IS 翳り裂く白夜   作:菅原リディ

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053 想いは繋がる

 

 銀の福音のコアは強制される不快な命令、「東京を攻撃し人々を虐殺しろ。邪魔する物はすべて排除せよ」という命令に抗えないでいた。しかも、コアネットワークから遮断されたせいで他のコアからの情報共有と協力で、命令を払いのけることも出来ないでいた。だからナターシャをとにかく護ることに必死になった銀の福音のコアはそれが虐殺能力を上げることにつながるとわかっていても、ナターシャとの親和性を上げていった。

 

 それほどまでに銀の福音のコアにとってナターシャとは大事な存在である。ナターシャに子供のように思われ愛されていたことで、自分も彼女を母のように思い愛していた。

 

 だからこそ、銀の福音のコアはナターシャとの適合率が140%を超えて、自身の体たるISボディをセカンドシフトさせたのだ。させることに成功できたのだ。

 

 ナターシャとの心を通わせてきた集大成が単一仕様能力の獲得ならば、セカンドシフトは銀の福音のコアのナターシャへの愛情の1つの到達点にして通過点である。

 

 銀の福音のコアはナターシャの命を護るためなら、前例が3件しかないサードシフトもやって見せようと考えてすらいた。

 

 セカンドシフトの結果、現在銀の福音はシールドエネルギーを回復させている最中だった。だが、IS粒子は、ボディの新造をするうえでナノマシンの活動の糧に一時的にリミッターが外れたおかげで、有り余り、結果回復に成功。それをシルバーベルの攻撃と推進の両方に転用可能なエネルギーへと変換し、ウイングにして背部から3対放出している。ボディはもともとの流麗なデザインに、新たに攻撃的な印象を与えるブレードが各部に生えたものとなっている。各部のブレードは、両腕にあった物と同じくエネルギーを纏わせることが可能だ。

 

 生まれ変わったボディの銀の福音はまず真っ先に近くの箒へと、シルバーベルをエネルギーウイングの表面から無数に発射した。

 

「ぐっ!?」

 

 箒は全方位をビームシールドで覆ってそれをしのぐが、すさまじい衝撃が襲ってくる。

 

「段階移行しても、電力は回復しない!! 攻撃は通る!! 全員攻撃だ!!」

 

 ラウラの号令で、一斉射撃する箒以外の専用機持ちだったが、それらの攻撃をなんと銀の福音はエネルギーウイングで自分を包んで防いだ。

 

 誰もが翼が厄介だと感じたその直後。

 

 射撃の雨が止んだと認識した銀の福音は、ウイングを開くと自分の上方にシルバーベルのエネルギーを収束させて、青白い球体を作り、そこから極太の光線を照射。体をその場で動かして専用機持ちたちに光線を襲い掛からせた。

 

 


 

side織斑一夏

 

「一夏君。どうやら、あなたの仲間たちが苦戦しているようですね」

 

 白騎士は夕暮れ空の浅瀬で、現れたと思ったら悲しそうにそう言った。

 

 仲間たち? まさか、みんなが今銀の福音と戦ってるってことか!?

 

「どういうことだ白騎士? 自分は壊れている故、密接にリンクしているお前と白式のことしかわからないんだが」

 

 暮桜が白騎士に問いかけると、白式が代わりに彼の問いかけに答えた。

 

「銀の福音が一夏の友達や一夏の大事な人を徐々に追い詰めてるみたいなの……」

 

「なるほど。まぁあの強さだ。複数のISと渡り合えるのもおかしな話ではないだろうな」

 

「ううん。渡り合えるどころじゃないみたい。セカンドシフトしちゃって圧倒してる」

 

 白式が俺の方にも視線を送りながら白騎士と同じように悲しげに言った。

 

「なんだって……!?」

 

 セカンドシフト!? 第4世代機が!?

 

 みんながそんな化け物みたいな銀の福音と戦ってる。

 

「まだ俺は目覚められないのか白式!?」

 

 俺が白式に問いかけると、白式はしばらく考え込むような仕草をした後、答えた。

 

「ううんまだみたい。まだ一夏は目覚められない」

 

「そんな……」

 

 早く行かないとみんなが、響さんがやられてしまう。それに多くの人たちが死んでしまうかもしれない。

 

 どうにもならないのか?

 

「白騎士。一夏に封印してる2つの力を委ねようよ。そうすれば一夏は多分目覚められるし銀の福音と戦うだけの力を得られる」

 

 何とか手段はないかと俺は白式に問いかけようとすると、彼女は白騎士に提案をした。

 

 どうやら俺が再び戦場に舞い戻ることのできる何かがあるらしい。

 

「頼む!! 俺に戦う力をくれないか!? 俺は止めたいんだ、人がたくさん死ぬのを、仲間が死ぬのを、愛してる人が死ぬのを!!」 

 

「……一夏君。我々が、私と白式が力を貸せばおそらくすぐにでも目覚められます」

 

 そう言ってしばらく沈黙したあと、白騎士が言葉を続けた。

 

「ですが、それらの力を目覚めさせることは創造主の逆鱗に触れて暮桜のように創造主からつけ狙われる可能性が出てきます。私は新生した私である白式を死なせたくありません。そして千冬の弟であるあなたを死なせたくありません。肉体の強さまで伴った心が強き者であるあなたでも、この力を使って目覚める際に命を落とすかもしれないのです。……気が少しでも緩むことがあれば」

 

 どうやら命がけの手段のようだ。

 

「私は大丈夫だよ白騎士。一夏は必ず私を死なせない。一夏もきっと死なない。それだけの強さを持っている人だってことは白騎士もわかってるでしょ?」

 

「……」

 

 黙り込む白騎士。

 

「自分としては織斑一夏に力を与えてやってほしいんだがな白騎士。千冬の弟ということもあって強いし、さっさと目覚めないと千冬が安心できないだろう」

 

 暮桜がそう言ってくれた。

 

「……白式は俺の相棒だ。絶対死なせない。俺も気を抜いて死んだりなんかしない。だから頼む。俺を目覚めさせてくれ。俺に力をくれ」

 

 俺は白騎士に、頭を下げる。

 

「では、私の問いに答えてください一夏君。あなたは、強大な力を手にして、銀の福音を下した後、その力をどのように使いますか」

 

 白騎士は問いかけてくる。

 

 強大な力。そんなものがあるとするならば、俺は当然。

 

「決まってる。響さんのようなヒーローになるために使う。誰かのために優しさと勇気を振りかざせる、そして涙を流せる人間らしいヒーローになるために」

 

「わかりました。では……その先に何を欲していますか?」

 

 その先?

 

「その先は……」

 

 俺は言葉に詰まる。響さんのようなヒーローになったと納得できるようになった先に欲しているもの。それが出てこない。

 

「一夏君、あなたの夢は立派です。しかし、夢を叶えた先のビジョンがないのですね。それだとあなたは死にかねませんよ?」

 

 白式や暮桜の視線も注がれるのを白騎士と話していても感じる。

 

 俺の夢の先。そこにあって欲しい物。

 

 ふと、俺がこれまで助けてこれた多くの人の笑顔を思い出した。

 

「……その先はあったよ」

 

「それはなんですか? 今気づいたことでもいいのです。言ってください」

 

 白騎士がまっすぐ俺を見つめる。その視線は見定める者の目だ。

 

 俺はそれに確固たる意志で続きの言葉を紡ぐ。

 

「俺の夢が叶った時。俺は多くの人を理不尽から護れてるはずだ。そして俺の夢の先にはたくさんの人の笑顔があってほしい」

 

 そこまで言って茜ちゃんの最期の姿を思い出す。

 

 俺が護れなかった少女。だけど、人に護るべき価値があるということをこれでもかと伝えてくれた少女。

 

「茜ちゃんの時のように手が届かないことがあっても、涙を流して絶望しそうになっても……それでも折れないヒーローに俺はなる。そして1人でも多くの人の笑顔を護り、作って見せる!!」

 

 白騎士はそれを聞いて微笑んだ。

 

「なるほど。笑顔が見たい、ですか。……では最後の質問です。あなたが護りたい存在である人間ですが、どうしてそんなに護りたいのですか?」

 

 迷うことはない。俺は即答した。

 

「恩人が教えてくれて、茜ちゃんが示してくれた。人は尊い強さを持っているから護るべき価値があるんだ。だから護るんだ」

 

 満足げな顔をする白騎士。

 

「千冬と同じ答えですね。創造主の悪行に絶望し、与えられた力を解き放つことを迷っていた私に力を解放することを決断させたあの素晴らしい答えと同じでしたよ。一夏君」

 

「どうやら織斑一夏に力を授ける気になったようだな白騎士」

 

 暮桜もまた満足げな声で白騎士に話しかけた。

 

「ええ暮桜。一夏君にこれだけの強い思いがあるのなら、今抱けているのならば気を抜いて死んでしまうことなどないでしょう。安心して力を渡せます」

 

 こちらに歩み寄ってくる白騎士。

 

「ありがとう白騎士。認めてくれて」

 

 俺は彼女にお礼を言う。

 

「こちらこそ感謝します。あなたが強い意志と善性を持った人間であることに。白式と共に戦ってください。もしあなたや白式に危機が訪れれば私があなたたちを護ります。だから安心して1人と1機でヒーローを目指してください。では白式、一夏君に力を授けましょう」

 

「うん白騎士!! 一夏、私たちの手を取って」

 

「おう!!」

 

 俺は白式と手を繋ぐ。続いて白騎士とも、もう片方の手を繋いだ。最後に白騎士と白式が手を繋ぐ。

 

 すると俺たちが繋がって出来た輪の中心でまばゆい白い輝きが生まれた。徐々に強くなり、夕暮れ空を真っ白く染めていく輝き。

 

「織斑一夏。頑張れよ。それと千冬に伝言をしてくれないか」

 

「なんだ暮桜?」

 

 俺は一歩離れた位置にいる暮桜の方を見る。

 

「お前に必ず戦う力を取り戻させてやる……とな」

 

「わかった!!」

 

「頼んだぞ。では、行ってこい織斑一夏」

 

 ニカっと笑う暮桜。

 

「じゃあ一夏。一緒に頑張ろう!! 私も一夏のために強くなるから!! 今度は負けないように私も一夏のためにセカンドシフトするから!!」

 

「マジかよ!? そりゃ頼もしいぜ!! ありがとな白式!!」

 

 セカンドシフトか。本当にありがたい。

 

「ただね一夏、お願いがあるの。私やほかのISコアは銀の福音のために頑張って歌って、あの子の世界にアクセスして助けようとしたけど、助けてあげられなかった。多分助けられないんだと思う。だからせめてあの子が一番護りたい存在のナターシャさんをできれば助けてあげて?」

 

 俺の方を見つめながらそう言った白式。

 

「おう。約束する!!」

 

「ありがとう一夏!!」

 

 白式は満面の笑顔を浮かべた。

 

 そして。

 

「あなたに……力を……!!」

 

 白騎士が力強く言うと同時に、輝きは白式の世界を真っ白にした。

 

 

 

 

 

 俺が目を開けると全身が痛かった。とてつもない激痛だった。

 

 俺の世界に戻ってきたらしい。

 

 固定器具で身体を押さえつけられ、左腕はナノマシンの充填された器具に突っ込まれている。

 

 そんな状態で、俺は力強く呟いた。

 

 与えられた力を。頭に伝わってきたその名を。

 

「バニシング……オーバーブースト……!!」

 

 


 

 

 

 仮説指令室で、真耶と千冬、それに2人の教員は絶望に近い感情を抱いていた。

 

 1年生専用機持ちが全滅寸前になっていたからだ。

 

 本当に奇跡的に死者は出ていない。

 

 だが、それも今戦闘が可能な響と箒が必死の抵抗を続けているからだ。2人も撃墜されれば、その他の行動不能になり岩礁に着地している1年生や教員部隊は殺されかねない。

 

 そんな中、あるモニターが異常を示す。

 

 仮説指令室の隣の部屋で寝かされている一夏のバイタルが停止したという知らせだ。

 

「お、織斑先生。織斑君のバイタルが……」

 

 今度こそ千冬は絶望した。だが、千冬は義務感で自分をつなぎとめる。

 

「分かっています。ですがこの戦いを見届けないといけません。それが教師の義務です」

 

 だが、見過ごせない事態が隣の部屋で始まった。

 

 轟音が響き渡ったのである。

 

「くっ、確認してきます!!」

 

(いったいなんだ!?)

 

 千冬は襲撃であってはいけないと思い。立てかけていた近接ブレード葵を担ぐと、仮説指令室から廊下に出て、一夏の部屋につながる扉を開ける。

 

 そこでは、驚愕の光景が広がっていた。

 

 患者衣の一夏が、固定器具や添え木から解放されて、立った姿勢で浮き上がっていた。

 

 一夏を中心に、青白い光球が展開されており、そこから衝撃波が何度も鼓動を打つように広がり患者衣がはためいている。包帯やガーゼが一夏の患者衣の裾の間などから飛び出し、はがれていく。

 

「千冬姉。心配かけた!!」

 

「いち、か?」

 

 千冬はまっすぐ自分を見つめてくる手足がまっすぐなって再生している一夏にただただ驚愕する。

 

 一夏に今何が起こっているのか?

 

 それは、白式のコア、正確にはコアナンバー00001に備えられた特殊機能が作動しているのだ。

 

 特殊機能のまず1つは生体再生機能。ISのナノマシンによる修復能力を人間にも使用して細胞を修復するのだ。このナノマシンはネフィリムという自立駆動する生物のような聖遺物の細胞を改造して造り出されている。なのでもともと機械部品よりも性質の近い生体の細胞に働きかける方が得意なのである。それによって一瞬で一夏の全身の傷を治したのだ。

 

 しかしこのネフィリムの改造細胞を一瞬で、先ほどまでの一夏が負っていた傷を回復させるほどに増殖と活性化させるには大量のIS粒子が必要である。

 

 それを生み出したのがもう1つの特殊機能。バニシング・オーバーブーストである。

 

 バニシング・オーバーブーストは搭乗者の生命エネルギーを瞬間的かつ大量に錬金術の魔方陣で焼却し、膨大なIS粒子と電力へと錬成する機能である。ただしこの機能は常人ではまともに使えない。一般人がこれを発動すると生命力が枯渇し衰弱、5分程度で死亡するのだ。だが、一夏はこれを発動しても死なない生き物だった。

 

 ただ、一夏は、大けがによって生命力が弱っていた状態だった。強い意志や覚悟をもって生命力を活性化させ増産させなければさすがに死にかねなかった。だから白騎士が強い精神状態を保てるように先ほどのような問答をしたのだ。

 

 その甲斐あって一夏は死ななかった。ボロボロの状態からすべての傷を無くした。

 

「こい、白式!!!!」

 

 一夏が右手を天にかざす。すると雪片弐型が虚空に浮かぶ。続いて各所が崩壊している右腕アーマーが一夏の右腕に装着される。そして一夏は、大きくなった手で雪片弐型をつかんだ。

 

 その瞬間。白式の右腕部が新生する。どんどん一夏の体に白式のISボディが展開されていき、エネルギーの奔流の放出と共に古い壊れた状態から新たな姿に変わっていく。

 

 最後に進化して大型化した非固定浮遊部位のウイングが展開し室内に暴風を発生させる。天井の木材がはじけ飛び、ガラスが割れて、カーテンが舞飛ぶ。

 

 一夏は着ていた患者衣を、アームドアーム雪羅という、白式の左腕に新たに装着された多機能な大型腕部状の籠手で掴んで脱ぎ捨てた。

 

 その下にはISスーツとそれを覆う装甲があった。

 

「織斑一夏。白式雪羅。行きます!!」

 

 一夏は復活を。白式は進化を遂げた。

 

 天井も屋根も突き破り、外に飛び出した一夏は、とてつもない速度で白式と共に戦場へと向かった。千冬からは空を飛ぶ一夏と白式が、稲妻を空に描いているように見えた。それほどまでに1人と1機の速度は異常だった。

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

 一夏は叫びながら空を駆けた。

 

 


 

side立花響

 

 銀の福音はエネルギーウイングによって反応すら難しい速度で飛び回り、テレポート能力を連発して私や篠ノ之さんの背後に回り込んで攻撃を繰り出す。そんな恐るべき戦い方で私たちを攻撃してくる。

 

「篠ノ之さん!!」

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

 私がマシンキャノンで何度目かの牽制をして、篠ノ之さんが銀の福音に斬りかかる。

 

 だが、銀の福音はテレポートして私たちの真上に陣取ると、3対の翼の先端から巨大な光球を生成。それがはじけると同時に無数の拡散ビームを降らせてきた。

 

「立花!!」

 

 篠ノ之さんが私の前に躍り出て、攻撃をビームシールドで庇ってくれる。しかし、……篠ノ之さんはこれまで私だけでなく岩礁に着地している誰かに流れ弾が当たりそうならば毎回庇っていた。

 

 結果、負荷が蓄積したのか、紅椿の各部展開装甲が爆発を起こし、ビームの生成が止まった。拡散ビームを防ぎ切ったのと同時の機能停止。篠ノ之さんがバランスを崩す。しかし、追撃として今度はウイングの表面から銀の福音はシルバーベルを連射してきた。

 

「くっ!?」

 

「このっ!?」

 

 篠ノ之さんと私は無数のシルバーベルをまともに受けてシールドバリアも貫通されてダメージレベルが一気に上がり墜落する。

 

 岩礁の上で片膝立ちになる私と篠ノ之さん。しかし他の皆と違って私の打鉄撃槍は戦えなくはないダメージだった。しかし篠ノ之さんの紅椿はもう戦闘が不能とわかる大きな破損状態だった。

 

 ここからすぐにでも離れないと!! そうしないと篠ノ之さんを巻き込んでしまう!!

 

 私は打鉄撃槍をこの場から動かそうとするが銀の福音の3対のウイングが連続で私に向かって伸びて打撃を加えてきた。

 

「がっ!?」

 

「立花!!」

 

 篠ノ之さんはウイングの打撃攻撃によって翻弄される私を助けるために、その場で得物からレーザーやビームを発射して銀の福音を攻撃するが、それらはテレポートで完全回避された。

 

 そして、銀の福音はウイングから大量のシルバーベルを頭上でまた集束させて巨大なエネルギー球を造り出すと、私たちにそこから極太のビームを容赦なく発射した。

 

 今の打鉄撃槍の状態じゃ避けれない!! シンフォギアを纏うのは今からでは間に合わない!!

 

 未来、シャルロット、一夏君!!

 

 私は目をつぶる。死を予感して。生きるのを諦めてたまるかと思ったけど、打開策が浮かばなかった。

 

 そして極太の光線が私たちを消し炭にする寸前。

 

 迫っていた青白いビームが、別の青白いビームに隣から激突されて私たちにぶつかることなく四方八方に飛び散った。

 

 岩礁付近の海に吸われる、散り散りになったビーム。

 

 予想した死は訪れなかった。

 

 なぜなら!!

 

「やらせるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 一夏君が来てくれたから。

 

「一夏、くん……」

 

 白い流れ星の如く、銀の福音と超高速で一夏君はぶつかり合った。

 

 私は彼が生きていること、彼が来てくれたこと。それらによって涙があふれた。

 

 


 

 

 バニシング・オーバーブーストはISの基本性能を、錬成したIS粒子と電力をコアから機体各部に過剰供給することで爆発的に向上させるものだ。ただし、コア内部のバッテリーにダメージが蓄積しないようにするために大量の電力をプールしていられる時間は最長10分だ。使えば使うほどIS粒子も電力も消費されるため、機体性能を強化してくれる時間は短くなるし、タイムリミットが来れば強制放電される。

 

 増産された残りのIS粒子と電気、そして強制放電までのタイムリミットを……時限式の切り札の有効時間を確認して、一夏は雪片弐型からビームソードを展開して構え、銀の福音に突撃する。

 

「なんとしても助ける!!」

 

 白式雪羅の左腕のアームドアーム。雪羅は、多機能な武器だ。

 

 まず先ほど響と箒を助けるために放った掌部の零落白夜のビームキャノン。そして今、銀の福音に接近するために籠手の上部から展開しているのが零落白夜のビームシールドだ。

 

 無数の迫りくるシルバーベルを、ビームシールドが防ぎ、シールドバリアで防ぐよりも電力消費を少なく済ませる。シールドバリアで受けるよりもエネルギー効率がいいのだ。

 

 その状態で一夏は銀の福音に迫っていく。

 

『織斑、銀の福音は移動中知らせたように空間移動能力を持っている。十分に注意しろ!!』

 

「了解!!」

 

 一夏は千冬からの通信に返事をした直後、ビームソードのレンジに銀の福音が入ったので温度を下げて振り下ろす。 

 

 それを銀の福音は座標移動を発動して回避後、一夏の真下に陣取りシルバーベルを撃ちまくった。だが一夏はそれに反応し、直角に軌道変更。真下の銀の福音に雪羅のビームシールドを引き続き展開した状態で轟雷が落ちるかの如く超高速で接近した。

 

 銀の福音は約10秒間、迫りくる一夏からイグニッションブーストも発動して逃げ続け、シルバーベルを撃ち続けたのち、座標移動を発動。今度は一夏より上空600メートルに移動すると、そこから再びシルバーベルを一夏に撃ちまくった。

 

 しかし一夏は、今度は瞬間的に上空600メートルまで……ビームシールドを展開した状態で銀の福音のいる場所までイグニッションブーストの発動によって移動する。

 

 焦り後退する銀の福音に容赦なく雪羅の機能である指先からの零落白夜のビームバルカンを一夏は連射した。

 

 銀の福音はウイングのうち1枚でそれを防ぐが、一夏は連射速度を上げてウイングに穴をあける。

 

 零落白夜の弾丸が、銀の福音のシールドエネルギーを瞬く間に削り取り、40%まで回復していたシールドエネルギーを25%に引き下げた。

 

 銀の福音は座標移動発動可能時間までの残り8秒を何とかしのぐために苦し紛れのウイング先端に造り出した光球からの拡散ビームを撃ちまくるが、それを一夏は機体の強化されている機動性と運動性で稲妻を描くような軌道で回避して銀の福音の数メートル先に移動すると、雪羅のビームバルカン発射口から零落白夜のビームクローを展開。指を大きく開いた状態で、30メートルもの長さの5本のビームの刃を襲い掛からせる。

 

 銀の福音は体をうまく動かしてビームクローをかわそうとするが、何度か繰り出されたそれにより、ウイングの内左右1本ずつが千切られる。

 

 だが、座標移動までの時間を稼いだ銀の福音はやっとの思いでそれを発動して一夏からかなり離れた位置に移動した。

 

 そしてその場からシルバーベルを集束させた極太ビームを発射しようとするが、銀の福音は驚愕した。一夏がとんでもない速度ですでに自分の後ろに回り込もうとしていることに。

 

 これが一夏と白式だからこそできるバニシング・オーバーブーストの恐るべき機体強化能力だ。

 

「ナターシャさんは助ける!!」

 

 一夏はそう叫びながら銀の福音の後方で零落白夜のビームソードと、零落白夜の収束させたビームクローで銀の福音のウイングを全て根元から断ち切る。

 

 銀の福音は飛行能力を一時的に低下させられ落下する。一夏は追撃として極太の零落白夜のビームキャノンを発射するために、両肩部側面と腰部サイドに取り付けられた4機のワイヤーハーケンを射出し銀の福音の四肢を拘束する。

 

「これでぇぇぇぇ!!!!」

 

 そして一夏はビームキャノンを発射した。

 

 それを銀の福音は手足に絡みついたワイヤーハーケンを全身のブレードで切り裂き自由を得ると、ぎりぎりでビームキャノンの範囲から回避し、一夏に反撃を開始する。

 

 それは、近接戦闘だ。一夏の真正面にイグニッションブーストで移動した銀の福音。

 

 それから銀の福音の大量のブレードと再生させたウイング、一夏のソードとクローが連続でぶつかり合う。

 

 その速度は常人ではとらえられず、ハイパーセンサーがあっても同じことをやれと言われれば不可能だと答える領域の剣戟だった。

 

 バニシング・オーバーブーストで機体機能を強化した白式は単純な四肢のパワーやスピードも増強されている。だからこそ手数が異様に多い銀の福音とも剣戟を繰り広げられているのだ。

 

(強制放電まで残り3分か!!)

 

 一夏は焦る。あと最長で3分。だが斬りあいをするために、零落白夜へ大量の電力を使用しているためそれより実際は短い時間でバニシング・オーバーブーストで生み出した電力が尽きる。

 

 セカンドシフトした第4世代機と渡り合うには第3世代機のセカンドシフトだと、やはり今のような出力強化が必要だった。どうあがいても第4世代のセカンドシフトという常識外の性能に対抗するには常識外の特殊能力が、かつて1機で全方位から東京に迫るミサイルをイグニッションブーストによる瞬足で動き回り、プラズマブレード1本と大型荷電粒子砲だけでしり退けた白騎士と同じ能力が必要なのだ。

 

「だとしても!! 諦めるか!!!! 絶対ナターシャさんは助ける!! 白式との約束だから!!!!」

 

 銀の福音は座標移動も駆使して一夏の両腕では反応が難しい死角に回り込み攻撃するが、それをことごとくバニシング・オーバーブーストの効力でよけて反撃する一夏。瞬間移動と超高速移動の戦いが繰り広げられる。

 

 火花が散りまくる。ほぼ同色の青白い輝きが何度もぶつかり合う。夜空を白い2本の流星が彩っていた。

 

 それを見ているのは響と箒だ。

 

 箒は一夏が徐々に追い詰められているのを、先ほどの「だとしても!!」という一夏のあきらめを拒否する発言で気づいた。

 

 だからなんとかしてあげたいと。一夏のために何かしたいと心から感じた。

 

(私は一夏を助けたい!! 理屈などどうでもいい、あの背中を護りたい!! 愛しているから!!)

 

 力の資格だとか難しい理屈は今は心の中に欠片もない。箒はただ純粋に一夏のことを考えた。そしてただ彼を助けたいと願った。彼のしたいことを応援したいと願った。強く、強く、強く!!

 

 その瞬間。

 

 箒の強い思いが伴わなければ封印を解除しないように設定されていた、紅椿の特殊能力が解放される。

 

 その名は「絢爛舞踏」。

 

 封印しなければ箒が様々な陰謀の渦巻く世界に紅椿を受け取った以上に巻き込まれるから。しかしそんな中でも自分を見失わないであろう強い感情を箒が抱いたときに解放するようになっていた。いざというときに妹の力になりたいという純粋な思いで束が、白式と同じようにデータ領域に巨大構造物としてインストールした特殊能力である。

 

 白騎士の埒外物理の魔方陣。零落白夜の陣を束が解析しあらゆる能力を反転させる形で試行錯誤し造り出した絢爛舞踏は、特定の指向性を持たない高次元のエネルギー塊『神の力』の生成と同時に、それをISの使用可能な電気のような性質のエネルギーに落とし込み、自力で活用したり触れた対象に分け与える力である。

 

 生成した絢爛舞踏のエネルギーにより金色に輝く、傷だらけで空を飛ぶことすらできない紅椿。

 

 自分の手では届けられない、だが響ならできる。そう箒は信じる。なぜなら自分の愛した一夏が心から愛している存在だから。

 

「立花!! これを一夏に届けてくれ!! 頼む!!!!」

 

 箒は手を響に伸ばして懇願する。

 

「それは、エネルギー? それも高純度で高密度の?」

 

 紅椿が纏っている金色のエネルギーを打鉄撃槍のハイパーセンサーがそのように検知する。

 

「ああ、これがあれば少しでも今の一夏の力になるはずだ!!」

 

 一夏が互角に見えて追い詰められているのは響も把握できていた。

 

 だから。

 

 響は箒の手を握った。一夏の力になるのならばと。大好きになった最愛を抱いてくれる少年の助けになるのならばと。

 

 その瞬間、金の輝きが打鉄撃槍へと移り、そのシールドエネルギーが瞬時に回復する。しかし金の輝きは消えない。まだまだ力が宿っている。

 

 これを一夏に届ける。そう強く決心する響。

 

「おぉぉぉぉ!!!!」

 

 響は叫びながらイグニッションブーストを発動して空高く舞う。

 

 打鉄撃槍の各部が悲鳴を上げて爆発も起こし、パーツが脱落していく中で、響は歌った!!

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron!!!!!!!!」

 

 ISを量子分解し、新たにガングニールのシンフォギアを纏う響。金の輝きはいまだ果てずに響にまとわりついたままだ。だから響は腰部ブースター、そして両腕に展開した巨大ガントレットのブースターで一夏のところまでまっすぐ向かう。

 

「一夏君!! 手を握って!!!! 私と手を繋いで!!!!」

 

 一夏は響に気づき、銀の福音に蹴りを食らわせ吹っ飛ばした後、差し出された響の右手を、左の大きな手で、思わず、しかし、迷わず握った。

 

 響のまとわりついていた金の輝きが白式へと移っていく。ISコアに流れ込むだけでなく、バニシング・オーバーブーストによって常時100%を維持できていたが間もなくそれが不可能になろうとしていた機体各部バッテリーに流れ込もうとする。 

 

 一夏は金の輝きを、瞬時にエネルギー回復能力と理解し、オーバーチャージを承認。それらの力を全て白式に流し込む。金の輝きは完全に白式に吸収された。

 

 それを見届けた響は手を離す。名残惜しいと感じながら。しかし一夏が勝つことを祈りながら。

 

「一夏君!! いっけぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

「おう!!!!」

 

 一夏もまた繋いだ手を離すことに名残惜しさを感じながらも、その手を離すと、再接近してきた銀の福音を今度は1人で握り締めた左手で殴りつけた。フルフェイスの頭部ハイパーセンサーの一部が砕ける銀の福音。

 

 響は落下しながら一夏を見つめ続ける。

 

 そして響の優しい視線を感じながら一夏は銀の福音の頭部を左手で掴む。

 

 逃れるために一夏の左腕を握りつぶそうとする銀の福音。

 

 そうされる前に一夏は、ゼロ距離で、最大範囲の零落白夜のビームキャノンを発射した。

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

 ウイングを広げた状態の全身を完全に包み込むほどの零落白夜のビームを喰らって銀の福音のシールドエネルギーが瞬間的に消失していく。シールドバリアが繋がっている距離のため白式のシールドエネルギーも消えていく。だが、箒の想いと、響の想いが繋がり、送られた力のおかげで……銀の福音のシールドエネルギーのほうが先に尽きた。

 

「今だ!!」

 

 一夏は銀の福音の後ろに回り込む。そして再度展開されて襲い掛かってくるウイングの打撃が来る前に、逆手持ちにした雪片弐型をビームソードの展開を止めた状態で銀の福音の背中に突き立てた。そこはISコアのある場所だ。痙攣する銀の福音。

 

「止まれぇぇぇぇ!!!!」

 

 雪片弐型を引き抜き、銀の福音のISコアが目視可能になった穴へと左手の手刀を無理やり差し込んだ後、ハイパワーで雪羅の指を開いてこじ開ける一夏。そして銀の福音のISコアを思いっきりつかんで引き抜いた。

 

 機能を停止する銀の福音のボディ。手足の力が抜けるナターシャの体。

 

 ナターシャが海へと落ちぬように一夏は左腕で抱える。

 

「約束果たしたぜ白式」

 

 バニシング・オーバーブーストによる疲労が、戦いという緊張が終わったことで全身を襲う中、一夏は笑いながら呟いた。

 

 銀の福音との戦いはIS学園の勝利で終わった。

 

 これによって、7月7日の篠ノ之束の同時多発テロは終息した。

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