転生先はブラック鎮守府の雪風でした   作:香月燈火

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前の投稿から1年が経過しました。



この馬鹿野郎め……


あと、本来は機能投稿する予定だったんですよ。というわけで、聞いてください……


「予約投稿、1日間違えた」


※追記
今話は愉悦要素は少なめです。


敵襲と、単騎の雪風

 夕焼けに染まる空がほとんど暗くなってしまったのを見上げながら、誰も居ない埠頭を歩く。

 17時半から歓迎パーティという名の提督による親交を深める作戦が施行されるみたいだけど、まあ、すぐに行く必要もないだろう。

 艦娘全員が本当に集まるとは思えないけど、気まずい関係の子が多いからね。

 それに、愉悦のためならむしろ今は出来るだけ会わない方が後々面白そうだ。

 

 

 そんな本来重要なはずの行事をほっぽかして、俺は今、基地の半分以上の面積を占めている埠頭を歩いている。

 うちの基地の埠頭は、以前別の場所からやってきたとある艦娘に聞いたことがあるんだけど、何処の基地と比べても馬鹿みたいに広いらしい。

 おまけに言うと、もはや埠頭と言うには海面と比べてもかなり高い位置に作られており、もはや港と言っても過言ではない。

 そのせいで、ここから出航するとなると抜錨の前に飛び降りる必要があるし、戻ってくる時も変に高いから苦労する……まあ、もとより艦娘の身体能力ならひとっ跳びで戻ってくることも出来るし、そもそもここ、前提督の時は立ち入り禁止になってたから関係ないんだけど。

 

 

 でも、深海棲艦のせいで軍艦も出せないこの時世に、なんでここまで堀の高い埠頭なんて作ったんだろうね? 

 

 

 俺は先端までやってくると……躊躇うことなく、足場のない宙へと一歩踏み出した。

 そしていよいよ海面に叩きつけられようとした時に……俺は、海面へと着地した。

 まあ、艦娘は普段は人と同じではあるものの、海に浮くことが出来るからね。

 艦娘だって艤装をはずせば普通の人のように泳ごうと思えば泳げるし、力だってそこそこ落ちる。

 それでも成人男性くらいの力はあるけどね。

 とは言っても、俺はこの姿になってから泳いだこともないし、なんなら艤装を外したことすらないけども。

 ちなみに、そのことはほかの艦娘達どころか、実は前提督ですら知らなかったりする。

 バレてしまえば、前提督によって完全に軍規違反で留置所どころか、完全に処分されていただろうし。

 

 

 さて、わざわざこんなところに何をしに来たのかというと……。

 

 

「やっぱり、居ましたね」

 

 

 実の所、さっきから少しだけ嫌な予感がしていたんだ。それで海側を歩いていたら……案の定、俺の標準装備である13号電探に反応があったわけで。

 おまけに、ソナーにまで反応がある。

 

 

「潜水艦3に駆逐艦2、軽巡洋艦1……艦影は北東ですか」

 

 

 我ながらさすがの運の良さというかなんというか、こういう時の勘は本当によく当たる。

 にしても軽量艦だけで本当に良かったな……駆逐艦や軽巡洋艦ならまだしも、それ以上のエリート級の重量艦がこられたら流石の俺でも危なかった。

 フラグシップ級や姫、鬼は……まあ、流石にこんな前線まで来ないだろうから、今は考えなくてもいいだろう。

 

 

「雪風、出撃します」

 

 

 一度、吸って吐いてを繰り返してから意気込むように胸の前に握りこぶしを作り、ぐっとガッツポーズをとる。

 うん、やっぱり雪風可愛い……今か日本人が、緊張を紛らわせるために毎度の出撃前に行うルーティンと言えば良いだろうか。

 ともかく、いくら愉悦のためと言っても俺は痛いのは嫌だし、本音を言えば死ぬのも怖い。

 だから、意外とこのルーティンは俺の助けになってくれている……と思う。

 

 

 幸いにも、爆雷の残弾はまだ残っている。

 この世界はゲームと違って、装備スロットなんてものが存在しないので、装備出来る武器種に制限はないし、主砲連撃だったりも自前の腕前でなんとかなったりはする。

 ただ、当然ながら弾切れとかはあるわけだから、その辺りは定期的に点検する必要がある。

 でもそれ以上に、今回は俺が艤装を常に装備してたから良かったけど、これ下手したらまじで基地が直接攻撃されてたんじゃないか? 

 流石に基地まで攻撃が届くことはないと思うけど、今は艦娘達もみんな歓迎会に居るだろうし。

 それよりも、いくらなんでもタイミングが良すぎるな。

 まるで、基地内部に深海棲艦の内通者がいるかのような早さなんだが……いや、そんなことは有り得ないか。

 例え姫や鬼みたいな意思疎通が取れそうな深海棲艦であっても、実際はまともに会話も出来ないような奴らばっかだからな。

 とにかく、今はこいつらを駆除することを優先しないと。

 

 

 さて、そうと決まれば……と主砲を構えたところで、俺の全身を嫌な予感が襲いかかった。

 半ば直感的に垂直に駆動すると、俺の居た地点を主砲のものと思わしき弾丸が通り過ぎた。

 

 

「何が……?」

 

 

 今のは、多分巡洋艦が使う主砲の砲撃、だったと思う。

 問題は、弾速が明らかに軽巡洋艦の速度ではなかったことだろう。

 俺ははっとなって、もう一度電探を確認してみる。

 気が付けば、敵艦の数が3つ程増えていた。

 

 

 というかこれ、状況的に見ても誘われたのでは? 

 

 

「もしかして、夜闇に紛れて海中から……!?」

 

 

 深海棲艦は、海からやってくる。

 その話は艦娘なら常識なくらいではあるけど、今まで赤くなった海域以外、つまり普通の海の中から潜って現れるなんて、聞いたことがなかったのに! 

 俺は急いで腰の探照灯のライトをつける。

 本来ならこんなバックアップもない状況探照灯なんていい的になるだけの話だが、敵や敵弾がほとんど目視出来ないまま勘に任せて避け続けるよりはマシだろう。

 

 

「ソノトオリダ、ヒメヨ」

「!? 誰ですか!」

 

 

 いきなり俺以外の声が聴こえてきたことで、俺は警戒を怠ることなく声の主を見るべくそちらに振り返った。

 そして、照らされた探照灯の先から現れたのは……全身から淡く黄色いオーラを立ち昇らせる重巡リ級。

 おまけに、その目は小さく青い炎のようなものが揺らめいていた。

 

 

「リ級の改フラグシップ!? なんでこんなところに……いや、そんなことよりも」

 

 

 リ級の、それも改フラグシップなんていう厄介な敵が現れたことは明らかに異常だし、緊急事態と言わざるをえないだろう。

 ただ、それすらも上回るほどの驚きが他にもあった。

 

 

「ソンナニワタシガシャベルノガオドロキカ……ヒメヨ」

「その、さっきから姫っていうのは一体なんなんですか?」

 

 

 ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべながら姫と呼ぶリ級に、俺は薄ら寒いものを覚えた。

 これでも元々男なんだぞ……姫呼ばわりは流石に鳥肌もんだわ。

 

 

「フム? モシヤ、キガツイテイナイノカ?」

「なんの話でしょうか。それよりも、さっさと帰ってはいただけないでしょうか」

 

 

 首を捻るリ級に、俺は無表情のままそう返した。

 流石にこれでうんとは言わないだろうが、この状況はあまりにも分が悪い。

 愉悦なんて言ってられる暇はないし、このまま時間稼ぎをしていたら艦娘部隊だってやってくるはずだ。

 

 

「イイゾ」

 

 

 ……は? 

 

 

「タダシ、ヒメ……イヤ、ユキカゼヨ。オマエニハワタシタチニツイテキテモラウ」

「どういうことですか?」

 

 

 あっさり了承したかと思えば、今度は要領を得ないことを言い出すリ級。

 

 

「ドウイウコトモナイ。オマエニハワタシタチノナカマニナレ」

 

 

 ……何を言ってるんだ、こいつは。

 そんなこと、到底許されるものじゃない。

 

 

「断ります。私はここ、舞鶴の雪風で、艦娘ですから」

 

 

 そんなことをしたら、間近で提督の愉悦が楽しめないじゃないか! 

 確かに、寝返ったことで最初は提督の愉悦を楽しめるかもしれない。

 けど、そこまででしかない。

 その愉悦の先にあるものは、愉悦ではなく憎悪でしかない。

 そんなものは、俺の座右の銘「生涯愉悦」に反するという他ない。

 

 

「ソウカ……デハ、ムリニデモシズメテツレテイクトシヨウ!」

 

 

 リ級が叫んだと同時に、左右両方向からほぼ同時に砲撃音が聴こえてくる。咄嗟に後ろに下がることで回避すると、敵艦隊により放たれた弾は俺の目の前を通り過ぎ、夾叉した。

 俺は後ろに下がりながら、弾道を予測してまずは左側の敵艦が居るだろう方向に主砲を向け……発射する。

 左目の見えない俺としちゃ、一番厄介なのは死角からの攻撃だった。多分駆逐艦なんだろうけど、それでも油断していいもんじゃない。

 最初の数発は撃ち漏らしたものの、何発かして離れたところから爆煙が上がった。

 

 

 しかし、それからはしばらく敵艦を撃破することが出来ず、膠着状態が続いた。

 残りは駆逐艦……さっき視界にちらと見えた限りではあるが、恐らくロ級のエリートだろう。

 あとは軽巡洋艦ホ級エリートと、潜姿は見えないが、さっきから潜水艦の雷撃も何度かとんで来ている。

 今のところ被弾はないものの、流石に単騎では回避するのが精一杯な上に潜水艦からの攻撃も警戒しているせいで、反撃の隙すら見えない。

 元より攻撃が得意なタイプではなかったのもあって、完全に攻めあぐねていた。

 

 

 と、その時。

 

 

「雪風!」

 

 

 聞き覚えのある声が、後ろから……思っていたよりも近くから、聴こえてきた。

 俺が攻めきれないでいる間に、いつの間にか鎮守府付近まで後退してしまっていたようだ……って、いやいや! 

 

 

 護衛もなしになにやってんのあの提督(バカ)!? 

 悪態をついていると、視界の端で探照灯に照らされたリ級の口角が上がっているのが見えた。

 

 

 あ、これやばい(確信)

 

 

「司令官!? ……危ない!」

 

 

 咄嗟に、提督と主砲を構えたリ級の射線上に身体を差し込む。

 瞬間、全身に強い衝撃が襲いかかった。

 感覚的に自分が今吹き飛んでいるのが分かるものの、正直風圧がすごすぎて、何とか出来る余裕がない。

 

 

 痛くはないんだけど、これはちょっと気持ち悪いな。

 重巡の、それも改フラグシップクラスの主砲をこんな真っ向から受けたことなんかなかったから、さながらアスレチックのような感覚と言えばいいか……やべえ、なんか想像したら笑えてきたんだけど。

 

 

 すごい勢いで吹き飛んだ俺は、跳ねるように海面に叩きつけられながら最終的に埠頭に打ち上げられた。

 身体を動かしてみようとするが、右腕を少し動かすだけで違和感が生じる。

 口からも血を吐いてるし、ただでさえ血まみれだった全身がもはや真っ赤である……あれ、これ俺マジで死ぬのでは? 

 

 

「雪風! 雪風ぇ! おい、大丈夫か! しっかりしろ!」

 

 

 いつの間にか近付いてきていたのか、提督が必死に俺の名前を叫びながら呼びかけてくる。

 その声を聞いて、俺はふと今の状況をようやく思い出した……まさに、曇らせには最高なタイミングではないか? 

 

 

 それを理解した瞬間、無意識というかなんというか、俺は立ち上がっていた。

 自分でもまともに動くことも出来ない状態なのは分かっている。

 右腕と右足は完全に折れていて、腹部からは正直やばいくらいの血が出てるのがわかる……見なかったことにしよう。

 

 

 しかし、今の状況はどうだ? 

 満身創痍の雪風に、すぐ傍で心配げに寄り添う提督……全く、最高のシチュエーションではないか! 

 

 

 反射的に両手の主砲を前に向けると、飛来していた弾頭に向けて同時に発射し、二発の弾を同時にぶつけて撃ち落とす。

 

 

「しれぇは……本当に、皆を護ってくれますか?」

「……当たり前だろ。それが、俺がここに来た理由で、俺が存在する理由でもあるんだ。ひとつの組織を率いる者としては、当然だろう」

 

 

 よく見えないが、提督がどうやら本気で言っているのはよく分かった。

 本当にそのつもりで言っていられる人間が、一体どれだけいることか。

 

 

「ではしれぇ、これからその言葉を、証明し続けてください。雪風はいつでも、見ていますから」

「雪風?」

 

 

 俺はなんとか、多分提督が居るだろう方向に向けて微笑んでやると、艤装との同期を深めて再び、埠頭から海へと飛び下りた。

 

 

 全ての砲塔が、俺の方へと向けられる。

 

 

「待て、雪風! それ以上は……」

「大丈夫ですよ、司令……本当の雪風はここでは沈みませんから」

 

 

 大丈夫大丈夫、避けるくらいなら今のままでも……。

 なんて思っていたら、海面に着地した瞬間、膝ががくんと崩れ落ちるように折れる。

 っていやいや、やばいって!? 

 

 

 一箇所に集まったことで、駆逐ロ級が、軽巡ホ級が、重巡リ級が、探照灯に照らされたことでぼやけたその輪郭を映し出していた。

 やべえ、詰んだ。

 

 

「雪風は頑張れたでしょうか。皆を護れたでしょうか」

 

 

 この時、テンパりからか、俺は自分でも何を言っているのかも分かっていなかった。

 

 

「しれぇ、雪風も……今、そっちに行きます」

 

 

 何かを呟いた、直後。

 駆逐ロ級が爆発を起こした。

 

 

「総員! 配置につけ! 目標は旗艦、リ級だ! 小規模部隊とはいえ、油断するな……てえ!」

 

 

 この声は、長門さんだろうか。

 声と共に、発砲音が至るところから鳴り渡る。

 丁度、援軍が間に合ったらしい。

 

 

「グッ! オノレ、カンムスメガ! コノバハテッタイスルシカ……!」

 

 

 初めて、リ級が焦っている声を聞いたような気がする。

 もうほとんど目が見えていないせいで、状況はさっぱりだが。

 

 

「ヒメヨ、イツカワレワレノモトニクルノヲタノシミニシテイルゾ!」

 

 

 その声を最後に、しばらく発砲音と機雷の爆発の音だけが鳴り続け……少しして、ようやくなりやんだ。

 

 

「雪風、無事か!?」

 

 

 やっぱりこの声は長門さんか。

 無事を知らせるべく海面に膝をついたままの足でなんとか立とうとして。

 俺の身体は、そのまま海面へと倒れ込んだ……あれ? 

 

 

「雪風!?」

 

 

 まるで悲鳴をあげるような時津風の声が、妙にはっきり聴こえてくる。

 困ったな、身体が動きそうにない。

 まあ、このままでいれば勝手に誰かが運んでくれるだろう。

 人頼みで悪いとは思うけども、動かないんだから仕方ないしな。

 それよりも、さっきから眠い……いっそ、このまま寝てしまおうか。

 

 

「しっかりしてよ、雪風! 死なないで!」

 

 

 心配するなって、時津風。

 ちょっと寝るだけだから、な? 

 

 

 そんなことを考えながら、呑気にも俺はそのまま目を閉じて意識を落として行った……本当に死なないよね?




幸運にも設定に関しては去年にしっかり纏めておいたのが残ってるのでそれ確認しながら書いてます。
ただ、この作品自体久しぶりなので今話はある程度慣らしで書いてます。文体がちょっと変わってるかもしれないけど気にしないでください()
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