転生先はブラック鎮守府の雪風でした   作:香月燈火

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なんかめっちゃ伸びてたヒェッ……申し訳ないからちょっと予定早いけど書いちゃお……的な感じで書きました。
まだ2話でお気に入り500超&総合評価1000超ありがとうございます。

正直他にも色々創作活動あるので定期的にはならないだろうけど、思いのほか伸びが良いのでこれからは書ける時に書いていこうかなと。


何かが終わって、何かが始まっていた朝

朝目覚めたら、何やら鎮守府内の空気が騒がしい様子。

まだマルヨンサンマルの総員起こし前の時間帯だというのに一体何事か。

ちなみに俺は普段からこの時間帯から起きているので別に外が騒がしいから叩き起されたってわけではなかったりする。

俺は駆逐艦だから朝食が貰えないんだよね……だから、こんな朝早くからこっそり食堂で自分の分と同室の姉妹艦の分だけ作って部屋に持っていくのがここに来てからの日課になった。

ああ、食堂担当の間宮さんと伊良湖さん、あと食糧管理をしている鳳翔さんから許可は貰ってるから別に盗んでるわけじゃないよ。

あのゲス提督のことだから間宮さん達みたいな戦闘が出来ない給糧艦は速攻解体とか抜かしそうなものだけど、あのクズ提督は自分で料理しないしな……。

 

 

まだ寝ている姉妹艦達を起こさないようにそっと着替えを済ませると、霞がかった視界で鏡の前に立つ。

特に意味はないが、なんとなくこうすることで日常を謳歌しているような気になるので、このルーティンは毎日欠かさずやっている。

 

 

「雪風……今日も頑張ります!」

 

 

もうすっかり慣れた敬礼をとりながら小さな声で意気込むと、部屋を出て食堂へと向かう。

……しかし、なんというか、やはり今日の鎮守府はいつもよりも空気が変だ。

というより、何処かピリピリしているような、そんな感じがする。

いやまあ、全部感覚でしかないんだけどね。

 

 

食堂に到着すると、珍しいことに、既に間宮さんと伊良湖さん……それに、多分鳳翔さんかな? までもが3人揃って何やら忙しなく調理に勤しんでいた。

提督の勝手な取り決めで食堂は9時からの1時間、12時からの1時間、そして夜5時からの1時間だけと決められていたはずだけど……?

調理場を覗き込むと、俺に気が付いたらしい間宮さんが微笑んだ。

 

 

「雪風ちゃん、おはようございます」

「間宮さん、おはようございます! あの、何故この時間に?」

「あら……もしかして、雪風ちゃんは聞いてない?」

 

 

間宮さんにそう問われて、俺の頭上にはハテナがいくつも並んでいたことだろう。

間宮さん含めた御三方の様子からしてどうやら悪いことではなさそうだが……。

 

 

「まあ、それはおいおい分かることだから今は内緒ね? それより、今日も皆の分の朝食を取りに来たのよね? それならもう作ってあるから、持って行っても良いですよ? あ、けど出来れば駆逐艦寮の皆の分も持ってあげて行ってくださいね」

「え? い、良いんですか?」

「ええ。雪風ちゃんも、今日はゆっくり休んでね?」

 

 

間宮さんが指さした方を見ると、確かに作りたての料理が運搬台車できっちり並べられて置かれている。

台車を押して行けば提督には勘づかれそうなものだが、幸運なことに艦娘寮は提督の私室からは真反対にあるため、艦娘の誰かが提督に告げ口をするか提督自身がこっちまで来ない限りはまずバレることはない。

ここの所属艦娘で提督を毛嫌いしていない人はまず居ないだろうから告げ口は問題ないし、あの提督も艦娘を下に見ていることもあって、少なくとも俺が見ている限りではこの時間帯に食堂に来ているのを一度も見たことはない……そもそも、普段の様子からしてまだ起きてすら居ないと思われる。

料理の数を見るにいつも俺が作っている量よりも大分多いように見えたが、どうやら駆逐艦全員分だったらしい。

改めて数えてみると、確かにぴったり人数分あるようだ。

それに、1人あたりの量も普段の倍はある。

にしても、やっぱ俺が作る料理よりは遥かに美味しそうだなぁ……い、いやまあ、そりゃあ間宮と言えば史実でもアイドルって言われてたくらいには人気の給糧艦だったし?

間宮のアイスや羊羹なんて専門店にも劣らないって言われてたらしいし、多少はね?

間宮さんは最後に何やら意味ありげに言った後、再び厨房の奥へと戻って行った。

 

 

そんなことを言われても、俺は今日も出撃の予定があるんだけどなぁ……。

 

 

「あ……雪風ちゃん。おはよう」

 

 

台車を押しながら廊下を歩いていると、すれ違うように一人の艦娘と鉢合わせた。

俺自身とも非常に仲が良く、見知った艦娘のようだった。

 

 

「おはようございます、吹雪ちゃん!」

 

 

彼女は俺と同じ駆逐艦の吹雪であり、この鎮守府では5指も入る程の実力を持つ歴戦の艦娘だ。

なんでも前提督……今のようにブラック鎮守府になる前からの所属らしく、駆逐艦の中では最も着任歴の長い古参の駆逐艦だったりする。

俺は3番目で、2番目は特Ⅲ型の響だ……何気に彼女も前提督からここに居るようで、今の提督になってから建造された駆逐艦という意味では俺が一番長いことになる。

純粋な水上戦は俺の方に分があるが、対空砲撃においてはこの鎮守府でも右に出る者はおらず、現在は加賀さんの専属護衛艦をやっている。

ちなみに、あまり他の艦娘と交流を持たない半ボッチ状態な俺の中でも、吹雪とは特に仲がいい。

理由としては駆逐艦の中でも年長者な分落ち着いてることもあってか、訳あって艦娘達から遠巻きに見られることの多い俺にも特に思うこともなく接してくれるからだ。

まあ、色々あったからね……その点では響は吹雪より落ち着きがあるし、彼女も俺とは結構な親しみをもって付き合ってくれるから、駆逐艦の見た目と精神年齢は思っていたよりも釣り合っていないのかもしれない。

俺? 俺はそもそも前世持ちだし前は立派な成人男性だったからな……見た目だけで言うなら特Ⅲ型と変わらないけど。

 

 

相も変わらず元気な俺に苦笑する吹雪だが、俺の押している台車を見て何やら頷いた。

 

 

「雪風ちゃん、皆の分持ってきてくれたの? ありがとう」

「はい! ……あれ? 吹雪ちゃん、なんで皆の分って分かったんですか?」

「私が昨日のうちに間宮さん達に頼んでおいたんだ。流石にそろそろ皆も限界に見えたし……それに、新しい司令官からの命令でもあるから」

「あ、そうなんですね……え?」

 

 

なんとなく相槌を打ったが、今さりげなくとんでもないことを言わなかったか?

新しい司令官……いやいや、そんなまさか。

 

 

「新しいしれ……司令ですか?」

「別に言い直さなくても……前の提督は目に余ったみたいで、不審に思った別の鎮守府の提督が通報したみたい」

 

 

悲しげな表情で吹雪は言う。

Oh,Jesus……いや、確かにそうだったけども。

俺も最初の頃はもうあまりの暴力で流石に痛みに耐えかねて泣きそうになったくらいだしな。

大の大人が他人に泣かされちゃたまんねえって感じで耐えてきたけどさ……それに、なんだかんだ心配してくれた艦娘もいっぱい居てご馳走様でしたよ本当ありがとうございました。

正直な話、最後くらいは俺もぶん殴ってやりたかったが……まあ、おかげで俺も成り行きがら強くなれたし、お互いウィンウィンな関係だったと思うことにしよう。

これからは収容所で幸せに生きてくれ。

 

 

「それに、もう新しい司令官が来てるみたいだよ? さっき、大淀さんが案内してたところを見た子が居たみたいで……」

「え……」

 

 

って、もう新しい提督が来たのかよ!

こういうのって、普通は艦娘の感情を慮ってある程度期間を置くものでは?

いや、提督が居ないと鎮守府はまともに機能しないことを考えたらおかしくはない、のか?

艦娘は基本的に乗組員と軍艦を両立した存在だからあくまで自分で思考して戦闘することは出来るんだけど、艦長や司令塔の役割を持つのはあくまで司令官で、更には司令官としての基本能力に「所属艦と艦の間に思念的なケーブルを接続して、意識的なコミュニケーションを取ることが出来る」というものがある。

これがないということは、つまり通信機も全くない状態で艦隊行動を行っているに等しくなってしまうために、連携が一気におざなりになってしまう。

別に、椅子に座ってこれこれこうしろというだけでなれるほど、提督という椅子は甘いものじゃない。

提督の素質には最低でも妖精さんと呼ばれる艦娘とは切っても切れない存在を視認出来る必要があるのだが、この素質を持つ人材が今は本当に不足しているとは聞いたことがある。

提督……いや、もう前の提督か、あいつがこんなところで身に余るとしか思えない席に座れていたのには、間違いなくこの人材不足が大きい要因であったように思う。

けど、だからこそここまで早く新しい提督が派遣されたのが不思議でならない。

もしや、新しい提督にもまた何かきな臭い何かがあるのではないだろうか。

 

 

「あの。吹雪ちゃん。代わりにですが、この朝食を持って行ってもらっても良いですか?」

「え? なんで?」

 

 

吹雪は不思議そうな顔になるが、答えはひとつしかない。

俺が新しい提督を見定める、これだけだ。

 

 

「はい、新しい司令にご挨拶をと思いまして」

「……別に、雪風ちゃんが行くことでもないと思うよ?」

 

 

吹雪がそう言うが、全くもって俺もそう思う。

長門さんみたいな役職についているわけでもないのにわざわざ挨拶に行くのはおかしい。

というのも、俺にとっては今後どう動くかの布石のためには出来れば早く顔を合わせておきたいというのが本音だ。

流石にこれを口に出す訳にはいかないが。

更に言うと、理由はもうひとつある。

 

 

「それに、雪風よりも吹雪ちゃんの方が皆も顔を合わせやすいでしょう?」

「それは……」

 

 

吹雪はどう言えば分からなさそうに言い淀むが、要は気まずいということだ。

話せば長くなるが、他の駆逐艦の皆とは本当に色々あって、正直俺もまともに顔を合わせて話すことが出来る自信がない。

ただでさえコミュ障万年ボッチな俺が、ぎくしゃくした関係の相手にまともに喋れると思うか? つまり、そういうことだ。

 

 

「なので、吹雪ちゃんにお任せします!」

「え!? ちょっと……」

 

 

俺は吹雪に台車を押し付けると、何か言い返される前にさっさとその場を引き返した。

吹雪が何か叫んでいるのが聴こえるが、聞かないふりである。

さて、新しい提督の元へ向かうのはいいが、肝心な居場所を聞き忘れていた。

とはいえ、あの口ぶりからして吹雪自身が提督を知っているわけでもなさそうだったから聞くまでもないか。

それに、大淀さんが案内してたって言ってたのを考えると十中八九、執務室だろうしね。

 

 

執務室への道中はまさに閑散としており、ぶっちゃけるなら艦娘とは誰一人として鉢合わせることはなかった。

食堂までならまだしも、執務室までの廊下は提督と顔を合わせる可能性が高くなるからそりゃそうだけどね。

執務室の扉の前までやってくると、中から何やらぶつぶつと話し声が聴こえてきた……どうやら長門さんと、知らない男の人の声みたいだ。

ビンゴだね。

 

 

一息深呼吸を入れると、ノックを入れた。

少しして中から入室を促す声が聴こえてきたので、俺は慌てることもなく入室する。

 

 

執務室の中は、予想に反して新しい提督とおぼしき男性と大淀さん、長門さんの他にも、陸奥さん、赤城さん、加賀さんまでもが居た。

まさかの指揮系統勢揃いに、俺もびっくりである。

よく見えていないためあまり分からないが、新提督(仮)も俺を見てぎょっとしているように見える。

 

 

……あ、そういえば血濡れの制服を着っぱなしじゃないか。

と言っても、替えの制服も総じて血まみれだから着替えても結局は同じなんだけどね。

日がな一日出撃三昧休み無しというブラック企業もびっくりの超ブラックな生活だったから、血抜きするだけの余裕がなかったんだよね。

外にも出ないから私服も一着として持ってないし。

上官の前でこの姿は流石に失礼極まりないが、今更どうしようもないことだからいっそ開き直ることにしよう。

そもそも、俺悪いことをしたわけでもないんだし。

 

 

一通り周りを見ると、俺はまずジャブから行うことにした。

 

 

「雪風です! 今日は空気に違和感がありますが、何かご命令はありますか?」

 

 

恐らく提督は雪風のことは知っているだろうが、俺とは初対面だから一応最初に名乗りを上げることは欠かさない。

それでいて途中からはまるで何も知らないかのような反応をする。

この言葉の真意には提督を除く全員が気が付いたことだろう。

提督に関しては俺のことを知らないのだから、無理もないことだ。

 

 

俺の名乗りに、大淀さんは咳払いをひとつ入れると、提督の紹介を始めた。

 

 

「雪風さん……貴女なら()()()()()()()()とは思いますが、こちらが新しく提督としてここに着任されました、朝倉努少佐です。提督、こちらが雪風です」

「君があの……私が朝倉努だ。聞けば、雪風はここの武勲艦らしいな? そんな君が仲間であることを誇らしく思う。よろしく頼む」

 

 

どうやら新提督は既に俺のことを聞いていたらしい。

そりゃあ、鎮守府内でも話題に事欠かない上にかなり特殊だから話が出てもおかしくないか。

俺は努めて笑顔を浮かべると、挨拶を返す。

 

 

「はい、しれぇ……司令! なんでもやります! 宜しくお願いします!」

 

 

もうこの身体になって2年経つが、相変わらずこの身体は上手く口が回らない。

中身は立派な大人だから羞恥心が大きいのだが、やはりいつになってもこれは直りそうにないな……。

 

 

しかし、この提督はかなり若く見えるし、なんとなくイケメンの雰囲気を感じるな……ここで一つ布石を打っておこう。

 

 

「雪風はなんでもやります」

 

 

続いて俺がそう言うと、周りの視線が一気に集まったのが分かる。

 

 

「だから」

 

 

きっと、周りは俺の内心なんて一切理解していないことだろう。

 

 

「皆には手を出さないでください」

 

 

提督は俺だけを見ていればいい。

無駄にイケメン面されたら皆が絆されるかもしれないじゃないか。

そうしたら、俺の楽しみはどうなる? 存在意義はどうなる?

 

 

「全部、雪風にお任せください!」

 

 

俺の目が届く限り、目の前でラブコメイチャラブなど絶対に許さんからな!




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