酒場とは一種の情報源だ
元から冒険者とは噂がやたら好きであり、酒が回ることも相まってその喧騒は次第に大きくなっていく
獣人には遥か劣るものの、酒場の冒険者たちの内容くらいは聞こえてくる
酒場で働いている以上は仕方ない
変に意識すると手が厳かになっちゃうから黙々とこなすだけ
そんなことを考えていると一際喧騒が騒がしくなる
「そういえば今日は予約された団体が来られるんだっけ。」
「これからもっと増えるからねー、貯まらないように頑張りなよー。」
去り際にルノアさんが注意してくれる
今日は確か【ロキ・ファミリア】が遠征帰りに宴会をやるんだっけ
【ロキ・ファミリア】はオラリオに数あるファミリアの中でも1、2を争うほどの巨大派閥
それもほぼファミリア全員で宴会。喧騒はさらに増していく
「よっし!皆、迷宮ダンジョン遠征ご苦労さん!!今日は宴やから、無礼講や!!」
エセ関西弁が特徴の【ロキ・ファミリア】主神のロキが乾杯の音頭を取る
【ロキ・ファミリア】の宴会は彼女の音頭から始まる
「よっしゃあ!アイズ!そろそろ例のあの話、皆に披露してやろうぜ!」
この声はヴェートさんだっけ、顔までは一致してないけど常連でもある【ロキ・ファミリア】の1部は声と名前くらいは一致してる
特にベートさんは中でもよく声の通る方だからこそよく覚えている
「あれだって!帰る途中で何匹か逃したミノタウロス。最後の1匹お前が5階層で始末したろ?」
ミノタウロスが5階層まで逃げたのか・・レベル2相当だから【ロキ・ファミリア】の団員たちなら問題なく倒せるけど5階層はまだ序盤だからレベル1や2の冒険者と当たった日には目も当てられないな・・
とはいえ、【ロキ・ファミリア】の人達の手から逃げられるミノタウロスの方が凄くない?
「そんでその時居たトマト野郎!いかにも駆け出しのヒョロくせえガキが逃げたミノタウロスに追い詰められてよう!そいつ、アイズが細切れにしたくっせえ牛の血を浴びて真っ赤なトマトみてえになっちまったんだよ。」
あまり気のいい話じゃなかった
駆け出しのレベル一がミノタウロスから助けられた。まとめればそれだけの話だけど、どうも気分が悪い
自分達のミスで冒険者が1人死んでしまった
それを回避出来たのだ酒場の笑い種になるくらいならまだいいのかもしれない
それでもこの喧騒だけはどこか好けなかった
「それでよ、そのトマト野郎叫びながらどっかにいっちまってぇ。うちのお姫様助けた相手に逃げられてやんの。ハッハッハ、情けねぇったらありゃしねぇぜ。」
酒が回ればベートさんが1人喋り始める
「ゴミをゴミと言って何が悪い。アイズ、お前はどう思う。例えばだ俺とあのトマト野郎ならどっちを選ぶってんだ?おい!」
胸の中のモヤがどんどん覆いかぶさってくる
いけないいけない、抑えないと抑えないと・・・
「自分より弱くて軟弱な雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありゃしねぇ。他ならないお前自身がそれを認めねぇ!雑魚じゃ釣り合わねぇんだ。アイズ・ヴァレンシュタインにはな!」
ガタンッ
勢いよく椅子が引かれる音がし、誰かがかけていく音がする
その時、何かが吹っ切れた音がした
やっぱりこの喧騒だけは好きになれない
先までの酒場の喧騒が嘘のように鎮まっていく
「ちょ、ベル!抑えて抑えて!」
ルノアさんに言われてハッと我に返る
それでも一度鎮火された喧騒に再び火が点ることは無い
「はぁ…しょうがない子だね。ベル、あんた様子を見てきな金は明日までに返せって事もね。ほら、さっさとしないとみうしなっちまうよ。」
遠回しに頭を1回冷やしてこいと言われてる
無理もない、火種はあちらにしろ酒場を白けさせたんだ。怒りはしないにしろこのま待って訳にも行かないだろう
「分かりました。失礼します。」
2階に掛けておいたフードを身にまとい裏口から出て追いかけていく
ここで、自分が当の本人に心当たりがないことを思い出す
「とは言ってもこのまま帰る訳にも・・・・」
それでもただ1つ確信に近い心当たりがあった
・・・・
ダンジョン6階層、そこでとある冒険者を見つけた
そこで彼は単身、ナイフを片手にウォーシャドーと戦っていた
そこに怒りはなく、ただ悔しさに駆られるままに自分を突き動かしていた
ダンジョンで獲物の横取りは御法度
という訳では無いけど何故か手助けをする気にはなれなかった
詳しくは分からない
ただ、彼と出会うのは
大丈夫、彼はまだ死ぬことは無い
またいつか、会えるその日まで
・・・・
「すみません、ただいま戻りました!」
「やっと戻ってきたニャ!流石に早くもどらニャいとてんてこ舞いニャ!」
「は、はい!」
フードを元の場所にかけ、手洗いを済ませてからまた裏方の作業をこなしていく
「ベルさん、彼の状況はどうでしたか?」
シルさんがこちらを覗きながら質問してくる
「彼って白髪で赤い目の?」
「はい。さっきベルさんが追いかけていったあの子です。」
「あの子ならまだまだ伸びそうですよ。」
「ベルさんがそう言うなら確かですね。安心しました。」
「そんなことよりシルさん、そろそろ戻らないとミアお母さんに怒られちゃいますよ?」
「あ、いけない。それじゃベルさん。またお話聞かせてくださいね。」
少し、今後の楽しみが増えた気がする
ベルにヒロインは
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いる
-
いらない