獅子王アルトリア・ペンドラゴンが行く異世界転移 作:アルトリア・ブラック(Main)
ー旧王都、リ・エスティーゼー
元第二王子であるザナックはブリテン国となってから侯爵としての地位まで下がってしまったが、それでもその待遇で不満はなかった
(まぁ、王としてこの国の民達を幸せにしたいという思いはあの王も同じだったからな、それが変わるだけの話だしな…しかし…)
ザナックの元にくるブリテン王国からの仕事内容には正直頭が痛いものがあった。適切に配下の貴族(ザナック以下は全員伯爵で唯一の例外はレエブン侯)に割り振ることが多かった
「…にしてもなぁ、胃が痛くなるものだ…臣下の立ち位置になってこそ初めて分かるな、貴族の腐敗の酷さは」
山のように積み重なった書類を見ながら言う
「まだ、ザナック王…失礼しました。ザナック様の元で処罰を受けるなら幸せな方ですがね、一体何人がそのことに気づいているのでしょうか」
元内務尚がそう言ってくる
金や地位にばかり目が眩んでいる人間はあの手この手で金を稼ごうと犯罪行為に手を染めて動こうとしている
今は壊滅した八本指の元アジトを起点に麻薬の密売や人身売買を行おうとしているのだが、必然的にその行為はバレて摘発されている
「…そもそも兄上は、自分がいいように扱われていると気づかないものか…」
部下は首を振る
バルブロはブリテン王国になってから数日後に父であるランポッサ三世の元に帰還した
単独でキャメロットへ進軍し、返り討ちに遭い、五万ほどの兵を失ったという大失敗をし、捕らえられ尋問されたのにまだ懲りていない
「失礼します。ザナック様、ラナー様がお見えです」
「ん、入れてくれ」
そう言って部下が下がっていく
妹のラナーは王族ではなくなったことからその歪んだ感性で仲良くクライムと暮らしている。一人の元王族を婚姻させずにいるのは肉親であるザナックからの命令もあるが、ブリテン王国の官僚の一人であるモルガンと交流を深め、自由に暮らしているという
ある意味では今の方が幸福なんじゃないかと思っている
「失礼します」
そう言ってラナーが入ってくる
傍には相変わらずあの男がいた
ラナーの本質を知らない、ラナーだけを見ている男
「お前も話を聞け、今更王子でもあるまいし、聞かれて困るような内容はないしな」
「…しかし…」
外に出ようとしたクライムに声をかける
「お兄様もそう言っていることですし」
そう言われたため、クライムは頭を下げて座る
「失礼します」
「お兄様は最近、反乱分子を兄上様の元に沢山集めさせているみたいですが、順調ですか?」
「レエブン侯のおかげでな」
ブリテン王国になってからかつての王政のように頭を悩ませる機会は少なくなってきた
王族の務めから貴族としての務めに変わってから、必要な人員を育成して反乱分子を兄の元に集わせるのは簡単な話だった
まぁ、あの兄が暴走することがよくある為、ザナックの目下の悩みは兄と今の戦士長を失い錯乱傾向のある父だけなのだが
「それにしても、兄上の最近の動きはアレでな…徒党を組み始めてる」
「あぁ、陛下が今、聖王国に騎士の方々を率いて救援に行かれたからですかね、王都を落とすなら今しかないと奥様の実家の力を借りて行こうとしているんですよね」
今は亡きボウロロープ侯の妻の実家を利用し兵を集めたり、元王族であったバルブロの口八丁に載せられた貴族の三男や四男、果ては何も考えていない貴族を率いて王都を襲う予定なのか、モルガンがいる領を狙っているのだろうが…
「モルガン様一人だけで一万の兵士を殺戮することは可能ですしね、お兄様はその後、才能ある貴族を雇用していかなければなりませんし、頑張ってください。最近モルガン様から兄上をキャメロットの宰相様の補佐にしたいみたいな話が出てるみたいですよ」
ラナーの言葉に『もし、可能なら辞退したいと言ってくれ、宰相の元で仕事をしていたらストレスで死にそうだ』と言う
「ところでお兄様、最近のお父様のご様子はどうですか?」
ザナックの邸宅で過ごしているランポッサ三世はあまり貴族としての仕事をしていない。まぁ、ザナックからしてみても軽率に入ってこられても困るのだが
「生きてるさ、まぁ、最近はよく散歩に行かれているな」
バルブロの暴走を止める訳でもなく、父は王としてのあり方を捨てきれてないのだろう
それでも、あそこまでの王としてあり方を魅せられてしまえば、自分の王政よりも獅子王の王政の方がいいだろう
「バルブロ兄上様のことを止めたりしていないんですか?」
ラナーのキョトンとしたような表情にザナックは「そこまで馬鹿ではないからな、兄上は今回の叛逆も生きているだろうし」と書き物をしながら言う
すると、部下が飛んできてバルブロ率いる軍がモルガン領へ向かったと言う報告を聞く
軽く返事をした後、今回もモルガンによって倒される報告を聞くのを待つだけだろうと思っていた
ランポッサ三世は繁栄していく街を見て何も言えない状況だった
過去の王達がやってきた蛮行を清算するには自分の代だけでは足りなかった。
それをあの王は簡単に清算していっている
無能派閥と有能派閥を作って無能派閥が定期的に内乱を起こすことを待って処分していた
しかも処分するのは貴族だけ、その部下達、いわば、召集された兵士たちの処遇はなかったものになる
例え、殺されても再び蘇生魔法で蘇生され、家族の元に戻る
そして、キャメロットの門の前で起こったこと
獅子王の魔法で難民が選別され、入ることを叶わないと言われた人間はモルガンの魔法によって命を奪われた
そんな光景を、そんなことをして人間を選別し始めている獅子王のことをランポッサ三世は危惧していた
(いずれ、この王国に残る人間は機能しなくなる)
確かに兵力に関しては一切心配していないのだろう
獅子王には自分の軍隊がいる。国民を徴兵する必要はないのだ
上に立つ者の力が増大であるからこそ、それを失った未来を想像したら心底怖くて仕方ないだろう
力に頼った国は力を失ったと同時に崩壊する未来しかない
(…それを私が気づいていたところでどうにかなる問題でもないだろう…)
国民はそのことに気づきながらも声を上げることはない
何故なら今の政権の世界が最高だからだ
家族を失うこともなければ、ある程度働けば自由時間が沢山あるのだ
(……私が、王位を放棄したのは正しい行いだったのだろうか…)
晴天の青空を眺めながら呟く