廃工場で起こった戦闘から数時間後。
レオパードドーパントに変身していた男は市内の廃ビルにて、ある人物へと前に跪いていた。
トランスとの戦いに敗れ、ライダーキックという強力無比な一撃を受け爆散した…かに見えた。
しかし実際は違う。使用された『ガイアメモリ』は同じガイアメモリを用いて、『メモリブレイク』を行わねば破壊できず、またガイアメモリの安全装置により、使用者が一定のダメージを受けた際に強制排出されダメージをバックファイアとして放出する。その際に出た炎を撃破したと勘違いしたトランスは、レオパードの状態を確認せずにその場を離れ、完全に撃破されることを防いだ。
勿論病院に行って措置や治療を受けたわけではなく、完全にダメージが抜けきったわけでもなく、体は痛みで悲鳴をあげている。
しかし、
そんなことをすれば…自分の命はない。命ぜられた任務は失敗しどんな罰を受けるか分からないが、命を奪われるよりは…と男は傷ついた体を引きずり、目の前に立つ相手へと跪いていた。
「…それで?貴様は単なる年寄り一人勧誘できずに、それどころかおめおめとやられて帰ってきたと。そういうわけだな?」
跪いている男を見下ろしながら冷徹に尋問する相手の言葉に、背中に嫌な汗が流れるのが分かる。
殺気を向けられた訳ではないにも関わらず、身体が恐怖から震え出す。
「も、申し訳ありません…で、ですが『ブラック』様…やはり…あなたの仰っていた『仮面ライダー』どもがこの街にはいます!」
「…『仮面ライダー』、だと?…『アギト』に『鬼』や『魔法使い』に…この間潰してやった『BOARD』とかいう連中以外にもいると言うわけか」
自分を倒した『仮面ライダー』を名乗った戦士の話題。
慌てて出てきた言い訳であったが、相手…『ブラック』の興味を引く結果になったことに一瞬の戸惑いの後に安堵する。これならば、罰を受けることは恐らくないだろう。
男の考えをよそにブラックは少し思案し、男の方へと歩み寄り、男の方へと手を差し伸べる。
「なるほど、分かった。…ならお前には別の仕事をしてもらおうか」
「はっ…!な、なんなりとお申し付けください…!」
「そうか。…メモリをよこせ」
「は、はい…!」
男は頭を下げたまま、慌ててガイアメモリを懐から取り出し、ブラックへと手渡す。トランスとの戦闘の際に傷ついた小さな傷や汚れこそついているが、使用には問題ない。
「そ、それで…私の仕事というのはいったい…」
恐る恐る、顔を見上げて相手の様子を確かめようとする男の視界に、ブラックが剣を振り上げる姿が目に映る。
「え」
直後、男の視界が勝手に下へとずれていく。
否、男の首から先が離れ、地面に落ちて転がったのである。
そして、男は呆然とした表情のまま事切れた。
首を切り落とされ血が吹き出る遺体には目もくれず、呆然とした表情の男の首を拾い上げたブラックはゆっくりと外へと歩き出す。
「…仮面ライダー、か…数十年前に戦った『バッタ』や数年前にいた『クワガタ』のような骨のある連中だといい。…この俺が戦うに相応しい相手であるとな」
歩いて影から出たことで月明かりによって照らされ、ブラックの顔がようやく露わになる。
その顔は…まるで『飛蝗』のような、黒い仮面と赤い複眼をしていた。
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神多品市の医療はかなり高い水準にあると言える。
最新鋭の医療設備が配備され、電話を入れればすぐさま救急車が現地へと駆け付け、適切な処置が施されたのちに病院へと搬送される。
これほどまでに医療の水準が上がった理由は一つ。『未確認生命体』の存在だ。
今でこそ未確認の出現した際に対応し、鎮圧を素早く行えるGユニットや民間の対未確認生命体組織が存在し、被害を抑えることが出来るようになっている。
しかし未確認の存在が認知されたばかりの時期は違う。銃で撃たれたところで多少怯む程度、相手によっては全く意に介さないような未確認。警察も避難誘導などでなるべく被害を抑える努力をしていない訳ではなかったが、それを嘲笑うかのように未確認は神出鬼没で、壊し、暴れ、蹂躙する。
病院は未確認の被害者達で溢れ、処置が追いつかず満足な治療も出来ずに亡くなる人間が多く存在していた。
『神経断裂弾』のような未確認を殺せる装備の開発から暴れる未確認を抑え、格闘戦により撃破するためのパワードスーツ『GENERATION』シリーズの開発により未確認の被害を抑える、そんなやり方が確立された今でも、未確認の被害者は出続けている。
だからこそ、病院側も迅速な対応で『命を救う』ために備えている。
そうした事情もあって、病院に運び込まれた健三の処置は迅速に行われ、見た目に反して怪我があまり深くないこともあって、大事には至らず、それでも健三の年齢や未確認から受けた傷、ということもあり、大事を取って入院を医師から進められ、本人の賛同もあって入院することとなった。
医師からの説明をききおえた敬助が病室に足を踏み入れると、ベッドの上で窓の外を眺めていた健三が、入ってきた敬助の方へと顔を向ける。
「遥香は?」
「遥香ならトイレじゃそうじゃ」
「ん、そっか……なぁ、爺さん」
「…分かっておる。聞きたいことは…奴等が何者なのか、じゃろう?」
敬助が二の句を継ぐ前に、健三が観念したような表情で言葉を遮る。
そして、少し躊躇うような様子を見せた後に、ゆっくりと話し出す。
「奴等が儂に接触してきたのは…二年前じゃった。ちょうど…譲二のやつと杏里さんが亡くなってから一年の頃じゃな。我々の研究の協力してほしい、と…お孫さんの養育費等も出すから、と…」
「勿論金は困ってはいなかったから断ったが…連中は幾度となく儂のもとを訪れて協力を申し出てきた。…不気味に思った儂は、探偵を雇って調べさせて…奴等の目的を知ってしまった…!」
「奴らの目的…?」
「──────今の人類を滅ぼし、新人類による世界を生み出すこと」
「…冗談、だよな…?」
その言葉を冗談と捉えた敬助はひきつった笑みを浮かべ、笑い飛ばそうとした。
しかし健三の表情を見て、それが冗談でない、と分かると顔を凍り付かせる。
『今の人類を滅ぼし、新人類による世界を生み出す』。
フィクションの悪役が企むようなことを、現実にしようとしている。
妄言だ、と笑い飛ばすことも出来ただろう。しかし、健三の怯えた表情や、その深刻そうな声色には、虚偽や誇張など混じっていない。
「冗談じゃったらどれほど良かったことか…だが奴等は本気で…人類を滅ぼそうとしておる!」
「そんなの、警察に相談すれば…」
「無駄じゃ。…奴等の根は深い、Gユニット等の現場の人間は潔白じゃろうが、警察上層部に奴等のシンパが存在しておる…それに、『人類を滅ぼそうをとしている組織がいる』などという妄言を誰が信じる?」
「警察だけでない、様々な界隈、そして政財界にまで奴等の手は及んでおる。…それに、未確認を従えている、という噂も聞いた。その上に儂等を襲ってきた男のような『人間を未確認へと変える』道具を持つ組織との繋がりもあるとも…」
政府にまで影響力を持ち、人間を異形へと変えることが出来るような技術力を持つ組織とも関わりがある。
それが事実ならば、国家すらも傀儡とし、異形を揃え悪魔のごとき軍団を作り出し、人類へと恐怖と絶望を翳すことも可能だろう。
「奴らは太古の昔から存在する…歴史の陰で暗躍していたんじゃよ…」
「そいつらは一体…何者なんだよ…!?」
身を乗り出して、掴みかからんばかりに身を寄せる敬助の問いに、健三はゆっくりと…その組織の名を答えた。
「…『ゴルゴム』。奴らの名は…『ゴルゴム』じゃ」
暗黒結社ゴルゴム
『仮面ライダーBLACK』に登場する悪の組織。
人類が生まれるはるか昔から存在していたとされ、常に裏側から世界を支配し、様々な事情から政財界の実力者や、有能な科学者がゴルゴムに参加している。
五万年周期で。5万年に1度、キングストーンを持つ2名の存在『世紀王』を戦わせ、、勝利した側を守護神『創世王』とするしきたりがある。
『仮面ライダーBLACK』本編でも二人の青年にキングストーンを埋め込み世紀王として争わせようとしたが、そのうちの一人『ブラックサン』が紆余曲折あって脱走、『仮面ライダーブラック』となり、彼の手によって幹部は全滅、世紀王『シャドームーン』も破れ、創世王本人も討ち果たされ壊滅した。
とはいえ、一度は仮面ライダーブラックを死亡させ、日本を一時的とはいえ征服し、ある世界では核戦争を引き起こし世界を破滅へと追い込んだこともある。
ちなみに敵幹部にウルトラマンがいたりする。