どこまでも真っ直ぐでお人好しな酒場の白兎   作:花見崎

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咎人

「依頼?また?」

 

 

ルノア・ファウストは『賞金稼ぎ』である

派閥を転々としながら旅を続ける毎日を送り、路銀稼ぎの一貫として賞金首狩り(バウンティハンター)として活動している

その強さから、『黒拳』の渾名まで付けられるほど

 

 

「【アストレア・ファミリア】によって、闇派閥(イヴィルス)の残り滓も壊滅したんでしょう?勢力争いなんて終わったんじゃないの?」

 

 

「あくまでそれは表向き似流された嘘情報(デマ)だ。ギルドの上層部によって書き換えられた偽りの事実にすぎない。」

 

 

「はぁ?あんた何言って。」

 

 

闇派閥(イヴィルス)の壊滅に関係しているのはたった1人。【アストレア・ファミリア】はあくまででっち上げられた『英雄』に過ぎない。」

 

 

「なぜそんなことを。」

 

 

「そっちの方がギルド(あいつら)にとって都合がいいのさ。【堕ちた英雄】を上げるくらいなら人望もある【アストレア・ファミリア】を担ぎあげた方が好都合だとな。」

 

 

「ふーん、まぁどっちでもいいや。それで、今回の標的(ターゲット)は?」

 

 

「その壊滅させた本人が今回の標的だ。」

 

 

ルノアに依頼をもちかけた(ヒューマン)は深くため息をつく

 

 

「名前は『ベル・クラネル』。現在【豊穣の女主人】を隠れ蓑に行動していることまでは調べが付いている。」

 

 

ルノア自身も、賞金稼ぎとして名前くらいは聞いたことがあった

 

 

やれ『大抗争』の首謀者だの

やれ闇派閥(イヴィルス)の黒幕だの

やれ人の心を持たぬ非常な化け物だの

 

 

まともな噂は全く飛んでこない

 

 

一時期彼は死んだという噂すら流れたほどだ

 

 

「聞けば、今でも残党狩りを続けているらしい。我々の息がかかった配下にも被害が及んでいる。ひいては、我らブルーノ商会が闇派閥(イヴィルス)と繋がっていたこともやつにバレたかも知れん。明るみになる前に、必ず消せ。」

 

 

と告げると男は返事も待たず、椅子から立ち上がり、酒場から飛び出していく

 

 

「なぁーんかパッとしないなぁ・・・」

 

 

ルノアが今まで相手したきた賞金首はそれこそ札付きの悪がほとんど

どこの国でも札付きの悪なんてものは一つや二つ大悪を犯してる

 

 

それがどうだ、今回の依頼は

確かに『大抗争』以来、主に闇派閥に関して大暴れしているようだが、全くといっていいほど雲が掴めないのだ

それこそ本当に首に額がかかっているのかどうかも怪しい人物

 

 

なによりルノアにとって1番の不安要素はオラリオの冒険者であるという点

裏切りが常の裏世界といえど、信用もまた大事な要素

腕っぷしの強さにものを言わせ、達成率はほぼ10割の彼女とて、第2級以上の冒険者には苦戦は必至

 

 

その上、『大抗争』で悪名を挙げた大悪党なんて、考えるだけでも気が滅入る相手に変わりなかった

 

 

酒場の蜂蜜酒をカラカラと手の中で転がしていく

 

 

「あ〜。もう何か疲れたし、どっかに身を落ち着けたいなぁ。カッコ良くなくていいから、気をつかってくれる亭主とか見つけて、狭い家でゴロゴロして・・・」

 

 

風に揺られ、机から落ちていく似顔絵を気にもとめず、蜂蜜酒をひと口あおる

 

 

「賞金稼ぎ、もう止めようかなぁ。」

 

 

・・・

 

 

「また依頼?今月で何人目?」

 

 

クロエ・ロロは『暗殺者』である

とある犯罪組織(ファミリア)から脱退して以降、路銀稼ぎとして暗殺業を兼ねながら旅を続けていた

 

 

「まぁ、見合った報酬さえ用意してくれれば、仕事はこなすけど。」

 

 

「あぁ、勿論だ。今回暗殺を頼みたいのは、【ベル・クラネル】という男だ。」

 

 

「【ベル・クラネル】?聞いたことない名前。それも冒険者なのに2つ名も無し。ハズレの匂いがするわ。」

 

 

「まぁ、そう疑うのも仕方ない。表舞台にさえ名前を知るやつは少ねぇ。知ってるやつですら死亡したと思ってる奴がほとんどなレベルだ。」

 

 

「ふぅん・・・」

 

 

クロエの顔がどんどん険しいものに変わっていく

 

 

「本当にそいつの首にかかってるわけ?」

 

 

「あぁ。それも7000万ヴァリスだ。それも()()()()()直々に裏のルートに出された賞金だ。まず間違いねぇ。」

 

 

クロエに渡された手配書にはフードを外した白髪の男

両目は真紅に染まり、その顔はお尋ね者とは思えないほどあどけなさの残る顔が写っている

肖像の上に記された額は7000万ヴァリスと嘘ではないらしい

 

 

「この額の賞金首なんてそうはいねぇ。なにより、今回は存在自体あやふやな標的だ。出来次第では超える事も考えられる。他のやつに出し抜かれる前に俺達が頂くんだ。賞金は山分けってことで-」

 

 

「前金で3500万。懸賞金の取り分は、こっちが七割。」

 

 

「ま、待てっ。いくらなんでもそれは・・・せめて六・四で・・・」

 

 

「嫌。ただでさえ不確定すぎる標的なのに、そのうえ()()()()直々の暗殺指令。そんなのを仕留めるのなら、それくらい貰わないと割に合わない。」

 

 

クロエの目もとを隠すフード-猫耳によって二つの山が出来ている『黒猫』の表象-が夜気になびく中、その小振りな唇が薄ら寒い三日月を描く

 

 

「なんなら私1人でやってもいいんだけど?今ここで、貴方から情報を引きずり出して」

 

 

「わ、わかった・・・その条件でいい。」

 

 

拷問も十八番である暗殺者を前に、息を呑むドワーフはこくこくと頷く

標的の情報が載っている羊皮紙を置いていき、逃げるように立ち去っていった

 

 

「・・・ちょろいもんニャ〜。」

 

 

1人、口調を元に戻したクロエは盛大に嘆息した

 

 

「歯ごたえがなさ過ぎて興ざめニャア・・・いっそ依頼を持ち帰ってくれた方がよかったのに、ニャ。」

 

 

暗殺者である彼女は生業の関係上舐められることは仕事に直結する

舐められぬよう営業用の仮面まで被って、闇の仕事に身を投じてきた

だが、彼女はいよいよ疲れていた

 

 

「あ〜。もう美少年を侍らせた優雅な生活を送りたいニャ〜。おへそやお尻を撫で回して、胸をキュンキュンさせながらこの世の極楽を満喫したいニャ〜」

 

 

色々な意味で、今回の依頼に乗り気でなかったクロエにも、一つだけお気に召した部分があるようで

 

 

「それにしても・・・」

 

 

手配書を月にかざし、その頬を崩し

 

 

「なかなかいい美少年(ショタ)だニャ、殺す前に堪能するのも悪くないニャ〜。」

 

 

クロエの暗殺には規則(ルール)があった

 

 

まず、子供は殺さない。特に男児は世界の宝だ。宝を奪うなどもっての外である

そして殺すのは人としての屑、あるいは殺される覚悟のある者だけ。この条件に見合わない者は、頂戴した金ごと依頼人に投げ返して依頼を放棄している

 

 

それがよりにもよって最後だと決めた案件に回ってきてしまったのだ

 

 

「暗殺業、止めようかニャ〜。」

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