「フェルズさん?」
【豊穣の女主人】に僕の寝室として宛てがわれた一室。ベッドと寝間着や私服、仕事服を仕舞っているクローゼット。必要最低限の家具のみを揃えた殺風景な室内。
いつこの場に帰ることが出来なくなるか分からない以上は部屋はできるだけ片付いている方が何かと便利だった。
「やはり君にはバレてしまうか。」
灯りの着いていない月の光のみが差し込む片隅。そこから感じる何者かの気配から
「何か用ですか?
目の前の人物は
「その前にまず感謝と謝罪をさせて欲しい。18階層の件、こちらとしても想定外の事件とはいえ、早急な対応と尽力感謝する。それで、本題なのだが・・・その
「・・・?」
フェルズさんは表情どころか顔を確認することさえ出来ない。いや、骨なのだから見えたところで伺う顔さえないのですけど。
「本来であれば、【ヘルメス・ファミリア】との合流を考えていたのだが、予定が狂った。君には予定より早く調査に出て欲しい。」
「具体的には。」
予定の急遽変更は
「想定以上に敵側の動きが激しいのが1つ。」
「・・・あと1つは?」
「どうも嫌な予感がする。君の実力を疑っている訳では無いが、できるだけ先手を撃っておきたい。君も知ってると思うが、『リヴィラの街』を襲撃した人物の可能性が高い。」
「・・・僕、その人物に会ってないんですけど。」
確かに僕のスキルの関係で
「それに、【ヘルメス・ファミリア】の方はどうするんですか?あちらには誰か入るんですか?」
「その点は大丈夫だ。ある程度目星は着いている。【ヘルメス・ファミリア】にも私から君には負担をかけることになるだろう。」
「元より闇派閥との対戦を申したのは僕です。」
「武運を祈る。」
・・・
18階層に作られたリヴィラの街の北部、長大な水晶の谷間が形成された
「あの・・・これかはのこと、なんですけど。」
酒場で黒衣の人物が指す協力者と邂逅を果たしたアイズ。無事合流できた直後始まった内輪もめを鎮めるために声を発する。
「・・・すいまけん、見苦しいところをお見せしました。依頼内容の確認をしますが、目的地は24階層の
「はい。」
「では、次にこちらの戦力を伝えておきます。私を合わせ総勢15名、全て【ヘルメス・ファミリア】の人間です。能力は大半がLv.3。」
依頼内容の照らし合わせと戦力の確認を進めていく。合同でダンジョンへと潜っていく以上、お互いに背を合わせて戦っていくことになる。
「それでは行きましょうか。短いパーティになると思いますが、どうかよろしく。」
「ちょっと待ってよアスフィ!援軍ってもう1人来るんじゃなかったか?」
「あぁ・・・我々に依頼をしてきたあのローブの人物から彼は先に立ったそうです。それで代わりに【剣姫】を遣わしたそうです。」
「私の他にも頼まれたの?」
「【剣姫】にも話しただろ?【ベル・クラネル】って奴さ。」
「ルルネ、貴方はまた勝手にペラペラと・・・」
「ご、ごめんてアスフィ!」
「そういうことです。なのでわれわれも出発しましょう。」
・・・・
「お前等、『
アイズ達を追って18階層まで降りてきた即席パーティは情報を得るためにボールスの元を訪れた。ベートによる脅s・・・ではなく質問によって聞き出された情報からアイズは24階層の食料庫に向かったとの推測をした彼らがボールスの元を離れようとした時、ボールスはレフィーヤに声をかけた。
「その2つ名って確かフィルヴィスさんの事ですよね?何か問題があるのですか?」
「あぁ・・・いや、そこまで大きな問題じゃねぇんだが・・・」
ボールスから声をかけたものの、間が悪そうな顔をする。
「いや、『
「ど、どういうことですか?」
「今でこそあの名前で呼ぶやつは少なくなったが、一時期じゃぁ『白巫女』は『
オラリオの外の国の伝説のひとつに、死を告げる妖精としてパンシーが語り継がれる。
伝説ではパンシーは死ぬ人のために涙を流すともされている。だが、死ぬ人の元に死を予告する事の印象が大きいため前述だけが独り歩きしている結果、あまり良くない印象だけが伝わっている。
「い、一体何が・・・」
「あのエルフとパーティを組んだ連中が1人残らず死んでしまった時期があったんだ。」
「・・・っ!?」
「あいつだけを残して、な。自派閥だろうが他派閥の者だろうが関係ねぇ。」
ただ静かに淡々と語り出すボールスにレフィーヤは言葉を失う。
「六年前に起きた、『27階層の悪夢』は知ってるか?」
「は、話くらいなら・・・大勢の冒険者が、亡くなったって。」
「おお、そうだ。あん時はまだ闇派閥の連中が、有力派閥のパーティを27階層でまとめて嵌め殺した。」
曰く、秩序を嫌う者達。
曰く、混沌を望む邪神達に率いられた過激派集団。
ギルドが絶対の根絶を掲げ、多くの【ファミリア】とともに打ち倒した『悪』の使徒。
そんな闇派閥が繰り返してきた数々の悪行の中でも、『27階層の悪夢』は一際凄惨だったと言われている。
階層中のモンスター、果ては階層主を巻き込んだ敵味方入り乱れての混戦は地獄絵図と化した。ギルド派閥の有力派閥等と闇派閥、双方に多くの犠牲者を出した事件。それが表面上の
「フィルヴィス・シャリアはあの事件の数少ない生き残りだ。色んな冒険者がいたが、あんな酷え顔をしたやつは初めて見た。」
「・・・」
「でな、その日からまるで呪われたかのように、あいつが関わったパーティは遅かれ早かれ、くたばっちまうようになったんだ。
「・・・っ!」
「訳あってそいつの名前は出せねぇが、1度パーティ全員が無事生還したことが大きく響いたんだろう。『死妖精』の噂も引いたって訳だ。」
「そ、そうなんですね。」
「とはいえ1度広まった噂ってのは中々消えるもんじゃねぇ。エルフの性質?ってのもあるんだろうが、そいつ以外とパーティを組むことは少なかった。」
「でっ、でも!フィルヴィスさんは悪くないですよね!」
「冒険者っつーのはいつ死んだっておかしくねぇ。昨日まで盃を交わしていた連れが今日のうちに死んじまうなんてことは日常茶飯事だ。何より
・・・・
「全員、止まってください。」
前方の通路にひそむ気配に、アイズを始めとした冒険者達は反応した。ただちにアスフィがパーティの進行をとどめる。
彼女らが注視する先には広い通路内を蠢くモンスターの大群だった。
「うげぇ・・・」
アイズの隣でルルネが呻いた。ありえないほどの数のモンスターの群れに、他の団員達も顔をひきつらせる。
「・・・少し妙ですね。」
「ん?そりゃモンスターの大行進なんて、珍しいことだけどさ。」
「それもそうなんですが・・・やけに前情報と違いませんか?」
「確かに・・・情報だと通路を埋め尽くすほどの大群だって聞いていたし。」
「考えられる情報としては・・・」
「あ、あれは【
「ということは【ヘルメス・ファミリア】が来たんだ!良かった!」
アスフィ達の元に、怪我人を数人含めたパーティか駆けつけてくる。
「何があったんです?」
「き、急にモンスターの大群に襲われて!そうしたら白髪の青年が助けてくれてそのままモンスター共をなぎ払いながら奥に行っちまったんだ!加勢してぇが俺たちはこのザマだ。頼む!あいつを助けてやってくれ!」
リーダーらしき猫人から事の顛末を聞けば、彼らを助けた冒険者はその先の食料庫へと続く道に進んだという。
「ネリー、彼らの治療をお願いします。とはいえ、この後のことを考えると多く消費することは出来ません。ですから18階層まで戻れる程度の回復になりますが、構いませんね?」
「あ、あぁ。こちらとしては願ってもねえ事だ。恩に着る!」
「・・・ひとまず、あのモンスターを処理しましょうか。」
ベルにヒロインは
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いる
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いらない