葬式は嫌いだけど、死ぬことに躊躇ないオリ主。
そんな彼女に伏黒が告白して。

他サイトに掲載した短編です。

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片想い

 死が嫌い。大切な人と別れなければいけないもの。しかもそれは万人に平等に、突然訪れる。それと一緒にやってくるお葬式も嫌い。黒ずくめの服に眠たい読経。心なんて対してこもってないだろう形式ぶった挨拶と慰めの言葉。その後には飲み会。故人の死を悼むとかじゃなくてただの情報交換の場。思い出を偲ぶなら家で悲しい思いを抱えたままの方がよっぽどマシ。今何してるの、○○さん家の子は出来がイマイチらしいよ、とか仕事でもないのにお酒を注いで回ったりとか。ろくに知らない人と同じテーブルを囲むのも嫌だし、ベタベタ知らないおじさんに触られるのも嫌。それも全て死が運んでくるもの。嫌い、大嫌い。

 

「じゃあ何でこんな職業目指してんだよ」

 

 もっともなツッコミをしてきたのは同期の恵。共に死線をくぐり抜けてきた数少ない仲間の一人。

 

「死ぬ人をね、減らしたいの。病気や自殺とか事故、私が救えないものは沢山あるけど幸いなことに呪霊によるものなら減らせるかもしれないから」

 

 悠仁の考え方に近いのかもね、と付け足す。

 

「俺とは正反対だな」

「そうだね」

 

 正義の味方じゃなくて呪術師だから不平等に人を助ける。正しいとか間違ってるとかどうでもよくて良心に従って人を救う。そう言った恵と救える命は全部救いたい私。正反対の考えの私達はどちらもきっと正しくて間違ってる。本当の正しさなんてわからない。イかれてしまえばわかるのか、それとももうイカれてしまってるのか。

 

「まあでも私は強くないから救えない命も多くあるけどね」

 

 自分の小さい頼りない手のひらを見つめる。高専に来てこなしたたくさんの任務。いくつの命が私の手のひらからこぼれ落ちてしまったのだろう。きっとこれからもこの手からはいくつもの命が落ちていってしまう。でも救える命とこぼれ落ちる命の数はとうの昔に数えるのをやめてしまった。救える命を救うしかないのだから。

 

「お前さ、救えない命と自分の命天秤にかけてるだろ」

 

 さっきまでのトーンとはうってかわった、低くて真剣な声。こうやって妙に勘が鋭いところが恵の嫌なところだよ。何で気づいちゃうかな。

 

「そんなのいつもかけてるに決まってるじゃん」

 

 人が死ぬか、自分が死ぬかの天秤。普通の人からしたら恐ろしい天秤かもしれない。でも人を助けるためにこの仕事をしている私の天秤は当たり前のようにいつも一定の方向に大きく傾く。死ぬ確率がいつも限りなく高い私の命一つで比較的安全な命が救われて、思いもよらない死が減るならそれでいい。

 

「お前いつも自分の命を捨てようとだろ。やばくなった時に一番死ねる位置に行くし」

 

 呆れ腐ったような、困ったような顔。どうしてそんな顔するの。死なんていつも隣り合わせで私達の命の保証なんて誰もしてくれないじゃん。無防備で危険に晒されている命。そうでしょう?それなら死んでもしょうがないよ。

 

「死は嫌いだけど私が死ぬのは平気なの。この職業上死は常に隣り合わせだし。あ、お葬式のプランも自分でもう組んであるしね。遺言書も書いてあるし」

「笑ってやりてえけど笑えねえな」

 

 冗談めかして話を逸らそうとしてもそうはさせてくれないみたいで苦々しい表情は変わらない。そんな表情やめてよ。いつもみたいに放っておいてくれたらいいのに。

 

「私が死んで誰かが生きれるならそれでいいの。もちろん、恵のこともだよ」

「お前が生きてないのに生かされたら夢見悪すぎるだろ。それに」

「それに?」

「言っただろ、俺は不平等に助けるって。誰かとお前が死にそうなら俺は間違いなくお前を助ける。だから毎回任務前に辛そうな顔するのやめろ」

 

 明日の朝日を拝めるかもわからない、そんなあやふやな命の保証をする言葉。任務前に私今日死ぬのかもって考えていたことはバレていたらしい。覚悟をしていたって恐怖が全部顔に出ていたことも。死ぬ覚悟をしていてもしきれない、そんな複雑な私の感情に対してさらっとそんなことを言えてしまう彼に思わず驚きを通り越して笑いが込み上げてきてしまう。

 

「やっぱり恵には敵わないな〜」

「同じ任務に行くこと多いしわかりやすいんだよ」

「こんな時ばっか鋭いのほんと最悪」

「はいはい、辛い顔するお前も死に行くお前ももう見たくないんだよ」

 

 言い終わると同時にぽいっと投げられた銀のネックレス。トップにはシンプルな指輪がついている。一見何の変哲もなさそうな、どこにでもありそうなリングとネックレス。

 

「何これ?」

「お守り。若干俺の血が入ってて、お前が危険になると対の俺の指輪が割れる」

「うげ〜重〜」

「うるせえな。で、これからお前の血を俺の指輪に垂らす」

「痛そう……それに血使うとか加茂さんみたいだね」

 

 そういうと露骨そうに嫌な顔をされる。なんか地雷踏んだかな。赤血操術っぽいから思い出しただけなんだけど。

 

「まあいい、ほら。手出せ」

「痛くしないでよ」

「はいはい」

 

 いくぞ、という声と共にちくりとした痛み。指に針を刺されぷつりと赤い血が一滴現れる。いつのまにか用意されていたおそらく恵用のネックレスに血が落とされ、魔法のようにスッと吸い込まれていく。

 

「こんなもんだな」

 

 そう呟くと同時に淡くお互いの指輪が光り、また何事もなかったかのように光は消え普通のシルバーの指輪に戻っていた。

 

「すごいね呪術って」

「お前だって毎日使ってるだろ」

 

 呆れたように言われたけど私は血気操術を扱えるわけではないから素直にすごいと思う。血を使っただけでべつに赤血操術ではないのだろうけど。

 

「ありがとう。大事にする」

「絶対無くすなよ」

 

 大雑把な私の性格を見越してかしっかりと釘を刺されたところで一つの疑問が頭に浮かぶ。リングだと私が無くしやすそうだからわざわざネックレスになってるんだろう。全部わかられちゃってるな。

 

「でもさ、全員にこんなのやってたら恵大変じゃない?」

「は?!」

 

 久しぶりに聞いた恵の大きい声。それにこんなに表情筋動いたんだってくらいの驚いた顔。野薔薇と悠仁にもこれをするのは呪力的にもお金的にも大変だろうなって心配して言っただけなのにそんな顔する?

 

「……お前だけに決まってんだろ。ここまでしておいてただの同期だと思ってるのかよ、馬鹿」

 

 ただの同期じゃない。頭の中でその言葉がこだまする。ただの同期じゃない同期。つまり、特別?じゃあさっきの言葉も私にだけだったってこと?自惚れていいの?ぐるぐる色んな問いが浮かぶ中彼の顔をちらりと見れば今まで見たことないほど真っ赤に染まっていて。目も合わせてくれないし沈黙したままだけど恋愛関係に鈍い私でもわかる。これはきっと本気だ。ここで私から「恵が好きだよ♡」とか言えれば可愛いんだろうけど生憎そういうことを言える性格じゃない。でもにやにやとこみ上げてくるものを我慢できるほどクールでもない。

 

「愛の言葉とかないの?」

「俺は馬鹿につける薬が欲しいよ」

「ほら?どう?」

 

 がしがしと頭をかいて照れ隠しをしている恵を煽れば急に身体を引き寄せられて、あっという間に腕の中。任務中にだってこの腕の中に入ったことはあるけどそれとは違う優しく包み込む腕。

 

「ムードとか考えろよ」

「今更いらないかなって」

 

 ぐりぐりと肩に顔を押し付けながら意外にしっかりした背中に腕を回せば私の背中にある腕も呼応するように締め付ける力が強くなる。耳元で懇願するように囁かれる言葉。

 

「死ぬなよ、絶対」

「確約はできないよ。でもこんなに愛してくれる恵くんがいるなら生きなきゃね」

「そこは約束しろよ」

「愛の呪いでもかけてくれたら死なないかもね」

「かけただろ、それ」

 

 つけてやるから貸せよと私の手から離れたネックレスは瞬く間に首つけられる。少し短めのネックレスはまるで首輪のよう。首元に宿った呪い。もらったばかりのネックレスをつまんで掲げながらにやにやと見つめる。もらったばかり、できたばかりの生きる理由。突然の命の保証。私だって、不平等に救われていいのかもしれない。

 

「あんたたちそれお揃い?」

 

 肌身離さずつけておけと言われたから学校にもつけていけばすぐに目ざとい野薔薇に見つかる。全部正直に話してもいいけど長くなりそうだしそうすると先生も来ちゃいそうだな、恵はみんなに知られるの嫌そうなタイプだし。なんてぼんやり考えた末、適当に誤魔化そうとすれば横から違う声が真実を語る。

 

「ああ、そうだ」

「何?付き合ってんの?」

「付き合ってる」

「いつから?!」

「昨日」

 

 全部話すの……?と驚いて固まる私と突然のことについていけなくて固まる悠仁をおいて事務連絡のように淡々と話す恵。言いたくないタイプかなっていう私の気遣いに意味はなかったらしい。

 

 騒ぐ野薔薇とやっと戻ってきた悠仁に「どっちから告白したの?」「ちゅーは?!ちゅーした?!」「何て告白したのよ」「伏黒意外と行動派〜!!!」と質問攻めにされて面倒くさくなったのか耐えられなくてキレたのかそこそこ大きめの声でとんでもない一言がおとされる。

 

「何でもいいだろ。俺があいつを好きなんだから」

 

 恵のやってしまった、という顔と「好きなの?!」と扉を開けて叫んでる五条先生。絶対この最初から先生聞いてたでしょ。この言葉が瞬く間に高専内で広まり、事あるごとに揶揄われる未来が見えた気がした。

どうせ広まるならとことん広まっちゃえ。

 

 半分自棄になってわざとガタッと大きな音をたてて椅子を引いて立ち上がる。みんなの注目が集まる中宣言するように机をバシっと叩く。

 

「私も恵が好きだよ!!」

 

 きゃあきゃあと囃す声が聞こえてくるけどバカップル上等だよ。どこまでも広まってしまえ。


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