side織斑一夏
箒を振って翌日の放課後になった。今日は織斑先生の特別授業がある日だ。それも、高い戦闘技術を身に着けるための座学と実習。つまりは頭と体両方を使うというこれまでの座学だけの授業とは違うものなのだ。
箒は苛立っていた。また避けられていたようにも感じる。会話ができなかった。……完璧に俺のせいだ。振り方を間違えたのだろうか? シャルルに対する申し訳なさを一夜で何とか消化し、朝から箒の件に関しては覚悟してはいたのだが……。正直箒の姿は堪えた。
「でも、振り方に間違えはなかったはずだし、俺が原因であっても責任はないん……だよな。多分」
果たすべき責任を果たした結果だしな。だとしても割り切れない感覚はあるが。なにせ大事な幼馴染なのだから。
「心ここにあらずと言う風だな一夏」
人気が無い通路を千冬姉と歩いているので、千冬姉は俺のことを一夏と呼ぶ。声には俺を気遣う感覚があったので、何があったのかはある程度察してくれているのだろう。
「ごめん千冬姉。察してくれてるだろうけど箒の件なんだ」
「だろうな。大丈夫か?」
「俺は大丈夫なんだけど箒がな……。正直すごく心配なんだ」
「私も心配だ。あいつの目はかつて見たことのある不穏な目つきだった。一応山田先生や楯無にお願いして気に掛けたり、見張ってもらってはいる」
「見張る? 気に掛けるだけならわかるけど、見張るってどういうことだよ千冬姉?」
俺は楯無さんまで使うという結構物々しい対応を千冬姉がとった理由が気になった。思わず歩みを止める俺。
千冬姉も歩くのをやめて俺の方を向く。
「あいつの目は力を手にするためにどん欲になっている者の目だ。私が特別指導を行って最強に戻るまでのラウラと同じで手段を選ばないような不穏な目だった。だから問題行動を起こしかねないので楯無にも頼んだ。学園の風紀を護るのも生徒会長の役目だしな。それに、山田先生は頑固な一面もあってああ見えて意志は強いが箒のような状態の生徒の対応には慣れていないからな」
……なんだか裏もありそうな気がするのだが、千冬姉を信じるとしよう。正直、裏があっても想像できないしな。束さんの妹と言う理由以外で箒に特別な特徴はないわけだし。
「ありがとう千冬姉。あと立ち止まってごめん。……織斑先生、指導よろしくお願いします」
「ふっ。任せろ織斑」
俺と千冬姉は。生徒と教師の関係に切り替えると、いつもの特別授業の部屋へと向かった。
◇
ラウラは苛立ち、心が曇っていた。その理由は2つ。昨日、千冬にまともに相手にされなかったこと。そして先ほど一夏に特別授業を行うために彼と一緒に行動する千冬を目撃したからだ。
ラウラは憂さ晴らしのためにISの修練を行おうとアリーナに向かいつつも心の中で嘆き続ける。
(なぜですか、なぜですか教官……。私に力こそ絶対で結果こそ全てと教えたのはあなたのはず。そして私の方が織斑一夏よりも力において優れている。そして最強だからこそ女の試験管ベビーで構成されたIS部隊シュヴァルツェ・ハーゼで隊長を務めている。つまりは結果も示している!! ならばあなたが愛を……愛と言うものを注ぐべきはこの私のはずです。私をなぜ見てくれないのですか?)
腕を組んだ状態で歩くラウラは、その重なり合った細い腕を一層強く組んだ。
(やはり織斑一夏を叩き潰すしかない。いずれ叩き潰すと考えていたがすぐにでも実行しよう。教官にこの前の訓練乱入時の様にやり方をとがめられるかもしれないが、要は今度こそ叩き潰せばいい。それだけだ。……そして証明しよう。私こそがあなたの愛を手に入れるのにふさわしい存在だと)
やがて更衣室にたどり着いたラウラは目的を変更。その右目で、一夏をおびき寄せるための獲物を探していると、かつての自分を想起させる顔もとの少女を見つけた。普通そんなことを思いはしないラウラなのだがそれほどまでにISスーツに着替え中の少女、箒の表情には力を妄信する執念を感じ取れた。
(あの篠ノ之束の起こした無人機、ゴーレムによる襲撃事件。あの時にこいつは他の一般生徒と違って気概のあるやつだとは思っていたが、これほどまでだったとはな)
思わず感心するラウラ。
(こいつは先が少し将来性があるから放っておくとしよう)
本人は指摘されても認めないだろうが、単刀直入に言えば箒に仲間意識を感じたラウラは彼女が万が一、折れてしまってはもったいないと感じたため餌にするのはやめることにした。
一方で箒はと言うと。
(私は来るべき日のためにも。姉さんに力を与えられる日のためにもISの修練を積まねばならない……。すべては一夏をこの手に入れるために、立花と並び、追い越すために……!!)
そんなことを考えていた。着替え終えてピットへと足を運んでいく箒。
それを心配げに見つめるのは真耶。そして、「何か不味いことを起こしそうね。過去に起こした問題とか、暴力沙汰を起こされたら面倒だわ」とつぶやき箒を警戒するのは楯無。
楯無はIS学園内の夷狄を見張ること(最近亡国機業とつながりを持っていそうな3年生を見つけた)や、普段から更識家当主として部下から送られてきた裏側の世界の様々な陰謀をチェックするのに忙しく、いまだに一夏と響のISによる訓練を監督できていないのだが、さすがに今回の件は放っておけない。箒が過去に犯した過ちから考えて野放しにできなかったのだ。
「篠ノ之さんに声をかけることにしましょう。放っておけませんね」
真耶は不穏なことを起こしかねないと判断し箒の後を追おうとするが、それを同じく箒を見ていた楯無が制止した。
「山田先生」
「はっ!? 更識さん? どうしました?」
「箒ちゃんのことは任せてくださいな。私も織斑先生に彼女のことを頼まれてますので」
「あ、織斑先生から聞いてますよ。さっそく気にかけてくれてたんですね。後輩のことを」
「はい。あの子が問題行動を起こす前に生徒会長としてガス抜きに付き合ってあげます。学園の風紀を護るのは私の役目ですから」
楯無は人懐っこい笑みを浮かべる。心の中では自分の今の発言に「風鳴機関の都合のいいようにするために」と付け足した。
「……任せてもいいですか?」
真耶は楯無の本当の姿を知らない。だから彼女のことを教師の予測できないところもあるが特異災害対策機動部にも所属している模範的な生徒として信頼していた。
「ええ。任せてください。ただ、箒ちゃんのガス抜きにはかなり派手に暴れまわらせる必要がありそうなので、今日はローテで整地作業日になってる第3アリーナの開放とその後の管理を、整地時間が来るぎりぎりまでしてほしいんですが、いいですか?」
楯無は要はISバトルを篠ノ之箒とすると言っている。それを聞いて真耶は。
「分かりました。先生は第3アリーナの使用許可を取ってくるので篠ノ之さんを誘ってきてあげてください」
そう楯無に笑顔を向けた。なにかあった時は体を動かして発散するのも1つの手だと柔軟に考えられる真耶は楯無の策に乗ることにした。
「はい」
笑顔を浮かべる楯無。そしてその顔を見たあと自分より早速立場の上の教員に第3アリーナの使用許可の申請を出しに行く真耶。
「さてと、最近体も動かしてなかったし、1時間くらいだけど付き合ってあげましょう」
(そして何を考えているのか、何をしでかそうとしてるのか暴いてみましょう)
楯無は箒に近づいた。
◇
side立花響
私は篠ノ之さんの荒れた姿を見てから、やり切れない思いになり、体調を崩した。こんなパターンの体調の崩し方は初めてだ。なので、今日は織斑君も織斑先生の特別授業があるので放課後になると私は部屋に戻っていた。体を動かした方がストレス発散にもなっていいかもしれないが篠ノ之さんと鉢合わせになったりする可能性と、何より吐き気がするのでやめておいた。
ベットの上で部屋着の状態で横になりながら吐き気に耐える。そして思う。
私の中で、こんなにも、いつの間にか篠ノ之さんも織斑君と同じように特別になってたんだ……。特別にしてたんだ。
……だとしたら私の様子がおかしいことを心配して一緒に部屋に戻ってきてくれたデュノアさんも特別な存在になっているかもしれない。いや、もう多分なっている。そして織斑君や篠ノ之さんデュノアさんほどでなくとも、最初は印象最悪だったオルコットさんも、人懐っこい鳳さんも特別になっているだろう。
我ながらチョロい。チョロすぎると思う。もう誰にも心を開かないと決めていたのに……こんなにも簡単にあっさりと心を開こうとしている。
「立花さん、大丈夫? お茶でも淹れようか?」
「……大丈夫。お茶はいらないよデュノアさん」
なんでもないように答えるが、おそらく気を抜けば微笑をデュノアさんに浮かべているかもしれない。
「うん分かった。でも心配だから今日は立花さんについてるね」
「……ありがとう」
私は考える。優しいこの人たちなら心を開いても問題ないのではないかと。だが、一瞬でそんなのはダメだという考えも浮かんできた。なぜなら、もしも心を開いた後に、独りに戻ってしまうなんてことがあったらとても耐えられないからだ。……いったいこんな自問自答をしたのは何度目だろうか?
それに今は篠ノ之さんのことについて考えなければならない。私と言う疫病神のせいで篠ノ之さんは振られたのだから。
いや、篠ノ之さんだけではない。オルコットさんも鳳さんもデュノアさんも告白すれば振られる可能性が高い。好きな人がいる状況で、好きだと言ってくれる人がいるから付き合おうと考えるような神経を織斑君は持ち合わせていない。そんなことはもうわかっていた。
「結局みんなのことを考えなきゃいけないのか……」
「ん? 何か言った立花さん?」
デュノアさんが私の方をやさしく見つめる。
それのせいなのか耐えきれなくなって私は涙をこぼしてしまった。完璧な隙をデュノアさんに見せてしまった。
「た、立花さん!?」
「ご、ごめん。なんでも、ない」
吐き気も同時に襲ってくる。私は口元を思わず抑える。それを見てデュノアさんは焦った顔で急いでシャワー室に行く。そして幾何もしないうちに洗面器を持って私の前に差し出してくれた。
ぎりぎりで吐くのをこらえ私は荒い呼吸を繰り返す。
デュノアさんが私の背中をさすってくれる。一層涙が出てきた。
もう、抑えられない。涙が止まらない……。
「大丈夫だよ立花さん」
デュノアさんは溢れる涙の理由も聞かず優しい声で私の背中をさすり続けてくれた。
そのせいで。いや……そのおかげで私はすすり泣く。
そして、気が付くと言葉を紡いでいた。
「私は……恋敵なのに。デュノアさんからすれば目障りな疫病神なのに……!! 優しくしてくれる。何でなの? ……どうして? 私はどうしたら……」
「……立花さん落ち着いて。まず何について悩んでるのか聞かせてくれないかな?」
デュノアさんが私の背中をさすりながら目線を合わせて話しかけてきた。
ああ、打ち明けてはいけない。なのに、デュノアさんに話してしまう……。
「私は……。私のせいで織斑君のことを好きな人はみんな振られてしまう。篠ノ之さんもそうだし、オルコットさんも鳳さんも多分そうなる。そして……あなたも。私はそれが許せないんだ。織斑君のことを好きになってるわけじゃない私のせいでみんなが……織斑君のことを特別に思っているみんなが誰1人として愛情を手にできないのが許せないんだ……!! 私はあの日からずっと……ずっと、疫病神だ……。お父さんとおばあちゃんの言う通りだ」
「立花さん……。立花さんは優しいね」
「傲慢だって思わないの?」
「傲慢な人は、きっとこんなにも悩んで苦しんだりしないよ。そう言う人は想い人を振り向かせようと頑張ってる人を見て嘲笑ったりすると思うから。……それと僕も立花さんと同じで疫病神扱いされたんだ」
「デュノアさんが? 疫病神?」
私は驚きが隠せなかった。確かに父親や義母から不当な扱いこそされてきたデュノアさんだが、疫病神と言われるような要素を彼女からは感じられない。それほどまでにデュノアさんはできた人だと私は感じているのだ。まぁ立場上、デュノア家にとって彼女の存在が疫病神と言ってしまえばそこまでだが。
「立花さんみたいに直接は言われてないんだけどね。デュノア社はIS以外も手掛けてる家族経営の歴史の古い大きい会社だから。現代表取締役社長兼CEOの血を引いてる娘が突然湧いてきたものだからプライドの高いデュノア一族からすればいろんな意味で僕が目障りだったんだよ」
「そうだったんだ……」
「だから直接言われた立花さんほどじゃないにしても、疫病神扱いされる気持ちの辛さはわかるよ。でもさ、疫病神にだって幸せになる権利はあるんだって、僕は思えるようになったんだ。一夏のおかげで。誰かを特別に好きになったおかげで疫病神と思われてたってそんなの知るもんかって心の中のもやもやを跳ね除けられるようになったんだ」
織斑君のおかげ。そうだ。織斑君に救われて彼のことを好きになったデュノアさんのような人こそ彼に選ばれるべきなんだ。それにデュノアさんはこんな私にも優しく接してくれるいい人なんだ。いい人といい人が好き同士になり結ばれるべきだ。だから私なんかが織斑君の好きであってはいけない。
「デュノアさん。私は……」
体を起こして私はデュノアさんにしっかりと向き合う。そして何かを言おうとしたところでデュノアさんが先に言葉を口にした。
「立花さんはさっき自分のせいで愛を手にできないって言ったよね。僕たちが」
「うん……」
「なめないでよ立花さん? 僕は以前、確かに一夏と結ばれるのは望み薄だって言ったし、実際望み薄だけど……。恋をするのは愛が手に入れられる確証があるからするんじゃないんだ。どうしようもなくその人のことを好きになったからするものなんだよ。少なくとも僕はそう思ってる。だから僕は愛を手に入れられないからって好きになったことを後悔しない。たとえ振られて傷ついても、次に好きな人が見つかるとしても、一夏を好きになったことは最高の経験だったって胸を張れるんだ。そんな確証がある」
この人は。デュノアさんは立派だ。
そう漠然と感じつつ黙り込む私。そんな私になおもデュノアさんは言葉を続ける。
「だから僕や篠ノ之さん、オルコットさん、鳳さんのためにも立花さんは申し訳ないって思わないで。愛がほしいから恋するんじゃないんだ。好きになったから恋をするんだ。だから自分を許してあげてよ。どうか気にしないで。……そして、僕たちが大好きになった人に選んでもらえるほどに立花さんは美しんだから誇ってよ。もっと胸を張ってよ」
「う、美しい? ほ、誇る?」
「うん!!」
デュノアさんが笑う。
「それが最高の人に好きになってもらえた人が心構えにしておくことだと僕は思うよ。とりあえずさ、一夏に好きになってもらえたことを負い目に感じないでよ? 立花さんは一夏に好きになってもらえるほどに価値のある人なんだから」
私は沈黙する。
涙も吐き気も止まってしまった。
私に価値があると今デュノアさんが言ってくれた。私は取るに足らない存在だと思っているのにデュノアさんはそんなことはないと言ったのだ
……織斑君に愛してもらえたから。誰かに愛してもらえたから少なくとも私にはまだ価値はある? 何の取柄もない私なのに彼は……織斑君は好きになってくれている。そしてデュノアさんはそのことを誇れと言ってきた。
私は……。
「私には、愛される価値なんてないはずなのに……。胸を張れって今更……。そんなこと……。私は!!」
おそらくいろんな感情が混ざってしまって混乱した私の目から大粒の涙があふれてくる。
誰かに私に価値があると言ってもらえて嬉しかった。誰かにとって今一番大切な存在であることが嬉しかった。でも誇り方なんて、胸の張り方なんて……。もう思い出せない。
未来。私はどうしたらいいの? あの惨劇の前、未来を失う前までどうやって生きてきたんだっけ?
未来を胸元で抱きうずくまる私を、デュノアさんは……抱きしめた。
「え?」
誰かからのぬくもりを、温かさを感じたのはいつぶりだろう?
「ごめんね。立花さんはきっと僕なんかが想像できないつらい過去を抱えてるんだね。難しいこと言ってしまってごめん。でも、今はできなくてもいいからどうか忘れないでいて。誰かにとって一番であることは誇っていいことなんだって」
抱きしめた状態で私の頭をやさしく撫でて言い聞かせてくるデュノアさん。
「ああ、ああああ……。あああああああああ!!!!!!」
声を上げてデュノアさんの胸元で泣く私。
デュノアさんから伝わってくる優しい温度。私を認めてくれる優しい言葉。本当にいつぶりだろう、血のつながらない誰かからこんな優しさをもらったのは。
それから私は長い間泣いていた。こんなにも長く、安心と嬉しさからくる涙を流したのは多分初めてだ。
やがて私の意識は、温かさの中で途切れていった。薄れゆく意識の中、いつもと違って孤独を感じなかったことに強い安心を感じているのを思い知りながら。
◇
解放されている第2アリーナのバトルフィールドのグラウンド上で自身の専用機を纏い向かい合っているセシリアと鈴は今日はどんな訓練をするか話していた。
「今日は一夏は千冬さんの特別授業で、立花さんとシャルルもいないわけだし、どうするセシリア?」
「そうですわね……」
セシリアはともに研鑽を積んでいる仲間たちに実は負い目を感じている。まず自分が最も死への恐怖に弱く対ノイズ訓練の時にホログラムとはいえいまだに足がすくんでしまい、多少の成果は上がっても圧倒的に他のメンバーと比較してスコアが伸びていないことだ。せっかく一緒にやっていていろんなアドバイスももらっているのに申し訳ない気にさせられる。もう1つはBTレーザーの件だ。前者のことと比べれば些細なレベルなのだがそれでもBTレーザーがノイズに有効な理由は聖遺物を使用しているからというのを秘密にして、あくまでイギリスの技術で純粋に開発した第3世代技術だということにしていることである。
さて、そんなセシリアだがそう言う負い目のせいでなかなか自分から対ノイズ訓練をやりましょうと言えないというのもあるが(それでも特別親交の深く、からっとしている鈴になら言いやすい方)、それ以上に今日はあることが引っ掛かり訓練に集中できそうになかった。
「あの鈴さん」
「ん、なに?」
セシリアは鈴に事情を説明することにした。
「実は本日、箒さんの様子がおかしかったんですの」
「そうなの?」
「ええ。とても不穏な雰囲気を纏っていましたわ。わたくしは全然思い当たる節が無くって……。鈴さんは何か心当たりはありまして?」
鈴は「そういえば箒と今日すれ違ったときいつもと雰囲気が違ってたな」と思い出しながら心当たりがないか考えるが……。
「ごめん。ぜんぜん心当たりないわ」
「そうですの」
「うん。そっかー……。心配ね。不穏な雰囲気って言うぐらいだからよっぽどでしょ?」
(まさか、今日練習を休んだ立花さんかシャルルと関係あるのかしら?)
鈴は直感が大変優れている。だから立花響の存在が招いた篠ノ之箒の危険な精神状態の答えに一気に近づいてしまった。
そして考えるよりも行動というのが信条の活発な鈴は。
「とりあえず、訓練終わったら、立花さんかシャルルに何か事情を知らないか聞いてみましょ」
そのような結論を出した。
「そうですわね。シャルルさんはともかく元ルームメイトの立花さんなら思い当たる節があるかもしれません。聞いてみましょう」
セシリアがそう言ったあと、言い出しにくいが今日は重点的に対ノイズ訓練をやりたいと鈴に告げようとした直後。
「おお、ちょうどいいところにいた。セシリア・オルコットに鳳鈴音。ゆるみ切った代表候補生どもよ。私と戦え」
そんな暴言がセシリアと鈴を襲った。
「あ゛?」
「なんですって?」
ハイパーセンサーで近づいてきていたこと自体は把握していたシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラに怒りの籠った視線を向ける鈴とセシリア。
「聞こえなかったのか? 私と戦えと言っているのだ。古いことが取り柄なのと、人口が多いことだけが長所の国の代表候補生ども」
セシリアも鈴もラウラに良い印象は持っていない。それはそうだ。思い人にいきなり手を上げた実績があり、過去にも一夏を挑発するためにシャルロットに向けていきなりレールカノンをぶっ放した存在なのだから。たとえゴーレムを撃退するために共闘したという過去があっても心を許せる相手では無かった。
そして同時に2人の少女は失笑した。
「はっ!!」
「ふふっ……」
なぜならラウラの挑発のレベルがあまりにも低かったからだ。
「それで煽っているつもりですの?」
「もう少しましなセリフを思いつかなかったわけ?」
しかし1、2度目のセリフはラウラがあくまで2人の少女を自分に注目させるための手段だった。牽制射撃にも近い。
本命は。
「それとも、下らん種馬を巡って争うことしか能がない貴様らではISによる真の闘争はレベルが高かったのか?」
この一言だった。
「あ゛っ!!!?」
「なんですって!!!!」
一夏のことを侮辱された。それが乙女2人の癇に障った。別に母国をバカにされるのは許せないがスルー出来る。しかし愛する人のことを「種馬」呼ばわりされたのはさすがに見過ごせず、一気に闘志に火が付いた。
「やる気になったか? ドイツのISの使い方というのを体に刻み込んでやる。感謝しろ。では、まとめてかかってこい」
シュヴァルツェア・レーゲンのマニピレーターをセシリアと鈴に向けて2回ほどクイッと動かして煽る、にやりと笑ったラウラ。
「上等よ!! わざわざドイツからやってきてボコられに来たドMのアンタをたっぷり痛めつけてやるわ!! そっちこそ感謝しなさい!!」
「素晴らしい殿方を、そのようにしかたとえられないボキャブラリーの乏しさと品性の下劣さ。もはや罪ですわ。同じ専用機持ちとして誅罰を施してあげます!!」
2人の乙女は得物を構え、ラウラと向き合う。
そしてそれを見たラウラもまた自身のISの両腕のリスト部分からプラズマブレードを展開する。
3人のISが監督なしでの試合モードになり、それぞれのシールドエネルギー残量が把握できるようになる。
それを合図に、3人とも同時に動いた。
「行くわよセシリア!!」
「ええ鈴さん!!」
セシリアは急上昇して射撃ポジションを確保、鈴とラウラは互いの距離を詰め、双天牙月とプラズマブレードをぶつけ合った。