夢うつつ   作:pathfinder

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とてもお久しぶりです。
にじちずと彼方さんのマンスリーソング発売を記念して(とってもどちらも発売から少々経ちましたが)、お蔵入りだったSSを投稿します。だいぶ短め。気楽に読んでください。

(彼方さんのソロ曲どちらもいい曲ですよね。個人的にはINNER TRAVELが好きです。というかぶっ刺さってます、はい)


卵焼き

 

「んふふ~」

 

机に肘をついて、今か今かと待ちきれない様子でこちらを見つめてくる彼方さん。

並べられたお皿とその上に乗せられた料理。彼方さんと俺は机を挟んで向かい合うようにして椅子に座っていた。

 

「……そんなに見つめられると食べづらいんだけど」

 

箸を持った手はなかなか動かしづらい。こちらを見つめる彼方さんの視線のせいだ。じぃぃっと見つめてきていた。

 

「え~、でもしょうがないよねぇ。あなたが彼方ちゃんの手料理、食べてくれるんだもん」

 

彼方さんは俺に責任を転嫁してきた。自分のせいではない、と彼方さんは暗に言っていた。

 

「だってだって~、こうしてあなたが朝一番に彼方ちゃんのご飯を食べてくる機会なんてなかなかないし」

 

「それはそうだけど」

 

「だから、今日はいいチャンスなんだよ~。彼方ちゃんのご飯、存分に味わってほしいなあ」

 

確かに彼方さんの言う通り。俺が彼方さんの手料理を味わう機会なんて多くない。特に朝食となると更に限られる。今日みたいに彼方さんがうちにお泊りに来たりしないと難しいだろう。

 

「だからと言って、これは見つめすぎだろ……」

 

一挙手一投足を逃すことなく監視されているようだ。そんな風に見つめられたら食事もしづらい。もう少し抑えてほしい。

 

「おぉ~、彼方ちゃんの熱い視線にタジタジだ~」

 

「その通りだから、もうちょっと抑えてくれ……」

 

「…………おぉう」

 

彼方さんはその頬を赤く染めながら、よろめいた。

 

「まさか素直に認めてくれるとは……」

 

……なんか俺がひねくれものみたいに言われている。

というか彼方さんはやり返されることを考えてはいなかったんだろうか。いや、彼方さんの可愛い顔が見れたので俺は嬉しいんだけど。

 

「彼方さん、素直に認めたので抑えてくれますか?」

 

「え~……やだ」

 

なんでだよ。

 

「だって、やっぱりあなたが美味しく食べてくれてるところ見たいし~」

 

「そんなに見たいのか……」

 

「見たいなあ」

 

彼方さんの上目遣いが突き刺さる。やめてくれ、俺はこれに弱い。

しかし彼方さんにそんな俺の願いが届くわけもなく(むしろ届いていたら悪化するだろう)、おねだりビームがガンガンぶつかってくる。心が痛い。これ以上拒否できないよ、俺。

 

「……わかったよ。じっくり見てていいから……」

 

遂には折れてしまった。……いいさ。食べづらいだけであって、食べられないわけではない。

 

「やったぁ、ふふふ~」

 

それにこの笑顔を見られるのであれば、安いもんだ。彼方さんの緩んだ頬と口から織りなされる柔らかな微笑みは太陽みたいに眩しい。

さて、なにから食べようか。並べられた彼方さんお手製料理はどれも美味しそうだ。選ぶのにも一苦労だと思案していると、あるものに目が留まった。綺麗な黄色のそれは見るからにふっくらとしていて、食欲をそそられる。

 

「おっと、それに目をつけるとはお目が高いですな~」

 

俺が箸で卵焼きをひと口サイズ掴むと、彼方さんはふむふむと感心したように頷いた。なんだか楽しそう。

 

「その卵焼きは彼方ちゃんご自慢の一品なんだぜぇ」

 

鼻高々に語る彼方さんのその様は早く味わってと言っているようだ。美味しい、という感想を望まれていた。

そんな彼方さんの前で、ご自慢の卵焼きを口に運んだ。咀嚼し、味わう。すごい、厚みがあってふわっふわ。口の中で幸せが広がる。名残惜しくも嚥下していく。

 

「美味しい……」

 

という言葉が思わず口を突いて出てきた。それを聞いた彼方さんは満面の笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふ~、そうでしょそうでしょ~、毎日食べたいでしょ~」

 

「まあ、うん……でも、毎日卵焼きは飽きるとかも……」

 

「むぅ、彼方ちゃんは卵焼き以外の料理だって絶品なんだぞ~」

 

彼方さんの表情がころっと拗ね顔に変わる。

わかりやすく拗ねていた。わかったわかった、と俺は彼女を宥めた。ノリの悪い発言をした俺が悪かった。彼方さんが本当に欲しい言葉だってわかっていたのに。

 

「ごめんなさい……」

 

俺は頭を机にくっつくまで下げた。額を擦りつけて許しを乞う。

 

「悪かったって思うならどうするべきか、当然わかってるよねぇ?」

 

圧を感じた。行動で示せ、そういうことか。

 

「……彼方さんの卵焼き、毎日食べたいなぁ」

 

言っていて思った。こういうのって普通はみそ汁じゃないのか。ニュアンスは変わらないので卵焼きでも別にいいのか。まあ、彼方さんが嬉しそうならどちらでもいいか。

 

「んふふ~」

 

両手を頬に当てて、彼方さんはニヤつきながら笑う。抑えられないのか、しばらくそのままニヤニヤ状態だった。

これを毎日味わえるなら、そいつは幸せ者だ。その幸せ者が俺であってほしいと、彼方さんの抑えきれない笑顔を見ながらそう思った。

 




お目汚し失礼いたしました。
ありがとうございました。

追伸、色々あってにじちずまだやれてないので今からプレイしてきます。
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