かつて、ぬらりひょんと畏れられたとあるヤクザの総大将。これはその孫のお話。

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彼岸桜の木の下で

僕のお爺ちゃんはヤクザの総長だった。

 

とある村にある小さな組。後頭部が普通の人よりもずっと長くて手癖が悪いのが印象的な、子供に優しい好々爺。

あまりお母さんはお爺ちゃんの事が好きではなかったが、

居酒屋の会計をチョロまかしたり、駄菓子屋からくすねた変なお菓子をくれたりと、今に思えば孫に食い逃げの共犯をさせるとんでもない人かもしれないけど……本当に大好きだった。

 

「どうだ、リクオ。俺の組を継いでみねぇか?」

 

「うん!僕、爺ちゃんみたいになりたい!」

 

それで爺ちゃんは事あるごとに僕を爺ちゃんの組である奴良組へと入れたがった。

結局僕が中学生に上がるころには爺ちゃんが癌で死んで、奴良組は知らぬ間に蒸発してしまったけど、もし爺ちゃんがもう少しだけ長生きしたら僕は奴良組を継いでいたと思う。

 

 

――それを何故かを問われれば“資格”があったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス……」

 

『ゴメーン、頼んでた宿儺の指の回収だけど敵の呪術師がね……あ、こいつは僕が偶然捕まえちゃったんだけど、何でもそこら辺の呪霊に喰わせたんだって!』

 

「……何で今その話を」

 

今、僕の目の前には鼠の姿で体長を六メートルは越える角の生えた化け物がいる。

 

特級呪霊。

いや、四級そこらの雑魚が元になっているからか、特級と一級の境目ぐらいの中途半端に強力な化け物。

たぶん、呪力のない通常兵器が呪霊に通用すると過程した場合、戦闘機でも心細くて、戦艦でやっとといった所だろう。

 

「……はぁ」

 

四級呪術師…木製バット一本分の戦力な僕では逆立ちしたって勝てっこない。

 

絶望するように瞳を広げた僕は、こう呟く。

 

――後は任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、良かったのですか。

よりにもよって奴良リクオ君に特級呪霊の対処を任せてしまって。彼は確か四級呪術師ではなかったのでは……?」

 

「うん。きっと大丈夫だよ。あの子が本気を出したら僕の次の次ぐらいに最強だから」

 

夜景の綺麗な公道を走る黒塗りの車。

心配そうに問いかけた運転手の男に両目をフードで隠す男はカラカラと笑う。

宿儺の指を取り込んだ呪霊……?

確かに強敵だろう。並の呪術師なら全くもって歯の立たない。一級呪術師を複数派遣するか、特級呪術師を動かすレベルの大事(おおごと)だ。

だけど、()の彼なら問題ない。

 

なんたって彼は―――。

 

 

「妖怪の総大将の孫だもんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ドスン。

 

鼠の化け物は地に沈む。

 

 

「ふぅ、今夜はいい月だ」

 

骸になったそれの上には満月が浮かんでいた。

 

奴良リクオ、茶髪で眼鏡の理性的そうで、どこか頼りないイメージを持つ少年とは似ても似つかぬ、長身長髪の男は血の滴る刀身を一度払って鞘に収めると盃を掲げて軽く呷る。

 

「鏡花水月“桜”」

 

酒で湿らせた口で一言の息吹き。

そこから桜吹雪のように淡い桃色の炎が鼠を包んで塵へと変えていく……。

 

 

 

…………

 

 

 

…………

 

 

 

僕の生まれたころにはすっかり田舎のヤクザへと成り下がってしまった奴良組だが昔は都会にある大きな組とドスと鉄砲で血を血で洗い、爺ちゃん曰く一度は裏世界の王と云われるまで登り詰めたらしい。

 

「特別にリクオには教えてやろう」

 

 

妖怪のように異様に長い後頭部や手癖の悪さ、裏世界の王という、そんな恐ろしくも勇ましい様に人々は『畏れ』をもってこう名付けた。

 

―――“ぬらりひょん”と。




勢いで書き上げた為、続きを書く予定はありません。


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