あまあまジャン・バール   作:斗掻き星

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1話

カリカリと、ペンの音が響く。

窓の外はとうに真っ暗で、そろそろ翌日を迎えようとしていた。

 

「はぁ…」

 

そして私の溜息。

周りには積み上がった書類の山。

 

セイレーンとの戦争に勝利し、私達軍人が暇になるかと思えば、そんなことはなかった。

いや、実際艦船(KAN-SEN)の娘達の任務は大幅に減り、平和を謳歌している。

 

しかし私はといえば、指揮官という肩書に付随する責務に追われ、執務室に籠り切りだった。

 

コンコンコン、と扉がノックされた。

 

「入るぞ」

 

聞き慣れた声だ。

私の最愛の、秘書艦の声。

 

「どうぞー」

 

ガチャリ。

声の主が入ってきた。

 

ジャン・バール、私と永遠の愛を誓い合った、私の伴侶だ。

 

 

 

「まだやってたのか」

「うん、ゆっくりやってたら終わらないしね」

 

私は書類の山を見やって言った。

ジャン・バールは呆れたような、ちょっと怒ったような顔をした。

 

「休め」

 

短く、強い語気でジャン・バールは言った。

 

「え、いやでもまだ…」

「いいから。休め。」

「はい…」

 

有無を言わさぬ雰囲気に押され、私は渋々ペンを置いた。

 

「はぁ…。ったくお前は、毎度根を詰めすぎだ。少しは休むことを覚えろ」

「う、気をつけます…」

 

私はジャン・バールに手を取られ、立ち上がった。

 

「ほら、部屋に行くぞ」

「うん」

 

寝ようと思えば執務室でも眠れるのだけれど。

そんなことをした日にはジャン・バールがどれだけ怒るか分からない。

 

私は素直に手を引かれ、二人の私室へ向かった。

 

 

 

「シャワー浴びてくるね」

「ああ」

 

もうだいぶ眠たいし、ささっと洗ってすぐに出よう。

熱いお湯が、疲れた身体に心地よかった。

 

 

 

「髪乾かしてやるから、こっちに来い」

 

シャワーから上がると、ジャン・バールがドライヤーを持って待っていた。

私はすぐにジャン・バールの前に行って座った。

 

ゴォォォ、とドライヤーがうなる。

 

「ありがとー」

「別に、これくらいいいさ」

 

声も手つきも優しくて、気持ちがいい。

髪が乾くころには、私は心身ともにすっかり力が抜けていた。

 

なんだか立ち上がる気になれなくて、身体を少し後ろに倒して、ジャン・バールにもたれかかった。

ちょうど私の後頭部をジャン・バールの胸に預けるかたちだ。

 

「…あまり甘えすぎんなよ」

「ちょっとだけ、いいでしょ?」

 

ジャン・バールは少し照れているようだった。

 

「ちょっとだけ、な」

 

ジャン・バールは私のお腹に両手を回して、抱きしめてくれた。

 

 

 

「明日、一緒に買い物にでも行くか」

「え、でも仕事…」

 

執務室には未だ書類が積み上がっている。

 

「お前は十分過ぎる程働いている。休んでも誰も文句は言わないし、言わせない」

「うん…」

 

ジャン・バールは、私の頭に手を置いて言った。

 

「戦争は終わったんだから、お前はもっと余裕を持て」

 

優しく、私の頭を撫でながら。

 

「お前が掴み取った平和だ。お前が享受しないでどうする」

「うん、そうだよね…」

 

私はまだ、スイッチを上手く切り替えられていなかったみたいだ。

 

「ありがとうね、ジャン・バール」

「どういたしまして。さ、そろそろ寝るぞ」

 

 

 

明かりを消して、二人でベッドに横になる。

 

「んー、じゃんばーるぅー」

 

ジャン・バールに抱き着いて、顔を擦り付けてグリグリした。

 

「やめろ」

「ぐぇ」

 

引き剥がされてしまった。

 

「甘えすぎだ」

「えー、ほら、ちょっとだけちょっとだけ」

「だめだ」

 

ぶぅ、とわざとらしく膨れてみせると、ジャン・バールは呆れた顔をして言った。

 

「まったく、はしゃいでないでさっさと寝ろ」

「はーい」

 

私が潔く離れると、今度はジャン・バールが私に寄ってきた。

 

 

 

「おやすみ」

 

そう言って、私の額に口づけを落とした。

 

「お、おやすみなさい…」

 

頬が熱くなって、しばらく寝付けなかった。




ジャン・バールに強めの言葉で甘やかされたい。
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