「いやー!なんとか腰を落ち着ける場所を見つけたようだねベル君!」
そんなこんなで『豊穣の女主人』で働くこととなり、どこから聞きつけてきたのかヘルメス様が1人で尋ねてきた
いつもの
時代が時代なら、眷属達から止められるほど危険行為だった神様の1人歩き
これもまた時代の変化として受け止めるべきなんだと心の中で受け止める
「わざわざミアお母さんに頼み込んでまで休暇にしてもらわなくても・・・」
ヘルメス様は何を思ったのか、ミアお母さんに僕に今日を休暇にして貰えるようにしたのだのだとか
ミアお母さんは渋々と言った感じで了承してくれた
僕としてもヘルメス様に対するお礼もまだだったこともあって僕からも頼むことにした
まぁ、ミアお母さんの『後でいつもより働いてもらうからね!』にはミアお母さんらしいと笑ってしまったけど
「それにしてもベル君、よく留まることを選んでくれたね。立ち去るという択も取れたはずだろう?いくら君が
「ははは、オラリオが気に入ったと言いますか・・・」
「兎にも角にも、
「僕としても事情がありましたし…何より、『英雄』を欲しがっていると持ちかけたのはヘルメス様からですよね?」
全てが終わり、宛をなくし途方に暮れていた僕をヘルメス様は
交換条件として闇派閥の殲滅の手伝いを出されたけど・・・
「いやー!ベル君のおかげで無事解決!無事オラリオに平穏が訪れたって訳だ!」
「あまり大きな声で言わないでください。体としては僕がやった事にはなって無いんですから。」
『大抗争』で、闇派閥と手を組んだお義母さん達が所属していたのは【ゼウス・ヘラファミリア】
末端の方とはいえ、【ゼウス・ファミリア】の僕を立てるのはギルドにとって不都合があるらしく、留まることを条件に協力を仰いできた
闇派閥の牽制となり、僕としても断る理由もなく了承する形になった
「ベルさん!ベルさんに用事がある方がいらっしゃってますよ?」
「えっ・・・」
ウェイトレスとして働いているわけじゃない僕は、お客から指名されるわけも無いし、そもそもここで働いてることを知っている人だって限られてるし・・
「それじゃ、俺はここで。それじゃ、ベル君またよろしく頼むよ!」
「・・・」
飄々と立ち去っていく男神を見送る
ヘルメス様とは随分と長い付き合い-と言っても一方的なもの-で、ことある事に押しかけてきた
その度にお義母さんに飛ばされるまでがオチになってたけど
ヘルメス様には、どうも同じような匂いがする
兎にも角にも今は、シルさんの所へ向かわなくいと
・・・
「すみませんお待たせしました-ってリューさん!?」
シルさんに手招きされた場所に進んでいけば、そこにはリューさんが立っていた
「すみません、突然押しかけてしまい。」
「いえいえ、今日はちょうどお休みを貰ってましたから。それよりよくここにいると分かりましたね?一部の人しか知らないと思ってたんですけど・・・」
「と、とある男神から・・・」
リューさんにとっては精一杯隠しているつもりなんでしょうけど、それだとほぼ言ってるようなものですよ・・・
「せっかく来てくれたんです。座ってご一緒にお話されたらどうでしょう?」
「押しかけてきて何も買わないというのも不躾です。まだ時間もありますのでここはお言葉に甘えさせていただきます。」
・・・
「改めて私から代表して感謝を伝えます。ありがとうございました。」
先までヘルメス様と対談していた席とは違う席に案内し、シルさんに注文を受けてもらって、一息つくとリューさんの方から切り出してきた
「ヘルメス様からお聞きしました。
ヘルメス様結局喋っちゃったんですか!?
「ご、ごめんなさい!勝手に名前をお借りしてしまって!」
「いえ、本来謝るべきは私たちです。クラネルさんのためとはお聞きしていますが、『事実隠蔽』に手をつけたのは事実ですから。アリーゼ達もどこか納得いかない顔は消えません。」
「・・・別に断って頂いて構いません。ここに残りたいというのも完全にエゴですし。何より、これはただの押しつけにすぎません。」
目を閉じ、大きく深呼吸をしてからもう一度彼女を見つめる
「僕は、ただの弱虫です。『大抗争』のことは事前から知っていました。知っていて、その上で僕は最初オラリオに向かうつもりはありませんでした。僕は、1度オラリオを見捨てたんです。」
エレボス様から全てを聞き、その上で僕は加担することも、オラリオに戻ることも選ばなかった
「僕には、助けられたかもしれない人達全員に贖罪できるほど、僕は強くない。だから、これは僕からの精一杯の罪滅ぼしなんです。」
「そんなことありません。クラネルさんが居なければ助けられなかった命も多いです。貴方を知らない人も『英雄』と仰ぐ者たちも居ます。」
「・・・僕は『英雄』にはなれません。」
そうだ、誰かのためになんてものは綺麗事で、ようは手柄をやるから黙ってろって言いたいだけ
【アストレア・ファミリア】を隠れみのに混乱を防ぐ
結局は僕の活躍は
「もし、この話を無かったことにした場合。クラネルさんはどうされるんですか?」
「どうなるでしょうかね。ギルドがどの様な形で報告するかは分かりませんが、遅かれ早かれ闇派閥の壊滅は何かしらの形で伝わっていくでしょう。ともすれば、人々はその立役者を探したがります。」
人とは常に『安心』を求め生きている
『安心』とは柱だ、それも大黒柱のようなでっかい柱
闇派閥の壊滅は『安心』には繋がらない
怯える『恐怖』は消えても、頼るべき『安心』がなければ、人から『不安』は決して消えない
もし、新しい『悪』が台頭してきたらどうしよう
その一抹の不安ですら人は大仰に縮こまってしまう
だからこそ、人は求めるんだ
自分達が頼るべき存在を
「この隠蔽に後ろめたい意味はありません。言うなればこれは都市の混乱防止と、1人を守るため。アリーゼ達もそれを理解した上で見極めようとしています。クラネルさん、貴方は一体何者なんですか?」
「僕は、しがない"元"冒険者です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「・・・分かりました。」
「僕から一つ質問なのですが。リューさんは、どちらを選びたいですか?」
「私ですか?」
「はい。貴方の『正義』としてでも、【アストレア・ファミリア】の一員としてでもなく、【リュー・リオン】。あなた一人としての応えが聞きたいです。」
変なプレッシャーを与えないように柔らかい笑顔で、それでも真剣に目を向ければ相手もきちんと返してくれる
大切なのは答えじゃない。相手に伝える意思があるのか、そしてちゃんと伝えられるか。そこからだから
「私は、クラネルさんにはずっと一緒にいて欲しい…です。」
「・・・え?」
「はっ!い、今私はなんと!?すみませんクラネルさん。用事を思い出しました。料金はここに置いておくので。それでは!」
脱兎のごとく椅子から立ち上がって店から出ていくリューさんを僕は1人ただ見ているしか出来なかった
「ニャ?白髪頭あのエルフに逃げられたのかニャ?」
「さ、さぁ・・・」
一緒にってことはオラリオに居てもいいってことだよね?何かダメな事だったのかな?
とはいえ、今はもうひとつ厄介事に巻き込まれちゃいそうだ
ふと、店外の人だかりの中を歩いていく1人の女性から目を逸らして片付けに入る
「とりあえずアーニャさん。ご勘定です。」
懐から2人分の料理の料金をアーニャさんに渡し、空になった食器とリューさんが置いていった麻袋を拾い上げ、いつもの『仕事場』に持っていく
「手伝うよアーニャ。用事は増えちゃったけど、今は無理だからね。」
「やったニャ!これでミャーの仕事が減るニャ!」
「ははは、アーニャさん。もう少し声を落とした方が・・・」
今は、この生活を満喫してもバチは当たらない・・.・はず