テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!   作:たっさそ

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第28話 由依ー夢幻牢獄2 後編

 

教室に到着した。

 

「おはよー由依ちゃん。」

 

 

「おはよー、シノちゃん」

 

 

 予想通り、無機質な挨拶。

 この世界がおかしいのではなく、現実にいるみんながおかしい。

 

「全然話し声が聞こえない………」

 

 自分の教室の人間は本当に最低限度の挨拶をするだけ。

 

「ええっと、タエコちゃんは………………?」

 

 

 またこの世界にきた時にするべきこと。

 

 タエコちゃんの存在の確認。

 

 教室を見渡しても、タツルはいないし、タエコちゃんもいない。

 

 

「タエコちゃんの言った通りだ」

 

 

 タエコちゃんは、精神だけこの世界にきている状態であれば、学校に姿を見せないのではないか? と推測を立てていた。

 

 学校生活を普通に送るようにプログラムされた人形ではなく、

 精神だけ抜き取られたタエコちゃんは、複雑な技術を要する妖術で人に化けることができない。

 

 NPCのような人間を作るプログラムだか操作だかは知らないが、人に化けているタヌキであるタエコちゃんにはそれだけでは足りないのだろう。

 

「おはよー! おはよー! おはよーさーん! みんなどんな夢見た? あたしはみんなとひと月以上異世界に行く夢をみたよー?」

 

 と、そこで現れたのは他のみんなとは違うテンションで現れた白石響子(キョーコ)

 

「おはYO響子」

 

「あれあれ? どうした太郎、なんだかキレが悪いぞ太郎。お前さんはあたしの夢の中でもキレキレのラップを披露してカッコよくチェケラしていたぞ太郎!」

 

「おはYO響子」

 

「どうしたんだよ太郎、貴様壊れたラジオか?」

 

「俺も俺も」

 

「おっと、鉄太! 貴様は今何に便乗しているんだい?」

 

「俺も俺も」

 

「なんか言ってよ………鉄太………」

 

「俺は誰だ?」

 

「いつもと変わらないお前は誰なんだよぉ………………! いつもと変わらない俺は誰だにちょっとホッとした自分がいるよぉ………! 帰ってこれたんじゃないのかよ………………! なんでみんな、そんな変な感じなんだよ………!」

 

 

 クラスメイトに話しかけては絶望する響子

 

「あたしはいったい、どこに迷い込んだんだ………?」

 

 

 

 明らかにおかしい。

 このクラスメイトみんなの自我がないような世界で、キョーコが初めて自我を持っている。

 

 

 私がキョーコに話しかけようとしたところで、私のスマホがテンテケテケテケ♪と音を鳴らした。

 

 

 画面に表示された名前を見て、私は慌てて電話に出る。

 

 

「タツル!!」

『おー、由依。今どの辺?』

「学校! すぐに来て!」

『り。待ってろ。超特急で向かう。』

 

 

 タツルだ、タツルがこの世界にいる!!

 私が目覚めた時にはいなかったけど、おそらく時差がある。

 

 タツルが気絶したのか眠っているのかはわからないけれど、タツルが来てくれた。

 

 この、気持ちの悪い世界に。

 

 

「由依!? 由依はフツーだ。いつもの由依だ! ねえ、ねえ! みんなどうしたの? みんなはなんで上の空なの!? あたしがおかしくなっちゃったの!?」

 

 

 私の電話を聞いた響子が私に話しかけてくる

 

 

「キョーコ。キョーコは昨日何してたかわかる?」

「昨日、昨日は確か、えっと、修学旅行の自由時間の班決めで、たしか俊平ちゃんを取り合って………そしたら」

「よく聞いて、それこの世界だとおとといの話だよ。記憶が混濁するのもわかる。夢から覚めたんだよ。みんなが異世界に召喚されてから2日目。 異世界に召喚されてからしばらくたったけど、時間の進み方がめちゃくちゃで向こうで何日過ごしても、こっちでは数日だけしか動いてない」

 

「由依、なんで、あたしの夢の話がわかるの?」

 

 不安そうに聞く響子。

 

「みんな一緒に異世界に行ったからだよ。」

 

 

 安心させるようにそう答えた。

 その時だ。

 

「待たせた、由依!!」

 

 タツルが廊下から走ってこの教室に飛び込んできた。

 いくらなんでも早すぎる。

 近くにいたのかな?

 

「おはよー樹」

「おはよー」

 

 佐之助が無機質な挨拶を行ってタツルを迎え入れるが

 

「なるほど、たしかにみんな人形みたいだな。挨拶を返すプログラミングされた生き物だ。」

 

「樹!? 樹も普通だ、よかった………みんながおかしくなっていたわけじゃないんだ………!」

 

「響子か。お前があの世界で見た最後の光景ってどんなだ?」

 

「えっと、樹も同じ夢を見たってことだよね………? 迷宮から脱出するために瑠々やさくらと固まってたんだけど、突然背中から胸に激痛が走って、胸から手が生えてた気がする………」

 

「リビディアに殺された時のものだな。となるとやはり、向こうの世界からの脱出に必要なのは、向こうの世界で死ぬこと。」

 

「えええええ!!? キョーコ死んじゃったの!? 私が気絶している間にいったいなにがあったの!?」

 

「ええー! やっぱりあの時、私死んだんだ! 最悪だ、きっと著作権となろう規約に殺されたんだ! 替え歌なんか歌ってるからだ! うぁーーーーーん!!!」

 

 泣くところそこなんだ!

 

「こんなことなら雛祭りの歌とか正月の歌とかでドカンと一発アフロ頭にしたり餅喉に詰まらせてオンボロ救急車でピーポーさせてやったりすればよかった!」

 

 後悔するところもそこなんだ!!

 

「由依、響子。説明してくれ。みんなが亀裂に落ちてから、何があった?」

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

「なるほどね、それで由依はドラゴンに吹き飛ばされて気絶を」

 

「うん。だから私が覚えているのはここまで。」

 

「なるほど。安心しろ。由依はまだ生きている。たぶん、由依は夢を見ている状態なんだと思う。みんなで瓦礫から由依を発掘したところだ。」

「発掘て」

 

 タツルらしい表現に、クスリと笑みが漏れる。

 絶望的にならないような配慮だったんだと思う。

 

「響子、続きを」

 

「うん。赤城くんに蹴り飛ばされた俊平ちゃんが漆黒竜に食べられちゃって、そしたら急にあの竜が爆発して………………ねえ、あれって………………?」

「ああ、俊平のアビリティである<自爆(ディシンテグレイト)>だろうな」

「やっぱり………。そのあと、押し寄せてきた魔物から逃げようとしてたら、後ろからこう、ぐっさりと」

 

 胸を抑えるキョーコ。

 

「ぐっさりと言う割には貫通していたけどな」

「痛かったなぁ………。」

 

 ひとまず、タツルがいない間に何があったのかは把握してくれた。

 

 

「樹はなにしてたの? 一人だけ亀裂から避けたみたいだけど」

 

「ああ。お前らが邪淫のリビディアと戦っていたのと同じで、俺は俺で妄語のデリュージョンってのと戦ってた。響子と同じ言霊使いの厄介なやつ。頭が弱かったから倒せたけど、傷つけてもすぐに治されたし、剣でも魔法でも音でも傷がつかんくなるし、アビリティの封印のしかたがわからなかったら詰んでたまである。」

 

「うへぇ、タツルよく倒せたねそれ。やっぱり言霊使いって反則級だわ」

 

「そんで、みんなを逃すために先行した田中と合流して、ロープを垂らした後、人員も揃ってきたところで俺が迷宮に飛び込んで由依を助けに来たってところだ」

 

「うっは、イケメンムーブかよー」

 

 なんてタツルを笑い飛ばしてやるが、顔が熱いぜ………ああ、熱い熱い。

 

「イケメンだろ?」

「自惚れんなし」

 

 ゴスっと肘打ちしてやった。

 

 

「ところで、あたしは死んだからこの世界に戻ってこれたんでしょ?」

「ああ。そうなるな」

「竜の中で自爆した俊平ちゃんは?」

「俊平は………あそこだな」

 

 

「おはよー雄大くん」

「ああ」

「おはよー光彦くん」

「ああ、おはよう緑川」

 

 

 登校してきたクラスメイトたちに挨拶を繰り返すマシーンになっている。

 

「不気味なまんまだね。ってことは、俊平ちゃんはまだ向こうの世界で生きているってこと? あの爆発で!? あたしが死亡者の第一村人ってこと?」

 

「まあ、そういうことになるな。」

 

「まじかー! あれ? だったら、由依と樹はどうしてここにいいるの? 二人とも死んだってわけじゃないんでしょ? 話ぶりから察するにさ」

 

 ショックを受けつつも冷静な思考で私とタツルを見たキョーコ。

 

「キョーコ、私と樹のアビリティって覚えてる?」

 

「ええ? 確か夢を見る能力だって言ってたよね?」 

 

「うん。だから、私は向こうの世界で夢を見ている状態だと思う。そう長くは話せないかも」

 

「そう、なんだ………。あたし一人だけのクラスなんて、ちょっと耐えられないな………。」

 

 

「俺の方は、瓦礫に埋もれた由依の捜索をしていたところで、ゆいに触れた瞬間にこの世界にきていた。なんか俺の夢現回廊と由依の夢幻牢獄との回路がうまいことつながったのかもしれない。同じ系統の能力だし。」

 

「そんなことがあったんだ………。でも二人が戻ってこれたのって、やっぱり夢だからでしょ? 他の子たちはあの世界で死んじゃったりしたら、戻れるってことにならない?」

 

「そうだね。死んじゃったりしたら、たぶん、この世界に戻ってこれると思う。」

 

 と、推測ではあるがそう答えた。

 キョーコが死んで、この世界での意識を取り戻した、ということは、つまりそう言うことだと思う。

 

「だったら、向こうの世界でクラスメイトと先生を皆殺しにすれば!」

 

「こっちで目が覚めた時にめちゃくちゃ険悪になりそうだな………」

 

「うがぁあああああ!!! ごめん、私最低なこと言ってる! 死んでこの世界で目を覚ました私からすれば、みんな早く死んでよと言いたい。でも、ぅううううう!!!!」

 

 あの夢幻牢獄からの脱出条件は、死ぬこと。

 だからといって、それが本当だと今異世界で生きているみんなが信じる訳が無い。

 全力で抵抗されるだろう。

 

 死ねば解放されるというこのクラス転移の条件が加わっても、当事者にとっては状況は最悪であることは変わりない。

 

 私ならば、そんな話は到底受け入れられないし、信じられない。

 説得は不可能だろう。

 

 タエコちゃんも、話せば判断の材料にはするだろうが、信じることは絶対にない。

 それが情報屋だから。

 

 死ねば解放………。それをどうやって信じさせるか………。

 

 

 

 

 





次回予告
【 夢現回廊1 前編 】

お楽しみに

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