マスカレイド・サーガ   作:バイン

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MISSION.1-B

「よし、と…あとは動作と先行でダウンロードしておいた『パッケージ』が機能するかを確かめて…いや、それは装着者が決まってからでもいいかの…?」

 

 

三人が朝食を済ませてから少しして。

再び小屋に戻っていた健三は、再び煤まみれとなった顔を首もとに巻いたタオルで拭いつつ、ふう、と息を吐く。

完成品と思わしきスマートフォンのようなその機器を持ち上げ、液晶画面にタッチし操作したり、備え付けのPCのディスプレイに映る数値を確認しながらキーボードで数値を入力した後、手にしていた機器をコードに繋ぐ。

 

 

「さて、まずは『BOARD』辺りにでも売り込んで…」

 

「探しましたよ、健三博士…」

 

作業を終えて外に出ようとした健三は聞こえてきた声にぎょっとする。

慌てて声の方へと振り向くと、そこには夏も近づいているのにも関わらずトレンチコートに黒いサングラス、黒いフェドーラ帽という堅気には到底見えないような人物がドアを塞ぐようにして壁に寄りかかり健三へと目を向けていた。

 

 

「失礼、鍵が開いていたようなので勝手に上がらせていただきましたよ…少し不用心ではないですかな?」

 

「ま、まさか……貴様ッ!どうやってここを突き止めたっ!」

 

「我々の情報網をなめないでいただきたいものですな、博士…」

 

 

トレンチコートの人物は低いダミ声と慇懃無礼な口調で健三を揶揄しながらニヤニヤと笑みを浮かべつつこちらへと歩み寄ってくる。

それを見て慌てて後ろへと下がる健三であったが、下がりすぎて壁にぶつかり軽く頭をぶつけ、ついに男に追い詰められる。

 

 

「しかし博士も酷いお人だ、我々の協力要請を断るとは…お孫さん二人の養育費や研究のための設備や資金……『実験台』等はこちらが用意させていただくというのに。御不満があるのでしたらこちらも応じるのですが、ね?」

 

「ふ、ふざけるなっ…何度言われようとも断るっ!誰が貴様らのような悪党どもに手を貸すかっ!敬助と遥香にも関わらせんっ!」

 

 

かなりの高身長である男は、小柄な健三を覗き込むようにして気味が悪いほどの猫なで声で健三へと語りかける。

その誘いに対して、震えつつも健三は毅然とした態度で言い返す。

健三は既に男の言う組織から幾度となく誘いを受け、それを全て断っている。何故なら…健三はその『組織』のやっていたことを知っている。

暴力団やマフィア等の反社会組織のような単なる犯罪組織ならばまだ良かった。しかし彼らは……まるで子供のような目標を掲げ…そのために常軌を逸した行為を行っている。

 

「……どうしても、我々には協力したくない、と…そういうのですね?」

 

「くどい!貴様らのような悪魔に魂を売るほど耄碌しちゃおらんわい!」

 

 

返答を聞いた男はため息とともに帽子を目深にかぶりなおし、直後健三の胸ぐらを掴んで健三を持ち上げる。

 

 

「…………こっちが下手に出てりゃあ、いい気になってんじゃあねぇぞクソジジイが!」

 

「ぐ、おお……」

 

「協力したくねぇってんならその考えを変えさせてやろうじゃねぇか……!」

 

──────────────

 

健三が男と出会っていた頃。

 

 

「すみません、兄さん……お休みの日なのに買い物に付き合わせてしまって」

 

「なーに、気にすんな。むしろ休みですることもなかったんだしさ」

 

買い物帰りと思わしき遥香と敬助が、買い物袋を手に家路についていた。

小さい買い物袋を手にした遥香が申し訳なさそうしている一方で、敬助は気さくに笑って、両手に提げている買い物袋を軽く持ち上げて見せる。

 

 

 

「力仕事くらいならいくらでもお兄ちゃんに頼りなさい!……なーんてな」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 

悪戯っぽく笑う敬助を見て、感謝の意とともにつられて笑う遥香であったが、家の近くまで来ると、異変に気づいて声をあげる。

 

 

「あら?お客さんですかね……?ウチの前に車が」

 

「お、ホントだ…まあ爺さんの知り合いとかじゃねぇか?よく知り合い呼んで将棋とか囲碁したりするしさ」

 

「そう、でしょうか…?だとしたらお昼も食べていかれるのかしら……?」

 

「まぁ足りなかったらまた俺が何か買ってくるし、深く考えすぎるなって」

 

 

家の前に止まっている黒いバンを見て思案する遥香であったが、敬助はあまり気にした様子もなく買い物袋を持って家へと戻ろうとした。

 

 

その次の瞬間。

 

 

「ぐおお……!」

 

 

小屋の扉が破壊され、直後入り口から何者かが飛んできて、目の前で転がる。

目の前で木製とはいえ扉が留め金部分から破壊され吹き飛ばされ、直後に人間が同じように飛ばされてくるという信じられない光景を目の前にして一瞬呆ける敬助であったが、目の前で呻いている人物が健三と分かると慌てて買い物袋を置いて側へと駆け寄る。

 

 

「ッ……!?じいさん!?おいっ、しっかりしろ!一体何があったんだ!?」

 

 

急いで助け起こそうとする敬助であったが、健三が呻き声と共に体を起こすのを見て、脳震盪を心配して慎重に助け起こす。

健三は頭から血を流しつつも、敬助を見て必死で言葉を絞り出す。

 

 

「けい、すけ…!遥香を連れて逃げるんじゃ…!」

 

「逃げろって…一体何が起きて」

 

「兄さん…!健三さんは大丈夫なんですか!?」

 

「遥香、救急車と警察呼んでくれ!じいさん、立てるか?とりあえず家の中入って手当てを……」

 

 

健三の『逃げろ』という言葉に疑問を持ちながらも、同じように慌てて駆け寄ってきた遥香に警察を呼ぶように頼みつつ、健三に肩を貸して立たせようとする。

 

「チッ…少し力が入りすぎちまったか………っと、これはこれは…お孫さんもお帰りですかな」

 

 

そこへ、小屋からゆっくりとトレンチコートの男が歩いて出てくる。

出てきた当初は不機嫌そうな様子であった男であったが、敬助と遥香の姿を見つけると、嘲るように笑って、再び慇懃な口調に戻る。

 

 

「……アンタ、誰だ…」

 

 

男を睨み付けながら、敬助が遥香と健三を庇うようにして立ちはだかる。

 

 

「フン、初対面の相手をアンタとは…躾のなってないガキだ。……面倒だ、お前は殺す」

 

その様子を男は鼻で笑いながら、懐から何かを取り出す。

それは手のひらに収まるようなサイズのコネクターがついたUSBメモリーのような黒い物体で、表面に豹のような『L』の文字が刻印されている。

男がコネクター部分近くに存在するボタン部分を押すと

 

 

『Leopard』

 

 

という電子音声が響く。

直後、男が勢いよくコネクター部分を首筋に突き刺した後、男の全身を黒い影が覆った後、その姿は全く別の物へと変わっていた。

 

皮膚は人間のそれと全く違う、生物ですら怪しいような硬質かつ豹のような柄となり、指の先には鉤爪のような長い爪が生え、頭頂部にはネコ科の動物のような耳、口元には鋭い牙と、完全に豹の頭のようになる。

男の変貌を見た敬助達は驚愕し目を見開く。

その異形の姿はまるで……

 

 

「未確認…生命体……ッ!?」

 

『正確に言えば「ドーパント」って奴だが…なるほど、「怪人」を作るより何倍も楽で手早いってのはマジだったわけか』

 

 

恐怖と驚愕の念と共に敬助が言葉を絞り出す。

かつて三年前、敬助と遥香の両親の命を奪った『未確認生命体』を思わせるような、人間の常識の範疇から外れたおぞましい異形。

前にして敬助の体を恐怖が支配する。かつて三年前、目の前で自分の家族を奪い去った時と同じ恐怖を感じ、脂汗を流し体が無意識のうちに震え出す。

しかし、後ろで同じように震え、目に涙を浮かべる妹の姿を見て、勇気を振り絞って異形…『レオパードドーパント』の前に立ち塞がる。

 

 

「……ッ!遥香ッ!じいさんを連れて逃げろ!アイツは俺が引き付ける!」

 

「えっ……で、でも兄さん……」

 

「通報すればすぐ警察やGユニットが来る!……心配すんな、昔俺が空手やってたの覚えてるだろ?しかも大会で準優勝だってしてるんだぜ?」

 

 

足は震え、額には脂汗を流しつつも、自分を心配させまいと笑みを浮かべる兄の姿を見て、意を決して健三に肩を貸してこの場から離れようとする遥香。

逃がすまい、と動き出したレオパードであったが、敬助がその進路へと躍り出る。

 

 

「行かせるかよッ!」

 

『邪魔だ』

 

「ッ、早…ぐうっ!?」

 

 

レオパードにとっては目の前で飛び回る羽虫を振り払うような、撫でるような一撃。

しかしその一撃は、防ぐ暇すら与えないほどの速さでプロテクターのような防具を身に付けていなかった敬助の身体を容易く切り裂く。

胸元に描かれた5本の線からどくどくと血が流れ出る。幸いそこまで深い傷ではなかったものの、斬られた痛みが敬助の体から力を奪っていく。

胸元を抑えて蹲る敬助を無視して遥香達を追いかけようとするレオパードであったが、足首を掴まれ足を止める。

 

 

「行かせねぇ…ってんだろ……!」

 

 

足を掴んでいたのは、痛みと流れる血を堪えつつそれでも押し止めようとする敬助であった。

レオパードが足を止めたのを好機と見て、足にしがみついて必死で動きを止めようとする。

レオパードはその行為を嘲笑うように軽く腕を振り払って、敬助の首を掴み、片手で持ち上げる。

 

 

「ぐ、あ……」

 

『うぜぇガキだ…後で殺してやるから…大人しくしてろ、よっと!』

 

 

もがく敬助の抵抗をものともせず、レオパードは首根っこを掴んだまま自分が出てきた小屋の方角へとまるでゴミ箱に投げ捨てるかのように片手で敬助を投げ飛ばす。

投げ飛ばされた敬助はそのまま空を舞って、壊された入り口を通るようにして小屋の中へと叩き込まれた。

 

 

『チッ、あのジジイ…女のガキに連れられて逃げやがったか…まぁいい、こんな短時間だ、遠くにゃ逃げられやしねぇだろ…』

 

 

レオパードは投げ捨てた敬助への興味を無くし、苛立った様子でいなくなった遥香と健三を探そうとその場を去っていった。

 

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