転生先はブラック鎮守府の雪風でした   作:香月燈火

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待たせたな!(バリトンボイス)

やべえもうすぐ2ヶ月経つところだったじゃん危ない危ない。ギリギリセーフだよね?(もちろんアウト)
ココ最近は別サイトのオリジナルの方にかかりきりになってました……いやーほんともーしわけない。

ちなみに、今回今までで一番長いです。なんなら1.5倍盛りくらいしてます。こんな予定じゃなかったのに。


提督さん、雪風はこちらです(提督side)

 17時30分(ヒトナナサンマル)

 予定している宴会の時間がいよいよもってやってきた。

 以前まで芯まで真っ黒なブラック鎮守府であったここ所属している艦娘のほとんどは、前提督の行った非人道的な行いによって人間に対して強い恨みを抱いている。

 長門達のようなまとめ役などの前提督より更に前の提督の頃から所属している古株の艦娘達は警戒はしつつもまだ反応としては悪くはないのだが、やはり前提督の頃に新造された艦は軽重問わず俺とは全くもって関わろうとすらしてこなかった。

 まるで空気のような扱いだが、不思議なことに、それでも殺意は感じられなかった。

 それを疑問に思って長門に聞いてみると、どうやらこれもブラック鎮守府の頃に起きた出来事が関係しているらしい。

 内容は教えてもらうことは出来なかったが、これもまた雪風に関係していることのようだ。

 

 

 雪風、彼女はこの鎮守府の中でも非常に特殊な存在だとはっきりそう思う。

 日本中を探しても雪風という艦娘は現在ではここを含めても3箇所にしか存在しておらず、そしてそのいずれもが非常に重要な拠点であり、かつ雪風は駆逐艦の主力級として前線で活躍しているという。

 そういえば、かつては全鎮守府を統括している大本丸である本営の直下拠点、現在の最高司令である草鹿元帥が直接指示を行っている横須賀第一鎮守府にも雪風が居たと聞いている。

 現在はもうおらず、また異動になったわけでもないようだ……つまり、そういうことなのだろう。

 

 

 それはともかく、わたしは以前、偶然にも別の鎮守府に所属している雪風と顔を合わせたことがある。

 あの子はまさに表情が豊かでとても人懐っこく、それでいて常に前向きな愛らしい子だった。

 しかし、ここの雪風はまるきり違っていた。

 初対面の彼女の表情は常に何かに思い悩んでいるようで、もうまともに視力も残っていない目からはほんの微かではあるが何か大きなものに怯えているように見えた。

 表情も一見して笑顔ではあるがそれが表面上のものであることは一瞬で分かったし、また、俺に対して必要以上に近付けないよう一定以上の距離をとっていた。

 聞けば、ここの話題には常に雪風が欠かせない程に非常に大きな存在となっているのがよくわかる。

 まるで雪風のことを深海棲艦だとか艦娘の敵だなんて思っていた艦娘が居たこともあったらしい。

 どうやら今ではそんな考えの艦娘はおらず、むしろあの時なんでそんな考えになったのか当人でも不思議なくらいにおかしかったようだが、ひとまず艦娘と雪風の間に認識的な軋轢があること以外は特に問題はなさそうなことには俺も安堵したものだ。

 

 

「時間、か」

 

 

 時計の針がきっかり30分を示しているのを確認すると、俺は一度大きく息を吸い、そして先程から扉越しにざわめきが聴こえてきている食堂へと躍り出た。

 ブラック鎮守府な割にはかなりの大所帯なだけあって、一度見回しただけでは全ての艦娘を確認することは出来ない。

 俺が立台に立つと、艦娘達は揃って微動だにすることもなくなった。

 その様子はまさに軍人の如し……いや、これは恐れているのだ。

 一人一人、順に目を覗いて見れば分かる。

 次の提督はわたし達に何をさせようとするのか。

 どんな扱いをされるのか。

 

 

 強い恐怖に疑念……不信感を持つ視線。

 俺が見た限りからではあるが、誰一人としてそれを持っていない艦娘は居ない。

 まあ、長門達主軸のメンバーですら未だに完全にはそれらを払拭出来て居ないのだから、きっと昨日まで進行形で酷い目にあってきた艦娘達に今から信じてくれと言われたとしても、しっかり受け取ってくれるわけもないので無理はない。

 それを、どうにかするのが上官である俺の役目だ。

 

 

「あ、あー。諸君。私の要請により集まっていただき、感謝する。とはいえ、私のことを知らない者も多いことだろう。だから自己紹介から始めさせてもらう。名前は朝倉努。階級は少佐であるが、これはここに異動されるにあたって臨時的に昇進という措置を取った結果であって、元の階級は大尉だった。これでも、軍学校は首席で卒業している。とはいえ、現場を知ってまだ5年程度の若輩者であるため、私から君達に色々と教えを乞う時もあるだろう。その時は、宜しく頼む。それと……すまなかった」

 

 

 そう言って直角になるほどに深く頭を下げると、ちらほらと驚愕を含むようなくぐもった声が聴こえてくる。

 疑心はまだ全くもって解けてはいないだろうが、ほんの少しでも警戒心を緩めさせるだけの糸口を作れるのではあれば、頭を下げることに躊躇いはない。

 艦娘達の驚きも冷めやらない内に、言葉を続ける。

 

 

「俺達……直接指揮していたのは前提督だが、同輩である提督という役柄に就く人間がこの鎮守府に居る艦娘達、つまり君達にやったことは我らが御旗に誓っても禁忌と呼べる行為であり、また憤慨すべき許されざる行為だった。このようなこと、同類である私が言ってもきっと君達は信じることをしないだろう。だからこそ、私はこれから言葉ではなく行為をもって、君達を最優先に指揮を行うことを宣言する。もし君達が私に近寄ることもしたくないというのなら顔を合わせるようなこともしないし、何か欲しい、して欲しいものがあるというのなら出来うる限りは対応しよう。勿論、私を殴ってもらってもいい。だからこそ、これからは、私の為すべきことを見ていて欲しい……どうか、頼むぞ」

 

 

 そう締めくくるが、誰も声を放つこともなく、しんと静まり返る。

 いたたまれなくなってなんとかこの場を無理矢理解散するように動こうとしたところで、最前列からひとたび、咳払いが静寂の中をはっきり通り抜けた。

 大淀は列から抜けて出ると俺の前に立ち、数度手を叩く。

 

 

「簡潔ではありましたが提督のお話はこれで終わりです。今回の召集におけるメインはあくまで宴会ですので、あとは各自、あちらのテーブルから好きなタイミングで食事の方をとってください。バイキング形式なので、取り皿もあちらにあります。食料の備蓄でしたら、大本営からの物資補給を受けたためいくらでも食べてもらっても構いません。如何なる処分を行うこともないと約束します。食事を終えたあとも特に指示を行うことはないので、自由行動で問題ありません。では、各自解散」

 

 

 まるで堰を切ったかのようにすらすらと言い連ねた大淀は最後にしっかり纏めると、かなり遠慮がちではあるもののちらほらと各自動き出すのが見えたので、なんとかなったと俺はほっと一息安堵の息を吐く。

 対して大淀の方は見事に取り仕切った後、俺の方を向いた途端呆れたかのような視線を向けてきた。

 ……いや、彼女の目を通して見る感情から見ても強い呆れが窺えるあたり、心底そう思っているのだろう。

 

 

「全く。本来なら貴方の仕事ですよ。あんなところで逡巡するから言うべきことが分からなくなるんです」

「す、すまない。私はああいった、衆目の前に立って演説を行うのがあまり得意ではないんだ。本当に、大淀には助けられたよ」

「はあ。では、私はこの辺りで失礼します。提督も、ごゆっくり食事でもなさってください」

「分かっ……いや、待ってくれ」

 

 

 危うく頷きかけたが、肝心なことを聞き忘れていたことを思い出し、再度大淀を呼び止めた。

 

 

「なんでしょうか。まだ私に何か用でも?」

 

 

 ……なんか、ちょっと口調が刺々しくないか? 

 しかし、彼女の感情からは純粋な疑問しか感じ取れなかった。

 大淀とはこんな子だっただろうか。

 いや、これがここの大淀の個性なのか。

 

 

「雪風が何処に行ったか分かるか? どうやら、召集には応じなかったみたいだが」

「雪風さん、ですか? 確かにここには居ないみたいですが……あ、吹雪さーん! ちょっと来てください!」

 

 

 

 少し納得した様子の大淀は少し考え込んだ後、少し周りを見渡して、一人の艦娘を呼んだ。

 呼ばれた本人も気付いたようで、一度手を振ると急ぎ足で俺達の前まで来ると、彼女……駆逐艦吹雪は俺に向かって敬礼をとる。

 意外にも、彼女はどうやら俺に対してそれほどの悪感情は感じられない。

 というよりも警戒こそ多少はあるが、恐怖に関しては欠片も抱いていないようだ。

 よく見てみれば、この吹雪は他の艦娘とは違い制服が一般的な吹雪型とは少し違っている。

 この吹雪、第二改装まで受けているのか。

 

 

「初めまして、司令官! 吹雪型駆逐艦、吹雪です! どうぞ、宜しくお願いします!」

「あ、ああ。改めて宜しく頼む。早速本題といきたいんだが、吹雪は雪風の場所は知ってはいないだろうか。ここには居ないみたいなんだ。頼む、知っているなら教えてくれないか」

「雪風ちゃんを?」

 

 

 一気に膨れ上がる警戒心。

 これだけでも、吹雪にとっては雪風が一体どれほど親しい仲なのかが分かる。

 吹雪は訝しげに大淀に視線を移す。

 

 

「吹雪さん。提督さんなら大丈夫です。私も彼の経歴を異性関係も含めて洗いざらい確認させていただきましたが、特に問題はありませんでした。それに、彼なら雪風の現状も……」

「いえ、いいです、大淀さん。信用はまだ出来ませんが、仕方がないので、教えてあげます。雪風ちゃんなら、今は埠頭に居ると思いますよ。私も直接見たわけじゃないですけど、あの子は昔からそうだったので」

 

 

 不服そうに言う吹雪だが、その目には心配の色が灯っているから、まだ俺のことを信じていないだけで悪い子ではないのだろう。

 むしろ、雪風にもしっかりと信頼出来る相手が居ることを知って安心したというものだ。

 

 

「恩に着る。引き止めてしまって済まなかった。じゃあ、私はこれで……」

「待ってください、司令官。最後にひとつだけ聞かせてください。何故あなたは、そんなにも雪風ちゃんを気にするんですか? 雪風ちゃんは、前提督の分も含めて今までにたくさん辛い目にあってきました。貴方が知っていることも知らないこともです。今の提督である貴方が雪風ちゃんに近付くだけで雪風ちゃんを傷つけてしまうかもしれないとは思わないんですか?」

 

 

 そのまま埠頭に向かおうとしたところで、今度は吹雪の方から呼び止められる。

 俺の知る吹雪よりも一段と落ち着いた雰囲気を保ったまま、彼女は最後にそう言い放つと、俺は静かに瞑目した。

 確かに、俺が雪風にしつこく絡みに行くのは彼女を傷つける、というか元あった心の傷を悪化させる可能性だってあるだろう。

 

 

 ふと、俺は昔、と言っても6年程前の出来事。

 軍学校を卒業したての俺は研修生としてとある鎮守府に所属することとなり、そしてたった1年程の短い期間の邂逅ではあったが、その鎮守府に居た雪風のことを思い出した。

 あの雪風を初めて見た時、おれは彼女が酷く儚いもののように見えた。

 まるでこの世そのものを悲しんでいるかのような彼女は、初めて俺と喋った時は、口調こそ朗らかではあったが、内心では拒絶してるのが俺にははっきり分かった。

 それから長い時間をかけて雪風は悲しげな表情も減るに反して笑顔も増えてくるのと同時に少しづつ仲が良くなっていき、しばらくすると雪風は俺をある程度は信頼してくれるようにまでなった。

 その時間は俺にとって非常に実りがあるものだっただけにたった1年だけの所属となってしまったのが今では名残惜しい。

 

 

 そんな彼女だが、今はもう居ない。

 あの雪風は数年前、とある大規模作戦によって轟沈してしまった。

 

 

 俺は閉じていた目を開くと、かがみ込んで逸らすこともなくじっと相変わらず真剣な表情を浮かべる吹雪と視線を合わせる。

 

 

「俺が研修生だった頃、一人の雪風にあったことがある。彼女は幼い容姿だというのに纏う雰囲気だけは老成していて、まるで世を儚んでいるように見えたんだ。たった1年の付き合いだったが、彼女の姿ははっきりと覚えている。今でも、彼女に何か出来ればと悔やむことも多いくらいだ。俺は、ここの雪風に同じものを感じ取った。それなら、やるべきことはひとつしかないだろう」

 

 

 そう言うと、吹雪は瞠目した。

 何にかは分からないが、少なからず驚いているようだ。

 

 

「あなたは……いえ。そうですか、分かりました。それでしたら、私も協力させてください。私だって、雪風ちゃんを助けたいんです。でも、私1人では、雪風ちゃんを助けられない。司令官、雪風ちゃんを助けてあげてください。私達が護れなかった雪風ちゃんを、今度は貴方が助けてください」

 

 

 護れなかった、という部分に少し引っ掛かりがあったが、答えることに躊躇いはない。

 

 

「ああ、もちろんだ。俺の胸の階級章にかけて誓おう」

 

 

 そう返すと、ようやく吹雪は微笑みを浮かべた。

 

 

「ありがとうございます。あ、でも雪風ちゃんに気があっても貴方のではないですから、決して手を出さないでくださいね?」

 

 

 真面目な雰囲気を急に崩した吹雪は、おどけたようにそんなことを言う。

 失礼な、こいつは俺を一体なんだと思っているんだ。

 

 

「私はロリコンではないぞ。そんなことはしない」

「どうでしょうか……ほら、雪風ちゃんのところに行ってあげてあげてください。私も、流石にそろそろ皆がせっついてきているので」

 

 

 吹雪の後ろにちらと目を向けると、確かに誰かが吹雪を呼んでいるようだ。

 あれは……吹雪型に睦月型か。

 吹雪は思いのほか人気者のようだ。

 

 

「そうだな。では、行ってくる」

「はい。雪風ちゃんのこと、お願いします」

 

 

 最後にそう言って会釈すると、吹雪はそのまま艦娘たちの輪に戻って行った。

 さて……。

 

 

「ところで、大淀は何故まだ残っているんだ?」

 

 

 何故かは知らないが、吹雪と話している間も大淀はずっと残っていた。

 

 

「駄目でしょうか? 折角なので、護衛の理由も含めて私も埠頭に同伴しようと思っていたのですが」

 

 

 さも当然かのように言うが、俺だって護衛術には長けているれっきとした軍人なのだが……。

 

 

「だが、さっき何処かへ行こうとしていなかったか?」

「そうですね。でも、別に用事があったわけではありませんよ? それに、雪風さんのことも心配ですし」

 

 

 ……それは暗に、俺が雪風に何かしないかとか、そういう意味ではないよな? 

 

 

「まあ、いい。それなら着いてきてくれ」

「はい、分かりました……?」

 

 

 と、そんなやり取りの中で突然、何やら慌てた様子の妖精さんが現れ、大淀に向けて何かを言っている。

 内容が気になるところだが、生憎普通の人は妖精さんの姿を見ることが出来る素質を持つ人間すら極一部のみでその一部すらも声を聴きとることは出来ず、例外として艦娘だけは全員が妖精さんの言葉が分かるという。

 とはいえ例外も居るようで、艦娘との間に産まれた子は元々妖精さんを見ることが出来る素質を持つ者も多いらしく、また、本当に極稀に、言葉を理解出来る者も居るのだとか。

 まあ俺はそんな人間に会ったことはないし、真偽は定かではないが。

 

 

 妖精さんに耳を傾けている大淀さんは話を聞いていくに連れて、顔を青くした。

 

 

「て、提督! 大変です! どうやら、この鎮守府に北東方面から深海棲艦の一個艦隊が接近しているところを索敵レーダーにて確認。まもなく到着とのことです!」

「なんだと!?」

 

 

 俺はその報告を聞いて、何故気付かなかったのかと歯を食いしばる。

 しかしよく考えると、今日は一度も索敵を出していなかったことを思い出した。

 そうなると、今日は索敵がなかったことに気付いた深海棲艦が先遣隊を出したのか……? 

 だが、それでもたった1日でそれほど速い動きを見せるだろうか……いや、もしかしたら、何処からか話が漏れた可能性もあるかもしれないということか。

 深海棲艦とて、ただ俺達を襲うだけの馬鹿ではないことはここ数年の戦闘で我々軍人にははっきり周知されていることだ。

 今ここが建て直し中であることを知れば、向こうが絶好とばかりに夜襲をかけてくるのも何らおかしいことではない。

 

 

「敵編成は?」

「はっ! 重巡が1、軽巡が2、駆逐艦が2……そして、潜水艦が1とのことです」

 

 

 夜襲だからそうだろうとは思っていたが、やはり機動重視の水雷戦隊で来たか……しかも、よりによって潜水艦までもがやって来ていると来た。

 となると、うちの主力陣を軒並み出撃させるのは問題か。

 100歩譲って戦艦だが、機動力としては軽量艦に遥かに劣り、また潜水艦を相手にした対抗策は全く持ち合わせていないことを考えると、やはり出すわけにはいかない。

 それならやはりうちも重巡を主軸においた駆逐艦の高機動艦隊で行くしかないか……。

 ただ問題は、俺が知っている駆逐艦と言えば雪風と吹雪だけ……。

 

 

「……大淀。雪風は、何処に居るのだったか」

「提督、いきなり何を……雪風でしたら、先程吹雪さんも埠頭にと……あっ」

 

 

 大淀がハッとしたのと同時に、俺はとある決断を下した。

 

 

「大淀はこれより艦隊の編成を頼む。危急の問題であるため、出来れば練度が高い者からだ。私はこれより……埠頭へと向かう」

「そんな! 危険です! もうすぐ傍にまで迫っているんですよ!? 艦娘ならまだしも、私達の提督になるはずの貴方にそんな深海棲艦が居るかもしれない場所へなんて向かわせる訳にはいきません!」

「分かっている。だけど……すまない。俺がこうしたいんだ」

 

 

 大淀は焦ったようにそう言うが、俺はそんな大淀を振り払うように走り出した。

 

 

「ああもう、知りませんからね! 戻ってきたら、長門さん達にも報告しますから!」

 

 

 そんな声が後ろから聴こえてきたが、俺は聴かなかったことにした。

 酷く長く感じる廊下を駆け抜け、俺は鎮守府の外に出る。

 そして目的の場所に近付くにつれて……俺の嫌な予感はやはり的中していたのだと理解した。

 普段なら波の音以外は静かであったあろうそこは、見事に炸裂音と硝煙の燻る戦場と化しており、埠頭の所々に着弾した後が残っていた。

 更に暗くてよく見えないが、海で少し離れた地点に探照灯が灯っているのが分かり、その持ち主はやはり俺が目下探していた相手、雪風だった。

 

 

 雪風は探照灯などという荷物を抱えたまま、深海棲艦艦隊相手に単身で相対するという無茶を超えて無謀な行動に出ていたのだった。

 どうやら雪風は敵を鎮守府から引き離そうとしているようだが、やはり一人では耐えることすらどうにもならないらしく、じりじりと敵艦隊は鎮守府の方へと迫ってきていた。

 

 

「雪風!」

 

 

 気付けば、俺は叫んでしまっていた。

 まさに、俺が犯してしまった最大の悪手であった。

 

 

「し、司令官!? ……危ない!」

 

 

 雪風が俺に気付いたが、当然気付いたのは雪風だけではなかった。

 深海棲艦も俺に気付いたようで、少し離れているせいで見えにくかったが、雪風の照らす探照灯によって俺にもそれが見えてしまった。

 砲塔を俺の方に向けながら顔を歪める、重巡リ級の姿が。

 

 

 しまった、そう思いつつも超高速で飛来する砲弾など避けられるはずもなく。

 きっと呆然としていたであろう表情の俺の内心は、万事休すといったもの。

 

 

 しかし、俺に衝撃がやってくることはなかった。

 本来なら間違いなく俺に命中していたはずの弾道。

 その間に割り込んでくる影によって、俺の命は繋ぎ止められた。

 

 

 代償として、その影……雪風は、何故だか最後に俺の方を見て寂しげな微笑みを浮かべると。

 その身以上に巨大な砲弾をまともに受けた小さな体躯は、凄まじい勢いで吹き飛ばされていった。

 

 

 ……俺は、一体何をしているのだろうか。

 

 




これからしばらくはちょいちょいまた書いていけたらなーと思います。
そういうわけで応援の評価お願いします(現金な奴)。

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