テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!   作:たっさそ

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第35話 樹ーよくある敵の寝返りは信用できない

 

みんながキャンプ地へと向かっている間に、俺は妙子と二人でデリュージョンの前に立った。

 

「俺、尋問苦手だけど、妙子は?」

「得意というわけではないが、ある程度は。最初は爪かのう」

 

 うへえ。やっぱヤクザだわ。

 

 ひとまず木にくくりつけられてクラスメイト達の体重をかけられていたデリュージョンの縄を緩め、ある程度血が通うようにはするが、手足は縛ったままだ。

 

「おい、起きろ」

 

 バシッとデリュージョンの頭を引っ叩く。

 容赦?  するわけねえだろ。こっちを殺そうとしているやつだぞ。

 

「うぅ………」

 

「起きたな、デリュージョン。」

 

「う、お、お前は………」

 

 目を覚ましたデリュージョンは、俺の姿を見て怯えたように後ずさる。

 能力を使おうとしたらぶん殴る準備はできている。

 

「名乗ってないから知らねえだろ。お前は名前も知らないやつにやられたんだ。残念だったな。お前を倒した奴の名前すらわからなくて」

 

「………ぐぅう」

 

「この大陸に来た目的を答えろ」

 

「誰が教えるもんか………!」

 

 強がるデリュージョンの縛られた手を掴んだ俺は、その細い右手の人差し指の第二関節を横に曲げる。

 ポキっと音が鳴る。

 

「ああっ!」

 

 折ってないよ。音の鳴らし方を知ってただけだ。

 ちょっと痛いけどね。

 

 

「もう一度言う。この大陸に来た理由は?」

 

「………だれが」

 

ーーベリィ!!

 

 

 妙子が右手の人差し指の爪を剥いだ。

 

「 あぁああああああああああああああ!!!!!!!!! 」

 

「早く言わないとお前の指が丸坊主になっちまうぞ、次は爪があった場所をつまんでグリグリしてやる」

 

「ぐぅうううううう!!!」

 

 

 睨みつけられてもな。どうせこいつ動けないし、好きにしちゃうよ俺は。

 陵辱系は好まないけれど、クラスメイトに手を出されて黙ってられるほどピュアな心はもってないんだわ。

 

「目的は………勇者の視察………」

 

 よし、口を割った。

 

「誰の指示じゃ?」

 

「魔王様だ」

 

 即答だった。

 爪の効果ってすごいな。

 

「魔王の名前は?」

 

「キュウビさまだ!」

 

「なんだその明らかに狐っぽい魔王は?」

 

「由来なんか知らない! ボクが幹部になった頃にはすでに魔王だったぞ!」

 

 ふーん。

 

「らしいけど、妙子、因縁のある狐に心当たりは?」

 

「………。ないわけではない。確証はないが、あやつならば魔王になってもおかしくはないな」

「勿体ぶらないで教えて欲しい。あやつって? 妙子の部屋にあった新聞の切り抜きと関係ある?」

「なぜそれを!? いや、先ほどの由依の夢か。」

「分福ヱリカさんにも協力してもらって、妙子の本体はヤクザの事務所に置いてある」

「………なるほど、助かったな。礼を言う。由依の夢も信憑性がでてきた。その話はあとじゃな。ワシの心当たりは、古い馴染みのワシのライバルじゃった、咲子(さくこ)じゃな。ワシがヤクザをまとめとった時に自警団を組織しよってからに。いつもワシの邪魔ばかりしておった。昔はよく殺し合ったもんじゃ。」

「おっと、昔を懐かしむおばあちゃんの目だ。のほほんと殺し合ったことを語っているけど、ライバルであっても嫌いではないらしいな」

「まあ、互いに狐と狸の総大将じゃったからな。引くに引けんところまできたんじゃが、数年前に急に咲子が行方不明になってのう。狐狸戦争も冷戦状態が続いておる。あの新聞の切り抜きは咲子の行方を知るためのものじゃ。」

 

 なんかよくわからないけれど、妙子は妙子で背負うもんがあるらしい。

 日本に残してきたもの。妙子は相当あるはずだ。

 

 すぐにでも戻りたいはずだ。

 

「まさかこの夢幻の世界で九尾の名を聞くことになるとはのう………。」

 

 しかし、予想外のところからの手がかりらしきものに妙子も困惑中だ。

 

 テンプレからすると、妙子を主要人物とした場合、ほぼ間違いなく魔王は妙子のライバルの咲子だ。

 俊平が相手するものではないな。

 

 強キャラの因縁は強キャラしかありえない。

 狸のライバルなら間違いなく狐。

 それは古今東西決まっていることなのだ。………いや、言いすぎた。アジア圏だけだわ。

 

「魔王の目的はなんだ?」

 

「ボクが知るわけないだろ! きっと魔人以外を皆殺しにしたいんだよ! この世界全部魔王様のものだからね!」

 

 ほむ。魔王の目的は不明だが、土地が欲しい、魔人以外が嫌い。とかいろいろありそう。

 だがもし、咲子がこの世界に迷い込んでいる化狐だとしたら、九尾の名を轟かせるのは、わかる人間へのSOSなのかもしれないな。

 

「デリュージョン。仲間の能力を言え。五戒魔帝の能力だ。嘘言ったら拳が飛ぶ。ちゃんと答えてくれたら長生きできるぞ」

「ひっ! わ、わかったよ!」

 

 

 そんで、デリュージョンからは無理やり情報を絞り取り、絞り取り、聞くことがなくなるまで絞ったところで、俺はデリュージョンの首を刎ねた。

 

『お前たちは元の世界にいる』って嘘ついてもらおうかとも思ったけど、天秤に掛けたら裏切られる可能性の方が高そうだったからやめた。

 

 言霊使いを生かしておいてもいいことないからな。

 

 ボクっ娘だったら味方に引き入れる?

 なろう主人公ならそうなんだろうさ。

 でも残念ながら俺はテンプレバスターだ。そういうテンプレはブレイクするに限る。

 

 

          ☆

 

 

「………………。なかなか有益な情報だったと思う。」

「………そうじゃな。魔人をまとめあげるカリスマ。九尾という名前。ほぼ間違いないじゃろう。ワシが探しておった人物こそ、魔王かもしれぬ。これではしばらく帰れぬな」

 

 そりゃあ狐の総大将を務めているくらいだったらカリスマくらいないとやってられないよな。

 

「付き合うよ。実はもう俺以外のみんなが元の世界に帰る手段はわかってるんだ。」

「ほう? なのにむざむざ響子と俊平を死なせてしまったと言うのだな? それは怠慢じゃぞ。」

 

 こちらを睨む妙子。

 そんなドスの効いた声でこっちを睨まないで欲しい。

 俺の心臓がキュってなる。

 

「さっき現実世界に戻る由依の夢に入り込んでしまった時にわかったんだ。響子は生きてる。元の世界に帰ったんだ。どうやらこっちの世界で死ぬと元の世界に戻るらしい。証拠も録画してある。」

 

 そういって、妙子に響子が映る動画を見せる。

 

「………ワシの事務所じゃな。………信じよう。はじめにこの情報をワシにくれたこと、感謝するぞい。」

「情報の使い方は妙子の方が上手いからな。どうする? みんなに言う?」

「………共有するのは田中だけにした方がいいじゃろう。他のみんなには、刺激が強すぎる。今の状態じゃと仲間内で殺し合いがおきかねん。それに、ワシの個人的な理由としても、しばらくこの世界に残らねばならなそうなのでな。味方が多い方が良い。」

「………。了解。苦労かけるね、おばあちゃん」

「若いうちの苦労は買ってでもしろというが、ワシのような年寄りも苦労しておるんじゃ。樹にも頑張ってもらわねばなるまい」

 

 からからと笑う妙子は、目標を見つけた、狩人の目をしていた。

 

 

 

 

 

 





あとがき


次回予告
【 ??? 】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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