ガラルマフィアが行く悪統一戦記   作:焼き鯖

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はい、どうもこんばんは。焼き鯖です。

デート回の続き。今回はデビーのルーツが知れるかも?

よろしければ見ていって下さい。


第五話

「ありがとうございました」

 

 ホクホク顔で見送る店員を背にし、二人はブティックを後にした。時刻は既に四時を少し過ぎており、段々と日が傾き始めている。

 

「……あの、デビーさん、本当にいいんですか? こんなに高いものを全部……」

 

「いいんですよ。そんな事気にしちゃいけません。素直に受け取れるのは今だけなんですから」

 

「ですけど……」

 

「私の事なら御心配なく。お金稼ぎのアテはありますし、サイトウさんに心配される程ヤワな体じゃ……って、サイトウさんに心配されるようじゃダメですね」

 

 あははは、と冗談めかして笑うが、尚も気を遣っているのかサイトウの顔は晴れない。

 

 さてどうしたものか。と思案に暮れて、デビーはにこりと振り返る。

 

「罰ゲーム、ですよ」

 

「……え?」

 

「サイトウさん、今、私は貴女の罰ゲームを受けている最中です。さっきのお買い物も、自発的とはいえ罰ゲームの一環。貴女を喜ばせようと私が勝手に行なった罰ゲームです。だから何も気にしなくて大丈夫です。さぁサイトウさん、次は何処に行きますか? 今なら何処へなりとも行けちゃいますよ?」

 

 茶目っ気たっぷりにそう言ってウィンクすると、クスリとサイトウが吹き出した。

 

「……そうでしたね。今は罰ゲームの真っ最中でしたもんね。それなら私、行きたいところがあるんですよ。行っていいですか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ。それでは行きましょうか。案内よろしくお願いします」

 

 サイトウに案内されてやってきたのは、街の正面玄関と十番道路の間、少しだけ切り立った崖のような所だった。

 

「ここは、私のお気に入りの場所なんです。試合でここに来た時は、この澄んだ空気を吸って気合を入れるんです」

 

 シュートの街の喧騒が殆ど消えたこの場所は、十番道路の厳しい吹雪をも凌ぐ立地にあり、雪は積もっていながらも天候そのものは穏やかなものであった。

 

 流石にベンチは設置されてはいないが、近くには座りやすい岩場もあり、ここで本を読んだりピクニックしたりすれば有意義な時間を過ごせるだろうと想像が出来た。

 

「いい場所ですね。サイトウさんが案内したくなるのも納得です」

 

「気に入って貰えて良かったです」

 

 ニコッと笑うサイトウにつられて、同じようにデビーもニコッと笑う。

 

 しかし、その後の会話が続かない。先程まであれだけテンポ良く会話が出来ていたというのに、なんとなく喋る気配が起きない。

 

 暫く二人とも、そうして黙ってシュートシティの防壁をボーッと見つめていた時、不意にサイトウが口を開いた。

 

「あの……デビーさん、一つ、質問してもいいですか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「どうして、これだけ若いのにマフィア稼業をやっているのですか? 貴方程のトレーナーとしての才能がある人間ならば、私なんか及びもつかない強さを手に入れられるのに、それこそ……現チャンプやダンデさんなんか目じゃないくらいに強くなれた筈なのに、何故マフィアになったんですか?」

 

「……そうですねぇ……」

 

 フーッと白い息を吐き出しながら、ゆっくりと答える。

 

「祖父の意思を守るため……ですかね」

 

「お爺さんの……?」

 

「えぇ、私のルーツは、祖父……先代ボスの姿にあります」

 

 遠くの景色を見つめながら、更にデビーは続ける。

 

「最初に断っておきますが、私は別に強いわけでも、強くなろうとも思っていません。手持ちの殆どは祖父の死後に引き継いだ者ばかりですし、彼らに信頼されるまで時間もかかりました。ですから、ジムチャレンジだとか、チャンピオンに挑戦、なんて大それた事は言えません。私は祖父の遺したこのファミリーを、ポケモン達を、意思を守れればそれで十分なんです」

 

「……デビーさんがそこまで言うなんて……余程凄いお爺さんだったんですね」

 

「はい、それはもう、私なんか足元にも及ばないくらい、誇りある人間でした」

 

「どんな人だったか、聞いてもいいですか?」

 

 サイトウのこの問いに、えぇ、勿論。と笑顔で了承する。

 

「私が物心ついた時から、祖父はファミリーのボスでした。何が起きても動じず、冷静に物事を対処し、それでいてユーモアもある。紳士として、そしてマフィアのボスとして完璧な人でした。ですが、私が真に尊敬しているのは、常にガラルの事を考えて、ガラルに害のある事は一切しなかった事にあります」

 

「それって……」

 

「それが一番顕著だったのは、私が八歳の頃でしょうかね。ガラルマフィアの一斉摘発、そして警察へのガラルマフィアの取り込みが始まった時でした。幹部の吸収やシノギの禁止、更には稼いだものの殆どの差し押さえなんかもあって、大変な時期でした。幼かった私は当時の事を何も分かってませんでしたが、子供ながらに祖父の事を心配していた事を覚えています」

 

「……それは……」

 

「いえ、今更昔の事を思い出しても意味のない事ですし、ガラルマフィアの多くが悪い事をしていたので、処置としては妥当だと思っておりますから」

 

 さて、話を戻しましてと、再びデビーが続ける。

 

「そんな状況の中でも、祖父は変わらなかった。ファミリーの存続とガラルの未来を同時に守るべく、有志を募って直談判したんです。私はその背を見て育ちました。かっこいいと思いました。祖父のようになりたい、祖父の意思を継ぎたい。そう思いました。それで十二歳の時に、祖父に直談判したんです」

 

 ──ガラルマフィアになりたいと。

 

「勿論、祖父は最初、反対しました。お前にこんな重荷を背負わせる訳にはいかないと。それでも私はめげずに祖父に言い続けました。言い続けて言い続けて、とうとう祖父は根負けしました。そこから祖父が死ぬまで、スパルタで色んな事を教わりました。それこそ立ち振る舞いから仕事の事まで」

 

「へぇ……確かに厳しいですけど、良いお爺さんですね」

 

「ありがとうございます。その祖父は、生前こう言い続けていました。『俺達はガラルに生かされてる。ならばガラルを守る事が一番の恩返しだ』と。私もそう思っております。ですから私はファミリーを継ぎました。祖父の意思を、絶やさないように」

 

 ──これが私がマフィアになった理由です。

 

 最後にそう締め括ると、デビーは苦笑いしてサイトウに向き直った。

 

「長くて申し訳ありませんでしたね。つまらない話でしたでしょう?」

 

「いえ、そんな事はありません。むしろデビーさんの事が知れて良かったです。でも……そっか」

 

 サイトウが少しだけ安心したような笑みを浮かべる。

 

「なんか、こう言うと失礼かも知れませんが、私がデビーさんに憧れるのと、少し似ている気がします」

 

 そう言い、ヘヘヘとサイトウが笑う姿を見て、デビーは少し困った表情をする。

 

「……私は、憧れられるような人間ではありませんよ。高潔な物のように言いましたが、結局は祖父も私も裏の世界の人間です。貴女にはもっと、憧れるべき相手がいる筈ですよ」

 

「そんな事はありません! 私が憧れるのはデビーさんしかいません!」

 

「その言葉だけで十分ですよ。だけど、貴女は分かっていない。分かっているようで分かっていない。私と貴女にある、埋まりきれない溝というものを」

 

「そんなの知りません! そんな溝なんか飛び越えてしまえばいいんです! 何度も言ってるじゃないですか! デビーさんがお爺さんに憧れ続けるように、私はずっと、デビーさんに……!」

 

 サイトウが叫ぼうとした瞬間だった。

 

「お熱いねぇ〜お二人さん」

 

 背後から明らかに舐めた口ぶりの声が聞こえてきた。

 

 振り返って見ると、パンクロックのような服装に身を包んだ白人の男が、数人の男女の取り巻きと共に現れた。

 

「痴話喧嘩なら他所でやってくれますかねぇ〜、ここは天下のシュートシティ玄関前。田舎者は痛い目見る前にとっととお帰りくださ〜い?」

 

「な、何ですか貴方達は! 今大切な話をしてるんで──!」

 

 サイトウが前に出た瞬間、弾かれたように後ずさった。顔が強ばり、滝のような汗が出ており、明らかに様子がおかしい。

 

「んー、この女何処かで見た事あるような……」

 

 そんな彼女をジロジロと彼女を睨め付けていた男が、思い出したかのように「あー」と呟いた。そして、とても人とは思えない下衆な表情を見せながらサイトウを指さした。

 

「こいつ、俺がジムチャレンジしてる時に瞬殺したラテラルジムのクソジムリーダーさんじゃん!」

 

 その言葉に、他の取り巻きも納得したような表情になり、同時に同じような馬鹿にする表情を作った。

 

「おやおや、俺に負けて引き篭もって修行してるのかと思ってたらこんな所で男と相引きですか〜? 随分と余裕がおありですなぁ〜?」

 

「違う! そうじゃない! 私は──」

 

「あーあ、こりゃ本格的にガラル警察は終わりですなぁ〜。こんな風に色気付いて男に媚び売って、そんなんで本当に強くなれると思ってるんですかぁ〜? なぁ皆んな! 行ってやれよ! この売女みてぇな女によぉ!」

 

 男の煽りにヒートアップした取り巻き達が、同じような汚い言葉を使ってサイトウを責め立てる。その言葉は少しずつ、だが確実にサイトウの心を蝕んでいく。

 

「違う! 違う違う違う! やめろ! 黙れ! 私は、私は──!」

 

 いよいよサイトウが耐えられなくなって蹲った時、デビーが守るように一歩、前へ踏み出した。

 

「おやおや、遂に彼氏さんのお出ましですか?」

 

 尚も余裕そうな顔をする男を無視し、サイトウの頭を優しく撫でた後、極めて冷めた声でこう尋ねる。

 

「……私はデビーと申します。貴方、名前は?」

 

「はぁ?」

 

「名前ですよ。それだけの自信家で、サイトウさんを負かす実力がありながら、何故私の元にまで名前が届いていないのか不思議になりましてね」

 

 さらりと皮肉を混ぜ込んだデビーであったが、男はそれに気づかずに名乗る。

 

「知らねぇなら教えてやるよ。俺はバース。ここら辺が縄張りの男さ。これでもジムバッジを五つも取ってんだぞ」

 

 自慢げに語るバースという男に、デビーはにこりと笑いかける

 

「そうですか。要するに一時の運を自分の実力と勘違いして、それ以上の努力もせずに堕落した単なる怠け者ですか」

 

「……あっ?」

 

 バースの目が変わった。即座にデビーに掴みかかる。

 

「テメェ、なんだよその物言いはよ。ジムチャレンジすらしてねぇような雰囲気しといて舐めた事言ってんじゃねぇよ。どうせ口だけなんだろ。オラなんか言ってみろよ」

 

 それでもデビーは態度を変えない。むしろ、冷え込んだ眼差しをバースに向けながら言葉を続けた。

 

「確かに、私はジムチャレンジを行ってませんし、サイトウさんは貴方に負けたかも知れない。ですが、彼女はその悔しさをバネにして動き続けました。その結果、今よりも数倍、いや数十倍の強さになって立派にジムリーダーを務めている。貴方はどうですか? 一時の勝利に酔いしれるのはさぞ心地よかったでしょうねぇ。その結果単なるチンピラにまで成り下がって、過去の栄光を振りかざすだけの男にまでなって。どちらが本当に強いんでしょうかね」

 

「っ! テメェ! 誰に物言ってんのか分かってんのか! アァ!? 俺はシュートシティを裏で牛耳るキャプタファミリーだぞ! 舐めた口聞いてんじゃねぇ! 組織が黙ってねぇぞ!」

 

 キレたバースが更に詰め寄ると、デビーの目が更に冷え込んだ。

 

「貴方……キャプタファミリーの構成員ですか」

 

 そのままするりと掴まれた手から抜けると、懐からハイパーボールを取り出した。

 

「……そうですか。それでは外出とはいえ、勝手にシマに入り込んだ私にも落ち度がありますね……ですが……貴方はやってはいけない事をした」

 

「なっ……」

 

 空気が変わった。バースとその取り巻きが後ずさる。

 

「一つ覚えておくといい。長生きしたければ、ファミリーの名前を軽々しく口にしない方がいい。さもなければ忽ち貴方は命を狙われるようになりますからね……出てこい」

 

 ──ガラクロンド。

 

 ポツリと呟くように呼びかけて、デビーはボールを空へ放り投げた。そこから出てきたポケモンが、ズシンと土煙をあげて現れる。

 

 そこにいたのは、鎧のような緑色の外角を持った怪獣のようなポケモンだった。背中はいくつもの鋭い背鰭で覆われ、進化前の名残りを残すような黒い穴が空いている。

 

 まるで獰猛な猛獣のような視線は、それだけでもバース達を射殺すような鋭いもの。そのポケモンが、地響きのような雄叫びをあげた。

 

 まるで、今からお前達を殺すとでも言いたげに。

 

「バ……バンギラス……!? けっ、決して人には懐かないと言われてる筈のポケモンが、なんで……!」

 

「それを貴方達に教える義務はありません……貴方達は罪を二つ犯した。一つは自分のファミリーの名前を軽々しく嘯いた事、もう一つは……私の友人を侮辱した事だ。ガラクロンド……」

 

 ──ストーンエッジ。

 

 無慈悲に、冷徹にデビーが命令を下すと、さっきまでの威勢なぞ知った事かと言いたげに、バースとその取り巻き達は散り散りに逃げていった。

 

「……後で奴に忠告しておきましょうかね。末端の教育はしっかりしておいた方が良いと……」

 

 そう言いながらバンギラスを戻し、振り返る。

 

 振り返った先では、力なく座り込んだサイトウが、唖然とした表情でデビーを見つめていた。

 

 無理もないであろう。普段から優しい人が、珍しく怒りの感情を表に出した、その瞬間を垣間見たのだから。

 

 それを見たデビーが、悲しそうな顔で微笑む。それに気づいたサイトウは、ハッと意識を取り戻した。

 

「……怖がらせてしまいましたね。申し訳ありません」

 

「ち、違います! ただ、私は……!」

 

「気を使わなくていいんですよ。これで分かったでしょう? 私の本性を」

 

「そんな! アレは仕方ない事で……」

 

 そこまできて、サイトウの勢いが衰える。

 

 何故ならどれだけ言葉にしようとも、デビーの本性に驚き、戦慄してしまった事は事実であるからだ。それを分かっているから、サイトウは何も言えなくなってしまったのだ。そして何よりも、デビーが言う埋まりきれない溝というものを、嫌と言うほどに見せつけられてしまった。

 

 その事実が、サイトウの胸に大きくのしかかる。

 

「……今日はこれで帰ります。駅まで送りましょうか?」

 

「……いえ、私は……」

 

「……タルリサ」

 

「……グルルル……」

 

 見かねたデビーが、もう一つのハイパーボールを取り出して名前を呼ぶと、そこからサザンドラが低い唸り声をあげて飛び出して来た。

 

「彼女の護衛を頼みます。場所は駅まで。送り届けたらそのまま帰ってきてください。私は……先に戻りますから」

 

 それでは、と静かに頭を下げて、デビーはシュートシティへと戻って行った。

 

 後に残されたサイトウは、座り込んだ姿勢のまま、その場から動く事が出来なかった。

 

 

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