キャッスルヴァニア――運命の序曲  悪魔城伝説 un official novelize   作:ブラウン・ミンミンゼミ忠学講座次郎太

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Beginning
Beginning A


 雷鳴によって露になった人影。その正体は、長髪の男だった。

 男であるにも関わらず長髪なのだから、つまり彼は、髪も切らぬ年頃の*1……若者であるということだ。

 

 その若者が、雨風を凌ぐにも使えないほど荒廃した聖堂で、錆びの回った十字を前に祈りを捧げていた。

 どうか、魔王の暴虐の犠牲となった人々の魂に安寧を――

 

 小さな十字架を握る手に、力が籠る。

 そして、我が行く末を見守り給え――

 

 祈りを終えると同時に、稲光が夜空を翔る。

 まるで何かの始まりを告げるかのようなそれは、外套を脱ぎ捨てた若者の身なりが単なる旅人ではなく、戦士のものであることをしかと照らしていた。

 

 魔王ドラキュラによる戦慄の夜を打ち砕かんと立ち上がった真正ヴァンパイアハンター、ラルフ・クリストファー・ベルモンド。

 それが、彼なのだ。

 

 

 

 

 

 教会に足を踏み入れたラルフがまず目にしたもの、それはうろつき歩く骸骨であった。

 燭台の灯りで分かることだが、断じて瘦せぎすの人間ではない。間違いなくむき出しになって、肉の代わりに風を浴びる人骨なのである。

 

 眉をひそめるラルフは、目の前のスケルトンと呼ばれる魔物がどうした仕掛けで動いているものなのかを知っていた。

 邪悪な魔力が抜け殻になった遺体に宿り、操っているのだ。

 

 死者を冒涜する光景を目の当たりにして心穏やかでいられるほど、彼は他者に冷徹な人間ではない。

 腰に佩びた武器を――おどろおどろしいほどの聖性を帯びた鎖鞭を振り上げ、そして哀れな()()()に向けて振り抜いた。

 

 鎖の先に付いたモーニングスターは突き出された槍の穂先がごとくスケルトンへと殺到し、鉄より遥かに硬いはずの骨を、一撃で粉々にした。

 石床にかたかたと散らばる骨片は、薪のように燃えていた。邪悪な魔力が、聖性によって浄化された証拠だ。

 

 胸の内で祈りを捧げながら、階段を上る。出迎えたものは、無気力な様子でうろつく骸骨。

 打ち倒したばかりの魔物と、同種であるらしい挙動だ。

 

 目的も標的もなくうろつくだけならば無害というわけでもない。邪悪な魔力は人間にとって、触れただけでも酷く有害なのだ。

 これほどの強い邪気なら、なんの防護もない人間はたちまちに肉を溶かされ、目の前の魔物の仲間となってしまうだろう。

 

 門番にもならない魔物でこの魔力なら、本命の軍勢はいったいどれほどのものなのだろうか。果たして自分はドラキュラを名乗る魔王を討伐できるのだろうか。

 ラルフは、胸に宿る不安を払うように鞭を振るって、上へと向かう。

 

 そこで、彼は何十年も捨て置かれたようなこの建物がなんであるか、ステンドグラスに教えられてやっと理解した。

 ここは、規模こそ違えど自分が祈りを捧げていた場所と同じなのだと。

 

 許せないことだと、改めて思った。いったいどれほどの暴虐がこの街を襲ったのだろうか。

 ラルフは、崩れて導線が途切れた足場を乗り継いでいく。

 

 途中、邪気によって巨大に、凶暴になったコウモリが襲い掛かってくるが、鞭を振るい、副武装として身につけている銀の短剣を投げ放って問題なく撃ち落とした。

 足を踏み外せば命は無いという高さまで来たところで、屋上に出た。

 

「ぐっ……!」

 瞬間、彼の頭上に鈍器が迫る。避けることはかなわないと左腕で受けた凶器、それは台上からスケルトンが投げ下ろした、スケルトン自身の片腕であった。

 スケルトンはラルフの鞭が届かぬ高台から、延々と常人の頭蓋を陥没せしめる威力の腕骨を投下し続ける。

 

 弾切れを起こすことは無いということは、背後に崖を置きながら避け続けるしかない現状と、投げたそばから生えるのだと見せられたためによく分かっている。銀の短剣も足場に阻まれ、当たることはない。

 足止めをされている状況に、焦りが募る。しかし、スケルトンはどうしようもないほど強烈な地の利を得ているのだ。

 

「っ!?」

 

 だがその利を、スケルトンはあっさりと捨てた。いつまでも死なない侵入者を速やかに葬るために。

 

 崖を背負うラルフに向かって、片腕に棍を……自分の片腕を振りかぶって飛びかかって来たのだ。

 

 不意を打たれ、意識が固まる。

 やられる――しかしラルフの筋肉質な腕は、思考に反してカウンターのように鞭を振っている。

 

 棘付きの鉄球は、凶暴な蛇が飛び掛かるようにスケルトンの肋骨に噛みついた!

「ぐあっ!」

 ラルフは、目の前の骨が砕け散る音と自分の悲鳴を、同時に聞いた。

 

 しかし、彼は崖際で踏みとどまっているし、打撃にも耐えた。そして、骨片が目の前で燃え盛っている。

 彼は、勝ったのだ。

*1
中世の時代には成人になるまでは髪を切らないとする風習が存在していた

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