千雨は凡人(ただ)の女子中学生です   作:おーり

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影が薄い影が薄いとよく言われる彼の本領発揮回


薬味教師、此処に来てバグを披露する

 

 

「よぉし! まずは一撃撃ち込んでみろ! あるんだろ? お前の最高の一撃ってやつがな!」

「えっ、でも……」

 

 

 街から外れた荒野の果て。オアシスの一角、浅い泉の中ほどに佇んで、修業をつけてくれると誘ったジャック=ラカンはそんなことを言い出していた。

 突然の申し出にネギ先生は普通に困惑。

 それについてきたアタシはというと、ああそういえばそんな展開あったなー、と原作知識に思いを馳せていた。

 

 

「うだうだ言ってねえでやってみやがれ! 俺はこんなでも英雄だぜ? 簡単にやられるうようなちゃちな鍛え方なんてしてねーんだよっ!」

「はっ、はい!わかりました!」

 

 

 そうして杖を槍のように構えると、魔力の奔流がネギ先生の周辺へと集まってゆく。

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 光の精霊1001柱、集い来たりて敵を討て! 魔法の射手1001矢! 集束――」

 

 

 杖の先に集束された光の渦を、杖を引き寄せることで拳へと準える。杖を背中へと戻し、集めた光はギュルギュルと勢いよく縮められてゆく。

 時系列的にはこのまま拳に乗せて、の桜花崩拳。……だったはずだけど、そういえば武道会でなんか見た覚えがあるんだよなぁ……。

 

 

「――掌握! 装填! 術式兵装・天の光は全て星≪スターライト・アデルパ≫!」

 

 

 そう、これだよこれ。

 そんな光に包まれて配管工のスター化みたいになったネギ先生を見て、ラカンのおっさんは思わず目を見開いていた。

 

 

「――むっ、マギア・エレベア、か……っ? くくっ、やっぱりこんな隠し手を持ってやがったか。俺の見立ては間違ってなかったぜ」

 

 

 面白そうに頷くおっさん。

 つーかやっぱりそうだったのか。闇の魔法か。

 アタシの知ってる知識じゃ雷系を装填していたけど、光の射手をそのまま装填ってことは性質的にはどんなんなってんのか判別が付かない。

 ともあれ、闇と光が合わさってなんか強そうに見えるのは間違いないけど。

 

 

「マギア……? え、なんですかそれ?」

「違うんかい」

 

 

 違うのかよ。

 言われてみればネギ先生の腕には闇の証明みたいな刺青が入っているのは見たことなかったし、麻帆良で話を聞いてみた時も『マクダウェルの弟子』とは一言も聞かなかったしなぁ。

 

 

「これはそらさんのダンジョンで編み出した技でして……、“例の一週間”でなんとか完成形に扱ぎつけたアレです」

 

 

 ああ、“あの”一週間な。

 ラカンのおっさんは首をひねっているが、アタシらからすれば悪夢と言い換えても可笑しくないくらいの冗長な時間経過だったよ。

 しかもその結果を発揮しないままに麻帆良祭は終わったしな。

 

 そんな思い出したくない思い出に浸っていると、ネギ先生が言い辛そうに言葉を続ける。

 

 

「――で、ですけどね、これ、正直凶悪な性能を持っていますので、そっちの岩に打ちますね?」

「嗚呼ン? オメェ俺を舐めてねぇか? お前程度の見習魔法使いが修業で編み出したオリジナルスペルで、俺が簡単に倒せると思ってやがるのかよ?」

「これはそういうのとはちょっと違うのでして……」

 

 

 言いながら、いつの間にかネギ先生はおっさんを横切って巨大な岩の傍へと赴いていた。

 つーか、今の動き水面が全く揺れていなかったんだけどどうやって移動したんだ?

 

 

「では、逝きます。

 ――桜花寸勁」

 

 

 岩に拳が触れた。

 と思ったのだが、目の錯覚だろうか。岩にずぶりと拳が埋め込まれたように見えた。

 次の瞬間、

 

 

――ゴボンッッッ!!!

 

 

 とんでもない音と共に、岩の反対側のほうから衝撃波のような水飛沫が弾けた。

 いや、飛沫っつうよりは瀑布とかって言っても可笑しくないくらいの威力で、オアシスの向こう半分が可視光線の波に吹き飛ばされて巻き上げられた大量の水がスコールのように降り注ぐ。

 イメージ的にはゴ●ラが熱線吐いたのを間近で目撃したような、そんな威圧感。

 つか、技の名前違ってなかったか?

 

 

「……おい、今のは、なんだ……?」

 

 

 心なしか、おっさんの顔も引きつっているように見える。

 

 

「これが僕の全力の一撃です。一撃必殺、と呼べるだけの」

 

 

 答えになってねーよ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――なるほど、つまり影魔法とは光魔法に属するものなのですね」

『あくまで俺の解釈だけどな。影に質量を与えて自在に動かす、っていうのは、本来粒子以上の物質性を伴わないはずの光を射手に変換するのと同じ理屈だ。相互換性が伴わない光と影の関係性に発展する性質変化のお蔭で分かりづらいかもしれないけど、だからこそお互いが弱点に発展しない魔法になっている。闇の射手が対極に准じているのはこれが原因じゃねーかな?』

「もうあなたがアリアドネーまで来たらいいのではないですか?」

 

 

 烏丸先生の魔法学講座がこんなところまで出張できるとは。

 アリアドネーに隠居して一週間ほど、私と高音さんと佐倉さんは短期留学生という名目があったのでもとよりこのつもりだったのですが、春日さんは夏休みになってまで勉強したくねーと言わんばかりにココネさんを引っ張って街にて遊び歩いているようです。

 まあ、時間の使い方は人それぞれなので私がどうこうと言うつもりもないのですが、件の様子はココネさんが録画しているらしく、後ほど鮫茶先生もといシスターシャークティーへと報告される予定であったとココネさんからこっそり教えてもらってしまっている私です。

 ……春日さんにも言っておくべきでしょうかね?

 

 そんな日常はともかくとして、妙に物珍しい扱いを受けている私たち麻帆良一行。

 特に高音さんと佐倉さんは私という魔法生徒見習いよりもずっと技術が洗練されているので、生徒の皆さんに頼まれて実技演習を施しておりました。

 そんな高音さんへと、実演してもらったその影魔法術式についての仕組みを聞いたところ、返ってきた答えに納得がいかなかった私は麻帆良での癖が出てしまい、思わず烏丸さんへと電話してしまっていたのでした。

 いえ、出るとは思わなかったのです。本当ですよ?

 

 

「――というか烏丸さん!? 貴方一体今どこに居りますのっ!? とっとと出頭してきて私たちに懸けられた手配を解除しなさいっ!」

 

 

 高音さんが通話の間に入って叫びます。

 まあ無理もないですけど、その食いつき方は正直どうなのかとも思いますです。さすがは仕組みをニュアンスのみで説明してきた脳筋魔法使い。メガロメセンブリアに所属しているわけでもない烏丸さんに、どうやって手配書を廃止しろと?

 というか、魔法界には電波は届いていないはずなのに、どうやって携帯から繋がっているのでしょうか。超さんの技術って凄いですね。

 

 

『手配なー、あれ俺はなんも関わってないよ? ネギ君がなんか恨まれるようなことでもしたんじゃねーの?』

「貴方のいたずらでなかったら一体なんだというのですか!? 第一、英雄の息子がそう恨まれているはずがないでしょうに!」

『英雄の息子だからこそ、っていう理屈もあるけど……、まあ高音さんにはわからないだろうからいいや。ともかく俺には無理よ。潔く出頭を促したらどう?』

「そんな不当逮捕をあんな子供に経験させると!?」

『ハハハ、高音さんブーメランって知ってる?』

 

 

 そういえば、麻帆良祭では未来の時間軸でネギ先生捕まってましたね。あとついでに言うとネギ先生は不法入国です。

 というかいい加減に携帯返すです。

 

 

「ともあれ、烏丸さんは何処にいらっしゃるのですか? 6号さんとも別行動となると、心配にはなります」

『オスティア』

「――はい?」

『だから、オスティアにいるから、直接会いたかったら其処まで来なよ。実験兼ねてるからこっちは移動できないんだよ』

「はあ、そうでしたか」

 

 

 高音さんから携帯を返してもらい疑問を挙げてみると、割と簡単に所在が割れました。

 そういう事情でしたか。実験となると、やはり術式の実験でしょうか?

 えーと、オスティアって何処なのでしょう。地図は、と。

 

 

『それより、そっちはどうだ? 友達できたか?』

「なかなか楽しいです。ウサギ耳の獣人の女の子と――、」

『詳しく』

「仲良くなりましたよ? 名前はコレットというのですがあれはむしろウサギというよりは垂れ耳の犬科の可能性も、って速いですね!? 前から思ってましたけど烏丸さんのバニーに対する情熱って尋常ではないですよ!?」

『そ、そんなことねーし、ふつーだし』

「アキラさんのアーティファクトチェンジ時の衣装を思い出してから言ってください」

 

「まるでご兄妹みたいな会話してますね」

「確かに……」

 

 

 地図を探しながら通話していると、佐倉さんと高音さんが後ろの方で何やら余計なことを言っておりました。

 うるっせえんですよ、ど素人が。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「なるほど、完全光化、か」

「はい。粒子と波の同時状態を3分間だけ再現出来たんです。ちなみにこの状態の間は無敵です」

「ほほー、大ーきく出たな」

 

 

 ネギ先生の解説を聞いて、納得したようにうなずくおっさん。

 つか烏丸もバグっぽいけどネギ先生も大概バグってるな。原作でも成長速度可笑しいとは思っていたけど、こっちでもこんなかよ。

 

 先生の説明によれば、“あの”一週間で光の魔法を掌握し取り込み同化する方向へと術式を組み立てたらしい。ちなみに外からすれば一週間でも、中じゃ確かその24倍の時間経過があった、とその時聞いていたので、体感時間はのべ6ヶ月。半年もかければ中で生き延びる方法も確立してゆくものなのだろう、とは烏丸の弁だ。鬼か。

 ともかく成立した術式は戦闘力よりは生存力へと特化し、『光化』状態のネギ先生は物理&魔法を大体すり抜けられるらしい。

 さっきのも、岩へ拳が染み込んだのは錯覚ではなかったようで、やろうと思えば人体をすり抜けて心臓を鷲掴みにすることだって出来ると言われてしまった。なんというread or dead……。

 但し移動術はなかなか思うようにいかないらしく、その状態で一部解除というのも無理だそうだ。足場が無いのなら確かに移動することは出来ないし、踏み込みも出来ないのは道理。さっきの寸勁も中に溜め込んだ“光の射手”を解放して拡散させた『放射拳』だとか……って、普通にレーザー撃ってないか、それ……?

 

 

「あと相手の視界のなかに入り込んで内側から爆散させる方法も考えてはいるのですけど……」

「何処のバイツアダストだよ。……絶対やるなよ?」

「……フリですか?」

「違ぇよッ!」

 

 

 一通りの『出来ること』を嬉々としておっさんに説明する薬味教師に、脱力しつつ呟くと耳聡く尋ねられたので思わずツッコミを入れた。

 つーか聞いててどっと疲れが出た。

 味方なら頼もしと言えるかもしれないけど、傍に居るだけで恐ろしい人間兵器が生まれてたよ。若しくは人間爆弾。

 つうかなんでこの子一撃必殺かつ完全勝利型の戦法を選択してんの。

 あれか? 半年ダンジョンに籠っているうちに思考形態が型に嵌っちまったか? 6ヶ月の弊害がこんなところに出ていて涙を誘うわ。

 光化状態のネギ先生がくしゃみをしたら、やっぱり原作の読者サービスみたいに暴発するんだろうか。

 ちなみにそうなったらご本人が爆散する可能性が大なわけだが。……傍にいたくねぇ……。

 

 つーかこれ、修業する意味もう無いだろ。

 おっさんもそう思ったらしく、質問したところへネギは否定の意を発する。

 

 

「いえ、まだ改良の余地はあるんですよ。持続時間とか、始動までの詠唱短縮とか、移動法とか」

「あー、足場が無いも道理らしいしな。そこは確かにネックか」

「ついでに言うと今の持続限界時間の3分を超えると拡散してゆく恐れがありますので、途中で魔力や魔法を充填することも出来ません。状態が無敵の代わりに地の力だけで動くことを強いられています」

「駄目駄目じゃねーか」

 

 

 子供の膂力で何が出来ると思っているんだろうか、この薬味教師は。

 そして制限時間が3分って。光の巨人かお前は。

 あと本当に光の巨人なら問題はないのだろうけど、ネギ先生の場合は人間の子供程度の大きさだ、というのも問題点ではある。

 時間いっぱい攻撃を相手が避け続けたら、普通にネギ先生の負けは確定するわけだし。

 ――ということが気になったので、挙手。

 

 

「逃げる相手を追う、っていうシチュを考えているのか? ぶっちゃけそのままだと先生“だけ”が生き残るぞ」

「活動中は光の射手をがんがん消費してゆくのでその流動の方向性に沿えば瞬動以上のスピードも出せることは出せますけれど、肉体が未発達なのがやはり改善点ですね。あんまり連続して使っていますと、人へ戻れなくなる恐れもありそうですし……」

「……人外の一人や二人、今更増えたところで問題なくないか?」

「えっ」

「えっ?」

 

 

 ぶっちゃけ、麻帆良そのものが人外の巣窟に思えるのはアタシだけなんだろうか。学園長からして人外っぽいし。

 

 そんなアタシの疑問は聞かなかったことにしたらしく、ネギ先生は話を続ける。

 

 

「――ま、まあそうならないように、最終手段として体内に残った光の射手を集中放射する必殺技も考えてはあります。……見ます?」

「見せたいんだろ?」

 

 

 仁王立ちで構えるおっさん。

 何処かわくわくした様子のネギ先生は、そんなおっさんと対峙して構えを建てる。

 今度の技は受けさせても問題ないらしい。

 

 

「――行きます」

「いつでも来いッ!」

 

 

 先生が告げ、おっさんが応える。

 はああああああ……っ! と、中国拳法の構えから、何故かセクシーコマンドーのような雰囲気が発せられている珍妙な気配。

 広げていた手を腕を、ゆらゆらと蠢かせて胸の前でクロスさせ、目を、見開いた。

 

 

「――エターナル・ネギ・フィーバーッッッ!!!」

 

 

 叫ぶ、と同時に腕を“特保”のピクトグラフみたいな大の字ポーズに広げて、全身から光の奔流が放射。

 ジャック=ラカンは光に飲み込まれて消えた。

 

 

「――ちょっ!?」

 

 

 さすがのアタシでも一拍遅れた。

 そして振り返るネギ先生。ドヤ顔である。

 

 

「どうですか?」

「どうですかじゃねーよっ!? おっさん消えたぞ!? どこ行ったおっさん!?」

 

 

 慌てて水辺へ分け入りツッコミを入れた。

 ――が、心配は他所に、瀑布と擬似スコールで見えなくなった泉が晴れたそこには、ラカンのおっさんがしっかりと立っていた。

 

 

「よ、よかった、無事だったのか……」

「………………」

 

 

 さすがのおっさんでも死んだかと思った。

 ………………って、なんか反応無いな……?

 

 先生もまた怪訝に思ったのか、近づき、下からおっさんを覗う。

 はっと、目を見開いた。

 

 

「……っ! し、死んでる……っ!」

 

 

 嘘ぉ!?

 

 ………………え? いやいや、嘘だよな?

 




〜桜花寸勁
 超近距離での一部解放≪エーミッタム≫で放射される一撃は直接当てるよりも内側からの方が“必殺”なのは当然。いわゆる擬似螺旋丸
 人体に撃っちゃダメ、絶対

〜鮫茶先生
 出番のない褐色シスター。多分麻帆良で元気にしている

〜read or dead(OVA)
 Dreamのアニメと漫画の違いに騙されたのは俺だけじゃないはず

〜セクシーコマンドー
 ルール不明

〜特保
 特定保健食品マーク

〜エターナル・ネギ・フィーバー
 全身から何かを出す、原作ではお蔵入りした必殺技
 この世界線ではネギは自力で修得


ラカン、死す(笑)
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