IS 翳り裂く白夜   作:菅原リディ

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046 迫りくる厄災

 

「銀の福音〈シルバリオ・ゴスペル〉、各種エネルギーが上昇中!!」

 

「強制放電コマンド、拒否されました!!」

 

 アメリカ、ロスアラモス研究所。そのうちIS研究室のモニタリングルームでは研究員たちや将校らが戸惑いつつも事態の収拾に全力を尽くしていた。

 

 モニタリングルームのモニターにはロスアラモス研究所の上空で銀の福音が小刻みに震えているのが映っている。搭乗者のナターシャは気絶しているというのに稼働していた。そして内部のエネルギーがどんどん高まり始めている。

 

 今日は銀の福音の大規模な実験の日だった。しかし、屋外にて、搭乗者のナターシャが実験開始地点に到着する前に突如倒れ込み、その後、勝手に銀の福音が待機状態から展開されてナターシャを包み空を飛んだのだ。

 

「な!? シルバーベルにエネルギーが供給され始めました!!!!」

 

「なんだとぉ!? ファイルス搭乗員の応答は!?」

 

「ありません!! 依然として意識を失っています!! しかし、体をISから電気信号を流されて操られている模様です!!」

 

 その後、ロスアラモス研究所全体に警報が鳴る。巨大な研究所をすべてカバーするほどの半球状の疑似IS粒子によるシールドバリアが形成された。その外にいる銀の福音はナターシャの頭部を包むクリアだが頑丈な素材でできたHUDヘルメットにいくつもの情報を表示、処理、そして実行を始めた。

 

「シルバーベル、発射されます!!」

 

 シルバーベル。銀の福音の背部に取り付けられた1対の翼に備わった左右計36機のエネルギースラスター兼砲口であるマルチユニット。そこから発射される羽の形をしたビーム弾のことだ。

 

 目標は、自機を取り囲んだロスアラモス研究所のISとスクランブルで急行してきた近隣の基地のISだ。

 

 ファング・クエイクという第3世代機。世界に先駆けて米国がすでに量産体制を整え、新たな段階へフォームシフトを行いファング・クエイクよりも秀でた性能を誇る一部のISを除いて機種転換した米国主力IS達。様子見していた各機のシールドバリアに、シルバーベルが突き刺さり、その後爆ぜる。

 

「くそ!! ナターシャさん目を覚まして!!」

 

「ダメだ、意識がない!!」

 

「どうしてナターシャさんの意識が沈黙してるのにあのISは動いているんだ!?」

 

「IS側が操っている……?」

 

「ローズ少将!! 指示を願います!!」

 

 ファング・クエイク5機が銀の福音がその場にて回転しながら全方位にばらまいてくるシルバーベルの雨を初撃以外は避けながらロスアラモス研究所に常駐するローズ少将に指示を求める。

 

「くっ、各機は銀の福音にこのエリアから逃げられることのないように射撃攻撃で牽制しろ!! くれぐれも市街地には近づけさせるな!! 釘付けにしろ!!」

 

 モニタリング室にいたローズ少将はロスアラモス研究所の所員の家族が住むエリアへの被害を出さないように指令を出しつつ、セレナに通信をつないだ。

 

「セレナ君!! 状況を把握しているか!?」

 

『はい!! 銀の福音が暴走したんですよね!?』

 

「そうだ!! そしてファイルス君は現在意識を失っている!! 君はアガートラームを纏って、何とか銀の福音に取り付いてくれ!! そしてアガートラームの絶唱特性であるエネルギーベクトルの操作で銀の福音のエネルギーを強制排出してほしい!! 可能か!?」

 

『可能です!! ファイルスさんを助けるためならば!!』

 

「すまない、絶唱は君ほどの適合率を誇るシンフォギア装者でも負荷が大きいが、ナターシャ君と銀の福音に合衆国の街を焼かせるわけにはいかない!!」

 

 フィーネと11年前に覚醒してからすぐに、米国と協力関係になっていた櫻井了子。彼女は米国にもシンフォギアを秘密裏に造って提供している。そのうちの1機がセレナが纏うものだ。

 

 セレナが纏うのはSG-x00 Airget-lamh。銀色をした左腕の聖遺物から造られたため便宜上アガートラームと名付けられた。

 

 

 そして、絶唱とはシンフォギアの最大の切り札の1つだ。爆発的にフォニックゲイン等のエネルギーを増大させて様々な行動に転用する。攻撃に使用すれば絶大な火力を得られるもので、基本的にアームドギアというそのシンフォギアの武装から放つが、どのような形で使おうとバックファイアによる肉体への強烈なダメージを負う。

 

 だがセレナはシンフォギアとの適合率が非常に高いので、バックファイアがかなりのレベルで軽減される。それでも使用時の精神状態によって出力は増減するしバックファイヤのレベルは変わるので、失敗などすれば命を落としかねない技だが、セレナは19歳ながらも非常に落ち着いており、何よりメンタルが強い。だから絶唱を自爆に近い技ではなく、戦術に組み込むことができる。

 

 そしてアガートラームのシンフォギアのの絶唱特性はエネルギーベクトルの制御だ。過去に11歳だったセレナはこれを成功させている。

 

 セレナはローズ少将の命令で、ドクターウェルが作り出した飛行用のドローンのある場所へと移動する。だが、そうしている間に、銀の福音はファング・クエイクの包囲を突破した。

 

 さらに、常時イグニッションブーストを発動しているような超速度で銀の福音はロスアラモス研究所から太平洋へと遠ざかった。

 

「銀の福音、研究所のレーダーからロストしました、モニターを衛星からの観測に切り替えます……」

 

「我が国の兵器では追いつけるものもありますがあのスペックの銀の福音を止めるのは不可能ですね……返り討ちに会います」

 

 オペレーターたちは篠ノ之束の送られたデータをもとに四苦八苦しながらもなんとか組み上げた銀の福音が暴走したこと、ナターシャが暴走するそれに乗ったままのことに落胆しつつ状況の報告を続ける。

 

「くっ、銀の福音の現在の進路からどこを目指しているか割り出せ!!」

 

 ローズ少将の命令にオペレーターは急いで解析を行う。

 

「銀の福音の進路は日本の首都、東京であると推測されます!!」

 

「わかった。直ちに各機関に連絡を行え」

 

 ローズ少将はセレナに再び通信をつなぎ、銀の福音が追撃不能になったことを知らせた。

 

(篠ノ之束のデータをもとに作った銀の福音。最大限警戒はしていたが、このような事件を起こすとはな。おそらく篠ノ之束がそう仕向けたのだろうが……何が目的だ? なぜ我々に銀の福音を造らせた?)

 

 考えを巡らせるローズ少将。まさか大衆に見えないところで悪化している日米に戦争の火種を蒔こうとしているのかと考える。実際のところは米国に銀の福音を造らせた束の狙いはただ単に日本と米国のパワーバランスを整えておきたかっただけで、銀の福音を暴走させたのは、自分の目的にたまたま銀の福音を使うのが都合がいいからである。少なくとも今戦争になってほしいと考えてはいない。なったらなったで大歓迎なのが篠ノ之束という女ではあるが。

 

 銀の福音とナターシャ。箒の望みを叶えるための犠牲者たちは、背負う必要などなかった十字架を背負う行為を強制されかねないでいた。

 

 


 

side織斑一夏

 

 昨日は、束さんを警戒しろという織斑先生からの指示を聞いた後は、無礼講で楽しい時間を過ごしたが、今日は俺たち専用機持ちと織斑先生と山田先生は皆表情が硬い。同行している箒を除いて。

 

 IS学園1年生の一般生徒は早速教師の指示の元、ISをビーチにて装着し限定されていない広々とした空間でISを運用していた。

 

 一方で俺たち専用機持ちと箒はISスーツに身を包み、織斑先生と山田先生はジャージ姿で、海に面した方向以外の三方を岩山に囲まれた砂浜にいた。

 

 揚陸艇から大量に運ばれてきた各種装備をISに装着。各国や企業、機関が欲しがっているデータの収集の開始準備をしている。具体的に言うとISだけを持ってきたハンガーに展開し、複数の新装備を取り付けた状態でフィッティングさせていた。

 

「各自、新装備のフィッティングが終了次第さっそく運用試験を開始しろ。篠ノ之はもう少し待て」

 

「はい」

 

 箒はどこか浮かれた様子で返事をした。

 

 おそらくだが数年間付き合いのあった俺や織斑先生でなければわからない程度のものだが確かに浮かれている。箒以外は束さんが来ることで警戒心を最大にしているので、俺には余計に箒の浮かれた雰囲気が浮いて見える。

 

 織斑先生はおそらくだが箒が望んだ結果、第4世代ISを束さんから貰うことになっていると推測していた。だとしたら、何を思って力を求めたのかはわからないが、とてつもなく心配だ。

 

 箒は力を自らの強さを証明する形ではなく、ただ望んだだけで手にした。本人がそれを決断するのにどれほどの理由があったのかはわからないし、俺に振られて以降は貪欲に戦闘技術を磨いていたのは知っているが安易に力をコネでもらう形になったことに変わりはない。

 

 白式に追加装備された両腕部の回転弾倉式グレネードランチャーと頭部ハイパーセンサーに付け足した射撃用のセンサーユニット。両肩部の超小型レドームに、両脚部の大型スラスター。左手に握られた零落白夜発射用展開型バレルを持つビームライフル。そして俺の要望で用意してもらった腰部両サイドと前腕部のユニットごと取り換えて追加したワイヤーハーケン。これらのコアへのフィッティングを確かめながら箒の様子を逐一観察する。

 

「この装備のデータ……。今後の打鉄弐式を完全と完成させるうえで、すごく……参考になりそう」

 

 そんな俺の隣で簪が呟いた。

 

 簪はISが完全には完成していないので他の専用機持ちと違って送られてきた装備が少ないのだが、高性能なマイクロミサイルランチャーを機体にリンクさせる作業をしている。本来ISに装備させれば自動的にリンクしフィッティングを開始するが打鉄弐式はまだその辺の機能も不十分なようなので簪が空間投影キーボードに各種設定を入力していた。その入力速度はとてつもなく速い。

 

 一方で簪以外のその他専用機持ちは俺の白式のように多くの新装備を取り付けていて、そのISは、ぱっと見、ごつくなっている。

 

「シャルロット。なんだか浮かない顔してるね」

 

「ああ、響……。うん、ちょっとね。その、この新装備が思考でビームを制御するって言う第3世代機の試作ユニットなんだけど、その名前がプロトタイプコスモスビームジェネレーターって名前でさ……。コスモスは僕のお母さんが好きな花の名前だったんだけど、なんだか偶然に思えない予感みたいな胸騒ぎがしてね。父がわざとこんな名前にした気がしてならないんだ」

 

「大丈夫?」

 

「うん。大丈夫。少し引っ掛かりは覚えるけど問題ないよ。ありがとう」

 

 響さんとシャルロットがそんな会話をしていると、上空から甲高い音がしてきた。この場の全員が空を見上げる。

 

「な、なんの音ですの?」

 

 セシリアが焦る。

 

「まさか……ミサイル!?」

 

 鈴が、甲高い音の正体であるオレンジ色のこちらに迫ってくる物体を見て声を上げた。

 

 だが俺にははっきりとそれがニンジンの形をしているのがわかった。それにミサイルならばこの囲まれた砂浜を警備している教員部隊の3機のISが迎撃しているはずだ。

 

「来たか……」 

 

 織斑先生が頭を抱えながらつぶやく。

 

 そして幾何もしないうちに、4メートルほどのニンジンが砂浜に先端からスラスターを逆噴射で勢いを殺した後突き刺さる。

 

 あれだけの速度を出していたので逆噴射したスラスターの衝撃は大きそうなものだが全くこちらに衝撃波が襲ってこないのでどれだけ高いテクノロジーが使用されたニンジンなのかがわかる。

 

『は?』

 

 俺と織斑先生と箒以外はそのニンジンロケットに絶句していた。絶句していない俺たちはというと呆れの感情が大きい。

 

 やがてニンジンが装甲の継ぎ目からまばゆい光を放った後、桃太郎の入った桃の如く割れた。中から4人の人影が現れる。

 

 まて、4人?

 

 束さんだけじゃないのか?

 

 人影のうち、水色のエプロンドレスを着こみメカニカルなウサミミカチューシャを付けた1つが、超高速で織斑先生に突撃した。

 

「教官!?」

 

 思わずラウラが織斑先生に駆け寄ろうとするが、織斑先生は無事だ。突っ込んできた人型の頭部を片腕で一切微動だにせず受け止めていた。

 

「大丈夫だぜラウラ。これは……織斑先生に突撃したのは……束さんだ」

 

 俺はあきれ顔でそう言った。

 

「な、た、確かに篠ノ之束だ」

 

 ラウラは驚きながら駆け寄るのをやめて沈黙する。それほどまでに束さんのテンションが異様だったからだ。

 

「やぁやぁ!! あいたかったよちーちゃん!! 束さんはうれしいよ、だからそんなに束さんを拒否しないで!! 友情のハグをしようじゃあないかー!!」

 

 束さんは織斑先生にハグをしたい様だが、近づけないように完全に抑えられていた。

 

「断る。お前はもう私の友などではない。ハグなどするものか」

 

 束さんを睨みつけながら断じる織斑先生。

 

「えーそんなー。ざーんねん。束さん悲しくて泣いちゃう」

 

 しくしく。などと言いながら織斑先生から遠ざかった後、次は……箒の方に寄っていく束さん。

 

「やーやー箒ちゃん!! 会いたかったよー。箒ちゃんはハグはさせてくれるかな?」

 

「……構いませんよ。姉さんには私のISを造ってもらいましたし……」

 

「ありがとね箒ちゃん!! ギュー!!」

 

 抱きしめられる箒。束さんは満足げだが箒は自分でいいと言っておきながら恥ずかしそうだった。複雑な心境でもあるようで顔をしかめている。

 

「よし!! 久しぶりの箒ちゃんを補給できたところで……。いっくんおひさー!! いっくんはもう年頃の男の子だからハグハグはしないでおくね!!」

 

 箒を抱きしめた状態でそう言った束さんは、その後箒から離れて俺の方に寄ってくる。一方で箒を除いたみんなは警戒心を最大にして束さんを見つめている。

 

「いっくん!! 束さんが手を加えた白式は気に入ってくれたかな?」

 

「はい。とてもいい機体ですよ。射撃武装が最初からインストールできたら文句なしだったんですけどね。とにかくお久しぶりです」

 

 俺は苦笑しながら束さんに挨拶する。

 

「うんうん。射撃武装に関してはごめんね。単一仕様能力の……零落白夜の埒外物理を行使するための魔方陣を立体物としてコピーしたあと、いっくんでも発動できるようにデータ領域に突っ込んだのはいっくんをノイズで死なせたく無かったからなんだけど、結果的に強いけどピーキーな機体になっちゃったね。まぁノイズには強いんだからどうか許してクレメンス。あ、ハグじゃないけど握手はしよう」

 

「いえいえ」

 

 俺は束さんと手をつないで握手する。

 

 ……まて、今この人単一仕様能力が埒外物理の魔方陣で発動しているって秘密を明かさなかったか?

 

「埒外物理って確か……現在分かっている様々な世界の物理法則、それを超越し、転覆させる現象の……総称だったよね?」

 

 簪が息をのみながら、人類の創造主たるアヌンナキの行使していた埒外物理がISにて使用できることに驚嘆する。

 

 すると束さんは俺から手を離すと簪の方を向いて。

 

「風鳴機関のメガネちゃんは賢いねー。でも、こんなことについて知識があっても、束さんくらいの天才じゃないと役に立たないよ。無駄な知識つけちゃってオタクかな? というかしゃべり方がやけに自信なさげだね。コミュ障でもあるのかな? 頑張って独り言を喋れて偉いねー」

 

「っ!?」

 

 簪が悲しげな顔でビクッとする。

 

 俺はもちろん、他のみんなも苛立っているのが雰囲気でわかるが何も言わない。束さんという危険人物を刺激するわけにはいかないからだ。

 

 しかし、昨日の注意を聞いていない箒だけは違った。

 

「姉さん。やめてください。更識さんをバカにするような言い方は――――」

 

 箒が束さんをとがめる。しかし、それをハイテンションな言葉で遮る束さん。

 

「だって凡人だよ? 束さんにとって大事じゃない存在なんだよ? あ、でも更識の人間だから、風鳴の血が流れてるわけだしただの人間ってわけではないか。箒ちゃんありがとう。うっかりしてたよ!!」

 

「いえ、そうではなく……」

 

 相変わらずな束さんに落胆を見せる箒。

 

 俺も束さんには相変わらず人間的に最底辺の評価をせざるを得ないと感じていると。

 

「し、死ぬかと思ったぜ……」

 

「バランス感覚も高いはずのわたくしめらがこんな感覚を味わうことになるとは……」

 

「2人とも大丈夫?」

 

 ニンジンロケットから残りの人影3人がこちらに歩いてきた。

 

 そのうち1人は。

 

「ヴァネッサさん!?」

 

 何と錬金術研究室の室長のヴァネッサさんだった。

 

「……お久しぶりです」

 

 響さんが頭を下げたのに俺も続く。

 

「お久しぶり」

 

 ヴァネッサさんが笑顔を向けてくれる。

 

「まさか、3人は束の監視ですか? ディオダティ女史」

 

 織斑先生が少し驚き気味にヴァネッサさんに聞く。

 

「そうなんです千冬さん。あ、私たちのこと知らない人が多いわよね。私はヴァネッサです」

 

「わたくしめはエルザであります」

 

「うちはミラアルクだぜ」

 

 褐色美人のヴァネッサさん。幼いながらも美人になるのがわかる短髪でケモミミの付いたエルザちゃん。そして年が近いと思われる白人の美少女のミラアルクさん。監視が全員女性とはまさか専用ISでも持っているのだろうか? というか室長のヴァネッサさんが監視として駆り出されるのはどうなんだろう。駆り出されるだけの理由があるのか?

 

「箒ちゃんにちーちゃん、いっくん。あと凡人たち。こいつらは束さんの監視をやってる人間失格な3匹だよ。監視だから一応連れてきてあげたんだ」

 

 人をそんな風に評する時点であんたの方が人間失格だろ束さん。

 

 監視の3人組は表情こそ変えないが明らかに束さんに殺意を抱いているのがわかる。

 

「さてと、どうでもいいギャラリーがたくさんいるわけだけどそろそろ箒ちゃんの第4世代IS、紅椿をお披露目しようか」

 

 束さんはそう言って「全員空をご覧あれ」と叫んだ。その直後に正八面体の青色のクリスタルが空から降ってきて、箒のすぐ近くの砂浜に突き刺さった。

 

「これは……何でしょうか?」

 

 クリスタルに首をかしげる箒。

 

「……篠ノ之さんのISなんですよね?」

 

 山田先生もISとは思えないそれに思わず口を開く。

 

 監視の3人を除いたその他全員も不思議そうな顔をしている。

 

「おっぱい魔人ちゃん。これが箒ちゃんのISだよ」

 

「お、おっぱい!?」

 

 山田先生が顔を赤くして胸元を隠す。

 

「あの、姉さん。どう考えてもISに見えないのですが……」

 

「心配ナッシング!! 触れてみて箒ちゃん。紅椿が真の姿を現すから」

 

「は、はい」

 

 箒は言われるがまま正八面体に触れる。その瞬間。正八面体が粒子になって消え去り、中からハンガーにかかった紅いISが姿を現した。

 

 若干、和のテイストが入ったデザインライン。武士を思わせなくもないどっしりとしたその見た目に、白いウイングを備え、2機の鋭いメカニカルなソードを思わせる非固定浮遊部位を持っている機体だった。

 

「これが紅椿……私の……」

 

「そう箒ちゃんのIS。ずっと箒ちゃんを待っていたんだよ」

 

「待っていた。そうか。私もお前を待っていたぞ……紅椿」

 

 紅椿という名前らしい第4世代機に箒が嬉しそうにしているのが伝わってくる中で、織斑先生は紅椿に厳しい目を向けていた。それは怒りや憎悪を感じるもので。

 

「どうしたのちーちゃん?」

 

 それの理由をまるでわかっているかのように、にやにやしながら束さんは織斑先生に声をかけた。

 

「なんでもない。……篠ノ之。お前も今から紅椿とフィッティングして試験運用を行え」

 

「はい!!」

 

 箒は元気よく返事をした。俺が振って以来いつぶりか分からないくらい明るい笑顔だった。そして箒がちらりと俺の方を見て再び目を逸らす。

 

 今のは何だったんだろう。何にせよ、何も起こらないことを祈るだけだが。

 

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