ガンパウダー、あるいは異世界のプロメテウス   作:中毒患者

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プロローグ

ㅤしまった、道がわからないぞ……

ㅤ空を仰ぎ見て、男はひっそりと呟いた。

 

ㅤ馬車が駆け、人々が行き交う大きな通り。

ㅤそんな決して狭くはない道の端で、ひとり途方に暮れる男がいる。

 

ㅤ彼の落ち込みっぷりは軽めの口調よりも遥かに重い。

ㅤアクセルという駆け出し冒険者の街で、男は間違いなく高く険しい壁にぶち当たっていた。

 

ㅤ男の名前はシカリ。旅烏、いわゆる根無し草だ。

ㅤ冒険者でもある彼は普段、滅多に人が立ち入らないようなダンジョンを活動の場としている。

 

ㅤ旅烏というのも、街から街へというよりは、ダンジョンから他のダンジョンへという形が多い。

ㅤ寧ろこうして人里に立ち寄る方が珍しいとすら言えた。

 

ㅤさてそんなシカリがこの街を訪れたのには訳がある。

ㅤ元を辿ればつい数ヵ月前、久しぶりに彼の元へ連絡を寄越してきた旧友の男が、シカリとの待ち合わせにこの街を指定してきたのだが……

ㅤどうやら街に到着するのが予定よりも年単位で早かったようで、そこにシカリを待つ旧友の姿があるはずもなく。

 

ㅤならば身内の近況だけでも訊いておこうかと知り合いの店を目指せば道に迷い、せめて噂話だけでもと冒険者ギルドを探すがそれらしい建物も見当たらない。

ㅤ困って街を出ようとしたが、今度は出入口である正門がどこにあるのかわからない始末。

 

ㅤ心做しかさっき通った道をまた歩いているような気もするし、かといって来た道を振り向くとそうでもないような……

ㅤ俗に八方塞がりと呼ばれる状況だった。

 

ㅤなにを隠そうこの男、ダンジョンから一歩でも外に出ると、方向感覚が凄まじく狂うのである。

ㅤ迷う自覚があるだけまだマシな方だが、旅歩きを生業とする者として致命的であることに違いはない。

 

ㅤそもそも年単位で到着が早まったのも、道に迷う前提で早めに移動を開始し、そして案の定盛大に迷った挙句、道なき道を進み街に辿り着いてしまったという経緯がある。

ㅤ旧友の男もシカリが迷うことを()()()()早めに予定を告げたのだろうが、よもや道に迷ってワープじみたショートカットに成功するとは夢にも思うまい。

ㅤつまるところ、シカリは良くも悪くも方向音痴だった。

 

ㅤシカリの苦難はまだまだ続く。

ㅤこうなってしまうと街の人間から道を訊くしかない。

ㅤいや、本来ならば道に迷う前に訊いておくべきだったのだが。

ㅤしかしここで、シカリという男の見た目が足を引っ張る。

 

ㅤまず、シカリは図体が大きい。

ㅤ冒険者の中でもクルセイダーや狂戦士といった、体つきのガッシリとした者が比較的なりやすい前衛職の者たちと比べても、シカリは飛び抜けて背が高かった。

 

ㅤもはやそれは、ちょっとした巨人といってもいいだろう。

ㅤもちろん本物の巨人と比べてしまえば、さすがに大人と子供のようなものだが……

 

ㅤおまけに髪もボサボサ、無精髭はこれまた酷い。

ㅤ鎧ではなく擦り切れそうなコートを着込み、線が細くわかりやすい筋肉ダルマではないものの、それだけで見る者に威圧感を与えるには十分と言えた。

 

ㅤ要するに、誰がどう見ても怪しかったのだ。

ㅤそれはアクセルの住民や冒険者の目であっても変わらず、シカリの姿は怪しさ抜群のナガレモノとして映っていた。

 

ㅤシカリ本人は律儀かつ友好的で、陽気な兄ちゃんといった人柄だが、こう怖がられたり警戒されてしまっては軽く声をかけるのも躊躇われる。

ㅤ道に迷ったが、正しい道を訊こうにも訊けない。

ㅤそんなわけで、シカリはひとり道の端で途方に暮れていたのである。

 

ㅤとはいえ熟練の方向音痴たるもの、この程度で長くへこたれたりはしない。

ㅤいつかは目的地に着くのだ、足さえ止めなければ。

ㅤそう考え、シカリは道に沿って歩みを進めようとし……

 

「あうっ」

 

ㅤなにか、いや──誰かと衝突した。

 

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