「意識レベル……体外循環開始……心停止液の注入を完了……体温低下……ヘクサメタソン20ccを静脈に注射」
謎の単語と、ピーッ、ピーッと一定のリズムを刻む電子音が聞こえる。
「鉗子を!」
「……状態安定……切除を開始する……心室細動に注意……」
「ごめんなさい……また苦しめることになってしまって」
「ドクター……手を……私……を!私の手を握って!」
可憐な少女のその呼び声に手を握り返し、うっすらと目を開けた。
「ドクター!ドクター!」
目の前には可憐な少女の声とはかけ離れた、鋼のように鍛え上げられ、今にもはちきれんばかりの2mはある筋肉の塊がそこにはあった。
なるほど、やたらとゴツゴツした手だと思ったわけだ。まだ起きるべきではないらしい。
開きかけた目を再び閉じて眠りにつく。
幻聴が聞こえているのだ。まさかあの可憐な声の主が筋肉の塊な訳あるまい。
「医療オペレーター!さっき、さっきドクターは私の手を握ってくれたのに。どうして目を覚ましてくれないんですか……どうしたら……」
「アーミヤさん、そんなに焦らないで!どうか冷静に!」
「あ、ご、ごめんなさい……」
幻聴ではないらしい。
自分を置いていって他人と会話しているし、その上はっきりと聞こえるので、幻聴ではないと認めざるを得なかった。
会話から察するに、あの声の主がアーミヤで自分はドクターなのだろう。
え、あの筋肉で?そこは山みたいな筋肉だからマウンテンとか、獰猛な犬のようだからドーベルマンとかもっとこう、あるだろう。
「アーミヤさん、ドクターがこのままならどうするつもりなんですか?」
聞き耳を立てているうちに自分が起きるために何か色々と彼女たちがしているのだと理解した。しかし、起きてあのギャップに耐えられる自信がない。
「ーー心の準備はできています。もしそうなったとしても、決めた通りにするだけです」
「……わかりました。ではその通りに」
起きなければやばいのでは?空気的に起きなきゃこれやばいやつでは?
「呼吸はまだ微弱ですが、身体機能は問題ないはずです。あとは意識が戻るかどうか……」
戻っています。ただ現実を直視したくないので戻ってないふりをしているだけです。
しかし、起きなければ自分の身が危ないということを察知したドクターは、意を決して目を開いた。
「アーミヤさん!成功です!ドクターが目を覚ました!」
「ドクター……?」
うん。あの声の持ち主はこの筋肉ムキムキの少女だ。少女なのかこれ。
顔だけは少女だが、体は大人顔負けに鍛え上げられている。銃弾なんて軽く弾き飛ばしそうだし、鉄を握りつぶしてしまうことすら可能だろう。まさに鋼の肉体という言葉はこの少女のためにあるような言葉であろう。
「よかった……本当によかった……」
起き上がろうとすると、急な目眩がドクターを襲う。頭がクラクラとするし、体に力が入らない。口も思った通りに動かない。おそらく、長い間眠っていたのだろう。体が全体的に言うことを聞かない。
「まだ動いちゃだめです!安静にしていてください。まだ身体が完全に安定したというわけではありません」
こっちの方がアーミヤだろう。え、この人がアーミヤじゃないんですか?本当にこの筋肉ムキムキの少女がアーミヤですか?
まだ現実を受け入れられないドクターを他所に、建物が崩れる音がした。
大慌てで完全武装した男が、奥からやってきた。
「アーミヤさん、まずいです!この施設に侵入してきた奴らがいます!」
「ドクター、説明は後です!皆さん、ドクターを連れて私の後ろに隠れてください!」
男を追うように、汚れた白い服装の男とも女ともつかない重火器を持った人間達が現れた。
ドクターは武装した男に連れられて、アーミヤの後ろに隠れる。
「戦いたくありません。引いてください」
アーミヤは落ち着いて訴えかけるように言ったが、彼らは聞く耳を持たず、全員が重火器を一斉に向けた。
アーミヤはため息をついて、 呼吸を整え両脇を締め、拳を腰の位置に持っていき、臨戦体制に入った。
「スゥー……」
ズガガガガガガガガン!
銃弾が飛び出た瞬間にアーミヤは叫んだ。
「紛!セイッ!破ァッ!」
アーミヤの正拳突きが敵に向かって放たれる。しかしいくら身体が大きく、腕が普通よりは長いとはいえ、相手も馬鹿ではない。アーミヤの射程外から確実に屠るために重火器を乱射したのだ。そんな拳が当たるわけがない。が、しかし。
アーミヤの拳圧により、銃弾は全て塵芥と化し、そのまま敵を吹き飛ばした。
ドクターはもう何があっても驚かないと決めた。
「命までは取りません。大人しくしておいてください」
ドクターが目を覚まし、最初にあったアーミヤは少女だが、紛れもなく漢であった。
アークナイツがあまりにも救いがないためSSで幸せ時空を作ろうと考え始めたのがきっかけで、筋肉は全てを解決するのでとりあえずアーミヤにムキムキになってもらいました。