あの日のことは、絶対に忘れることはない…
燃え盛る家の中、血溜まりの中に倒れている両親。
震える腕の中で泣きじゃくる妹をあやしながら、こちらへと歩み寄ってくる『怪物』を睨み付ける。
妹を庇った時に斬られた腕からは止めどなく血が流れ、泣き出したいくらいの痛みが伝わってくる。
ゆっくりと、しかし確実にやってくる怪物。
こちらの様子など意に介さないかのように、目の前までやってきて、手にした武器を振り上げる。
せめて妹だけは──そう思って、妹を庇うように怪物に背を向けて、歯を食いしばって目を閉じて、やってくるであろう衝撃に備える。
しかし、衝撃はやってこず…代わりに怪物の怒り混じりの苦悶の声が聞こえてくる。
恐る恐る目を開いて、振り返る。そこに写った光景は、殴られ吹き飛ばされた痛みで悶える怪物と……
『赤い戦士』だった。
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町の外れにぽつりと存在する一軒家。
その室内にて、アラームが鳴り響いている。
ベッドの枕元に置かれたアラームの源である携帯端末へと手が伸び、鳴り響いていたアラームが止まる。
手を伸ばしてアラームを止めた男は、気だるげにベッドの上で布団を退けて、ぐいっと体を起こして伸びをする。
「んんー…っと」
伸びで眠気を飛ばした後、ベッドから出て、そのまま部屋のドアにと向かい、部屋から出て、廊下を通ってリビングへと向かう。
寝ぼけ眼をこすりながらドアを開けてリビングに入ると、リビングと繋がったキッチンから少女の鼻歌とトントントン、という小気味良い包丁の音が聞こえてくる。
「あ、おはようございます、兄さん。すぐ朝ごはん出来ますからね」
「おー、おはよ、遥香…」
キッチンの方から聞こえてきた声に、男── 『
寝起きの兄の様子を見て、微笑を浮かべる少女──『
食器をてきぱきと並べるのをぼんやりと眺めていると、その様子を見ていた遥香がくすっ、と笑って声をかける。
「準備はこっちで済ませておきますから、おじいさんを起こしてきて貰っていいですか?」
「っと、悪い悪い、寝起きでぼんやりしてたぜ……じいさん呼んでくるなー」
声をかけられた敬助は慌てたように玄関へと向かい、家の外へと出る。
春になったばかりの冷たい空気を感じつつ、敬助は外に出て、家の庭に存在する小屋の扉の前に立って、コンコン、と軽くノックして中へと呼び掛ける。
「じいさーん、朝飯出来たってー!……ったく、また夜通しなんか作ってたのかよ…?」
ノックにも呼び掛けにも何も帰ってこないことにあきれた様子の敬助が、中へ入ろうとドアノブに手をかけた瞬間、中からボン!という小さな爆発音と、老人の悲鳴が聞こえてくる。
中のただならぬ様子を聞いて、それでも敬助は焦ったり慌てる様子もなく、はぁ、とため息をついてそのままドアノブをひねって扉を開け、中へ入る。
小屋の中にはドラマや特撮でしかみないような物々しい装置や謎のスイッチが無数についた機械等がそこかしこに設置され、マッドサイエンティストの研究室のような状況へとなっている。
その雑然とした部屋の真ん中にひっくり返っている一人の老人の元へと歩み寄った敬助はしゃがみこんであきれた様子で老人に呼び掛ける。
「おーいじいさーん?朝だぞー?」
敬助の呼び声が聞こえたかのように、ひっくりかえって目を回していた老人がひょい、と上体のみを起き上がらせる。
「ん……おお、敬助か」
「まぁた夜通しなんかみょーなもん作ってたのかよ…もう朝だけど眠たくねぇのかよ?」
「ほっほっほっ、老いてますます盛んって言葉が世の中にはあるんじゃ、若いもんにはまだまだ負けんわい!なんての」
敬助の呆れたような言葉に白髪に白い口髭を蓄えた老人──『
「全く…とりあえずタオル取ってくっから、まずその煤だらけの顔洗って飯にしようぜ。折角の出来立ての遥香の飯が冷めちまう」
「はいよ、と…む?そういえば急がんでいいのか?学校があるんじゃないかの?」
「今日は日曜だしなー、遥香の部活動もお休みだし特に予定もないぞー」
「ほう、そうじゃったかの…?」
健三が豊かに蓄えられた髭を弄くりながら首を傾げていると、
「にいさーん!健三さん起きてましたー!?早くしないとお料理冷めちゃいますよー!?」
小屋の外から、遥香が急かすように声をかけてくる。
「おおっと、やべぇやべぇ…んじゃタオル取ってくるからな!」
慌てた様子で小屋の外へ出ていく敬助を見送った健三。
敬助が部屋から出ていくと同時に、ふう、と息を吐いた健三は、部屋の真ん中の装置、その隣に据え付けられたパソコンのディスプレイを見やる。
「ふむ…充電にはまだまだ時間がかかるかの?……『トラスト』の調整もせねばならんしな……スーツの強度テストやラーニングパッケージの確認も…」
目まぐるしく変わるさまざまな数値を見つめながら、うーん、と唸って首を捻って、カタカタとキーボードを操作していく。
「いつ『連中』がここを嗅ぎ付けてくるかもわからん…早いところ『G3ユニット』か『猛士』辺りにでも渡さねば…」
「じいさーん!タオルとってきたぜー!はやくはやくー!」
しばらく計器とにらめっこをしていた健三であったが、小屋の外から敬助の声が聞こえてくると慌てて起動していたアプリを閉じて、パソコンの電源を切る。
「まぁ、今日中には完成するじゃろ……はいはい、今いくぞい!」
健三が小屋の外へと出ていくと、部屋には沈黙が訪れる。
部屋の真ん中にあった装置…スマートフォンのような形をしたそれは、『SYSTEM TRANS』というネームタグが付けられていた。
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「「「いただきます!」」」
食卓を囲んだ敬助、遥香、健三の三人が手を合わせ合唱する。
テーブルの上には茶碗に盛り付けられまだ湯気を放っている白飯、豆腐とワカメの味噌汁、卵焼きにサラダという比較的オーソドックスなメニューの朝食が並べられている。
「うん!旨い!やっぱ遥香の飯は最高だな!」
「もう、兄さんは褒めすぎです……」
「いやいや!特にこの卵焼きとかマジでうまいぞ!」
ガツガツとご飯をかきこみながら、料理をべた褒めする敬助の言葉を聞いて、恥ずかしそうに顔を赤らめつつも嬉しそうな遥香の様子を見て、健三が申し訳なさげに言う。
「すまんのぉ二人とも…わしがもっと何かしてやれれば良かったんじゃが…譲二と杏里が生きておればなぁ…」
「お、おいおい、じーさん!そんな辛気くさそうな顔するなって、爺さんの稼ぎのお陰で俺らは生活できてるんだからさ!そんな事言うなって!」
『
敬助と遥香の両親であるその二人は、既にこの世にいない。
三年前にある事件により両親を無くした二人を引き取り、育てているのが健三であり、彼等の学費や生活費等は健三の資産から支払われている。
その事は敬助と遥香も知っており、敬助は迷惑をかけまいと部活動を止め、自分の趣味の費用などはアルバイトで賄おうと努めている。
無念そうな健三を気遣わせまいと、敬助は必死で取り繕おうとする。
「何もできない、って言うなら俺もだし、さ…料理出来なかったし」
「わ、わたしは兄さんの作ったチキンライス好きでしたから!」
「いやケチャップまぶして魚肉ソーセージ混ぜたくらいだし…遥香の料理にゃ敵わねぇしさ……っと、んなことよりテレビ見ようぜー、なんか面白い番組やってるかもしれねぇしさ」
話題が暗い方向へと進んでいると感じた敬助はリモコンを手にして、テレビへ向けてスイッチを押す。
テレビにはちょうどニュース番組をやっていたらしく、
女性キャスターが原稿を読みながらニュースを伝えていた。
『昨日……時頃、神多品市神田区にて未確認生命体が出現したとのことです。警察からの発表によりますと出現した未確認生命体はGユニットにより迅速に撃退され、被害者が出る前に対処されたとのことで……』
『未確認生命体』。
世界中を照らした謎の『光』の後に現れた、謎の怪物達。種類や容姿、その生い立ちも様々で、思惑も一致しない。ただ、そのどれもが人間の常識を越える力を持ち、その多くが人間の命を、自由を、平和を脅かそうとしている。
そして……敬助と遥香の両親を奪い去ったのも未確認生命体のうちの一体である。
「……4号が0号を倒したってのにまだいるのかよ、あいつら……」
ニュースを見た敬助が苦虫を噛み潰したかのような表情で言う。
そう。
今から三年前。神多品市にて、未確認生命体の中の種族…人々を殺しその数を競う殺人ゲームを愉しみ命を弄んだ存在『グロンギ』は、その驚異に立ち向かった『未確認生命体4号』の手で首魁が倒され、活動は治まった…かに見えた。
しかし、それでも神多品市の人間では実行不可能と思われるような、『不可能犯罪』と呼ばれる事件の件数は『減少』しただけ。
つまり、活動は活発でないにしても未だに未確認生命体は存在するのだ。
「ま、大丈夫じゃろうて。今回の事件もGユニットがなんとかしたらしいからのう」
勿論警察も何も対処していないわけではない。
未確認生命体との交戦にて多くの人員を失い被害を受けた警察機構は、かつて共闘した『未確認生命体4号』及び『アギト』等の覚醒者を模したパワードスーツ『GENERATION』シリーズの開発を行い、警察内だけでなく民間の企業とも連携を行い、試作1号機G1、試作2号機G2を経て、安定性と装備の自由度を求めた『G3』システムが完成、十数機が量産され、その多くがかつて未確認生命体が多発し、今でも残党が潜伏していると思われる『神多品市』に配備されることとなった。
配備されたG3を一機ごとに指揮官・装着者・オペレーター・整備員が配備され、『G3ユニット』として活動が義務付けられている。
また配備されたG3を現地で改修した機体が存在したり、自衛隊内にて『G4』開発計画が行われていたり、開発に協力していた他の企業が独自のパワードスーツ開発が行われているとも言われている。
今回未確認を倒したのもその内の一機らしく、警察組織の人間らしき警官服の男性が取材に受け答えしている様子がテレビに写し出されていた。
「そう、だな。早いとこ……本当に平和になってほしいもんだ」
テレビを見ながらぽつりと呟いた敬助は、テレビから興味を無くして再び朝食をかきこみはじめる。
未確認生命体、という常識外の存在の前に一度崩され、4号や警察による奮闘の末、やっとの思いで再び戻ってきた『平和』という存在。
それが続いてほしい、という願いは……
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『……間違いはないな?』
『はい、間違いありません。健三はここに潜伏していると思われます』
『そうか。…我々から逃げられると思ったか、結城健三…!』
すぐ、破られることとなる。
『Gユニット』
警察組織内の特殊部隊。
対未確認生命体用の装備である『GENERATION』ユニットの運用のために作られたチームであり、1チームごとに指揮官、装着者、オペレーター、整備員等の人員が配備され未確認生命体の発見情報などを元に出撃し未確認との戦闘を行うのが主な任務である。
『未確認とGユニットの交戦』
参加してくださっている『大ちゃんネオ』様のスピンオフ『マスカレイドサーガ 仮面ライダーカルナ』から拝借させていただいた事件。
↓にて読めます
https://syosetu.org/novel/250729/