転生先はブラック鎮守府の雪風でした   作:香月燈火

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お久しぶりです。
しばらく更新頻度上がります。


大本営の雪風(提督side)

「しっかりしてよ、雪風! 死なないで!」

 

 

 必死に声を張り上げて、すっかり全身が傷だらけで意識を落としている雪風に涙ながらに縋り付く時津風。彼女は確か……雪風と同室の子だったか。

 

 

「……提督、後で話がある」

 

 

 一方、深海棲艦の殲滅を終えたらしい長門は、俺に向けて鋭い視線を向けつつ少し声を震わせながらそんなことを言うと、後は何も言わずに鎮守府の方へと戻って行った。まるで怒りを押し殺したように見えた長門の言葉に、俺は拳を握り締めた。

 

 

 ──なんだ、この体たらくは。

 あまりにも迂闊な己の行動に、俺は狂いたくなるほどの後悔を覚える。さっきは何も言わなかったが、あの目は怒りに打ち震えていた。

 雪風が倒れたのは、間違いなく俺のせいだ。俺が居なければ、雪風だけであれば、間違いなく勝てた戦いだったはずだ。

 この鎮守府で最も階級が高く、そして唯一指示を出せる立場の俺が何をやっているんだ? 俺が、俺だけが足手まといじゃないか……! 

 

 

「提督」

 

 

 俯く俺に向けて呼び掛ける声。そんな声を聴いて顔を上げると、そこには……弓を持ったまま、少し微笑んでいる鳳翔だった。

 しかしここの鳳翔は俺の知る何もかもを抱擁してくれそうな雰囲気を醸していた士官学校の鳳翔とは違い、明らかに少しやつれており、表情からはあまり余裕を感じられないほどに疲れきっていた。

 

 

「鳳翔か……どうした? 戻らないのか?」

「私は護衛です……と言っても、旧型なので、お力になれるかは分かりませんが」

 

 

 鳳翔に言われ、俺は再び馬鹿を示してしまったことに気付く。ついさっきまで深海棲艦に襲われたばかりだというのに、また一人で行動しようとしていた浅慮さに、つくづく無能だと感じざるを得ない。

 が、それはそれとして鳳翔の自虐に関しては話は別だ。彼女の目には、諦観が映っていた。

 

 

「それは違う。俺の居た士官学校にも鳳翔は居たが、厳しい訓練に疲れきった俺たちを、手心加えて癒してくれた……ここの君のことはよく知らないが、だからと言って君が力のない存在、なんてことはないはずだ。それに君は、全ての空母の母だろう?」

 

 

 それを言うと、俺なんかは役に立っていないどころかむしろ足を引っ張っているくらいだ。現状、邪魔になっている俺よりはマシだろう。

 それにしても、我ながらちょっと食い気味になってしまったかもしれない。まあ、士官学校では本当に鳳翔からは色々助けられたから、本音ではあるのだが。

 少し心配になって見ていると、鳳翔は少しの間驚いた表情で固まった後、くすくすと小さく笑い声を漏らした。

 

 

「そう、ですか……提督、ありがとうございます」

 

 

 どうやら引かれはしなかったらしい。心なしか、鳳翔の表情もさっきより少し安らいでいるように見える。

 

 

「提督。端的に言って、艦娘が戦闘に集中している傍での注意を引く行動、及び味方の集中力を損なうような行動。端的に言えば、とても浅慮としか言えません」

「お、おお……」

 

 

 いきなりの核心を突いた鳳翔の言い分に、つい圧倒されるように呻き声だけが洩れる。自覚はしている……むしろ、痛感させられているだけに、それを人に言われると、やっぱり衝撃は大きい。

 だが、ここは甘んじて受けねば……そう思い次の諌言を待っていると、鳳翔はいきなり俯くと「ですが」と続けた。

 

 

「それは、今までの私達も同じでした。いえ、むしろ私達の方が過ちとしては大きいかもしれません。提督の指示に逆らえないから、自分ではどうにもならないからと、あの子……雪風ちゃんに私達は八つ当たりしてしまっていました」

 

 

 この鎮守府に残っていた過去の出撃記録を確認すると、雪風と同じ編隊の子だけ、轟沈数が圧倒的に少なかった。雪風と言えば、よく幸運艦だという話を聞くのだが、果たしてそれは本当だろうか?

 俺は、初めて雪風の出撃記録を見た時、まるで信じられないものを見たかのように驚いたものだった。なにせ、雪風だけが圧倒的に出撃回数が多かったからだ。他のほとんどの艦娘と比較しても《3倍以上もの出撃回数》を重ねてきた雪風は、本当に幸運だったと言えるのか? 

 雪風はよく、前提督に呼ばれていたと聞く。その内容を知っている艦娘はほとんど居ないようだし、長門達に聞いても教えてくれなかったが、それが理由で雪風は提督に気に入られているのではないか? と他の艦娘が疑心していたのが、雪風への不当な風当たりの原因のひとつだと言っていた。

 

 

「だから、提督。もし雪風ちゃんが起きたら、一緒に謝りに行きましょう。そして……次からは、もう皆で間違えないようにしましょうね」

「そう、か。そうだな」

 

 

 そう言って、鳳翔さんは俺のよく知る彼女と同じ、優しい微笑みを浮かべた。

 

 

「ああ、でも提督。長門さんからのお叱りはしっかり受けてくださいね? 長門さんも、提督には期待していましたから」

「ああ、分かっているさ……さて、鎮守府に戻ろうか」

 

 

 ここで俺が逃げ出せば、長門はおろか、全ての艦娘からの期待が失望に変わるのは容易に想像出来る。それに、鳳翔に許しを貰ったとしても、()()()()()()()()()()だ。今回に限っては、間違いなく俺が全て悪いことには違いないのだから。

 鳳翔を伴って少し雪風の見舞いに寄ってから俺の執務室へ戻ってくると、鳳翔は「雪風ちゃんが起きた時のために食べ物を作ってあげたいので」と、そのまま別れた。やっぱり、あの細やかな心配りが出来るところが鳳翔の本当の良さだと常々思う。例え艦娘と関係を築けたとしても、俺には出来ないことだ。

 

 

 さて、ともうすっかり歓迎会の空気でもなくなったこともあって、書類でも纏めようかと考えた時、内線が部屋に鳴り響いた。

 一体誰から……と逡巡したが、そもそもこの部屋の回線にアポもなしに直接かけてくる人はたった一人しか居ないことに気付き、俺は慌てて受話器を取った。

 

 

「もしもし……朝倉少佐です。お疲れ様です」

『ああ、お疲れ様。朝倉くん』

 

 

 俺の予想通り、電話に出た先から聴こえてきた相手の声は、なんと、現在日本海軍において最高位に位置し、大本営で忙しくしているはずの嘉村聡一郎(かむらそういちろう)元帥だった。

 この人は俺にとっては恩人であり……そして、俺とは薄くではあるが血の繋がった叔父でもある。

 俺がこうして少佐として指揮するために手配したのも、何を隠そうこの人だ。俺を評価してこの鎮守府を任せてくれたとは言っていたものの、言い方は悪いが、正直七光りなのも否定出来ない事実だと思う。だからこそ、俺はしっかり結果で示そうとこれから奮闘していく所存である。

 

 

「して、今回はどちらの要件で?」

『いや、君の沙汰はどうかと思ってな。まあ、近況報告のような世間話ととってもらっても構わない……で、どうだ? 艦娘達とは、上手くいっているのか?』

 

 

 その言葉に、俺は少し言葉を詰まらせる。が、俺は正直に全てを話すことにした。

 着任当時の艦娘たちは、余程悲惨な状態であったこと。艦娘たちからは警戒されていること。そして、今までの雪風の状態……俺が今日犯してしまった失態まで、掻い摘んだところはあれど、しっかりと話した。

 全てを聞いた元帥は、ううむと声を低くして唸った。

 

 

『なるほど……その失態は、完全に君の過失と言ってもいいだろう。艦娘たちとの信頼にも大きく影響を及ぼす可能性もある。それで、雪風は大丈夫だったか?』

「状態としては意識不明の重体ではありますが、幸いにも命には別状がないらしく、すぐさま高速修復剤入りのお風呂に入渠した後、医務室で寝かせています」

 

 

 俺も医務室でそれを聞いた時は、心底安堵したものだ。もし雪風に何があれば……俺は、自分の命で償いたくなるほどには後悔で埋め尽くされていただろう。

 報告を聞いた元帥は、ふうと息を吐いた。もしかして、元帥も安心したのだろうか。やっぱり、()()()()()()()といい、元帥にとって艦娘は特別な存在なのかもしれない。

 

 

『そう、か。それにしても、まさか君()私と同じとはな』

「も? 同じ、とは?」

 

 

 何処か懐かしむような声で呟く元帥に、俺は反射的に聞き返してしまう。それが元帥の気に障るかもしれないと思い至り、電話を隔てているのにも関わらず、全力で頭を下げながら謝罪する。

 

 

「す、すみません! 差し出がましい口を&……!」

『いや、良い。今のは気になっても仕方がないだろう。時に、朝倉くん。私の指のものを、見たことはあるかね?』

「え? は、はい。ケッコンカッコカリの指輪、でしたよね?」

 

 

 確か、強い絆を結んだ艦娘とだけが交換することができ、その艦娘の潜在能力を引き出すことが出来るものだったと記憶している。

 相当な信頼がないと効果を成さない上に、そもそも指輪を1つ作るだけでもかなりの資材量を要求されるらしく、成果が認められた鎮守府に対して、たったひとつだけを支給されると教わった。

 

 

『そうだ。で、その相手こそ、私の鎮守府の主力艦の一人だった艦娘、雪風なのだ』

「元帥のケッコンカッコカリの相手が……雪風、ですか?」

 

 

 正直、まさかとは思った。かつて、最強の艦隊を持っていたと言われている元帥のケッコンカッコカリ艦が、雪風だなんて。

 

 

『それだけではないぞ。私がまだ鎮守府に着任して間もない頃だ。当時、秘書艦を務めていた雪風と共に空いた時間に釣りをしていた際、突如現れた深海棲艦に襲われたことがあった。その時は雪風が単騎で応戦したものの、辛抱ならなかった俺がつい雪風の名前を呼んでしまい、そのせいで深海棲艦の気を引いてしまった私に飛んできた砲撃を、雪風が庇って受けてしまったのだ』

「それは……確かに、私と同じですね」

 

 

 続く元帥のエピソードに、俺は絶句するばかりだった。なにしろ、語られる内容が、前後に何をしていたのか以外はそのまま俺と全く同じだったからだ。

 

 

「それで、その雪風は今はどこに?」

『……2年ほど前のことだ。君もよく知るあの大作戦に出撃し、そのまま帰ってこなかった』

 

 

 2年前の作戦と言えば、ガダルカナル島とその周辺海域を制圧していた深海棲艦の掃討のことだろう。あの戦いの時はまだ俺は幹部候補として士官学校に居たのだが、多大な犠牲を払いつつもなんとか作戦を成功させたという話は耳にしたことがある。その功績をもって、当時の作戦の最高指揮者であった嘉村元帥は、大将から昇格したのだった。

 明らかに沈んだ様子の声に、俺は何も声を掛けられなかった。つまり、元帥は最も信頼していた艦娘を、喪っていたということなのだから。

 俺にはまだ理解出来ない感情を慰める術を、俺は持ち合わせてはいなかった。

 

 

『すまないな。このような、重い話をしてしまって』

「いえ、とても貴重なお話を聞くことが出来ました」

 

 

 元帥のこの話は、俺にも有り得ない話ではない。提督として指揮を執る以上、同じような決断を迫られることは今後間違いなく壁として訪れるだろう。俺はその時、気持ちを確かにしていられるだろうか……。

 

 

『長話に付き合わせてしまったな。雪風は、ああ見えてかなり思慮深く、そして人一倍仲間想いの艦娘と言っていいだろう。もし何かあれば、いつでも私に連絡をくれるといい』

「はい、ありがとうございました」

 

 

 流石に余程なことがない限り元帥に直接かけることはないだろうが、それでも為になる話を聞くことが出来た。

 

 

『ああ、そうだ。私以外にも、2人ほど雪風と特別仲の良かった人が居る。奴らは大本営の開発部に勤めているが故、興味があれば話を聞いてみるのもいいだろう。名前は──』

 

 

 最後にその2人の名前を言い残した後、元帥は回線を切った。

 俺は緊張から息を吐き、崩れ落ちるように椅子へと座り込んだ。

 

 

「開発部責任者の草鹿瑛介(くさがえいすけ)さん。それと……」

 

 

 元帥から聞いた、その名前。何故あのタイミングでと思ったが、不思議と忘れてはいけない、そんな気がして2人の名前を反芻する。

 

 

「元帥の大親友だった人の妹、雪波小夜(ゆきなみさよ)さん、か……」




次話、初めての三人称視点入ります。
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