おかげさまでお気に入りが十件になりました。読んでくださった方々、誠に有難うございます。
さて、罰ゲームと称してサイトウちゃんに連れ回されるデビーさんはどうなるのか。
どうぞ読んで頂けたら幸いです。
シュートシティ。
ガラル地方の最北端に位置する、この地方で最も発達した都市である。
東側にはガラルポケモンスタジアムとしては最大級の面積を誇るシュートスタジアムが、西側には最高級ホテルであるロンド・ロゼの他、ブティックやカフェ、ヘアサロン等の観光施設等も充実した、まさに首都とも言うべき存在の都市である。
「あっ! 見て下さいデビーさん! 最新のスイーツですよ!」
その西側の、様々な店舗が立ち並ぶ街道の一角、シックな佇まいのカフェのショーウィンドウを指差しながら、サイトウが笑いかける。
「ほう、イーブイとその進化系達のカップケーキですか。ブラッキーのカップケーキはビターチョコ味と……いいですね。食べましょうか」
「じゃあ早く行きましょう!」
そう言いながらデビーのジャケットの袖を引っ張ってサイトウは駆けていく。
「こらこら、そんなに引っ張らなくてもスイーツは逃げませんから」
苦笑しながら宥めつつ、店内に入る。外見に違わぬ大人なデザインの内装と、静かに流れてくるジャズの音色が期待感を高めてくれる。
「いらっしゃいませ。二名様ですね? では、こちらの席へどうぞ」
ウェイターに案内されて奥の席へ座ると、誰かにバレていないかキョロキョロと辺りを見渡す。それを見たサイトウはクスクスと笑う。
「ふふっ……そんな心配しなくてもいいじゃないですか」
「……念の為という奴ですよ。貴女は仮にもジムリーダーなのですから、変な噂が立ってしまうとこの後の試合にも影響が……」
「心配しなくても、そんな外野のやっかみで私の調子はくずれませんよ。だからそのサングラスを外して下さい。デビーさん」
そこまで言われては仕方ないと、デビーはサングラスを外す。そこへタイミングよく、先程のウェイターがやってきた。
「ご注文は?」
「私はブラックコーヒーと期間限定イーブイカップケーキのブラッキー味を。サイトウさんは?」
「私も同じ物でイーブイ味を。飲み物はウィンナーコーヒーでお願いします」
注文を取り終えたウェイターは、再度メニューを確認すると、ごゆっくりお楽しみくださいと厨房の方へ引っ込んで行った。
「……さて、ちょっと気が早いですけど、この後どうしましょうか」
「……あの、本当に気が済むまで遊ぶつもりですか?」
「えぇ、勿論。私だって、たまにはパーっと遊びたくなる日くらいありますから」
しれっと言い抜けるサイトウにデビーは驚く。
彼女の活躍は、あの日会って以来ずっとチェックしてきた。彼女の話を聞き、背中を押した責任もあるが、彼女の中に、キラリと光る何かを感じて、そんな彼女。応援したいと純粋に思っていたからだ。
そんな彼女が、裏社会の自分に憧れている。
そんな彼女が、しがらみから解放されて遊びたいと言う。
サイトウという少女の人間的な部分を間近で垣間見た事が良いか悪いかは、今のデビーにもよくは分からない。
しかし、このままではサイトウの将来自体が変わってしまうのではないかと危惧してしまう自分もいる。
だから図りかねてしまう。サイトウと自分の距離感に。
だからたじろいでしまう。真っ直ぐな眼差しで憧れられる事に。
「……どうしたんですか。マメパトがポケ豆鉄砲でも食らった顔して」
どれだけそうして考えていたのだろうか、流石に不審に思ったサイトウが声をかける。ハッと気がついた丁度その時、ウェイターが注文したスイーツとコーヒーを運んできた。
「うわぁ……可愛い……!」
あっという間にサイトウの目が輝く。
「そうですねぇ、とても見事な出来栄えです」
「あの……写真撮っても良いですか?」
「えぇ、ただし、お店の方々やお客様にはご迷惑をお掛けしないように」
はいっ! と元気よく返事をしたサイトウは、すぐにスマホロトムを呼び寄せて写真を撮り始めた。
こういう所はやはり年相応だなと、思わず頬が緩む。
「……やっと、笑ってくれました」
「はい?」
「デビーさんは気づいてなかったようですけど、今日ずっと困ったような顔をしていましたから。罰ゲームなんて言って連れ出した事が迷惑かなって」
「まさか、そんな事は毛程も思ってないですよ。ただ私は──」
「なら良かったです。これでも私、舞い上がりそうなんですからね? 罰ゲームとは言え憧れの人と、シュートシティで遊んでるなんて、あの頃の私が聞いたら弛んでるって言われそうです。私がこうなったのは、デビーさんの所為ですからね?」
だから責任取ってくださいね? と冗談めかして言うサイトウの姿に、思わず吹き出してしまう。
「ハハッ、変わりましたね。いい意味で」
「はい、変わりました。いい意味で」
そうやって笑い合って、コーヒーを飲む。少しだけぬるくなった苦味が、喉をするりと通り抜けた。
「美味しかったですね! カップケーキ!」
「そうですねぇ。コーヒーも中々のものでした」
イーブイカップケーキを堪能した二人は、カフェを出た後にそんな事を言い合う。
「イーブイ味はマロン味でしたけど、中にクリームがたっぷり入っているなんて思ってませんでした!」
「私の方も中にはチョコクリーム入ってましたね。ビターチョコとの引き立て方が最高でした。サイトウさんはどっちが美味しかったですか?」
「うーん……一口だけでしたけど、やっぱりイーブイ味の方が好きです!」
あれから交換して一口ずつ食べてみたが、イーブイ味はイーブイ味で栗のまろやかな甘味が口に広がって美味しかった。それでもブラッキー味のビターな味わいも捨てがたい。
結論としては、どちらも美味しかったのだ。
「さて、この後はどうしましょう? 結局何も決めずに出てしまいましたし」
「そうですねぇ……」
街道を歩きながら考えていると、前方にブティックが見えた。
「そういえば、サイトウさんはいつ見てもユニフォームの姿ですが、普段着は持ってないのですか?」
「えっ……」
サイトウの動きが露骨に固まる。
「……どうやら次にいく場所は決まったようですね」
「っ! 服は! 服だけは勘弁して下さい! 何着ていいか分からないんです!」
「そこは私がレクチャーしますから。貴女のお父さんに文句言われない程度に見繕って差し上げます」
「だ、大体今デビーさんは罰ゲームを受けてるんですよ!? なら私の言う事を聞く義務が……!」
「罰ゲームはサイトウさんが満足するまでとしか聞いてませんので」
行きますよと引っ張ろうとしても、踏ん張る力が強すぎて一向に動かない。
「……マルガリタ、連れて行くぞ」
「ラピーオン!」
「うわぁぁぁぁ! そんな殺生なぁぁぁぁぁぁ!」
サイトウの抵抗虚しく、呼び出されたドラピオンと二人がかりでブティックまで引きずられてしまうのであった。
シュートシティは、その性質上様々な最新情報が流れてくる場所である。
書籍、交通、食品、果てはポケモンバトルにおける定石等も、この街に流れてくる。
常に流動的に変化し続けるこの街に於いては、ファッションもまた例外ではなく、ブティックには今季の流行色や生地の洋服が所狭しと置かれている。
「……サイトウさん、ご試着は済みましたか?」
「は、はい……」
そのブティックのフィッティングルームの一角では、デビーがサイトウが着替えるのを待っていた。服は既にこちらで用意しており、後は彼女が着替え終えるだけである。
「…………」
そのサイトウが、一向にフィッティングルームから出てこない。先程の問答も、これで五回目となっている。
「……サイトウさん、嫌なら着替えなくても構いません。少し私も度が過ぎてしまいましたね。お洋服をお返しして別の所へ──」
「い、いえ! 大丈夫です! ただ心の準備が出来てなくて……」
流石にやり過ぎたと反省したデビーがブティックを出ようと声を掛けた時、サイトウが待ったをかけた。
嫌だった訳ではないと内心でホッとしながら、中にいるサイトウに再び声を掛ける。
「大丈夫ですよ。店員さんに頼んで奥の方にして頂きましたし、今は人も私しかおりませんから、安心して出てきて下さい」
「わ、笑わないで下さいね!? 絶対、絶対に笑わないで下さいね!?」
「はい、約束致します」
その言葉を聞いたサイトウは、小声でよしと呟くと、思い切りカーテンを開け放った。
「……ど、どうでしょうか……?」
出てきたサイトウの姿は、文字通り別人へと変化していた。
褐色の肌に合う、ロングタイプのクリーム色のニットワンピースに、伸びやかな足を引き立てる黒いスリムパンツ。足元は動きやすいように、それでも少しおしゃれを意識したローカットのスニーカー。頭のカチューシャは敢えてそのままにしてあり、それが実にいいアクセントとして機能している。
シンプルでありながら、実にサイトウらしいコーディネートに身を包んだ彼女が、顔を赤らめながらこちらを覗き込んでくる。
「うん、似合ってますよ。やっぱりサイトウさんは白系統が似合いますね」
元々、彼女の身長はルリナには及ばないとはいえ、女性の中では高い方であり、顔つき自体もモデル顔負けの美形である。しかも、体つきも鍛えているためスラリとしており、ファンからの人気も高い。
そんな彼女を最大限に活かす服装を考えた結果、デビーはこの結論に至ったのである。そして、その結論は決して間違いではなかった事が証明された。
「ほ……本当ですか?」
「はい、私は嘘はつかないので」
パァッと顔が明るくなるサイトウに、デビーはにこりと笑いかける。
「では、これを買って帰りましょうか。全部でいくらだったか……」
軽く言いながら値札を見たデビーは言葉を失った。
ガラルマフィアというのは、貧乏になるようにされている。払う税金が莫大な上、シノギの規制が厳しいため財政的な負担が大きい。
それはデビーが率いるアービターファミリーも例外ではなかった。
ニットワンピースで四万、スリムパンツで三万、スニーカーで、二万ポケドル。
しめて合計九万ポケドル。報酬の殆どを税金として持っていかれた状態で、この出費はかなり大きい。
「デビーさん……大丈夫ですか……?」
横からサイトウが心配そうに覗き込んでくる。
「……あぁ、いえ、失礼しました。大丈夫ですよ。これ全部買ってしまいましょうか」
「えっ? ですが……」
尚も心配そうに見つめるサイトウに、心配ないと言いたげに笑う。
「大丈夫です。焚き付けたのは私ですし、折角似合っているのですから、買わないと勿体ないです。このまま着ていきますか?」
「あっ……はい、出来ればこのままで……」
「では、このまま値札を切って頂きましょうか。すみません、このままお会計をお願いします」
そのまま店員を呼んでお会計に移る。終始心配そうにしているサイトウに対し、デビーはニコニコと笑ったままであったが、内心で彼は覚悟を決めていた。
当分は自粛生活だと。
続くぅ!