テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!   作:たっさそ

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第57話 あおいー独白

 

 

 わたしの名前は小暮あおい。

 わたしが日本にいたのは、数百年も前の話だ。

 あの頃の私は、読書が好きで、少々歴史が好きで、特に幕末が好きで、いろんな知識を貪るように集めた、ただの小娘。坂本龍馬や西郷どんに興味があったから、なんとなく鹿児島弁のことも勉強してみただけだ。

 

 あれは高校2年生だった。

 

 クラスメイト全員、まとめて召喚されたのだ。

 

 初めは戸惑った。

 

 次にワクワクした。

 

 自分はどんな能力だろうか。

 

 魔法とか使えるだろうか。

 

 だが、現実は無情だった。

 

 言語もわからない場所で、まずは日常会話レベルの大陸の言語の習得から始まった。

 

 なんとかリスニングだけなら少しわかるようになってきた頃

 

 ステータスプレートなるものを渡された。

 

 そこで分かった事実は、わたしは、魔法らしい魔法がほとんど使えない。

 完全にアビリティに依存しているアビリティ特化型だったのだ。

 

 その点、俊平も同じだった。

 

 わたしは、再生の能力を持っていた。

 基本的には自分にしか作用しない。呪われた能力。

 

 この能力は、死なない、という特質を持っていた。

 

 腕を切断されても生えてくる。

 首を切り落とされても、首から体が生える。

 

 ならばと頭を潰されたのならば、頭が生える。

 

 まるでゾンビだ。いや、ゲームならば頭が潰れればゾンビも動かなくなるだろう。

 ゾンビよりも気持ち悪い生き物だったのだ。

 

 

 この世界で生活をしてはたと気づいた。

 

 一緒に転移したみんなの体が、年を取らない、ということに。

 

 理由はわからなかった。

 どうやら、この世界にいる間は不老らしい。

 

 見た目が変わらないだけで老死がありえるのかはわからないが、不老の肉体と<自己再生(シナズ)>のアビリティを持つわたしは、いわゆる『不老不死』………、というやつなのだ。

 

 なんなら、食べずとも生きていられた。

 己の傷が治る速度よりも、通力の回復する速度の方が勝るのだが、飯を食う方が回復の効率はよかった。

 

 いくら傷ついても死なないわたしは、迷宮の探索でこき使われた。

 

 もともとが、文学少女なのだ。身体をいくらか鍛えたところで、わたしは脆弱な肉体しか持っていない。

 

 そんなわたしは、死なないというその特質だけで、斥候役になっていた。

 大陸と大陸を繋ぐ大迷宮。

 

 先頭を歩き進めるわたしは、リザードマンやジュエルタランチュラ、リトルドラゴンやムカデの魔物など、真っ先に攻撃をうける。

 道にトラップがないか、念入りに調べさせられる。

 

 そのトラップで首が刎ねられることもあった。全身を燃やされたこともあった。潰れてミンチになったこともあった。

 でも、わたしは死ななかった。

 

……… 死ねなかった。

 

 死ぬような怪我のたびに、その肉体は無理やり回復した。

 

 いつしか、わたしのココロは壊れていた。

 

 剣を持って剣術を習っても、いくら練習しても、運痴のわたしにはいつまで経っても剣術系のスキルは生えなかった。

 この死なない肉体を持っていても、わたしには、致命的に肉体を動かす才能がなかったのだ。

 

 ミスマッチだ。

 

 ………。わたしとこの能力の相性は最悪だった。

 

 

 この世界に降りて5年は経っただろうか。魔人が大迷宮を通じて人間界に攻めてきた。

 

 理由は知らない。

 わたしたち勇者のリーダーである聖剣使い、雷寺明人(らいじあきと)。彼は魔人の使う魔法やスキルを解析するために、五悪魔帝と呼ばれる魔人の幹部を生け捕りにした。

 

 長きにわたる、人道もクソもない拷問と実験と人体実験の末、明人は魔人と同じ魔法を、スキルを操れるようになっていた。

 

 スキル、というのは、決まった形を決まった型で、決まった結果を出す。

 

 移動系、<縮地>のスキルならば10mの高速移動。

 剣術系、<スラッシュ>のスキルならば横切り。といった具合に。

 

 だが、明人は魔人の技術を盗むことに成功し、<縮地>のスキルで20mのジャンプを可能にし、<スラッシュ>のスキルで連続唐竹割りをも可能とした。

 

 残念ながら、それをするためには魔力が必要で、アビリティ特化のわたしには、絶望的過ぎた。

 

 わたしの魔力は微々たるもので、多少再生のスピードが上がったかな、といった結果だった。

 

 応用で、他人にも再生の効果を与えることができたが、わたし自身の魔力が低過ぎたからか、<聖女>のアビリティを持つ女の子の方が回復役としては優秀だった。

 

 

 わたしは、役立たずだったのだ。

 

 魔人は、迷宮の出口を正確に把握していた。

 各地に現れた魔人を掃討するために出向いたものの、村や街はいつも壊滅的な被害を受けていた。

 

 優秀な戦力は各地に散らし、戦闘に向かないわたしと同じような子たちは、迷宮の探索、地図の作成を行い、魔人の移動ルートの特定を行っていた。

 

 

 そこで、クラスメイトに裏切られたのだ。

 

 

 敵の魔人の幹部、五悪魔帝、殺戮のマリス。彼が現れた。

 

 彼は、私たちのクラスメイトをすでに10人手をかけた、許されざる敵。

 わたしの親友だった子も、彼の手によってすでに殺されていた。

 

 わたし自身も、彼の手によって、何度も殺されていた。

 

 殺されるたびに、わたしは再生していた。

 奴に出会ったら死。わたしはそれを魂に刻み込まれていた。

 

 <自己再生(シナズ)>の能力をもつわたしは、マリスの情報をクラスメイト全員に共有。

 出会ったら全力で逃げろ。そう伝えた。

 

「 わたくしをあなたの仲間にいれてくださらないかしらぁ? 」

 

  だが、彼女、『明柴咲子』が、勇者たちを裏切って、魔人側に付いてしまったのだ。

 

「咲子! キミはいったいなにを!?」

 

「明人には、わたくしは死んだと伝えてもらえるかしらぁ?」

 

「そんなことできるわけないだろう!?」

 

「そぅ………。なら仕方ないわねぇ。そもそもわたくしは人間って好きじゃありませんし………」

 

ーーパンッ! と咲子が柏手を打つと、咲子の肌が褐色に、黄金(こがね)色の髪の毛はそのままに、赤い瞳が妖しく輝く。

 

変化(へんげ)………」

 

「ええ。わたくし、アビリティで変化は得意ですの。なにせ傾国の女狐ですから。」

 

「わかったのである。こちらはお前を受け入れるのである。」

 

 彼の言葉に口元に三日月を浮かべる明柴咲子というその女、私たち人間を裏切り、魔族についた、魔女だ。

 

 彼女を引き留めても無駄だと悟った。

 帰ってみんなに知らせなくては! 

 

 わたしは踵を返して人間族領の迷宮の出口に走った。

 

「どけ小暮!! お前は死なねえだろ! 囮になれ!!」

「そうよ! あなたは私たちが生きて帰れる時間を稼ぐくらいしか能がないんだから! ここに残りなさい!!」

 

 同じように考えていたクラスメイトが、わたしの襟首を掴んで、後ろに引き倒す。

 そう、わたしは、死なない。

 

 死なないからって………。これは、あんまりだ。

 

「がぐっぅう!!」

 

 

 

「我が名は、マーダー・サクリファイス。縮めてマリス。敵は殺すのである。」

 

 そんな声がわたしの耳に届いた瞬間。

 

 スパン!

 わたしの足は切り飛ばされた。

 

 

「あぁああああああ!!!!」

 

 絶叫。いくら再生するといっても、痛いことに変わりはないのだ。

 

 痛いのは、嫌なのだ………。

 ずりずりと、這って逃げようとするも、今度は背中から剣で貫かれた。

 

「ごぶ!! 」

 

 ザシュ!!

 

 と、そのまま縦に切り裂かれ、わたしは脳みそをぶちまけて気を失ったのだと思う。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 再生したわたしが目を覚ますと、そこはすでにジュエルタランチュラの苗床。

 

 わたしの体に、卵を産みつけ、寄生させ、苗床にして、食糧にされた。

 

 

「ああああああがががああぐぅがあがあああああ!!!!」

 

 

 いくら身体を直しても、身体中から蜘蛛が湧き出してきた。

 

 身体中を蜘蛛が這い回る。

 

 

 気持ち悪い。

 

 気持ち悪い、気持ち悪い!

 

 気持ち悪い!!!

 

 

 痒い、痒い、痒い、痒い、痒い、痒い、痒い、痒い、痒い、痒い!!!

 

 

 四肢を糸で拘束されたわたしは、力一杯腕を引っ張ってもクモの糸を千切ることは敵わず

 再生以外のスキルももたず、たいした魔法も使えないわたしには、抜け出すことはできなかった。

 

 

………………………

………………

………

 

 

 どのくらいの時間が経っただろうか

 

 わたしを囮に使ったクラスメイトを呪った。

 人間を裏切った咲子を呪った。

 

 呪ったところで、何もできない自分を呪った。

 

 いつしか、疲れて、何も考えられなくなった。

 

 そのうち、わたしの髪の毛も白く変わり、日の光に当たらない青白いわたしの肌、窪んだ目、頬、希望も何もなくなった。

 

 

「ころ、して………………」

 

 さらにしばらく経つと、わたしは死を願うようになった。

 楽に、なりたかった。

 

 腹を這い回る痛みにもなれ、もはや激痛こそ常になる。

 何も考えられずとも、やはり、痛かった。

 

 ココロが、悲鳴を上げていた。

 

 絶叫するだけの元気が、もうなかった。

 

………………………

………………

………

 

 

………………………

 

………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

………………

 

 

………

 

 

 

 自分が起きているのか、寝ているのかもわからない、今がいつで、どうなったのかもわからない。

 最低でも1年は過ぎているだろう。

 

 もしかしたら10年?

 

 日の光もないこの洞窟では、時間の概念がもはやない。

 体感では1000年は苦痛を感じ続けていたと思う。

 

 

 それほどまでに長い時間であった。

 

 そこで、わたしは光にであった。

 

 

 右腕と右足をなくした少年。

 わたしと同じく、苗床としてここに連れてこられた少年。

 

 ジュエルタランチュラは迷宮中にいる。

 苗床も複数あるだろう。

 

 彼がここの苗床に来たのは、奇跡だった。

 

 糸でぐるぐる巻きにしたところで、足から腕まで、一本にしかならない少年は、わたしの死にたいという心の叫びを聞いて、ボロボロの体で立ち上がる。

 

 あまりにも小さい子供。

 小学生くらいだろうか。

 

 懐かしい、日本の顔立ちに、思わずわたしも声を振り絞る。「ころして」と。

 

 

 彼は、わたしにもたれかかると、優しくささやいた。

 

「ぼく、が………ころして、あげる」

 

 

 ああ、ようやく楽になれる。そう思った。

 

 

「一緒に………死のう………」

 

 

 そう言って彼の体が赤く光と同時に、彼を死なせたくない。そう思ってしまった。

 爆発の直前、わたしのなけなしの魔力を身体にめぐらせ、拙いながらも彼の再生を試みた。

 

 わたしと彼は、ぐちゃぐちゃのバラバラに弾け飛んだ。

 

 

 すごい威力だった。周囲一帯に何も残らないレベルだった。

 

 だというのに、わたしは死ななかった。

 

 この呪われた肉体は、彼の全身全霊をもった自爆でも、滅びることはなかったのだ。

 だが、わたしの願いも叶えてくれた。

 

 ぐちゃぐちゃに混ざり合った、わたしと彼の肉体を、ひとまとめにして再生したのだ。

 髪は白く、肌は白く、再生した肉体は小さく、そしてひ弱だった。

 

 肉体の動かし方も忘れてしまったわたしでは、彼の肉体は操縦できない。

 生きることを諦めていたわたしではなく、肉体のベースはあくまで俊平。

 

 やさしいやさしい、俊平は、わたしにいろんな世界をみせてあげると言ってくれた。

 わたしを、ココロを救ってくれただけでなく、希望を、光を見せてくれたのだ。

 

 

 吊り橋効果だと馬鹿にしたければするがいいさ。

 人恋しいわたしは、すぐに俊平のことが好きになった。

 俊平がどれほどわたしの心を救ってくれたのか、誰にもわかるまい。

 

 

 同一化したこの肉体では、俊平を抱きしめることすらできないというのに。

 

 

 ああ、神様は残酷だなぁ。

 

 せっかく蜘蛛の糸から脱出したというのに。自らの意思で肉体を動かすこともできない。

 

 蜘蛛の糸に絡まれている時と何が違う。

 

 は、はは。いや、景色が、ちがう。

 痛くもない。

 

 俊平の優しさに、気遣いに、ココロが満たされる。

 

 だが、やはり抱きしめてあげることも、寄り添うこともできない。

 

 そういえばこの世界には神様がいるんだったな………。機会があれば、ぶん殴ろう。

 

 

 きっと、その時に俊平と見る景色は、なによりも美しい。

 

 

 





あとがき


次回予告
【 目を覆うけど指の隙間から見るやつ 】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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