テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!   作:たっさそ

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第56話 俊平ー泣き上戸

 

 

 

『開幕ブッパは基本だ! 派手に決めろ!!』

 

「 ドンッ!! 」

 

 という俊平自身の掛け声と共に、俊平は己の右腕を爆破。

 ドン!! という爆裂音と共に 弾け飛んだ腕と、吹き飛ぶ右拳。

 

「んだ! ひったまげたど、腕が飛んどー!」

 

 ドリンキーは俊平が飛ばしたロケットパンチを槍で弾くも

 

ーーードォオオオオオオン!!!

 

 

 その拳は爆弾なのだ。

 

 拳だけでも漆黒竜に怪我を負わせられる程度には火力があるロケットパンチだ。

 内部から破壊するわけでもなく外部から、しかも切り離された拳では威力に欠けるものの、その爆発は凄まじく、黒煙が舞う。

 

「これでくたばってくれたら僕はとってもうれしいんだけど………」

 

「ちょっしもた! おいどんの槍が壊れ(ガレ)た!」

 

『無傷………。というわけじゃなさそうだけど、さすがは薩摩隼人。とっさに爆風に合わせて飛び退くことでダメージを最小限にしやがった。漆黒竜とは直感力が違うようだな』

 

 

 俊平の拳の爆発によりとっさに危険を感じたドリンキーは爆発を回避。

 槍の破壊と右腕の火傷くらいは負わせたものの、これが動けるデブ。

 

 酔いが回って顔が真っ赤になっているおじさんのくせになんたることだ。

 

 

「ジャニスさんとリリは逃げて!! 」

 

 後ろで呆然としていたジャニスに声を掛ける俊平。

 そのジェスチャーと必死の形相から、言いたいことを汲んだジャニスが、リリを抱き上げて走り出す。

 

 

「おいどんは槍よいもゲンコツの方が得意じゃっど。かわいい(もじょか)顔してるけど(顔ばしとるどん)その頭に(そんびんたに)これをくれてやる(こいばかますでな)

 

 ガランガランと槍を投げ捨てたドリンキーは右拳を握りしめて俊平を睨みつけた。

 

『どうやら相手も拳で闘うみたいだよ』

「接近戦は望むところ!」

 

 俊平も胸の高さで両拳を構えて腰を落とした。

 俊平の腕が再生していることに、一瞬だけ目を見開いたドリンキーだが、にぃっと唇を歪ませ、左手に持つ酒瓶から酒をあおる。

 

 

 そのあまりの隙に俊平はドリンキーに向かって走り出した。

 

「げふっ、慌てんでよかど」

 

 酒瓶を放り捨てると俊平を受け入れる形で拳を引き絞ったドリンキー。

 

『どうやら、水を酒に変えるだけじゃなく、酒飲んだら回復もするみたいだね』

 

 俊平がロケットパンチでつけた火傷は、もはや綺麗さっぱりなくなっている。

 回復する、動ける怪力デブおじさん。

 

 実に厄介だった。

 

 

「やああ!!!」

 

ーーーババムッ!!

 

 俊平が踏み込みの最後に軸足の足首を自爆。

 前傾姿勢の俊平は最後に爆速での加速を行う

 さらに右肘を火傷する程度に爆破することで、俊平は自らの拳を加速。

 速度の緩急さによる異次元のフェイント。俊平の瞬間的に出せる最高速の直突きだった。

 

「ほっ! 早かど!」

 

 その俊平の速度を見切って、その上でドリンキーはその拳が触れるか触れないかのところでスリッピングアウェー。

 首を回すことで簡単に受け流し、そのまま流されるように半回転。隙だらけの俊平の無防備な顎に、左肘のカチ上げが突き刺さる

 

 体の流れる方向さえわかれば、たとえ見なくても腕をあげればそこに顎がある。

 

 

「がぐっ!!!」

 

 そのカチ上げを食らった俊平はのけ反り、視界と思考が歪む。

 

 

 充満する酒の匂いにクラクラするのに加えて、さらに脳を揺らされた俊平は、再生した足首でふらふらと地面を踏み締める。

 

「歯ぁ食いしばりやん!!!」

 

 のけぞった俊平の顔面に、その握り込んだ右拳を、振り下ろすように叩きつけるドリンキー。

 ドグチャ!! と、俊平の顔面が陥没する音と共に、後頭部を地面の硬い岩盤に強打する。

 

 間違いなく致死の一撃だった。

 

 

おつかれさん(おやっとさ)。こいでこん湖ばおいどんが全部酒け()たらキュウビどんもよろこっど」

 

 パンパンと両手の砂を払うドリンキー。

 酔いも冷めないかるい運動くらいにはなった。

 彼は五戒魔帝。魔人の最高幹部の一角。

 いくら多少のレベルがあがった俊平といえど、もともとが運動音痴の俊平がかなう相手ではなかった。

 

『安心して、俊平。君はたとえバラバラになっても死なない。その呪われた肉体は、そういうふうにできているんだ。ほら、ジャニスはもう遠くだ。味方はだれも傷つかない。おもいきり………できるかい?』

 

「う………ん………」

 

 陥没した顔面はすぐに再生する。

 とはいえ、眼球が破裂する痛みは、当然痛いし、鼻が折れて曲がるのも当然痛い。

 朦朧とする意識の中で、俊平は

 

 

「もういやだ………うあ”あ”あ”あ”あ”あ”ん!!」

 

 泣いた。

 

『おい、俊平! とっとと自爆を!』

「もう痛いのいやだよ! 怖いよ! なんで毎回僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだよ! もうたくさんだ! はやくおうちに帰りたい!! ………………ひっく!」

 

『まさか、泣き上戸なのかい、君は!』

 

「くらいのいやだ、怖いのいやだ! 痛いのもいやだ! うあああああああああ!!!」

 

 充満するアルコールの濃度に、俊平の頭もアルコールで蕩けていた。

 酔いの回った俊平の思考はもはや定まらず、痛みにのたうち回り、恐怖で泣き出す、ただの子供がいた。

 

『泣いている場合ではないだろう! 敵が! 幹部が! 殺さなくては!』

 

 

「ばあっはっはっは!! よう生きとったな! おいどんのゲンコツば食らってこげんピンピンしとるとは初めっじゃっど!」

 

『周囲を酔わすこともできるのか………なんて厄介なデバフなんだ!』

 

 怪力に運動能力、動体視力。直感力。

 何をとってもかなわないのは、俊平にとっては当たり前。

 さらに酒の影響でデバフ俊平自身の思考力をも奪われると、それは厄介この上ないものだった。

 

 

「おっ死んでくいやん!」

 

 

 ドリンキーが拳を握ってさらなる追撃を行おうとしている。

 

 ドリンキーの部下らしき魔人たちもやれー! 殺せー! と囃し立てている。

 

『こうなったら一か八か………! 俊平、肉体の主導権はわたしがもらうよ!』

 

「くたばりやん!!!」

 

 ガン! ガン! ゴンッ! と何度も何度も俊平の頭に拳を振り下ろすドリンキー。

 

 

「ぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 一時的に肉体の主導権を得たあおいが、自爆の能力を全力で発動している。

 赤く光り始めた俊平の全身を見たドリンキーは、息の根を止めるためにさらなる拳を振り下ろす。

 

 しかし、振り下ろされる拳の傷は、わずか数瞬で完治していた。

 

「なんだこれ、制御できな………………!!」

 

 

「こやいかん! みんなで逃げろ(よろっで逃げやん)!」

 

 俊平を殺しきれないと判断したドリンキーは、自分の部下たちに逃げるように叫ぶものの

 

 

 

ーーーッッッドォオオオオオオオオオオオンン!!!

 

 

 という爆音にかき消され、もはや考えることさえできなくなり、あとかたもなくなった。

 

 

 ざばざぶん! と、そのクレーターに、エデン湖の水が侵入する。

 この日、エデン湖の形は大きく歪み、まるで瓢箪のようになったとか。

 

 

 

 

 

 

 





あとがき


次回予告
【 独白 】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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