まぁ、案自体はこの小説でグランカジノを潰した後に書いても良かったんだけど・・・
訳あってかけなくなっちゃった産物
ファミリアクロニクルepisodeリューの後半部
わりと過去に遡るけど・・・
では、ごゆるりとお楽しみくださいまし
抜けるような蒼穹の下で
「おじさん!これとこれ1つずつください!」
「はいよ!それとこれオマケね!今度もシルちゃんによろしく言っといてくれよ!」
「はい!」
迷宮都市オラリオにも露店は存在する
いつも具材調達先としてお世話になっているお店
いつもはシルさんが買ってきてくれるんだけど、今回は僕が担当に選ばれた
シルさんが言うには
『食材を買い物する時は可愛く笑って、ねだるといいよ』
『あ、あのシルさん。僕男ですけど・・・』
『大丈夫大丈夫!ベルさんすごく可愛いから!それにお店のおじさん達も優しいし!』
『しれっと酷いこと言ってません!?てかそれ理由になってるんですか!?』
と、口喧嘩していた頃が懐かしく感じてくる
一抹の不安を抱えながらいざお店を尋ねてみれば、シルさんの言っていた店主さんたちの優しさがすごく伝わってくる
「よぉボウズ!今日は何を買いに来たんだい?」
「どうしたどうした今日はいつものべっぴんさんは一緒じゃないんかい?」
こんな風にいつも声をかけてくれる
それと同時に、シルさんの人柄の良さも分かってきた
人も神も種族分け隔てなく真摯に接し、神すらも魅了するほどの美貌と優しさ
店主たちの言い分も理解出来る気がする
「ただいま戻りました。」
「白髪頭早く戻るニャ!今日はシルが居ないから仕事が溜まって忙しいニャ!」
買い物袋を両手に僕が【豊饒の女主人】に戻ってくるとアーニャさんが大量の食器を前に悪戦苦闘していた
「とりあえず食材置いてきますので待っててください。」
シルさんに拾われ、住む場所もなかった僕をミアお母さん達は大分強引なやり方だったけどここ【豊饒の女主人】で雇ってくれた
担当は買い出しと皿洗い
さすがに、僕をお客の前に出す訳にもいかず、なるべく目立たないお皿洗いに指名されることとなった
帰ろうと思えば帰れる場所はあった
それでも、そうしなかった...否、出来なかったのは雨の中行き倒れていた僕を助けてくれた彼女たちへのせめてもの恩返しだった
・・・
「ベルさんもこの仕事に慣れてきましたね。」
「はい、これもシルさん達のおかげです。本当にありがとうございました。」
「まっ、ミャーから言わせたらまだまだニャ。」
「こらっ、アーニャ!」
「はははは・・・」
お店が少し空いた時、僕はシルさんに連れ出された
何故か一緒にアーニャさんもついて来ちゃったけど・・・
「ここね、私のお気に入りの場所なの。」
シルさんに連れてこられた場所は路地裏を抜けた先にあった大聖堂の屋上
抜けるような蒼穹を望めるこの場所は周囲の建物より高く、静穏な街の景色が広がっていた
「ここにいるとよくわかるの。今、街がどんなことを思っているのか。」
シルさんが言ってることはよく分かる
僕がオラリオに帰ってきた時、よく城壁の上で街を見下ろしていたから
シルさんには及ばずとも、オラリオの表情はよく見えていた
「何年も前から、オラリオはずっと悲しんだり、怖がったりしてた・・・」
無理もない、つい三年前まではオラリオは『暗黒期』に突入していた
抵抗できる
「それは、仕方ないという言葉で切ってしまう訳にはいきませんけど、そういう時代でしたので・・・」
「でもね、最近は違うんだよ。街が少しずつ、笑うようになった。喜んだり、嬉しがるようになったの。」
「そうですね、【ガネーシャ・ファミリア】に、【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】や【アストレア・ファミリア】。他にも多くの冒険者達が戦って、傷付いて、多くの犠牲を払いながらも街を守ったんだ。」
鳴り止まぬ人々の悲鳴
立ち上る黒い煙、消えることの無い戦火
乱立する無情な多くの光の柱
『悪』に屈すまいと立ち上がり、邪神の使徒たちと戦い、闇を追い払おうとした
そして、【アストレア・ファミリア】の手によって『悪』は今、確かに滅びようとしてる
「ベルさんも、がんばってくれてたんですよね?」
「えっ?」
シルさんから思いがけない言葉が飛び出してきた
「ベルさんがどのような方で、どんな風に生きてこられたかは私は存じあげません。ただ、冒険者様達の言葉を聞いていると悪い噂が多かったです。」
「それは・・・」
「ですが、一部の方からは、感謝の声も聞こえてきました。白髪の人に助けていただいた話も聞いていました。」
シルさんはこちらを振り返って笑顔を浮かべた
「当時私は、ベルさんという方にお会いしたことはございませんでした。とはいえ、会ったことのない人を噂だけで決めつけたくなかった。だから
「み、視る・・・ですか?」
「はい。どんなに表面上取り繕っていても、瞳は全てを嘘偽りなく教えてくださいます。神様のようにはっきりと分かるわけじゃありません。ですが、鵜呑みにするくらいならと、そう考えていました。そしたら、貴方は凄く綺麗な瞳をしてたんです。」
「それで僕を受け入れてくださったんですね。」
「はい!まぁ、実は他にも理由はあるんですけどね。」
「深堀はしません。どんな形であっても、シルさん達が命の恩人ということには変わりありませんから。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
「こらぁー!もうすぐ店が開くニャ!おミャーら早く戻るニャ!」
しんみりした空気を壊すように、扉が開かれアーニャさんが飛び出してくる
「あらら、もう時間切れみたいですね。早く戻らないとミアお母さんに怒られてしまいますね。」
「シルさん、最後に一つだけいいですか?」
「なんでしょう?」
「僕がもし、あの場所に帰らないような。そんな時が来た場合は。その時は--」
その先の言葉が紡がれることは無かった
シルさんの人差し指によってその先の言葉は紡がれなかった
「ベルさんが帰ってこなかったら、私寝込んじゃいますよ?」
少しだけ、シルさんの笑顔が消えた
そんな気がした