転生先はブラック鎮守府の雪風でした   作:香月燈火

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なお毎日更新は出来ない模様
もう一つの作品もある程度書ければ随時更新していきます


雪風は愉悦がしたい(プロローグ)
転生先は雪風。性転換した上にブラック鎮守府でした。


 俺の名前は雪波風斗(ゆきなみかざと)

 もとい、舞鶴第三鎮守府(まいちん)所属の陽炎型駆逐艦八番艦雪風という。

 何を言ってるか全く意味が分からんとは思うし、正直なところ、俺にも全くと言ってもいいくらい分かっていなかったりする。

 ただ言えることといえば、既に雪波風斗として生きてきた俺は肉体的に死んでしまっていることと、前世とは全く違う世界で、雪風として生まれ変わり……つまり転生してしまったこと、そしてこの世界が、前世ではゲームだった【艦隊これくしょん】……通称【艦これ】という作品の世界であるということだ──。

 

 

 駆逐艦雪風と言えば、第二次世界大戦から戦後以降を長きにわたって活躍し続けた知る人ぞ知る日本の駆逐艦を思い浮かべることだろう。

 この世界、艦これ世界においてもこれら艦歴においては例に漏れないようで、ただひとつ違うことと言えば、前世と同様戦後数十年が経過しながらもこちらには前世には存在しなかった人類の敵とも言える存在、深海棲艦と言われているものが全世界の海に跳梁跋扈しており、またそれと対をなす存在として、かつての大戦時にあらゆる国々で活躍した軍艦が擬人化した存在……艦娘と呼ばれる存在が居ることだ。

 

 

 まあ、もうこの時点で俺の冒頭の挨拶の意味が理解出来ることだろう。

 そう、俺はこの世界において人ではなく、なんと艦娘として生まれ変わってしまったというわけだ。

 前世では特に紹介する部分もない、強いて言うなら有能な妹を持つだけのただの男が、どういうわけか転生どころか性転換までしてしまったことには最初はびっくり仰天といったものだ。

 しかもよりによって艦娘でも比較的幼い容姿を持つ駆逐艦の中で一際幼げな雪風だ……つるぺたすとーんで見た目の可愛らしさを振りまきながらも快活なボイスは自然な愛嬌を感じさせ、更にはいざ出撃の際には奮激の活躍を見せるギャップにより、上から下までありとあらゆる提督(ロリコン)を虜にしてきた。

 実際俺もその一人であり、ゲーム内ではしっかり指輪まで渡している。

 

 

 とはいえ、やっぱり自分がそれになりたいかと言われると別問題としか言うほかない。

 確かにゲームでも使い所の多かった雪風だが、装甲に関してはやはり駆逐艦というだけあって相当に脆い。

 ゲームでは大破状態で進撃でもしない限りは沈むこともなかったのでそれほど慎重な運用は必要もなかったが、これが現実となると流石に及び腰になるというもの。

 2年前、ここ、まいちんで建造されてからというもの、俺はまともに海に立つことすら出来なかった……。

 

 

 ……なんてこともなく、むしろバリバリの主力艦の一隻だったりするんだよね。

 というのも、俺の意向も少なからず含まれてはいるものの、それ以上にここでは上司である提督に艦娘が逆らうことが出来ないからというのが理由だ。

 なにせ、ここまいちんは俺の前世での艦これネタにはよくあるネタである最低最悪な環境、いわゆるブラック鎮守府だったのだから。

 捨て艦なんて当たり前、典型的な大艦巨砲主義で駆逐艦のような低火力艦は戦艦の肉盾、戦艦や空母の物量で押し切ることこそ正義、そんなことをさも当たり前のように言ってのけるのがここの提督だった。

 もはや毎日のように駆逐艦や軽巡といった軽量艦が沈んでいた以前と比べて多少はマシにはなったものの今でも昨日まで顔見知りだった艦娘が気付けば居ないなんてことは当たり前。

 新造艦なんて1年どころか、大体数ヶ月もつかどうかレベルで沈んでいった。

 そんな中で駆逐艦である俺がここの主力として生き残れているのは、駆逐艦の中でも群を抜いて生存能力や護衛能力が高かったのと、俺自らが提督に嘆願して他の駆逐艦が入る枠を常に入れてもらうための最優先権を貰うことが出来たからだ。

 事実、自慢ではないが、俺が参戦した海戦では普段よりもかなり損害が減っている。

 流石の提督もただ肉盾として連れて行くよりも損害を軽微にした方が良いということは理解しているようで、この優先権についてやその他様々の申し出という名の嘆願を受け入れてくれた。

 上の以前と比べて、というのは、俺が他の沈むかもしれない駆逐艦の出撃枠を掠めとったことで沈む可能性が減ったからだ。

 本来なら戦いを生業とする基礎本能を持つ艦娘がこんな栄誉の横取り紛いなことをされて不満を持たないはずがないのだが、明らかに無茶を超えて肉盾を強要されていることが分かるような出撃には否定的であり、むしろそれを毎度奪っていく俺には同情の視線ばかりが集まっていた。

 もちろん俺の身は一つしかない上に出撃も1編成のみと限ったわけではないのだから気休め程度にしか減ってはいないのだが、減ったことには減ったのだからやはり代わって正解だったとは思う。

 

 

 さて、おかげで毎日生傷と精神的疲労の絶えない生活を送る俺だが、実はこれには仲間を助けること以外に、俺のとある特殊な嗜好も関係していた。

 

 

 本当に、こんなことを唐突に言うのもなんだが、俺は人の不幸というのがとても好きだ。

 付け加えるなら、自分に関係する事柄による罪悪感に付随した絶望感や、それに至る過程の悲哀の感情というものが大好物と言ってもいい。

 つまりは、「俺が仲間の盾になって率先してことをやっているのに、自分は何もやってやれない。それどころか、恐れが高じていざ代わってやることも足がすくんで出来ず歯噛みしている」といった一例こそがまさに俺にとってのご馳走様と言っても良かった。

 これが俗に言う愉悦というものなのだろうか。

 とはいえ、だからと言って俺は取り返しのつかない不幸というのだけは人並みに嫌いだった。

 「身体がボロボロになる」のはまだ良くても、「死ぬ」ところまで行ってしまうと俺とて後悔が先行してしまうわけで、過程の問題で不幸を見るのは良いが、結果としてバッドエンドにまで行ってしまうことはどうしても無理というわけだ。

 その点で見るなら、やはり「人の不幸を代わりに受けることで逆に傷もなく不幸を与えている」のを眺めている今の立場はやはりとても美味しいと言ってもいい。

 ただ、それでもやっぱり痛いのは嫌ではあるんだけども。

 おかげで俺が色々と手を回したおかげで提督からの物理的な暴力や性処理まで全て俺の方に回ってきたからその分の痛みを一身に受けるようになったから痛みにはもはや無警戒になるくらいには慣れてしまったものの、痛いものは痛いのだ。

 俺の嗜好のためでもあるとはいえ、その代償に男に犯されるという屈辱やクズみたいな輩に処女を散らされたのは流石にショックだったよ……。

 

 

 今日も海域攻略のための出撃から帰ってきた俺は、入渠することもなく駆逐艦寮の廊下を歩いていた。

 主力艦とはいえ駆逐艦である俺は戦艦や空母よりも優先度は後回しにされてしまい、その入居時間を鑑みても俺に入渠が許されることはほとんどないのである。

 放置していればずっと回復することのないゲームとは違い、現実世界となった今では一応軍艦の化身である艦娘とは言っても人の身であるから人間と同じ手当てでもある程度の治療が出来るのは幸いだった……今日は上手く小破で済ますことが出来たから、明日にはある程度は万全な状態で挑むことが出来るだろう。

 

 

 まるで人気のない静かな廊下を進み、ついに俺の暮らしている部屋の前にやってきた。

 

 

「ただいま戻りました……」

「雪風!」

 

 

 恐る恐る入ると、俺と変わらない背丈の子によって部屋の中へと引っ張りこまれてしまった。

 不安げに揺れる目で検分するように俺の全身の傷を確認しているこの子は俺とは同室のルームメイトであり、雪風との姉妹艦であり、犬の耳のような特徴的な髪型をした陽炎型の十番艦、時津風だ。

 性格も本来の雪風と何処か似通っていて精神年齢も非常に幼く愛嬌のある子だが、生憎雪風である俺は元々身も心も青春真っ盛りな若気の青年であったため、まさしく残念な中身となってしまっていることにルームメイトとしても姉妹艦としても非常に申し訳なく思う。

 

 

「ああ、またこんなに怪我が……しれーには何もされなかった? それより、また入渠しなかったの?」

「と、時津風……そんな矢継ぎ早に言わなくても大丈夫ですよ。しれぇには何もされてませんし、今日は軽めの小破なので入渠もせずに済みました。これくらいの怪我なら入渠しなくても問題ないですから……」

 

 

 相も変わらず気の弱い様子なことで、若干涙目になっている時津風に苦笑しながら、少し雪風とは似つかわしくない大人ムーヴで対応する。

 が、こんな言い訳にすらなってないような言い分でやり過ごせるはずなどないわけで。

 

 

「そんなわけないでしょう? 雪風、そろそろ怒りますよ?」

 

 

 不意にそんな言葉を挟み込んできたのはもう一人の同室であり同じく姉妹艦……陽炎型二番艦、不知火が、不機嫌そうに時津風の背後で腕を組んで立っていた。

 

 

「し、不知火お姉ちゃん……?」

「全く……いくら艦娘が人間よりも丈夫とは言っても、入渠しなければそれほど治癒力が高いわけではないことくらいあなたも分かっているでしょう?」

 

 

 やべえ……これ完全にガチ切れモードじゃん。

 精神年齢が大分上なはずの俺がこんな子供に怖がるとはこれ如何に……いや、艦娘は見た目は当てにならないけども。

 心配してくれているのはよく分かっているんだが、流石に出撃あがりで疲れてるからこの精根尽き果てた状態で叱られるのは嫌だ……どうにかやり過ごそう。

 

 

「大丈夫です。雪風は……沈みませんから」

 

 

 全くもって根拠もない発言だが、雪風標準の口癖ではあるからここで言ってもおかしいことではないだろう。

 そのまま俺は不知火の横を通り過ぎようとすると、不意に小さな手が伸びた。

 

 

「雪風……!?」

 

 

 不知火によって腕を掴まれるも、何かに驚いたように目を見開いた隙に腕を振りほどく。

 そのまま流れるように布団を敷くと倒れるようにして潜り込んだ。

 着替えるのも忘れてるし何ならお風呂も入っていないが、今はとにかく早く寝たい。

 お風呂は明日朝イチに入ればいいし、制服も予備が何着かあるからこのまま寝てしまっても問題はない。

 

 

「……雪風、あなたは……」

 

 

 後ろから何やら呟くような声が聴こえてきたが、既にうとうとしていたオレにははっきり聴きとることが出来ず、そのまま意識を落とした。

 

 

 翌朝、何か物々しい様子の騒音によって目を覚ました。

 

 

 何事かと思っていると、どうやら提督のあらゆる不正が発覚したことで憲兵によって検挙され、そのまま逮捕されてしまったらしい。

 

 

 ……なんで?


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