星獣絶唱 シンフォギンガ 作:ロヒシ&かづ えい子しょうゆ味
かつて、この
それから幾星霜の時が流れ、人々の記憶から、歴史からそれらが消え去ってしまった。
この物語はその時代から始まる。
「響〜、未来どこにいるって?」
片側の髪を編み込んだ黒髪の少女が電話をかけている癖っ毛の少女に声をかける。
「うん。それが親戚のおばさんが怪我をしてそのお見舞いに行かなきゃいけないから来れないって……」
「えっ、そうなの⁉︎このライブのチケット、未来が用意してくれたのに……」
「さやちゃん、どうしよう?」
「ん〜、せっかくだし観ていこうよ!なんか今日のライブ凄い人気らしいよ!ネットでプレミアついてるとか言ってるし」
都内臨海区に新しく建造されたドームの前で大勢の人間が列を成していた。
今日、この場所では今人気のトップアーティスト『ツヴァイウィング』のライブが行われるという事で10万人を越える人々がライブの始まりを今か今かと待ち侘びていた。
そんな中で、幼馴染みであり友人の小日向 未来に誘われて会場にやって来ていた黒髪の少女、立花さやと癖っ毛の少女、立花 響のの2人は生まれて初めて観るライブにどこかそわそわしていた。
*******
ドーム内のとある場所では、ライブスタッフが東奔西走している。
そんな中、白いローブを羽織った青髪の少女が緊張した面持ちで椅子に座っていた。
「真面目が過ぎるぞ翼」
ライブへの不安から手が震えている少女、風鳴 翼の背後から赤毛の少女、天羽 奏がそっと抱きしめて声をかける。彼女達2人が今日このドームでライブを行うツヴァイウィングの2人だ。
奏の笑顔からチラリと見える八重歯が彼女の明るさを印象付け、翼の手の震えが少し和らぐ。
「奏……でも、今日のライブはとても大切だって櫻井女史が……」
「そうかなぁ〜?翼の不安の原因は、ライブの成功じゃなくて、
と、奏が揶揄うと、翼は顔を真っ赤にして反論した。すると、奏はさらに続けてくる。そのやりとりが暫く続くと不思議とさっきまであった緊張がどこかへ吹き飛んでしまっていた。
(私は、奏や疾風に助けられてばかりだな)
幼い頃からずっと一緒にいる大切な人達に彼女は内心感謝した。
「2人とも楽しそうだな」
と、そんな彼女達の前に現れたのはスーツを着た大柄な赤毛の男だった。
鍛え上げられた身体のせいか少し生地ピチピチしているように見える。
男の名は風鳴 弦十郎、政府機関特異災害機動部二課の司令官を勤めている男だ。
彼らは、今日行われるライブの裏で極秘裏のプロジェクトを行おうとしていた。
今日のスタッフの殆どが彼ら特異災害機動部の職員達なのである。
「翼、今日は疾風がいないが本当に大丈夫なのか?」
「もう、司令まで止めてください!」
またしても翼が顔を赤くして反論するとその場に温かな笑い声が木霊していた。
弦十郎が去り、ライブ開始が目前に迫ると先程まで吹き飛んでいた筈の緊張や不安が再び翼に襲いかかった。
失敗は許されない。今日の結果如何で人類の未来が変わる。そんな考えから再び手が震え出した。
すると、そんな翼の心情を察してか奏が彼女の震える手をそっと握りしめる。
「あんまりガチガチだとその内ポッキリいっちゃいそうだ」
「奏?」
「私の相棒は翼なんだから。翼がそんな顔してると私まで楽しめない」
「うん、そう…だよね。私達が楽しんでないとライブに来てくれた人達も楽しめないよね」
「分かってるじゃないか」
「奏が一緒ならなんとかなりそうな気がする!」
「疾風がいなくても?」
「もぅ、奏!」
ケラケラと笑う奏に顔を赤くして反論する翼。先程まであった緊張や不安がまた彼女のおかげで無くなっていた。
「さぁ、行こうぜ翼!私とあんた、両翼揃ったツヴァイウィングはどこまでも遠くに飛んで行ける!」
「どんなものでも越えてみせる!」
「ハハッ、後はその翼を飛ばしてくれる風がいてくれれば言う事なし!だったんだけどなぁ」
「フフッ、そうだね」
そうして2人は手を握り合い、ステージへと歩を進めた。
******
会場が暗転するとステージがライトアップされ、イントロダクションとともに白い羽が会場内に降り注ぐ。そして、ツヴァイウィングの2人ーー奏と翼がステージ上に舞い降りた。
観客席からは歓声と共に彼らが手に持つサイリウムの光で会場はより一層の輝きを放っていた。
そのキラキラした光景にさやと響の2人は感動しながら、自身も先程物販店で購入したサイリウムに光を灯す。
「凄い!凄いよさやちゃん!」
「そうだね!ライブってこんなに楽しいものだったんだ!」
曲が終わり会場が熱気に包まれる。
その熱気に当てられ、2人は興奮状態でステージ上に立つツヴァイウィングの2人を見つめていた。
ドームの天井が開き、夕陽の光が会場を温かく包み込む。
その時だった。
爆発音と共にその場に黒い塊が砂塵のように舞い上がる。
「の、ノイズだぁーっ‼︎」
どこからともかくそんな叫び声が上がる。
それと同時に大勢の人間が悲鳴を上げながらその場から逃げ出そうとする。
彼らが逃げ惑う先から電子音のような奇妙な鳴き声と共に異形の姿をしたモノ達が姿を現した。
ノイズーー人間だけを襲い、触れた物を炭の塊へと変えてしまう認定特異災害。
このノイズがいつ、どのようにして誕生したのかは解明されていない。
現在分かっているのは、触れた物を炭の塊へと変えてしまう事と、人類の持つ兵器では対処できないという事だった。
その為、人類はノイズが現れると奴らが自然に消滅するまで逃げるしか手段を持ちえていなかったのだ。
「行くぞ翼!この場に槍と剣を携えているのは私達だけだ!」
「で、でも、司令からの指示も無いし、今は疾風も……」
「疾風なら、こういう時なんて言うか分かるはずだ!戦士なら…」
「……力の限り、誰かの命を守る為に戦う」
「あぁ、やるぞ翼!私達2人でもやれるってトコをあの頭でっかちに見せてやろうぜ!」
「響、逃げるよ!何やってるの⁉︎」
ノイズから逃げようとさやは響の手を取る。だが、響はまるで岩のようにその場に固まって動こうとしない。
さやが声を荒らげていると、彼女の耳に歌声が聴こえてきた。
「さやちゃん、アレ……」
響が指差す方に視線を向けると、そこには不思議なプロテクターに身を包みノイズと戦うツヴァイウィングの姿があった。
「何…アレ……?」
槍と剣を振るいノイズを蹴散らしていくツヴァイウィングの2人の姿にさやと響は見惚れてしまっていた。
燃えるような夕焼けを背にノイズと戦う奏と翼。その姿が、歌声が、まるで芸術作品のように心に刻まれる。
だが、そんな悠長な事をしている場合ではなかった。
突然、2人のいた場所の足場が崩れ、2人はノイズが蔓延るアリーナ内に投げ出されてしまう。
すると、2人の存在に気づいたノイズが彼女達に向かってきた。
そこで初めて2人は自らの死を意識する。
死にたくない!誰か助けて!そんな思いが頭の中で巡り回る。
その時、奏が2人を守るようにしてノイズの前に立ち塞がった。
「逃げろ!」
その言葉にいち早く我に返ったさやが響の手を取り逃げようとする。
刹那、その手が勢いよく振り解かれた。
ノイズの攻撃で吹き飛んだ奏の纏うプロテクターの欠片が響の胸元に突き刺さり、その衝撃で瓦礫に叩きつけられたからだ。
「響!しっかりして、響⁉︎」
倒れた響に駆け寄るさやと奏。
身体からどくどくと血が流れ、響の瞳から光が徐々に失われていく。
「おい、しっかりしろ!生きるのを諦めるなっ‼︎」
奏の声に一瞬、響の瞳に光が灯った。それを見て安堵する奏。だが、このままでは確実に彼女は死んでしまうだろう。
ノイズから人々を守る為にはアレしか手は残されていない。奏は決意を胸にノイズ達の前へと足を踏み出した。
「いつか…心と身体、全部空っぽにして思いっきり歌いたかったんだよな……今日はこんなに大勢のお前らがいてくれるんだ。だから私も出し惜しみなしでいく。とっておきのをくれてやるよ……絶唱を」
「いけない奏!歌ってはダメッ‼︎」
「翼……疾風によろしくな!」
そう言って歯を見せて笑顔を作ると、奏は歌を口ずさんだ。
(ホントは、
そして、悲しげな歌声が会場に響き渡った。
さやは、彼女の手を握り、必死に呼びかけた。
幼い頃から姉妹同然に育った。そんな自身の片割れとも呼ぶべき彼女を失うかもしれないという底知れない恐怖がさやを襲った。
(お願い神様……響を、私の大切な家族を助けてください……!)
その時、不思議な事が起こった。
さやと響の周りを温かな光が包み込んだ。まるで2人を守るようにして……
(何…これ……?)
その光はまるで花びらのようにしてさや達を包み込んでいた。さやはこの世のものとは思えぬその不思議な光景を目にすると、その意識は徐々に遠のいていってしまった。
つづく
次回予告
ライブの惨劇から2年後、さやと響は高校生となり、リディアン音楽院に通っていた。
だが再び、彼女達の前にノイズの魔の手が襲いかかる。
「へいき、へっちゃらだよ!」
大切な人を守ろうと願う少女達。
その時…
「ガングニールだと⁉︎」
ついにソレは目覚めた。
「アースだと⁉︎」
次回、星獣絶唱シンフォギンガ
第二章 『伝説の鼓動』
今、伝説の一ページが刻まれる。
夜に3回目の投稿を予定しております