どこまでも真っ直ぐでお人好しな酒場の白兎   作:花見崎

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EP13 迷宮の楽園(アンダーリゾート)

数年ぶりのオラリオは酷く荒れていた

 

 

建ち並ぶ家々は半壊し、酷いところでは黒い煙が上がっている箇所もある

怪我人を診ている所を見るとつい最近地上(ここ)で襲撃が起こったということだろうか

 

 

「(念の為フードを被ってきたけど、これ多分逆効果だよね・・・)」

 

 

敵対するつもりは無いけど過去が過去のため、知ってる人と鉢合わせて余計な混乱を巻き起こすのは避けたい

そう思って身を隠してきたけど・・

逆効果なようで、悪い意味で目立っちゃってる

 

 

「立ち止まりなさい。」

 

 

ヒタリと首筋に静かな殺意が向けられる

 

 

「最近、ここ近辺で貴方のようなフードに身を包んだ輩が出没し夜な夜なよからぬ事を企んでいると聞く。あらぬ疑いを持たれたくなければ控えた方が良い。特に私はいつもやりすぎてしまう。」

 

 

「・・・忠告感謝します。」

 

 

タイル敷の舗装された道を背を向けながらお互いに立ち去っていく

 

 

「(長い付き合いになっちゃいそうだなぁ・・・)」

 

 

そんなことをふと思いながら、(ベル・クラネル)は1人歩き始めていた

 

 

・・・・

 

 

ベル・クラネルはいつも渦中の人物(トラブルメーカー)だった

 

 

冒険者として過ごしてきた時期に遭遇した異常事態(イレギュラー)は数知れず

とはいえ、彼はオラリオ最大派閥。多少の異常事態(イレギュラー)は今晩の酒の肴として笑い話でおしまいだった

 

 

アルフィアはそんな彼らを呆れ顔で見ながらもベルに一言二言小言を漏らしつつも無事に生還した彼を母であるメーテリアと共に労う

ゼウスはそんなベルをいつも笑って彼の冒険譚を聞いていた

 

 

もはや彼のトラブルの遭遇(エンカウント)率は異常の一言であり

その才は静かに動きたかった彼の行動を阻んでいくこととなった

 

 

拠点にしていた廃教会は憲兵に見つかり

 

 

闇派閥(イヴィルス)との抗争に常に巻き込まれる形で目的の人物も見つかることも無く無下に時間だけが過ぎていく

 

 

「さて、久しぶりだね。君とこうして話すのは。」

 

 

それが元で、1人の悪友(とも)であり、戦友(とも)とも呼べる出会いを果たしたのはまた別の話である

 

 

・・・・

 

 

黒龍討伐失敗を機に、ヘラ・ゼウスファミリアへの風当たりは悪くなっていき、特に【フレイヤ・ファミリア】との関係は悪化していき、最終的に追放という形で終わりを遂げた

 

 

余計な衝突は避けたかったベルは、できる範囲の接触を避けながらも水面下で密かに行動をしていた

 

 

それでも、彼特有の巻き込まれ気質(トラブルメイカー)と、どうしようも無いほどのお人好しが何も起こさない訳もなく

段々と巻き込み巻き込まれながら『大抗争』へと足を踏み入れていく

 

 

「貴方は、私達の味方なのですか?敵なのですか?」

 

 

「目の前に手を差し伸べるのを待つ人の手を僕は取ってあげたい。ただ、それだけです。」

 

 

想いは継がれていく

 

 

『最後の英雄』を求め、神時代の崩壊を目論んだ彼らとはまた別の形でベル・クラネルは迷宮都市(オラリオ)の行末を、『英雄』の誕生を彼は見届けるため、彼は留まった

 

 

それが歯車に投じられた最後の投石だとは知らず

 

 

・・・・

 

 

ベル・クラネルは()冒険者である

 

 

『大抗争』以降、冒険者資格を剥奪された彼がその後も迷宮(ダンジョン)で活動を続けられたのはとある二神と他ならぬ彼自身の行動故のこと

 

 

闇派閥(イヴィルス)壊滅の目的のために彼は水面下で動いていた

それは枷とでも呼ぶべきか、闇派閥(イヴィルス)に対抗できる1つの手段として、彼は動いていくことになる

 

 

結果、表と裏で動いていた冒険者達が1年後、闇派閥(イヴィルス)に巻き込まれる大事件に繋がってしまう

 

 

結果として、ベル・クラネルは『英雄』にはならなかった

 

 

誰かが彼を『英雄』と呼ぶことはあれど、彼を『英雄』とする事は無い

 

 

彼はその後の迷宮都市(オラリオ)を【ベル・クラネル】として見守っていくのだろう

 

 

そう、これは英雄を目指す少年の物語ではない

 

 

『英雄』をめざした少年の、『英雄』のための神聖譚

 

 

・・・・

 

 

「お前も色々苦労してきたんだな。」

 

 

「ははは、失望しました?」

 

 

結局、僕はフィルヴィスさんに掻い摘みながら話すことになった

 

 

「話を切り出したのは私だ。振っておいて勝手に失望するほどエルフとして堕ちたつもりも無い。」

 

 

「そうですね、僕としてもフィルヴィスさんに聞いていただいたら気持ちが軽くなったような気がします。」

 

 

「そうだな。私の目にもお前の顔がどこか柔らかくなったように見える。」

 

 

「昨日も同じこと言われました。」

 

 

「お前を見ていると昔の私を見ているようでちょっとな。」

 

 

「あの後も色々ありましたので・・嬉しいことも悲しいことも。」

 

 

「・・・そうだな。」

 

 

冷めた飲み物を無理やり喉に通し、1つ息を吐く

 

 

思い返せば、ここに来てからというものの、ちゃんとした休みが取れてない

今度の休みは少し街歩きに費やそうかな

 

 

・・・・

 

 

「すごく騒がしいですね。」

 

 

「あぁ。何かあったのか?」

 

 

迷宮(ダンジョン)の中とはいえ、冒険者たちの街、 喧騒が絶えないのはいつも通りなのだが、今回だけは様相が変わっていた

いつものような活気と怒号の飛び交うリヴィラでは無い

どこかどんよりしたものを感じられる重い空気

 

 

「何かあったんですか?」

 

 

「殺しだよ殺し!誰かがヴィリーの宿でやりやがったんだ!」

 

 

「えぇ!?そ、それで犯人とかの目星とかって・・・」

 

 

「殺されたやつが(ツレ)と一緒に入ってったのを見たらしい。そいつがクロで間違いねぇんだが。フードで誰も顔が分からないらしい。お前さんがいるならまず心配いらねえが、何があるか分からねえからな。」

 

 

いくら無法地帯とも言えるリヴィラでも、殺人は許されぬ禁忌

冒険者が殺された真実は瞬く間に広がっていくはずだ

そして躍起になって犯人探しに駆り出すはず

 

 

「心に留めておきます。」

 

 

「じゃあな。」

 

 

「はい、また。」

 

 

僕たちの本来の目的は27階層の調査

本当なら、この場を立ち去って降りていく必要が有るんだけど・・・

 

 

「・・・この事件にも首を突っ込むつもりか?」

 

 

「犯人探しは彼らに任せるべきでしょう。ただ今回の事件、僕が追っている27階層の件と無関係とは思えなくて・・・」

 

 

「乗りかかった船という訳ではないが、私も最後まで付き合おう。ただな…」

 

 

フィルヴィスさんはここまで溜めて、少し遠くの空を見つめる

 

 

「今回の件は大分長丁場になりそうな気がする。」

 

 

「えぇ、僕も同意見です。」

 

 

天井を覆うクリスタルの光が一際妖しく輝いたような気がした

 

 

ベルにヒロインは

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