今回は解答編。どのようにして死体が運ばれたのかを説明致します。
それではどうぞ。
オニオンとルリナがそれぞれのジムへ帰って行っ頃、日が傾いて辺りが薄暗くなった灯台の広場に、一人の男がいた。
赤黒い髪をオールバックにした男は、広場の岸に立ち、何かを探すように水面を見つめていた。
「……おっ?」
ふと、男はその場にしゃがみ込むと、水面に手を突っ込んで岸の岩肌を触り始めた。
ゆっくり、ゆっくりとずらしながら触って行くうちに、モンスターボールならいくつか入りそうな不自然な窪みを見つけた。
すかさず男はボールからシザリガーを呼び出すと、その周辺を調べるように指示を出した。
5分ほど時間が経った時、シザリガーが海面から顔を出した。戻った時にあるものを持っており、それを見た男がニヤリと笑って受け取った。
「アイツの言う通りだったか。最初は俺も半信半疑だったが……」
男はがそう呟いた時、タイミングよく自分の主が現れる。
「首尾は?」
「上々だぜ。お前の予想通りのブツが海の底にあった」
そのまま男が主にそれを手渡すと、そのままその形状を確認し、同じようにニヤリと笑った。
「よくもまぁ、俺のあんな滑稽な推理を信じてくれたな……ペリュトン」
「へっ、間違ってたらすぐにでも組を抜ける気だったさ……デビー」
アービターファミリーのボスと相棒がお互いに軽口を叩き合いながら笑う。そのままデビーはシザリガーの元へ近寄ると、労うように頭を撫でた。余程嬉しいのかご機嫌な表情でもっともっとと擦り寄ってくる。
「よく見つけてくれたな、マリア。これで証拠は全部揃った」
ひとしきり撫で終えた後、デビーはマリアをボールの中に戻した。
「どうする? このままシュートシティまで行くのか?」
「いや、一度戻って態勢を立て直す。俺のベストメンバーで挑まないと、アイツには火力とスピードの差で負けてしまうからな。勿論、お前にも出張って貰う」
「……久しぶりに血が見れるってわけか」
いいねぇ、ウズウズする。と、ペリュトンが交戦的な笑みを浮かべた。
「空飛ぶタクシーはもう呼んである。戻ったら直ぐに準備して行くからな」
「ヘイヘイ。今から楽しみだぜ」
そう言いながら二人は夜の街へと消えて行った。
「ガハハハハ! 上手くいって良かったぜ全く!」
シュートシティの、何処かの路地裏。
ストリートの一角にあるキャプタファミリーの根城で、ボスの男とその仲間達は下品な声で笑い合っていた。
「アイツらは口先ばっかりでなーんの役にも立たなかったからな! ここで始末出来て本当に良かった!」
「えぇ、デビーとサイトウに手を出したと聞いた時には肝を冷やしましたが、結果的に良い口実になりましたからね」
緑髪ツインテールの部下、オトギリはにこやかに答える。彼女はこのファミリーのブレーンであり、制裁の方法を考えたのも彼女である。
「まぁ、潮時ってヤツよ。それに、死体が見つかれば、俺たちの名を騙る馬鹿な連中も少しは減るだろうし、ガラルの未来も守れる! まさに一石二鳥ってわけだ!」
またガハハハハと笑うボスの男に共鳴して、仲間達もまた笑う。
すると、側にいた仲間の一人が、男にある耳打ちをした。
それを聞いた男の顔が変わる。
「……本当か?」
「はい。今若い者に対応させてます。いかが致しましょう?」
「通せ。俺もアイツとは話がしたい。それとお前ら、今日はもう帰れ。一対一で話す」
男がそう指示すると、「かしこまりました」と、部下が入り口の方へ向かっていく。それと同時に近くにいた仲間達が一斉に闇へと消えた。
程なくして、帽子にスーツを身につけた男がボスの前に現れた。
それを見た男がニヤリと笑いながら大声で歓迎する。
「よく来たな! オメェらの噂はかねがね聞いてるぜ!
「いや、
男の言葉を来客がさらりと打ち返した事で、男は更にニヤリと笑う。
「言うじゃねぇか! 相変わらずその減らず口は変わってねぇようだな! デビー・リベリー!」
「お前は変わる予兆すら見えないな。スキヌス……いや、
この答えに、男は……スキヌスこと、ドクターペッパーはガハハハハ! と豪快に笑う。
その姿に、昼のような慇懃さは微塵も感じられなかった。
「おいおい、そりゃ俺の表の名前だ! こっちで俺の名前は出せねぇよ! スキヌスで呼んでくれや!」
まぁこっちに座れ! と、およそこの路地裏では不釣り合いな長椅子に通される。
「それで、わざわざオメェがやってきたって事は、バウタウンのあのバカどもの件だろ?」
腰を下ろしながらスキヌスが尋ねると、デビーが「あぁ」と頷く。
「それにしてもよく分かったな! オトギリが考えた処理方法で証拠も殆ど残してなかったのによ!」
「確かに最初は分からなかったよ。だが、
「ほう? 俺自身が?」
「経緯としてはこうだ……」
そう言ってデビーは真相を話し始めた。
『……はぁ? ドクターペッパーの過去のゲリラライブの情報を集めて欲しいだと?』
話は、デビーが埠頭へ向かっている時間に遡る。
「あぁ、少なくとも一、二年前。それも死体が上がった街を中心に集めて、ライブがあった会場を特にチェックしろ。因みにバウタウンは灯台下の広場だ」
スマホロトム越しにペリュトンに指示を出すデビーだったが、それを聞いたペリュトンが疑問を口にする。
『別に集めるのは構わねぇさ。だけど、それが今回の件と一体何の関係性があるんだ?』
「それはだな……アイツが使うポケモンにヒントがある」
そのままデビーは、自分の考えをペリュトンに話し始めた。
「ペリュトン、アイツの相棒はたしか、パッチラゴンだったよな?」
『あぁ、そうだ。前に定例会で見た時にはこだわりスカーフを巻いてたぜ』
「そう、アイツの信条は、『やられる前にやれ』だ。それに唯一適合出来るのは、電気タイプ以外いない。火力と素早さを両立出来るからな。さて、それじゃあ水タイプの電気ポケモンと言ったら?」
『はぁ? そんなもん、ランターンとチョンチーくらいじゃ……まさか!』
ペリュトンが驚きの声をあげると、デビーが更に続ける。
「仕組みとしてはこうだ。まず、ワイルドエリアでチョンチーとランターンを大量に捕獲する。次に、イトマルというポケモンで作った網を用意して、ポケモンにつける。後は川の中へでもポケモンを放して、始末する対象を水の中の網へ沈めて、彼らにバウタウンまで運んでもらえばいい」
『だがよ、それじゃあ網は確実に残るし、何よりポケモンはどうするんだ!?』
「網は目的地までに保てるように切り込みを入れれば、死体処理と同時に海へ流れる。捕まえたランターンは多分、その場で逃しているんだろ」
『それじゃあ尚更バウタウンまで行くのは不可能じゃねぇか!』
「それが出来るんだよ。ランターンの生態を利用すれば」
デビーが説明しようとした時、丁度埠頭近くまで差し掛かった。
「……すまん。これ以上説明するのが厳しそうだ。兎に角、死体が上がった街とライブ会場の情報を集めたら、灯台下の広場を調査してほしい。もし、そこにモンスターボールが幾つか入りそうな窪みがあったら、すぐにその場所を底の方まで調べるんだ。今何処にいる?」
『駅がある高台だ。だが、こんな馬鹿みたいな推理が当たるとは思わんがな』
「その馬鹿な推理が時に当たる事もあるんだよ。すぐそっちにマリアを向かわせる。ボールを持たせるから、怪しいと感じた時点で直ぐに出して調べさせるんだ。分かったか?」
『はいよ。これで間違ってたら組抜けてやるからな』
最後に憎まれ口を叩いたのを最後に、スマホの着信が切れた。
「……それで、うちの相棒が調査した結果、計八回のゲリラライブのうち、上がった死体は三件。そのどれもがゲリラライブの会場だった。一つ目は九番道路のキルクスの入江付近、二つ目はスパイクタウン近隣の海岸、そして三つ目は……」
──今日のバウタウン沖ってわけだ。
流暢に説明するデビーに感心しながら、スキヌスはパチパチと手を叩く。
「流石! アービターファミリーのドンは頭の回転が違うねぇ! だがよ、一つ聞いてねぇ事があるぜ。死体がどうやって運ばれたかだ。まさかあのドラム缶に入ったのが、潮の流れで流れてきたってわけじゃねぇだろ?」
「それについても証拠がある」
そう言ってデビーは、持ってきたバッグからある道具を取り出した。
それは、底の方に大きなスパイクがついた奇妙な機械であった。中央には水中用のライトが取り付けられており、それを取り囲むような腕の部分にはモンスターボールが入るであろうホルダーがついていた。
「これが海底の方にあった。これが証拠だ」
「おいおい、冗談はやめようぜ。今俺らは真剣な話し合いってヤツをしてるんだからよ」
スキヌスが軽口を言うと、「それを今から説明する」と、デビーが更に続けた。
「この機械の説明の前に、まずはチョンチーとランターンの生態について話す。彼らはお互いの意思疎通の際に、頭にある発光器官を使ってコミュニケーションを取るわけだが、この光は五千メートル、つまり五キロメートル先まで届く。この性質を、お前は利用した」
「ほう、どう言う風に?」
「まず、目的地となる位置に予めボールをセットし、ロトムを憑依させたこの機械を沈める。次にホルダーがないタイプの物を同じようにロトムを憑依させて沈める。後は仕事の時にロトムに起きて貰って、大量のランターン達を逃がせばいい。死体は網から落ち、その網も潮に流され、残ったランターンは光を頼りに進む。見事目的地につけば、ホルダーにセットされたモンスターボールにランターンがぶつかって入り込む。すると、それを感知したロトムがホルダーを開いてボールが水に浮かぶ。それは気付かれにくい場所に浮かぶから……」
「ゲリラライブを敢行して終わる前か後に何食わぬ顔で回収ってわけか。なるほどなぁ、理屈としては完璧だが、目的地に着かない場合もあるだろ?」
意地悪くそう質問すると、これまた冷静にデビーが答える。
「お前の場合はそれでいいんだよ。死体が見つからなければ都合がいいし、運び屋はポケモンだから足も付きにくい。目的地に着いても自分は戦力の補強が出来るとメリットが殆どだからな」
これで満足か? と、デビーが目で尋ねると、スキヌスはまた豪快に笑った。
「正解だ! 流石デビーだ! 俺達が今までやってた事全部見破りやがった!」
ガハハハハ! と笑いながら手を叩いてデビーを称賛するスキヌス。その様子を、冷静にデビーは見つめていた。
「いやぁすまなかったな! オメェに迷惑かけちまってよ! あの通りきっちりと処理はしといたからよ! それで手打ちにしてくんねぇか?」
「手打ち?」
「あぁそうさ! オメェ、アイツらに因縁ふっかけられたんだろ? 聞いた限りじゃあのサイトウの奴もいたみてぇだし、俺側のケジメはこれで見せたつもりだ」
──これじゃ不服か?
笑いながら尋ねてくるが、その目にはこれ以上何か言うなら黙ってねぇぞと言う思考が筒抜けであった。
それでも怯む事なくデビーはスキヌスを見据える。
「いや、不服と言うわけじゃない。ファミリーの名を安易に名乗るのは命知らずがやる事だし、お前のやり方を咎める気は一切ない。だが、今後あぁ言ったことはやめろ」
「……んだと?」
先程の陽気な態度から一変、目の据わったスキヌスがデビーを睨みつけた。
「俺達ガラルマフィアは闇に紛れてこその組織だ。それがあんな見え見えの死体なんか衆人の日の元に晒されたとなったら、俺達の存在すらも危うくなる。お前のキャリア形成にも──」
言いかけた瞬間、スキヌスが机をガンッと思い切り蹴り、立ち上がった。
「……言うようになったなクソガキ。俺はテメェよりも倍は生きてんだぜ? ファミリーの役割も、ガラルマフィアとしての矜持も、表のキャリア形成も。俺は全部分かってやってる。たかだか二十数年しか生きてないガキに偉そうな事を言われる筋合いはねぇぞ?」
「そのガキにここまで言われているんだから世話ないって言ってんだよ」
睨め付けられるデビーだったが、同じように立ち上がって睨みつける。
「折角アレで手打ちにしてやろうと思ってたんだが……気が変わった。今ここでぶっ殺してやる」
そのままスキヌスはモンスターボールを取り出し、眼光鋭くデビーを睨みつけた。
「前々から思ってたんだ。オメェのやり方は古いし温いってな。男だったら火力とスピード……つまり、暴力と脅しでバチバチにやんなきゃ意味ねぇんだよ。オメェのその小手先の戦術とやらを真っ正面からぶっ潰してやるよ」
「奇遇だな。俺もお前の力だけのやり方にはうんざりしていた所なんだ……だが」
そう言ってデビーもボールを取り出す。
「今回ばかりは付き合ってやるよ。お前のその力とやらと真っ正面からぶつかって、そのプライドズタズタにぶち壊してやる……行ってこい!」
──ミナミツ!
「ハッ! でかい口は叩けるようになってから叩くもんだぜ! 出てこい!」
──スケッチ!
お互いのボールからキリキザンとサンダースが飛び出した。
スキヌス(ペッパー):胡椒。花言葉は熱狂
デビー:デビルズタンの略。花言葉は柔軟。