「テメーが手間暇掛けて作った大切なガンプラを他のヤツにも作ってやるヤツなんていねーから、諦めろっつっといたんだぜ? それであのザマだ、世話ねーよ」

 

「ははは……まぁまぁ」

 

 ったく、と腕を組んで眉間を寄せるコテツを苦笑混じりに(なだ)めるヒカルであったが、意見そのものは彼と大体同意ではあった。

 人に作ってもらおう、という考えそれ自体は敢えて否定しない。

 世の中にはガンプラに限らずプラモデルの製作代行を請け負う人間だっているし、このアガタ模型店も含め、ガンプラの貸し出し(レンタル)サービスを行う店や個人だって幾つも存在している。

 より出来が良くて強力なガンプラを得るためにそういったものを利用する人間もいるにはいるが、そもそもそういったものは自分でガンプラを作った事が無い、あるいは作れない、今のイツキのような()()()()()のためにあるのだ。それを利用したからと外野がどうこう言う筋合いは無い。――少なくとも、ヒカル自身はそう思っている。

 と言っても、今回の件は流石に別。

 会ったばかりの、特に製作代行の類を請け負っている訳でも無いだろうヒロトに、彼が一から作り上げたであろう愛機と同じ物を要求したのだから、そりゃあ彼だって首を縦に振ったりしないだろう、というのがコテツの話を聞いてすぐ浮かんだ彼の率直な感想だ。仮に製作を頼まれたのがヒロトでは無くヒカルで、対象もコアガンダムではなく彼の愛機だったとしても、当時の彼と同じくヒカルもイツキの願いを迷い無く断っている事だろう。

 しかし、その一方で。

 

「でも、ちょっとかわいそうですぅ……」

 

 コテツとは対照的に、奥で(ひざまず)いたままのイツキに目を遣っていたトピアが心配げに言う。

 

「ビルドダイバーズの人たち――ヒロトさんを見つけた時、イツキくん、凄くうれしそうでした。あんなに欲しがってたコアガンダムちゃんが手に入るかもって。でも、けっきょく手に入らないなんて……」

 

「……しゃーねーだろ、手に入んねーモンは入んねーんだからよ」

 

 トピアの言葉に、唇を尖らせてコテツが反論するが、直前の言い淀んだような唸り声やばつの悪そうなその表情は、彼女の言葉を否定し切れない彼の内心をそれとなく表していた。

 そんな二人の遣り取りを見るヒカルもまた、内心に無視し切れない()瀬無(せな)さを覚えていた。

 イツキの側からすれば、ヒロトの存在は彼がコアガンダムを手に入れる最後の手段も同然だった。それが絶たれてしまった今、少なくともまともな製作技術の無い今の彼にとって、コアガンダムはその手中に収める事が出来ない遠い存在と化したに等しい。

 ヒカルもまたイツキとは今日知り合ったばかりだ。彼が知るイツキの姿は、今を除けばアガタ模型店を訪れてからGBNへログインするまでの僅かな間の分しか無いが、その僅かな間で彼がどれだけコアガンダムという存在を欲していたのかはしっかりと伝わって来た。

 それ故に、そのコアガンダムが永遠に手に入らなくなったも同じである今の彼の、絶望する気持ちも嫌でも伝わって来るのだ。

 

「……何とかならないでしょうか?」

 

 イツキの方を向いていたトピアの顔が、次いでヒカルの顔を見上げて来る。

 

「……そうだねぇ……」

 

 訴え掛けて来るような碧色の瞳に、彼もまた腕を組んで、うーん、と唸りながら思考しようとする。

 だが、その直前。

 

「……めない……」

 

 ぼそり、と微かにそんな呟きが耳に入ったような気がするや、小屋の奥で跪いたままだったイツキが不意にその場に立ち上がった。

 俯いたまま、ゆらり、と僅かに体を揺らしながら。

 

「い、イツキ君……?」

 

 時刻は午後六時少し前。

 所謂(いわゆる)逢魔(おうま)が時にはまだ早いが、しかし僅かな夕日がヒカル自身の体越しに差し込むだけの薄暗い小屋内において、今のイツキの姿はまるで幽鬼のように怪しげな雰囲気をかとなく感じさせた。

 その様子に、コテツとトピアと共に息を詰まらせそうになるヒカルであったが、戸惑いながらも何とか呼び掛ける。

 その声に、イツキは振り返る事無く、再びぼそり、と呟く。

 

「……手に入れるんだ……」

 

「え?」

 

 僅かに聞こえた言葉に、思わずヒカルは聞き返す。

 嫌な予感がした。

 

「……手に入れるんだ、コアガンダムを……。俺は……俺は絶対、()()()()……!」

 

 とても、とても嫌な予感が。

 

 

 

 結局、小学生が居座り続けるには大分遅い時間になっていた事もあり、どこか心配そうな様子を伺わせつつも店の外まで見送りに出たヒカルとトピア、そして途中まで帰り道を共にした後、気ぃ落とすなよ、とぶっきらぼうながらも気を遣ってくれたコテツとも別れたイツキは、そのまま帰宅。既に夕飯の支度を終えていた母と、彼に遅れて帰って来た父と共に夕食を摂る事となった。

 夕食の場では、いつも通り他の話題はあっても、ガンダムの話題だけはガの一文字だろうと絶対に出て来なかった。

 イツキとしては色々とあった初GBNについて色々と話したかったし、そういえば、と父からも一度は話題を振ろうとする場面もあったのだが、その途端にワザとらしい母の咳払いによって、気まずい空気と共にその機会は首を(すぼ)める亀の如く引っ込んでしまった。

 そんないつも通りの母に不満を覚えて口を尖らせるも黙ったまま食事を終え、早々に風呂と宿題、それからのG-TUBEの動画を少しだけ見てから床に着くイツキもまたいつも通りだったが、そこから眠りに入るまでに頭の中をぐるぐる駆け巡っていた思考だけはいつもと違っていた。

 

「……絶対に……絶対に……手に入れるぞ……」

 

 消灯して真っ暗になった自室の天井をベッドの上から見上げ、ぶつぶつと呟き続けるイツキが、その頭の内に描く()()を起こすのは翌日。学校を終えるや、コテツが一緒に帰ろうと呼び掛ける間も与えず大急ぎで家へと戻り、ランドセルだけ置いて一目散に向かったアガタ模型店からGBNへとログインした後の事だった。

 まず、イツキは()()を探した。()()を見つけなければ、何も始まらないからだ。

 もちろん、フレンド登録を結んだワケでも無い()()と再びGBNで相見(あいまみ)える事など、総アクセス数二千万人以上という膨大な分母の前にはほぼ不可能と言っていい。それこそ、ニュータイプを始めとしたガンダム作品群に出て来る様々な特殊能力者のような、直観力や探知能力でも持っていない限りは。

 しかし、今のイツキは違った。

 今も彼の内に渦巻く、絶対にコアガンダムを手に入れるという想い。

 昨日の一件を経て更に高まり、燃え上がったその感情に後押しされている今の彼は、こと()()を探し当てるという一点において、恐ろしい事にニュータイプにイノベイター、Xラウンダー、その他多数の特殊能力者を超える程の直観力と探知能力を得るに至っていたのだ。

 もはや、執念の域だ。

 その執念のままに、遺留品に残った臭いを手掛かりに犯人を追う警察犬の如く、ギラギラ、と光る眼で辺りを見回しながらロビーを探し回ったイツキは――遂に()()の姿を捉え、獲物を見つけたネコ科動物のように素早く、音も無く迫った。

 

「うし! んじゃ、今日は久々にエルドラに――」

 

お願いします!

 

「――って、うおわあぁぁぁ!?

 

 最初は、気取られる事無くその背をよじ登ったカザミの肩越しから。

 

「はぁっ、はぁっ……! なっ、何だよ、今の!?」

 

「さっきのって、昨日の子ですよね? 何でまた――」

 

俺に!

 

わああああぁぁぁぁっ!?

 

 続いて、セントラルエリアの公園内。息を切らして他の者達と共に逃げて来たパルヴィーズの、すぐ傍のゴミ箱の中からゴミを押し出しながら。

 

「ぜぇっ、はぁっ……! やっぱり! あの子、昨日の!」

 

「何なんだよアイツ!? 何がしたいんだよ!?」

 

「カザミ君、パル君、落ち着いて! 大丈夫、ここからならエルドラに――」

 

コアガンダムを!

 

きゃああああああぁぁぁぁっ!?

 

 更に続いて、“エスタニアエリア”市街の裏道。泣きそうな顔をしているカザミとパルを宥めていたヒナタの足下、彼女のスカートの下から()い出ながら。

 

作って!

 

「……私に頭を下げられても困るんだが?」

 

 またまた続いて、セントラルエリアのメインストリートの一角。仏頂面を崩さないまでも、本当に困ったように八の字に眉を下げて腕を組むメイに、深々と最敬礼をしながら。

 そして最後に、メインストリートの別の一角。

 

下さい!

 

「……」

 

 酷く憔悴(しょうすい)したカザミとパルヴィーズとヒナタと、三人の様子を横から伺うメイの前に立つヒロトへと、コンクリートの地面に頭を押し付けて土下座して、イツキは頼み込んでいた。

 ……まぁ、結局は頼み倒しである。

 何せ、昨日の今日だ。一度は断られたショックもあって、それ以上の方法は残念ながらイツキの頭に浮かばなかったのだ。

 しかし、だからと(あなど)るなかれ。

 二千万人の分母の中からBUILD DiVERSを見事探し当て、どれだけ彼らが逃げようとその都度イツキは追い付き、懇願を続けて来たのだ。

 それも、全ては彼のコアガンダムに掛ける想い――執念あってこそ為せた事。

 その執念を嫌という程見せた今、一度はコアガンダムの製作を拒否したヒロトもそれを取り下げてくれる――。

 

「いい加減にしてくれ」

 

 ――などという事は無く、深い溜息の後にばっさりとそう告げられた。

 

「一体どういうつもりなんだ、君は? 自分がやっているのが、迷惑行為だって分かっているのか? 昨日言った筈だ、コアガンダムの事は()()って」

 

「そ、それはそーなんだけど……。でも! 俺、諦められないんです!」

 

 ヒロトの咎める視線が、針のように容赦なく突き刺さって来る。

 それに気圧されそうになるイツキであったが、しかし怯むものかと、自分への激励(げきれい)も兼ねて声を張り上げる。

 ここで引いてはいけない。ここで引けば、そのままコアガンダムを諦めなければいけなくなる。

 なけなしの頭をフル回転させ、何とかヒロトを引き留めようとイツキは知恵を振り絞る。

 

「あの! 全部じゃなくて良いんです! せめて、部品だけでも! そしたら、俺だけでも作れると思うから!」

 

 自分のガンプラなのだから、本来は自分で作るべきだ。

 その意識までは捨てて無いからこそ思い付いた言葉をイツキは投げ掛けるが、ヒロトは頷かない。

 

「じゃ、じゃあ金払います! お金払いますから、いくら必要か教えて下さい!」

 

 元々、コアガンダムは店で買って手に入れる予定だったのだ。その日の為に貯金は蓄えて置いてある。よっぽど無茶苦茶な値段を吹っ掛けられない限りは払える筈だ。

 しかし、これにもヒロトは首を縦に振らない。

 変わらず、鋭い視線をイツキに向けるのみだ。

 

「そ、それじゃあ! ……えっと……ええっと……」

 

 何か、何か良い手は無いか? 何とか、ヒロトさんにコアガンダムを作ってもらう良い手は? ――イツキは必死に模索する。

 しかし、もう良策は思い付かず、言い淀んだまま焦燥だけが募っていく彼は徐々に狼狽(ろうばい)(あら)わにしていく。

 このままではいけない。このままでは、コアガンダムが手に入らない。

 されとて、何とかしなければ、と焦る程にイツキの思考は散漫(さんまん)になっていく。

 イツキの頭の中をグルグル、と回る悪循環。それに待ったを掛けたのは、

 

「どうして、そんなにコアガンダムに(こだわ)る?」

 

まさかのヒロトであった。

 

 

 

「どうして、って……カザミさんの動画見て――」

 

「他のガンプラを買えば良いだろ?」

 

 土下座の姿勢から面を上げたイツキが不思議そうにしつつも返答しようとするが、それを無視して、ヒロトは彼の言葉を遮った。

 疑問を投げ掛けたワケでは無いのだ。イツキがコアガンダムを欲しがる理由に、今更興味など無い。

 今、彼に対してヒロトにあるのは、言いたい事だけだ。

 

「ガンプラなんて、売っているだけでも星の数程あるんだ」

 

 “機動戦士ガンダム”の放映から現在に至るまで、数えきれない程のガンプラが世に生み出されて来た。店頭で並んだ事のある物だけでも多種多様(たしゅたよう)を通り越して複雑怪奇(ふくざつかいき)と表する方が相応しいそのレパートリーは、正しくヒロトが言った通り星の数に等しい。

 そんなガンプラの一部。しかも、手に入らないと分かり切っている代物を追い続ける事が、一体どれだけ不毛な事か。

 

「こんなバカな事をしてまでコアガンダムを欲しがる暇があるなら、他のガンプラを買って作った方がよっぽどマシだろ」

 

「そ、そりゃあ……そうかもしれないけど……でも! 俺が欲しいのはコアガンダムなんです! 他のガンプラじゃなくて!」

 

 勿論、あくまでコアガンダムを欲するイツキの気持ちも分からないワケでもない。

 そもそも、ガンプラとはガンダムシリーズに登場する機体を基にした、所謂キャラクターモデルの一種だ。今でこそバトルでの性能や使い勝手を重視して選択する者も増えたが、そういった実利の面よりも、単純に自分が好きなガンプラを使いたいという層はガンプラバトルが夢物語でしかなかった時代から変わらず一定数いるし、ヒロト自身もどちらかといえばそっち側の人間だ。

 故に、

 

「だったら使えば良い」

 

「え?」

 

「コアガンダムを、使えば良い。君が、()()()()()()()()

 

“イツキがコアガンダムを使う事”、それ自体まで否定する気はヒロトには無い。

 

「俺は、俺の知らないところで君が勝手にコアガンダムを作って、勝手に使う分には何も言う気は無い」

 

 今のGBNにおいて、自分以外にもコアガンダムを使う存在を、少なくとも()()ヒロトは知っている。

 あの二人のコアガンダムについて、その存在を知った時に思う事が無かったと言えば嘘になってしまうが、しかし否定する気までは起きなかった。

 あの二人のコアガンダムが、彼や彼女だけのガンプラだったからだ。

 ヒロトが全く知らないところで、その手を一切借りる事無く各人の手で独自に作り上げられ、そして彼や彼女の経験や意思の下、ヒロトの物とは全く違った独自の方向へと進化していったあの二人のコアガンダムは、もはや形こそ同じだけの別物だった。正真正銘、最初の製作者だからとヒロトにも、そして()()にも、その存在に疑問や否定を挟む余地や権利を一切与えない、()()()()()()()()()()()へと昇華していたのだ。

 だから、あの二人のように、イツキが自分の手だけで勝手にコアガンダムを作り上げる分にはヒロトには文句はない。そうして出来上がったコアガンダムは、()()との思い出が詰まったヒロトの物とは全く関係の無い、()()()()()()コアガンダムだからだ。

 しかし――もしヒロトがイツキのためにコアガンダムを作ったならば、そうはいかない。

 

「い、いやだから! 俺にスクラッチとか、そーいうのは出来ないって――」

 

「だからと言って、俺が君の為にコアガンダムを作らなければならない理由も義理も無い」

 

 例えそれが部品だけで、最終的な組み上げがイツキの手によってのみ行われたとしても、ヒロトの手が入った時点でそれはもはや彼のコアガンダムの()()()()()との思い出を汚すと実行に移せないでいる新しいコアガンダムの作成と、同じ事を行うに等しいのだ。

 それだけは、絶対に出来ない。

 故に、ヒロトがイツキにコアガンダムを作ってやる事は、決してあり得ない。

 

「何度頼まれても、俺が君に返す答えは変わらない。――()()

 

「……っ」

 

 それ以外に、ヒロトが返す言葉は無い。

 口を紡いだイツキの表情はまるで納得がいって無さそうだったが、だからとこれ以上この場に居続けるつもりも彼には無い。

 ポンチョを翻し、振り払うようにイツキに背を向けたヒロトは、仲間達へと淡々と告げた。

 

「皆、“ぺリシア”に行こう」

 

 奥の方で縮こまりつつもヒロトとイツキの様子を見守っていたカザミとパルヴィーズとヒナタの内、カザミとパルヴィーズがその言葉に反応するや、我先にとばかりにメニューウィンドウを手近な空間に展開する。

 それに一歩遅れて、なるほど、とヒロトの意図を察したらしいメイと、逆に彼の言葉の意味が分からなかったらしいヒナタが順に、先に行動を始めた二人に続いてメニューウィンドウを開く。

 そうして仲間達がエリア移動するのを見届けてから、ヒロトもまた手元の空間にウィンドウを開き、彼らの後を追おうとする。

 

「ま、待って!」

 

 そこへすかさず、弾かれたように立ち上がったイツキがヒロトへと詰め寄り、行かせまいと彼のポンチョの端を握り締める。

 その行動に特に驚く事も無く、ただ、見上げるイツキに顔を向けたヒロトは、はぁ、と嘆息した。

 

「何度も言わせないでくれ。どうしてもコアガンダムが欲しいなら、自分で作るんだ」

 

「それが出来るんだったら、俺だってそーしたいよ! でも、出来ないからこうして――」

 

「だったら()()()

 

 ポンチョの端を握り締めながらのイツキを訴えるような言葉を、目を細め、語気を強めて告げた一言でヒロトは突き放す。

 それに気圧されてか、んなっ、と目を見開いたイツキにポンチョを握られる力が少し弱まった気がした。

 

「見ず知らずの俺を頼るくらいしか、コアガンダムを手に入れる方法は君には無いんだろ? だったら、悪いが君はコアガンダムに最初から縁が無かったったんだ。大人しく()()()

 

「い、イヤだっ! 俺はっ、絶対に諦めたりなんか――」

 

「それに、だ。俺が言うのも何だけど、コアガンダムは扱いが難しいガンプラだ」

 

 最新のHGサイズのガンプラとほぼ同等の規格と、SDサイズのガンプラに匹敵するほどの小柄さを併せ持つコアガンダムは、単体のガンプラとして見た時に通常の1/144サイズの機体に比べてエネルギー量や各部のトルク、耐久力等に劣るという欠点がある。

 最も、小型かつ軽量故に敵の攻撃に対する的が小さく、機動性に優れるといった良点も存在するし、そもそも独自の換装機構によって前述の欠点もカバー可能なので、そういった良点を活かす運用を行う分には目立たない問題だ。

 ただし、そういう運用が出来るのはヒロトのような、己の機体の特性を正確に把握し、適切な操作を常に行う事が出来る玄人(くろうと)のみだ。ガンプラもGBNも昨日今日始めたばかりのイツキのような初心者に同じ操作を要求するのは、(いささ)かハードルが高過ぎる。

 

「今の君がどれだけ戦えるのかは知らないが、それでも正直なところ、君にコアガンダムが使いこなせるとは俺には思えない」

 

 そういう意味でも、先程もヒロト自身が言ったようにイツキは市販されている、より扱いやすいガンプラを使った方が良いのだ。

 最も、そういう意図までは彼に伝わらなかったようだが。

 

「――もう放してくれないか? 仲間が待っているんだ」

 

 流石に言葉が尽きたのか、そうヒロトが告げる頃にはポンチョを握り締めていた両手の内、左手を力無く下ろして、イツキは項垂れていた。

 残っている右手の方にも力を感じない。今なら、力任せに振り払う事も容易いだろう。

 ――()()()にやったのと、同じように。

 

「……」

 

 敢えて、残ったイツキの右手が自力で離れるのを、ヒロトは待った。

 暫く待って、そしてイツキの右手がポンチョから、

 

「……それでも……」

 

離れる事無く、より一層強く握り締められた。

 

「……それでも、俺はコアガンダムが欲しいんだ!」

 

 再び上向いた黒の双眸が、キッ、とヒロトを真っ直ぐに見返す。

 

「絶対諦めない! 俺にGBNを始めさせてくれた、コアガンダムを! 俺に、()()()()()()コアガンダムを! 何と言われようと、俺はこの手を離さない! 絶対に!!」

 

 そう、イツキが叫ぶ。

 決して逸らす事無く、固い決意を込めた目でヒロトを見返しながら。

 その目が、ヒロトの内に影を呼び起こす。

 ――幾度となく彼に挑んで来た、かつての()の影を。

 その影に、一瞬ヒロトは目を剥き掛けるが、直後、イツキとは別の見覚えのある姿を奥の方に見つけた事で、どうにかそれを耐えた。

 

「――熱くなっているところ悪いけど、後で()()()()()()()()?」

 

「へっ?」

 

 指摘するや、睨み付けるような勢いだったイツキの目がきょとんと丸くなる。

 そしてその直後、

 

「イーツーキーくーん?」

 

その背後から掛けられた、ワザとらしく間延びした呼び掛けに、げっ、と大袈裟なまでに肩を跳ねさせて呻いたイツキが、凄まじい勢いで振り返って叫んだ。

 

「こ、()()()!?」

 

()()()()()()()()!!

 

 そう名前(ダイバーネーム)を叫ぶや、ザンザン、と石畳の地面を踏み鳴らしてイツキのすぐ前へと詰め寄ったアイアンタイガーが、問答無用でダンダラ羽織の襟元を掴んで引き寄せた。

 

「妙に急いで学校出てった時から何かおかしー気はしてたけどよー……テメー、またヒロトさんにちょっかい掛けて何やってんだ、おい?」

 

「ちょ、ちょっと待てって! 今、俺忙し――」

 

「るっせぇーッ!!」

 

 掌を見せてイツキが宥めようとするが、そんなものでは怒りは治まらないとばかりに、アイアンタイガーが更に怒鳴り散らす。

 まるで本物の虎が吠えているかのようなその迫力には、傍からその様子を見せられているだけのヒロトもつい呆気に取られそうになってしまうところであったが、しかしそうはならない。

 アイアンタイガーに捕まったその瞬間から、イツキの右手は既にヒロトのポンチョから離れていた。

 拘束から解かれた今、今度こそこの場に居据わる理由は無い。

 すぐに、ヒロトは宙に浮いたままのメニューウィンドウに指を走らせ、残していた操作を速やかに終わらせた。

 そうして、数舜後にエリア移動を終えた事で周囲の景色は塗り替わったのだが――そうなる直前に聞こえた台詞が、妙にヒロトの耳に残った。

 

「俺は絶対、コアガンダムを諦めないから!」

 

 もはやヒロトに言ったのか、それともアイアンタイガーの方に言ったのかさえ分からない、イツキのそんな台詞が。

 




結局断られるの巻。
ヒロトからの印象もほぼ最悪になったイツキの明日はどっちだ!?
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