テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!   作:たっさそ

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第39話 樹ー無現回廊の進化

 

 響子が死んで、俊平がはぐれて、早半年。

 今日は訓練も無ければ出撃もない。緊急招集があれば応じるが、基本的にはオフの日だ。

 

 俺と田中と由依のいつもの3人でお茶でもしばきながら今後の展開についての会議を行っている。

 緊張感? このチート3人衆に緊張感なんてあんまりないよ。

 

「今頃俊平はハーレムくらい築いているだろうか?」

「闇落ちしてたりしてにゃ」

「中二病フル装備とか? 眼帯、包帯、白髪、謎のマジックアイテム!」

「オッドアイ。義手、指ぬきグローブなんかもな」

「仮面とかもあり得るにゃ! 合衆国ニッポンにゃ!」

 

 あそこまで吹っ切れた中二病のアニメは世の中学生の黒歴史を量産するアニメだよ。

 かくいう俺も、子供のころ由依と一緒にDVD見たときに「すずきたつるがめいじる。きさまはしねえ!」などと言って遊んでいた記憶がある。

 そんな10年以上前のアニメを田中も良く知っていたな。

 

 佐之助がマーキングしているおかげか、俊平の生存は確定している。

 俊平は移動をしているらしい。迷宮の深部に向かって、どんどんと。

 

 さすがにそこまでいかれると、探知の地図はまったく役には立たないが、ひとまず相当遠くの向こうの方に俊平が居るって感じは分かるみたい。

 

 それに、俊平にマーキングが消えれば、死んでいることになるからな。

 俊平が死んだとしても、そりゃあ元の世界に戻るだけだ。もはや一切の心配はしていない。

 

 この半年の間に大きく変わったこと。

 クラスメイトの死を受けたクラスメイトの取り乱しようはすごかった。

 

 一度に響子と俊平を失ったのだ。

 俊平は周りの目を見て、皆のフォローに入ることができるクラスの潤滑油。

 響子はクラスメイトのテンションを上げてくれる発火材として。

 

 その役割を果たすものが居なくなったクラスは、ひどく落ち込んだ。

 

 縁子なんかは、滅茶苦茶寝込んだ。

『これは夢だよね………。嘘だよね………! 俊平君が死んだなんて………!』

 

 起きるたびに絶望して、痩せ細って、俊平は生きているって伝えたくなった。

 縁子みたいな大和撫子が苦しんでいるのを放っておくのは難しい。

 とはいえ、「ごっめーん、この世界は夢なんだー! 響子も俊平ちゃんも生きてるんだわー」なんて言えるわけでもなし。

 

 由依や田中、妙子の献身的な介護のお陰で、縁子は快復に向かい、現在は狂ったように迷宮の魔物を倒してレベル上げを行っているよ。

 

 クラスメイトを死地に追いやるような選択をした光彦の方も、変化があった。

 

 彼はテンプレ勇者らしく、今度こそ間違いは犯さない。そう意気込んで修行に励んでいる。

 

 まあ、なんというか、人は誰だって間違うものだ。気負い過ぎてもいけない。

 俺だってよく間違う。みんなを元の世界に戻すのならば、みんなを皆殺しにでもすれば済む話だ。

 

 でも、それは出来ない。元の世界に戻ったら必ず軋轢が生まれるし、なにより、この世界には妙子の仇敵が居る可能性も出てきた。

 

 戦力不足にはならないように気を付けながら、この世界を攻略しなければならない。

 それが正しいのか、間違っているのか。もはやわからないのだから。

 

 

「とはいえ、響子や俊平がリタイアしたのは影響がでかいな」

「たしかににゃー。死んでも向こうの世界で目が覚めるとはいえ、田中だって死にたくはないにゃ」

「他のみんなは向こうで目覚めることを知らない。だからみんなにとって、こちらでの死は死なんだよね。ちょっとみんなをだましているようで私の胃痛が痛くて寿命がストレスでマッハだよ………」

「由依にゃんの日本語が崩壊したにゃ」

「ほっとけ。」

 

 俊平や響子の死によってもたらされるのは、クラスメイト全体の無気力。

 

 ネガティブ雨女の池田美香なんかとくに落ち込んでた。もう戦争になんか行きたくないと。当然だな。

 引きこもり文学少女の本田美緒だって、部屋から出ずに本ばかり読んでいる。

 

 もちろん、仕事を斡旋してもらって、それをこなしてはいるが、必要以上に戦線に加わろうとはしなくなった。

 

 戦争に駆り出されて、響子のように死んでしまったら?

 俊平のように味方に裏切られてしまったら?

 

 そんな考えが脳裏をよぎらないほうがどうかしている。

 

 俺らは中学生だ。仲の良かったクラスメイトが死んだのに平然としている方がおかしい。

 俺だって響子が死んでいるのを見たときはマジで焦ったさ。

 

 でも、結果的に死んだ方が大丈夫だったことを知ってマジほっとしたくらいだ。

 とはいえ、他のみんなにとっては響子も俊平も死んでいる。

 唯一、佐之助だけが俊平の生存を確信しているくらいだ。

 

 俊平の移動速度が急激に上がったと佐之助から連絡を受けたとき、俊平は何らかの手段で己の肉体の再生に成功している。

 

 おそらくはヒロインか、素敵な回復の泉か、魔道具か。

 自爆のデメリットを打ち消す素敵な何かを手に入れているはずだ。

 

 再び相まみえる時、俊平の姿は大きく変わっている事だろう。

 チビの俊平は、のっぽの俊平になるのか?

 それとも、チビのまま、オネショタハーレムを築いているのか?

 まるでわからんが、もはや俊平が勝手に死ぬことは考えられない。

 

 ………いや、俊平が自爆しても死なないんだったら、どうやって元の世界に帰せばいいんだ?

 

 

 ………。

 

 ………。まあいいや。あとで考えよう。

 

 

 そんなこんなその半年の間に見た夢をご紹介しよう。

 

 一度行ったことある世界に2度目の召喚系の強くてニューゲーム。

 同じ世界をもう一度なぞる逆行系の世界を一つ。

 

 そんで、魔王転生を一つ挟んだから、この鈴木樹さん。大幅なインフレが完了致しました。

 

 魔王転生系の能力があるのとないのとでは能力の性能に差が出来てしまうからな。

 魔王転生系の能力。それは………『努力なんかしなくてもとりあえず最強』ってところに焦点が当たる。

 

 その魔王転生の能力の一つに、相手の魂をぶっ壊す<輪廻破壊>。という能力があった。

 天国も地獄も冥界もない。輪廻転生もクソもない冷酷無比なやつ。

 

 

 そんでよ? 俺のステータスは基本的に夢の世界の能力を反映しないじゃんか。

 にもかかわらず、この輪廻破壊はスキル<漏尽通>として俺のステータスに出現した。

 

 おやおや? どういうことかねこれは。 経験がスキルとして生える事があるのは姫様から聞いていたが、俺も由依と同じようにスキルが生えるとは。

 

 漏尽通ってのはたしか、仏教とかで使われる、菩薩とか仙人とかが持つ超能力。

 いわゆる<神通力>という能力に由来している。

 

 神通力ってのは基本的には6個の能力。

 

 神足通|(テレポート)

 天耳通(超地獄耳)

 他心通|(サトリ)

 宿命通(自分の前世がわかる)

 天眼通(他人の前世がわかる)

 漏尽通(輪廻の輪から抜け出したことを知る? なんか一番よくわからん能力)

 

 

なんで知ってるのかって?

厨二病発症してた小学生の頃めっちゃ調べたんだよ。言わせんな恥ずかしい。

 

 

 菩薩と神っていうのは本来は別の物なんだけど、まあここは異世界。深くは掘り下げない。

 俺に<漏尽通>というスキルが生えたのだって、魔王の持つ<輪廻破壊>は神の力にも匹敵するんじゃないか的なふわっとした理由で出現したのかもしれない。

 なにせこの世界はテンプレに満ちたなろう作家が考えそうなよくある世界だ。詳しい現象なんか知らんがふわっと奇跡が起きたりするもんだ。

 

 とはいえだ。ここから本題。

 スキルを扱う項目に<通力>というのがある。

 

 おやおやあららー? なんだか<神通力>と似ていますなぁ。

 

 この世界はどうやら神様の力を借りることに深い意味を見出している。

 俺たちをこの世界に召喚したお姫さま。ミシェルの話によれば「神様から力を借りて樹たちを召喚しています」とのことなので、神様の力=通力ってのはけっこういい線いってるんじゃないでしょうかねえ。

 

 <漏尽通>なんてスキルが手元にあるってことはさ、俺、神様に片足突っ込んだんじゃね?

 

 神様の力。通力。己の体の中に巡る、神の力。輪廻を司る<漏尽通>

 これ、うまいこと使えば、皆殺さずに元の世界に返せるんじゃね?

 

 【通魔活性】のお陰で、通力を自由に動かせるようになってきている。

 前よりも能力が成長しているとしたら………。

 

 俺は魔力と通力を己の身体で練り上げる。

 

 

「タツル、なにしてんの? また突拍子もないこと?」

「いいにゃいいにゃ! もっとやるにゃ!」

「おう。俺の夢の力を、なんかこう、うまいことわーっとやって元の世界に帰れたり………」

 

 

          ☆

 

 

―――ピピ(ガンっ!

 

 目覚ましが鳴った瞬間に高速チョップ。

 

 

「あ、なんか帰れたわ」

 

 なんか帰れた。

 

 現在時刻は異世界に召喚されてから3日目。朝。今日は土曜日。

 

 なるほど………ここから推測できるのは、俺か由依がこの世界に戻れば、時間は動き、最後にこの世界に来た翌日の朝からスタートする。

 夢幻の世界に飛べばこちらの世界の時間は基本的に止まる。多分、6時59分あたりで永遠に止まってる。

 

 そういや、起きてるときに能力が発動するってのは気絶した由依の手をつないだ時以来だったな。

 

 俺の能力は恐らく、夢と現を繋ぐ能力。

 現ってのはもちろん地球、日本のあるあの世界。

 夢ってのは当然、いろいろな異世界のこと。

 

 でも、現の世界にいるみんなは、あろうことか精神が抜けている。

 

 たぶん、俺の<夢現回廊(ドリームコリダー)>を使えば、皆の精神をこの世界に引っ張ってくることは可能だと思う。

 

 だけどさ? どうやってみんなの精神をこっちの肉体に定着させるよ。

 精神ってことは、なんというか、霊体というか幽体というか、そういうのが異世界に行っているんだよな?

 

 そのへんも、なんかうまいことわーってやってみるか。

 

 俺、そのへんうまいことわーってやると大抵何とかなるし。

 

 響子は向こうの世界で死んだらこっちの世界の自我が復活した。

 

 となると、俺がみんなの精神をこっちに持ってくることが出来れば、みんなの自我も戻るんじゃね? 的な希望的観測もできる。

 

 うーん、というか、今回のこれも、俺だけがこっちに帰ってこれたのか?

 

 

 近くにいた由依や田中は? もし一緒に触れていたらこっちに連れて来ることは可能だろうか。

 

 自分の能力に自問するが………。うん、なんかできそうだ。

 成長したな、俺の能力。

 

 あいやー………。こりゃあマジでテンプレブレイクできちゃいそうだわ。

 そりゃあそうだよな。

 

 夢と現を生身で行き来できる能力だもんな。

 

 検証はしたい。今この場ですぐに夢幻の世界に戻って、またすぐにこっちの世界に来たら、時間軸はどうなっているのかとか。

 

 こっちの世界の響子を向こうの世界に送ることは可能なのかとか。

 

 響子の死者蘇生イベント………やっちゃう?

 

 ………。ま、その辺は響子の意思に任せてみるか。

 たぶん、俺の力じゃ精神だけを向こうの世界に送ることはできない。

 

 できても俺と同じ現の肉体としてになると思う。勘だけど、能力を使うときって、この勘ってのが大事だからな。

 

 そうなれば、響子もコンテニューができない。やはり推奨はできないな。

 

 となれば、ひとまずヱリカさんのところにいって、妙子のお酒の補充をするのが先決かな。

 

 そのあとは、せっかくまたこの世界に来れたんだし………。

 ヱリカさんに頼んで、夢映しの鏡で俊平の様子とか覗き見ちゃうか。

 

 せっかくの土曜日だ。学校は無いし、抜け殻状態の俊平を呼び出すくらいは出来るはずだ。

 

 

 

 





あとがき


次回予告
【 ひとりじゃ気づけないスキルコンボ 】

お楽しみに

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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