キャッスルヴァニア――運命の序曲  悪魔城伝説 un official novelize   作:ブラウン・ミンミンゼミ忠学講座次郎太

2 / 3
Beginning B

 骨を次々に投擲してくるスケルトンを打倒したラルフは、急ぎ、しかし油断なく先に進む。

 途中同種のスケルトンとまみえることになったが、一体目は高低差の無い戦場だったし、二体目はラルフが高所を取ったので、容易く滅することができた。

 

 前なら鞭を振り、下には短剣とは別に持っていた聖水の小瓶を投げつけてやればいいのだから。

 雨に滑る階段を、油断なく下る。そして、彼は違和感を覚えた。

 

 ここは石造りの建築物であるはずなのだ。ならばあの、石とは綺麗に分割された木板の床はなんだというのだろうか。

 下る階段を素通りして、ラルフは木板の床に向かう。彼はまず、鞭をそこへ伸ばした。

 

 ここまで露骨に違和感のある物が罠でないはずがない。そして罠とはたった一つを仕掛けるものではない。

 経験から導き出された予測が、彼に木板の床を調査させるのだ。

 

 鞭の重量に反応は無い。ならば、と左手を触れさせる。軽く押し込むと、沈むような感触が有った。

 板の反対側が持ち上がっているのが見えて、沈んでいるのではなく、天秤のように傾いているのだと分かる。

 

 ラルフはそれで、この罠のだいたいを把握した。

 片側に過重がかかると仕掛けが動いて、区別のつかない裏表がひっくり返り、そして不用心に踏み込んだものを下へ落とす。そういう罠だろうと。

 

 その情報を脳裏に留めて暗所を歩むラルフの目前で二対のきらめきが、フラフラと上下に揺れていた。

 縦に蛇行するような軌道で(くう)を飛んで近づいて来ているとだけ分かったところで鞭を振るう。きらめきがいかにも妖しげだから、魔物だろうとは判別できた。

 

 狙いを定めて撃ちだされた鉄球がぶち当たって、きらめきを放っていたものは熟した柘榴のように弾け、叩きつけられるように落下した。

 そのフォルムは、たとえ一撃を受けていなくても空を飛ぶには不適なものだった。

 

 人間の頭には軽さも無ければ、羽ばたく翼もないのだから。髪の毛の代わりに伸びた蛇達がその代わりになるとはラルフも聞いたことがない。

 それでも飛行を可能にするのが、超常の力なのだが。

 

 伝説に伝わる化け物を思わせるこの生首が勢いよく地べたに落ちたのは、無理に飛ばしていた力が途切れたからなのだろう。

 燃える肉片を尻目に先を急ぐラルフは、橋に出た。

 

 街と今まで通ってきた教会を繋げるものはずだ。頭に入れた地図ではそうだった。

 視線を足元から渡った先の扉までやると、先ほど調べたものと同じものがいくつもあった。

 

 切羽詰まった人々が侵攻を防ぐために急いで設置したものか、或いは浅知恵を持った魔物が逃げる者を逃さんと仕掛けたものか。

 どちらともつかないが、しかし確かに分かることはある。

 

 それは、知っていれば充分に回避できる仕掛けである、ということだ。

 慎重に、けれど余裕を持って歩くラルフ。

 

 数歩で、彼に緊張が走った。

 メデューサヘッドとでも呼べるような先の魔物の群れを見つけてしまったのだ。

 

 魔物もラルフを感知したらしく、たちまち橋に集結し、道を塞ぐ。

 単体で、足場に不安がないところならば如何にでもなる。しかし、狭く仕掛けが点在するこの橋で、しかも群れとは……!

 

 手が鞭に伸び、止まる。実のところ、ラルフはこの鞭に……鎖鉄球の扱いに不安が有った。

 家伝の鞭、ヴァンパイアキラーを扱う彼の腕前は、達人と言ってもいい。

 

 しかし彼が自分の手足ほどに知り親しんだヴァンパイアキラーは、様々な曰くこそあるが、見た目と重量は編んだ黒革の一条鞭だ。

 その一条鞭が無辜の人々の悲嘆に呼応して変質した姿らしい鎖鉄球とでは、重量も間合いも違っている。

 

 磨いた技巧を振るうには難しいほど、異なったものになってしまったのだ。

 蹴散らせるものだろうか。引き下がり、やり過ごすが適解だろうか――逡巡の末、彼は鞭を抜いた。鎖の擦れる音が、ラルフにとって聞きなれない音が当たりに響く。

 

 鞭を振るい切り抜けることを選択したのだ。

 ラルフの使命とは、目の前の魔物を使役する魔王の下に辿りつき、討伐することである。

 

 この程度の木端から逃げていて、一族代々の使命の極致とも言える任を果たすことができるわけがない。

 だから彼は、蛮勇と分かっていて立ち向かう。

 

 ラルフが先手を取って、鞭を振る。しかしは鉄球は標的から外れ、鎖も掠ることはなかった。

 しかし、役目は果たしている。鞭を振るうと同時に仕掛けた、聖水が触媒の必滅なる神炎。

 

 回避された鞭はそこへ誘導するための一撃だったのだ。

 メデューサヘッドはほとんど瞬間的に炭となって、夜風に流されていった。

 

 それを見た彼は勇んで二体目へと向かう。ラルフの中で、メデューサヘッドの脅威度が低く見積もられたが故の行動だった。

 幻惑するような軌道で迫ってくることは厄介だが、それだけしか行動がない上、容易く誘導できるほど知恵が無い。そのうえ、脆い。

 

 一撃、二撃と鞭を振るうたび、肉塊が増えていく。

 この武器でも、やれる――余裕を確信して、しかし確実に丁寧に、一体づつ始末していく。

 

「はあっ!」

 足搔きでふらつく柘榴を飛んで避けたついでに最後の一匹に鞭で打ち、着地する。足が沈んだそこは、木床の端。

 

 当然、機構が作動する。床は壁になり、壁ははたき落とすような勢いで床に戻った。そのときラルフは……既に目的の扉へと飛んでいた。

 祖先より受け継いだ身体能力を持ってすれば、仕掛けが動くより前に離脱することは、魔物を聖水の炎に誘導するよりも……使い慣れない武器を用いて駆逐するよりも、ずっと容易いことだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。