本来の予定ではいまから2日後更新のつもりだったんですが、なんか無意識に指が動いていたので今から投稿します……予定とは一体。
そういえば、章タイトルを入れました。
ここでプロローグが終わりなので、という意味でですね。
──全く、危なかった。
ある意味胸がドキドキしていると言えるだろうか。
それにしても、まさか提督があんなだとは思っても居なかったぜ……。
整った顔立ちの裏では、まさかあんな側面を持っているとはな。
「新しい提督はロリコンですか……はぁ」
おっと、つい雪風らしからぬ溜息が出てきてしまった……口調はそのままだけどね。
口調の方は2年間、ずっと演技し続けたこともあってかつての俺の話し方が口から出ることは無意識に出ることも今では全く無くなった。
むしろ、男口調で話すにも意識して喋らないといけなくなってしまったまであるくらいだ。
こんな声からいきなりがさつな言葉が出てきたら違和感しかないもんね仕方ないね。
閑話休題。
あの提督は俺の予想だが、恐らく生粋のロリコンと思われる。
だってさ、いくらなんでも初対面で頭を撫でながら「欲しいものはないか?」って聞くのって常識的に考えておかしくない?
しかも命令なんて言われたもんだから俺もどうすればいいか迷っちゃったじゃないか。
なんとか俺のナイス考えによって無難な返事が出来たが、あれは間違いなく英断だった。
人を魅了するような笑顔の裏には、きっと
おのれ大本営、典型的なクソ提督が消えたかと思ったら今度は小児性愛者がやってくるとは。
とりあえず、提督は要注意人物、と……。
「あれ? 雪風ちゃんなのです?」
「電ちゃん? あ、おはようございます」
休みと言われて予定が全てなくなってしまったことで今日は何をしようかと途方に暮れながら歩いていた時、通りがかった電に話しかけられた。
暁型駆逐艦の末っ子である電はこの鎮守府でもかなり大人しく、しかし以前に俺に関する騒動では最後までずっと俺を庇ってくれたくらいには優しい子でもある。
暁型は全員駆逐艦の中でもダントツに幼い見た目なところもあって非常に愛くるしく、この鎮守府内での数少ない癒し枠に収まっている。
時間にしてまだ起床ラッパも鳴っていない頃だが、電が部屋の外を出歩いているのは酷く珍しく思える。
もう全員が起きている時間ではあるだろうが、そもそも電は優しい子なだけあって、艦娘には珍しいくらいに臆病な子でもある。
いざ戦いにもなればやはり艦娘なのだと分かりはするのだが、前々から深海棲艦との戦いにすら躊躇している節があった。
こんな子に、内心人の曇り顔を見て笑ってるような奴が助けられているのだから、本当に申し訳ないものである。
どうか許してくれ……やめないけど。
「はい、おはようなのです……雪風ちゃん、何でこんなところに? それより、朝ごはんは食べたのです?」
「あっ」
電に言われてやっと思い出した。
そういえば俺、吹雪に朝食の配膳を頼んでそのまま執務室に行っちゃったから、食べ損なってるんだったな。
一回、部屋に戻ろうか……。
なんてことを考えていると、ようやく自分の身体が空腹を理解したのか、お腹が鳴った。
やばい、恥ずかしすぎる……なんか電もクスクス笑ってるし。
「相変わらず、雪風ちゃんはドジっ子です」
「雪風がドジっ子、ですか?」
待て電よ、それは流石に聞き捨てならないぞ。
大体、お前だってドジっ子の部類だろうが。
ちなみに最有力格は五月雨、異論は認める。
「でも雪風ちゃん、前に何もないところで躓いたり、お水と間違えてお酒を飲んだり、A型と間違えて元型を持って出撃してたです」
「うっ……」
反論したかったが、確かにそんなことがあったな……い、いや、俺だってこう見えて中身は大人だぞ?
流石に何もないところで転ぶ訳がない。
絶対、あの時は足元に段差があったに違いない。
それに、お酒に関しては目がほとんど見えなくなってからのことだったからお酒だと気が付かなかっただけなんだ。
主砲だって、あの時は間違いなく俺があそこに置いてたはずなんだから、きっと妖精さんか他の艦娘が別の場所に移動させていたんだ。
ほら、やはり俺は何も悪くない。
「そういえば、雪風ちゃんは司令官さんが変わったことは知っているのです?」
「はい。知っていますよ。雪風は、さっき司令に挨拶に行っていたので」
挨拶という名の押し売りだけどな。
というか、電も知っていたのか……多分誰かから聞いたのかな?
俺が知る限りでは吹雪くらいしか……いや、吹雪も新しい提督を見たっていう艦娘が居るって言ってたっけ。
それに今思えば、間宮さん達も明らかにいつもとは様子が違っていた。
あんな時間から大量に料理なんて作っていたら食料の貯蔵量を確認された時にまずバレていただろうし、報告書からも話が行っていたことだろう。
前提督はなんだかんだ言って、艦娘を信用していなかっただけあって食事以外のことは身の回りのことや書類仕事も含めて全て自分で行っていた。
前提督は馬鹿ではあったが、決して無能ではなかったということだろう。
そうでもなければ、何年もの間周囲を騙してブラックな運営体制を続けることなど出来なかっただろうし。
この世界では俺が思っていた以上にブラック鎮守府なんてほとんどないらしいからな。
艦娘のことは「女の形をした兵器。ただし、得体が知れないもの」としか認識していなかったようだが。
「あっ、提督さんから言伝があります。しばらくは出撃は全員お休みらしいです。哨戒の代わりは他の鎮守府に頼んでいました」
「それは……良かったのです。新しい司令官さんは、無理をさせない人、ほっとしたのです。もっと、皆の元気の姿を見たいですから……」
そう言う電の顔は取り繕っているようには見えず、心の底から安堵しているように見えた。
何故、電はそんなにすんなり受けいられたんだろうか。
「電ちゃんは、何故そんなにすぐにその言葉を信用出来るんですか? もしかしたら、嘘だってことも……」
「……電は、電の中の軍人さんを信じているのです。昔、軍艦だった頃の軍人さん達は、皆厳しく口が悪い人も多かったですが、それでも嘘は言わなかったです。それに」
不思議になって問いを送ってみると、電から、思ってもみなかったことを聞かされた。
艦娘には、かつての大戦で軍艦だった頃の記憶を、個人差はあるが持っている。
聞いている感じでは電はかなり過去の記憶を持っているようだ。
対して、俺はそもそも魂自体が異物であるからか、それほど記憶と言える記憶は持っていない。
強いて言うなら、寂しさ……それが、この雪風の仲の記憶に強く燻っている、そんな感じだ。
電は言葉を一度止めると、俺の顔をじっと見て。
「雪風ちゃんが言ったからです」
「ほえ?」
そんなことをいきなり言うもんだから、つい俺も変な声を出してしまった。
俺が言ったからって……いやいや、どういうことだってばよ。
「司令官さんのことはまだ分からないけれど、雪風ちゃんのことは信じているのです。雪風ちゃんがそれを私に教えてくれたから、わたしも雪風ちゃんのことを信じているのです」
あ、あれぇ?
電さんこんなキャラでしたっけ?
なんかめっちゃイケメン発言……というか、俺への信頼半端じゃないな!?
俺、なにかやったかななんて思いつつ、真正面から電の顔を見れなくなっていた。
もしや俺、かなりちょろいのではないのだろうか。
「雪風ちゃんも、司令官さんは嘘をついてないって信じてるんじゃないですか? そうじゃないなら、そっくりそのまま私に伝えることはないと思うのです」
言われてみれば、そりゃそうだ。
あの場にこの鎮守府では特に力の強い艦娘達が揃っていたから、というのもあるが、俺自身は電に不信感をおくびにも見せなかった。
振り返ってみれば、むしろ結構発言的には割と肯定している方のような……?
「……やっぱり、雪風には分からないです」
結局、俺はそう返すしかなかった。
いやだって、確かに否定とかしなかったけどそれは中身が大人な俺だからだしな。
というか口には出していないだけで内心では「イケメン爆発しろ」とかそんなこと言いまくってたしな。
「今はまだ、良いと思うのです。電は、もう雪風ちゃんの傷が増えるのが、痛みを耐える姿を見るのは嫌だから」
「痛み……」
電に顔を顰めながらそんなことを言われる……そういえば今月はまだ入渠してなかったか。
一瞬何故そんな顔をと思ったが、そういや今の俺の姿って全身傷だらけの上に乾いた血だらけとかいう一見やばい状態であることに思い至った。
いつの間にか傷が当たり前になっていたせいで、そんなことにすら気が回らなかった。
……痛みを感じなくなったのは、いつからだっただろうか。
今の身体の異常は右目の失明に左目の急激な視力低下、そして痛覚の消失、これに付随した味覚の麻痺といったところか。
戦いに関して言うなら、これらの感覚が消えたことでむしろその他身体的な能力が諸々向上しているから問題はない。
むしろ、練度の向上もあって前よりも強くはなっているかな?
多分俺の異世界に来たことによる特典によるものが大きいんだろうけど。
にしても「身体的能力を一つ失うことで、その他全ての能力を向上させる」なんて特典、あまりにもデメリットが強すぎる上に上昇量も不透明だからこんなのを欲しがるやつなんて誰が居るのだろうか。
俺にはぴったりだけどさ……。
「あの、雪風ちゃん……この後、何か用事はありますか? 良かったら、もっと話がしたいのです。暁ちゃんも、喜ぶと思います」
恐る恐る言う電。
お喋りというが、さりげなく暁が加わってきてる時点でもう部屋に連れ込む気満載か。
電の部屋はそのまま第六駆全員の相部屋だから、あとは他にも響と雷も居るわけだ。
響は良いが、雷か。
幼女に甲斐甲斐しくお世話されている中身成人男性の見た目幼女……犯罪臭が凄いな。
そもそも幼女4人の部屋に俺が行くこと自体が事案では?
なんて言ってみるが、そもそも俺の同室も不知火と時津風、結局幼女ですね分かります。
……これ以上は傷が広がるからやめよう。
「ごめんなさい。雪風は、他の艦娘とは……」
「けど雪風ちゃん、このままじゃ独りになってしまうのです。そんなことは、陽炎ちゃんだって望んで……あっ」
ああ、電。
それは流石に悪手すぎるぞ。
よりによって俺の前で陽炎の名前の名前を出すなんて。
「その名前を出さないでください」
「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃなかったのです!」
俺の中の数少ない黒歴史……陽炎。
あの時のことは、恐らく死ぬまで忘れることはないだろう。
「陽炎お姉ちゃんの名前を、出さないでください!」
そう叫んだ後、気付けば俺は走り出していた。
後ろから電の声が聴こえてくるが、止まるつもりはない。
陽炎は……正直、もう思い出したくはなかった。
忘れられるはずなかったのに。
そんなこと、有り得る訳がなかったというのに。
食堂の前まで走っていたことを理解すると、俺は足を止める。
それほど走った訳ではないから、常に鍛えている俺がこれくらいで息を切らすことはない。
「ねえ、雪風」
ただ、他の艦娘が近くに居ることには気が付かなかった。
「響、ちゃん……」
「雪風、君は本当にこのままで良いのかい? いつかきっと、後悔することになるよ?」
この口ぶり、いきなり言うことではない。
と、なれば。
「聴いていたんですか」
「そうだね。それはもう、柱の影でばっちり聴かせてもらったさ……でもね、雪風。私は君を心配しているんだよ。電も、他の皆だって同じさ。それに、懸念もある。私と吹雪は、それを心配しているんだ。このままじゃ……戻れなくなるよ」
目を細めて言う響だが、耳をすませば声がほんの少しだが震えているのが分かる。
本当に心配してくれているのだろう。
だけど、それは俺の願いではない。
全員が仲良く過ごせる鎮守府なら俺はここに
結局のところ、俺が今を生きているのは利害の一致でしかないのである。
それが生き甲斐であり、俺の命を繋いでいるただひとつの生命線と言える。
「人の不幸を見ながら、その不幸の末にハッピーエンドに至る」という俺のわがままな願いに答えてくれているのが、今の立場なんだ。
だから同情はやめてくれ。
俺は望んでこの立場に居る。
それが出来ないのなら死んでいるのと変わらないし……深海棲艦にだってなった方がマシだ。
だからごめんよ、響。
俺は、俺の欲望に従って生きる。
「響ちゃんには、関係ありませんから」
「……そうかい。分かったよ」
悲しみを堪えたまま、響は踵を返し立ち去って行った。
きっと、彼女や吹雪はわたしのような艦娘を見たことがあるのだろう。
おかしなことではない。
響も吹雪も、既にこの世界で俺の倍以上は艦娘として戦ってきている。
俺は雪風の持つ本来のセンスと特典能力のおかげでようやく足を並べて戦えているが、やはり経験の差で地力は劣るというのが俺だ。
百戦錬磨とも言える彼女達とは、見てきた景色が違いすぎる。
廊下から窓の外を見下ろすと、潮風の香りが流れ込んでくる。
特典のおかげで、嗅覚が上昇しているためだ。
ああ、それにしても。
──海が赤い、な。
実はこの鎮守府、雪風のおかげで精神的な部分は意外とダメージがそんなにありません。
けど雪風を疑うようになったのは……これは正直重要な設定になるので今は話せないですね。
この世界観、ブラック鎮守府は本当にほとんど存在しないです。
まあ、出所不明の外敵に対してでも足並みが揃わない軍隊というのはまだ分かるんですけど、流石に鎮守府や泊地単位で足並みが揃ってないというのは普通に問題すぎるので……。
さて、実はここで導入部が終わりです。
よーうやく本編に入る……遅いなぁ()