お待たせ致しました。
今日までの3日間はもの凄い忙しかったので全くと言っていいほど執筆の時間が取れませんでした……いやー、久しぶりに5時間以上の睡眠が取れて素晴らしい。
今回からやっと話を進めるための本編に入ります。
まあ、今回はまだ導入なのでほとんど話は進んでないんですけども。
おまけ
お気に入り3000件突破ありがとうございマッスル。
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気づいたら4000件超えてた……ありがとうございます。近々更新再開します。
雪風は何色にも染まれない
「諸君。話はもうそちらにも伝わっていることだろうが、改めて紹介させてもらう。私は前提督に代わり、新しくこの鎮守府に着任することとなった、朝倉努だ。君達にも色々思うところがあるだろうが、ヒトナナサンマル、この時間に顔合わせがてら食事会を行いたいため、食堂へと集まって欲しい。食材については私が持ち込んだ分を使うため、心配はいらない。これは命令ではなく、私の要望に過ぎない。だから来なくてもいい……が、出来れば全員集まることが望ましいと思っている。願わくば、君たち全員の顔を見たく思っている。以上だ」
内部放送にて矢継ぎ早に提督はそう述べ、放送は終わった。
ことは、数時間前まで遡る。
さて、色々ごたごたしつつも俺はようやく部屋に戻ってきたわけだが、現在、部屋の中に入れないでいる。
その理由としては、あれだ……なんというか、ものすごく気まずいわけだ。
ルームメイトの時津風や不知火は、以前のブラック鎮守府という状況の中で姉妹艦である
なんとも歯がゆい思いをしていたことだろう。
まあ他のほとんどの艦娘達は俺に意識を割く余裕もなかったのか、俺を止めようとすることも、また過酷な現状に前提督に直訴に向かおうとすることすらしていなかったが。
これを聞くと誰しもがなんと薄情な、と言いたくもなるだろうが、実際これには訳がある。
あくまで俺の考えた仮説でしかないのだが、恐らくこれは艦娘が生まれついての軍人であることが最大の要因だと思われる。
本来人間とは元々未成熟な精神を成長の過程で養っていくものだが、艦娘の場合は作られた頃から既に精神はある程度自律しており、それでいて最初から既に軍人観念というものを持っている。
……まあ、簡単に言うなら「自分で考えて行動出来ないお子ちゃまだし、本能的な問題で上司には逆らえないぜ」ってことだ。
俺のような前世を持っている存在なんて、それこそ深海棲艦よりも例外だ。
ある意味、完全に敵対している深海棲艦よりも得体の知れないのが俺と言っても過言ではない。
なにせ、幼女の皮を被った精神が成熟している立派な成人男性だからな。
深海棲艦ではないと言えどかなりグロテスクであることには変わりないので、以前に深海棲艦扱いされていたのもあながち間違いではないとは思っているので、それほど気にはしていなかった。
代わりに、俺のガラスのハートはもはや罅だらけであるが。
そう考えると、今までやたらと俺に対して「こいつ本当に駆逐艦か?」みたいな感じで疑心暗鬼になりながらも攻撃されてきた事実さえ、子供のおいたのように微笑ましく感じる。
もちろん嘘なので、フレンドリーファイアをカマしてくれた奴らは悉く心の中でボコボコにしているが。
とはいえ、実際疑われてもおかしくはないとは思っている。
雪風が強いのは分かるが、いくら死に物狂いで回避技術を磨いたとはいえ、流石に数回の出撃において被弾ゼロなんておかしいことくらいは俺でも分かる。
確かに回避の運要素がかなり強いゲームとは違って今はリアルな訳だし、自分で避ける必要が出来たことで反射神経でなんとかなっているから、なんてのは流石に苦しいよな……。
なんて、脱線した思考でむんむんしていると、不意に部屋のドアが開かれ、時津風が現れた。
ドアの先で立っている俺に気が付いた時津風は、一瞬だけ目を丸くすると、途端に不機嫌そうな表情を浮かべた。
「あっ、時津風」
「……ふーん! 時津風、雪風なんて知らないもーん」
そんなことを言いながらふいと顔を背けて、立ち去って行った。
今の可愛い……じゃなくてだな、流石にルームメイトと蟠りを残したままというのは俺的には大変宜しくない。
というのも、時津風と不知火は他の艦娘達とは決定的に違っている部分がある。
それは、時津風と不知火は日が経つにつれて増えていく傷を見て、前提督に直接抗議に行こうとしたという前歴があるというところだ。
俺が休みなく出張ることで、俺が出撃している際に他で出撃していた艦隊でも重巡以上の重量艦に最低限駆逐艦に気を配れるように意識を持たせた。
俺がほとんどの駆逐艦の負担を請け負ったことで、以前の轟沈しか道はなかった駆逐艦達に生きるだけの気持ちの余裕を持たせた。
あの現状でいくらか余裕が出来た駆逐艦ではあるが、姉妹とはいえ、他人に気を配れるだけの余裕はあったというわけだ。
軽量艦も重量艦もそうだが、基本的に姉妹艦の繋がりというのは非常に強い。
俺も前世は可愛くて優秀な姉妹が居たから、その気持ちは大いに分かる。
人間ではないだけに血の繋がりというものは存在しないが、それに限りなく近い一種のコミュニティが、姉妹艦というものだ。
それこそ、それが原因で鎮守府内部に不和が出来かねないほどに。
もちろん、例外も存在したにはしたのだが。
話が逸れたが、とにかくは時津風と不知火、この二人だけは常に俺の目が届くところに居て貰わないと困るのだ。
以前、俺の状況に憂いて提督に直接物申した艦娘が居た。
昔の鎮守府内でもムードメーカーの中心であり、またあらゆる艦と繋ぎを作っていたかつての古兵、金剛型戦艦のネームシップ、金剛だ。
彼女は俺の傷だらけの全身を見て憤り、たった一人、執務室へと乗り込んだ。
翌日、金剛は出撃に向かい、行方不明になったことを知った。
今更だが、俺は人の苦痛に満ちた顔を見るのが好きだが、俺の手がかからない範囲で不幸になられるのが、堪らなく嫌いだ。
不幸の結果として居なくなることなんて、俺としてはあってはならないことだ。
不幸は過程だけでいい。
俺の目指すところは、あらゆる不幸を乗り越えつつのハッピーエンドというものだ。
ただし、そのハッピーも俺以外の全員が、だが。
俺まで幸せになるようなことがあれば……それは愉悦の終了に他ならないからな。
まあ、それに関しては既に身体的機能を一部失っている俺にはそう難しいことではないから問題ない。
どう時津風達とよりを戻そうか、などと考えていると、俺は何気なしに視線をドアに向けて、そして少しだけ開かれたドアから覗いている不知火の目に気が付いた。
「ぴっ!?」
「……はあ、全く。雪風、あなたはいつまでそこに居るんですか? ほら、入ってきてください」
俺が声にもならない悲鳴をあげると、やれやれとばかりに溜め息をついた不知火がドアを開け、俺の手を掴んで部屋の中へと誘い込んだ。
なんかいかがわしいシチュだな、なんてしょうもないことを考えたのは秘密だ。
「雪風、あなた、まだ昨日のことを気にしていますね?」
「し、不知火お姉ちゃん……?」
顔をずいと至近距離まで近付けてそんなことを言う不知火は、なんというか、凄く怖い。
というか、近い近い。
俺はたまらず目を逸らすと、その途端、全身が何かに包まれる感触に襲われる。
えっ、とついそんな驚きの声を漏らしてから、ようやく不知火に抱きしめられていることを理解した。
「雪風が
おう、ばれてーら。
「雪風が一人で居る時、こっそりと変な笑顔を浮かべていることも知っています」
ちょっと待てや、何故それを知っている!?
変な笑顔ってあれだよね?悦に浸っている時の笑顔のことだよね!?
「雪風、あなたが何を抱えているかは知りません……ですけど、もう一人で咎を背負うことはやめにしましょう?」
「……ダメです。雪風が、雪風が悪いんです。雪風が駄目な子だから、だから雪風がやらないと……」
「それは違いますよ」
なんとか言い訳を立てて言い逃れようとすると、不知火は有無を言わさぬように割り込ませてきた。
「陽炎のことなら、雪風だけの罪ではありません。あれは……陽炎型全員の責任です。皆だって、そう思っています」
そうは言うが、その言葉には流石に納得は出来なかった。
この鎮守府に陽炎が居ないのは、俺が原因であることは間違いない。
だからそんなことで気負う必要はない、そう言おうと思ったのだが。
「それに、不知火は……雪風までも居なくなるようなことがあったら、もう……」
その言葉を聞いて、すぐさま俺は言おうとしていたことを止めた。
「不知火お姉ちゃん」
……そんなことを言われてしまったら。
「ごめんなさい」
思わず、拒絶したくなっちゃうじゃないか。
「ゆ、雪風?」
俺の言ったことに、信じられないとばかりに目を見開く不知火。
俺は内心で笑みを浮かべながらも、申し訳なさげに顔を俯かせる。
俺はもしかしたら、さっきまで何かを勘違いしていたのかもしれない。
本当に今更ではあるが、ここはもう以前のブラック鎮守府ではなくなった。
今の提督はロリコンなのが目につくが、恐らくあの様子だと直接艦娘をどうこうするようなことはないだろうし、艦娘への扱いも相当良い物になるだろう。
それなら、わざわざ俺自身が不知火と時津風の様子を見る必要性はあるのだろうか?
答えは、否だ。
「雪風は、死神です。雪風に関わったら、不知火お姉ちゃんまで不幸になっちゃいます。もう、嫌なんです。だから、雪風は護られる側じゃなくて、護るガワで居たい……大丈夫です、だって雪風は……沈みませんから!」
「待って、雪風。不知火だって……!」
「お姉ちゃん」
何かに悔いるように縋り付いてくる不知火の顔を見ながら、俺は決定的な一言を呟く。
「
そう言うと、俺が言っていることが理解出来たのか、不知火は顔を真っ青にして目に涙を浮かべ始めた。
俺が不知火の手をそっと身体から引き剥がすと、彼女は腰が砕けたかのようにその場にへたり込んだ。
そんなさまを申し訳なさげな顔を維持しつつ心のなかでは喜びながら一頻り眺めると、俺はそれから何も言わずに部屋を退出した。
明らかに、不知火は俺に依存している。
その気は、時津風にも前々から見られていた。
俺としても、依存されるということは悪いということではない。
依存されればされるほど絶望は大きくなるし、その分の曇り顔の絶望っぷりと言えば、まさに高級ワインのような至高感がある。
だが、不知火のあれは愛を超えて、もはや執着と言ってもおかしくはない。
これから先、かつてのブラックからホワイトに変わっていくだろう環境下では、それは困るのだ。
俺のためだけに動くようでは、今後あまり付き合い方も増えていくだろう艦娘達との交流の際、間違いなく支障を来たす時が来ることだろう。
彼女の曇り顔は好きだが、流石に俺のようなぼっちの烙印まで不知火にレッテル貼りされてしまうのは、あまりにも申し訳がなさすぎる。
それに、自分で考えて自分で動いてくれるようになるからこそ……俺も愉悦のために動きやすくなるというものだ。
何も考えずに部屋を出てきてしまったが、俺はもうあの部屋に戻ることはないだろう。
時津風なんて、まさに突然の喧嘩別れみたいな状況になってしまった訳だから恐らく泣いてしまうだろうが、俺の愉悦のためなので仕方がないことだ。
こんなすぐにまた提督のところへ行くのは癪だが、このままでは一晩を過ごすだけの部屋もないので、改めて提督に部屋の変更を頼まなければならない。
正直本来であればまさしく烏滸がましいともとれる申し出ではあるが、俺の以前を既に事前知識を得ているだろう提督であれば、渋々ではあるだろうが、無碍にされることはないはずだ。
「……ふ、ふふふ」
俺はこれから先の生活を思うと、つい雪風らしからぬ笑みを浮かべてしまった。
他人に見られて変な想像をされてしまってはかなわない、と慌てて表情を取り繕い、周りに人が居ないのを確認する。
今まではブラック鎮守府という状況下にあった分、俺の好きな苦悶とも言える表情を見る分には十分に満たされていたと言ってもいい。
ただ、これからはこの鎮守府も変わっていく……いや、変わらざるをえなくなっていくだろう。
ただし、それは逆に言うなら、今までがあまりにも不自由すぎた分、これからは俺の思いのままに振る舞うことが出来るということにもなる。
言い換えるなら、これからは俺の思う通りのシチュエーションを作り上げることが出来るということだ。
今までの状況が量だというなら、これからは質を重視して愉悦といえる状況を作り上げることが出来る。
また、元ブラック鎮守府という下地が存在することも、まさに大きなアドバンテージと言えるだろう。
その鍵こそが、新しくやってきた提督という存在となってくれる。
何故なら彼はまだ、この鎮守府がブラック鎮守府と言われていた所以を正しく理解出来ていないからだ。
いや、それに関して言うならば、提督だけではない。
ここに所属しているほとんどの艦娘ですらも、その意図を理解出来てはいない。
だって、前提督の本当の所業を知っている艦娘は、俺しか居ないのだから。
とりあえず忙しい日は過ぎたので、次話も出来れば早いうちに書けたらいいなと思っています。
疲れもあるので、割と今話は脳みそ使わずに書いてしまいました。要は文章バグってます。