「ユズリハ様…!…いったいどこに行っちゃったんですかぁっ…!」
………朝、ユズリハ様のお部屋からは物音がしません。…不審に思ってドアを開けたそこに、ユズリハ様はどこにもいませんでした。
「ご主人様がいない僕にっ…!僕は……ユズリハ様がいなきゃぁっ…!…」
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「……ダメ、見つからないの。」
クラリス様は首を横に振りました。
「…どこに行ったかもわからないよ…っ!」
イブキ様は涙目で探していました。
「ハッ、あのユズリハのことだもの、どーせ数日したら腹減ったとか言って帰ってくるわよ!」
シェリル様はイブキ様にそう言い放ちます。……
お父様の姿はありません。…ずっと書斎に篭っています。
「………」
僕の頭の中では、昨日ユズリハ様が夜、言ったことがずっとぐるぐるしています。…クラリス様とイブキ様に仕えよという言葉は、…もしかしていなくなる伏線だったのでは、と。…
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「…失礼します。……カグラ様、お茶をお持ちしました。」
僕はカグラ様のお部屋の戸をノックしました。
「……来れよ。」
中から声が聞こえます。僕はそっと戸を開けました。
…カグラ様は、今このアルファード家で起こっている混乱を知ってか知らぬか。…沈黙を貫いています。
「……ユズリハは追放した。…」
「…追…放………?…」
僕は耳を疑いました。…実の娘を?追放?…
「…貴族に、このアルファード家に相応しくない者に価値は無い。…泥を塗るものは_____」
「それがお父様の考えですか。……!」
戸が強く開かれる。…そこには、イブキ様の姿がありました。
「…なぜ、なぜユズリハは貴族に相応しく無いと?自分の思い通りにならない者はたとえ家族だろうと排除するのですか!?」
「……………」
イブキ様は激しい怒りをあらわにし、カグラ様に詰め寄りました。
「あなたにとって……奴隷は人ではないのですか_」
「人は皆、平等ではない。…」
カグラ様は、強く、静かに言い放ちました。
「……生まれつき足の速い者、足の遅い者。…資本のある者、貧乏な者。…そして強者に許されし特権…それは_」
「自分より階級が低ければ奴隷はどう使ってもいいのか__」
「愚かなりッ!!」
イブキ様はビクンッと震えました。…
「…強者は弱者を使う!それが世の真理だッ!…ユズリハのように奴隷と唯ならぬ関係を築くなどあってはならない…!」
僕も、イブキ様も、…肩を震わせていました。
恐怖?怒り?悲しみ?…感情がごちゃごちゃになってしまう気がして。…
「………分かったら戻れ。…貴様もユズリハの二の舞になりたくなければ、な。」
「……この…クソ親父ッ!」
イブキ様はそう言い捨てて、踵を返していってしまいました。
「…失礼、します。…………」
僕はこの場にいるのが辛くて、…そっとお茶を置いて部屋を後にしました。
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「…………まったく、アルファード家の御令嬢が家出なんて。……」
…私は家から逃げた。…そしてアルファード家から少し離れた街で…平民階級の人の家に居候することになった。
「…なんで、平民の僕なんかの家に来ようと?」
「…私、庶民的な生活の方が好きなの。……」
「……そっか。…」
彼の名前はエルフリーデ・トリア。…本屋を営んでいる。
「……まぁいいよ、…気が済むまで居候して。…それと、部屋にある本は適当に呼んでいいよ。あ、出かけたいときも好きに出かけていいから。…」
「……うん。」
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彼は優しかった。
「…夜ご飯、何が食べたい?」
「……うーん……お肉!」
「あはは…いいよ、買いに行こう。」
私を貴族としてではなく、1人の人として、…ユズリハとして扱ってくれた。
「…何肉がいい?」
「牛!」
「…じゃあ…これちょうだい…!」
彼の手は暖かくて、彼の声は優しくて、彼の目は綺麗で……
「ご飯の準備するから手伝ってくれるかな…?」
「うんっ。…お皿はこれでいい?」
「それでいいよ。…ほら、盛り付けて完成…♪」
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あなたが出ていかれてから半年が経ちました。
ユズリハ様の居なくなったアルファード家は何も変わりません。…それどころか、まるでユズリハ様はもともと居なかったかのような雰囲気になっていました。…
「…イブキ、夜ご飯にしましょう…♪」
「……うん。…」
イブキ様は静かになって、心を閉ざしてしまったかのように…。
「……大丈夫よ、ユズリハは…ユズリハはきっと。あの子強いから…♪」
「…そう、だよね…。…大丈夫…だよね…!」
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「……シュペー、お使いお願いしてもいいかしら?」
ある本は日、僕はクラリス様にお使いをお願いされました。
「はい、なんなりと。……にんじんと…レタスと…お肉ですね。…」
メモとお金を受け取り、僕は屋敷から出ました。
「…えっと…にんじん3本、レタス2玉ください。……」
「これはこれはアルファード家の。…925円。…毎度あり。…」
僕は野菜売りのおじさんから買ったものを受け取りました。
「…そういや、最近アルファード家の令嬢がよくここら辺に来るんだが…。…」
「……!?…それは本当ですか…ッ!?」
令嬢…ユズリハ様のことに違いありません。
僕はおじさんに詰め寄りました。
「あ、あぁ、…その様子だと、…さては家出か?…悪い、見るだけで…いまいち分からないんだ。…」
「…そう……ですか…!…」
よかった…ユズリハ様は居るんだ。…ここから遠く離れていないんだ!
僕はそれだけで嬉しくて、もう一度会えるかも知れない。もしかしたら帰ってきてくれるかも知れない!
もう一度出会えたらどんな話をしよう…!いっぱいぎゅってしてくれるまで、ぎゅっとしてくれるまで許しませんっ!…ユズリハ様っ!
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私はそっとトリアの手を握る。街は雪で白くなっていて…少し悴んでしまう。でも彼の手は暖かくて…全て溶かしてしまいそうだ。
…彼と出会って約半年。少し居候するだけだったのに。…いつしか彼と一緒にいる暮らしが楽しくて。少し抜けているところとか、寝相が悪いところとか、夜はランプを点けなきゃ怖くて寝れないところとか、…少し頼りないようなところを見ていると、離れられないなという気持ちが湧いてしまった。
「……今日はシチューにしよっか…♪」
「うん…寒いしね…。」
……どうかこのまま、こんな生活が続いてください。…他に何も要りません。…ずっと、ずっと。…
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僕の知らない誰かと、その手を握っています。
僕の知らない誰かに、笑顔を見せています。
僕の知らない誰かと、楽しそうに話しています。
僕の知らない誰かと……僕の知らない誰かと………
……手に持っていた買い物かごを落としてしまいました。…雪は徐々に、僕から体温を奪って。でも、頭の中は混乱していて。……まるで魂が抜けたように。……
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拝啓、ユズリハ様。
新しい人と並ぶあなたは上手くやれていますか?
僕にくれた愛を、新しい人にも注いでいるのでしょうか。
……僕のことを忘れて、進んでください。
僕はなんとか上手くやります。クラリス様とイブキ様の従者として僕は尽くすことにしました。
…今でも貴方の部屋の前を通ると、帰ってきているんじゃないかと悪い夢を見てしまいます。…
いつか、…いつかもう一度、顔を見せてください。