「ゆーきーやこんこっ、あーられーやこんこっ!」
白い化粧の施された博麗神社の境内では、悪魔の妹ことフランドール・スカーレットがはしゃぎまわっていた。
それを俺は、縁側と居間を隔てる柱に背を預けつつ、白い息を吐きながら眺めていた。
もう梅雨にもなろうってのに、この天気。春雪異変だな。まったく、寒くって敵わない。
しかし、寒さに負けずフランは雪の絨毯の上を転げ回っている。それは咲夜さんの領分だと思うんだけど。ほら、走り回るのは定番だし。
で、どうしてこんな事が起きるんだっけ。冥界のなんかが春をあれして桜を云々だったような気がする。
……あー、覚えてる覚えてる。うん、……覚えてるよ?
とりあえずぶっとばせ、だな。俺から桜を奪った罪は重い。徹夜でそれまで負ってきた罪を数えさせてやる。
しかし、異変解決は最早俺の領分ではない。半分はそうだけど。今は霊夢が前に立たないといかん。異変解決まで俺がやってしまうと霊夢のぐーたら度が爆発的に増加してしまう。
ただでさえこの寒さで、布団を取ってつけた卓袱台に入って出てこないんだから。しかも、二時間程前にやってきた魔理沙も霊夢に引き込まれてしまったし。ここは一つ、俺が焚き付けないと駄目なのかな。
仕方が無い、と息を吐いて、居間に向き合う。
霊夢と魔理沙は二人して卓袱台に顎を乗せてうだうだしていた。
思い出したようにさむい~と愚痴を零すだけの元気はあるようだけど、それも俺が障子を開けているからだ。閉まってると何も喋らない。
さあ二人とも、異変解決に行きましょう! ……なんて、口下手を免罪符にする俺にはやっぱりそんな台詞は言えない訳で。
どうしようどうしようと迷った挙句、口を開くこと叶わぬと自分一人だけで行く事にした。
というわけで早速玄爺を呼び出すために指ぱっちんをしていると、空の向こうに白い点。なんだなんだと眺めていれば、こちらにやってくるのは咲夜さんではないか。境内で転げ回りにでも来たのかな。
すたっと降り立った咲夜さんは、フランに挨拶をしてからこちらにやってきた。
おはようございますと礼儀正しく挨拶をするので、こちらもにっこり笑って会釈を返す。……まだ咲夜さん相手には挨拶もままならないんだ。悪いか。悪いですね、はい。
勇気を出して「おはようございます」と声に出す前に咲夜さんは中を覗いて、二人の姿に「やっぱり」と溜息を吐いた。
「異変に巫女が動かないだなんて、あなたは一体何を考えているの?」
「巫女ならそこにもいるじゃないー……」
「というか異変なんか起きてるか?」
「ダメダメね……救いようがないわ。それなら霊夢、私は彼女と共に行くわよ? もしも向こうさんに金髪がいても私はフォローしたりはしないわ」
がたりと、霊夢が立ち上がった。
金髪という単語に俺も反応を示しはしたが、霊夢程ではない。霊夢……いつの間に金髪が好きになってたんだ?
あ……なんだ、答えは隣でだらりとしてるじゃないか。
「う、わかったよ、私も行くよ……」
じーっと魔理沙の金髪を眺めていると、魔理沙がいかにも渋々といった風に立ち上がった。どうした、いきなり。
だが、行くと言った以上は責任を持つのか、というか布団から出てやる気が出たのか、よし、と気合を入れてこちらにやってきた。
一体どうしてこうなってるのか興味がある! だって。
霊夢も苦々しい表情をしてのそのそと俺の元にやってきて、俺の顔を見上げた。
なんですか、と小首を傾げると、溜息を吐いて咲夜に視線を移す。
「あんたの事だから、どうせもう手掛かりか何かを掴んでるんでしょ?」
「それが無くたって、あなたが飛べばすぐ終わるでしょうに」
信頼から出た言葉か、それとも自分の苦労が報われない事から出た言葉か。
……すげえ! 良く読み取れたね、偉いね、俺!
ごそごそとやった咲夜は、四角い立方体のガラスの中に、桜の花びらが入っている手の平大の謎物体を取り出した。……なんぞそれ。
「ん? それは――」
「それは、あー……あれだぜ」
「見たところ春の力の塊ね」
「そうそれ」
霊夢の声を
それがどうかしたのか? と魔理沙。
春の力に限らず、そう言った類のものは自然に目に見えた形に固められるなんて事はありえない。誰かが春の力を集めて何かをやらかそうって企んでるのね、と霊夢が説明してくれた。
ふーん、春の力ねえ?
咲夜に手を差し出すと、意図を汲んで春の力の塊とやらを渡してくれたので、しげしげと眺める。う~ん、綺麗だな。貰っちゃ駄目かな。駄目か。
なんて考えていると、春の力とやらは俺の手に溶け込んで消えてしまった。
……えぇえええええ。
恐る恐る顔を上げると、さっきまで三人で何やら話していたのに全員が俺を見ていた。やめて! 泣いちゃう!
緊張で身を硬くしていると、はあ、なるほど、と魔理沙。
「つまるところ」
「集めようとしているのならこちらが先に集めてしまえ、という事ね?」
……なんかよくわからないけど、咎められそうな雰囲気ではないのでこくりと頷いて同調しておいた。
何を集め……あ、ああ! この春の力の塊を集めようって事ね、そうかそうか。……どこから?
内心でひたすら首を傾げていると、のそりのそりと玄爺がやってきた。おま、甲羅が凍り付いてるぞ。大丈夫なの?
なんのこれしきと元気そうなので、一応信じておく。飛行中に落ちたりしないでね、不意打ちされたら普通に死ぬから。
いい加減体を動かさないと凍えるという事になって、出発する事になった。
雪だるまを作っていたフランが駆け寄ってきて、出かけるの? わたしも行く、と言い出すので、留守番をするようにと言い渡す。連れて行ってもいいけど、万が一暴走されたら……うーん、手に負えないって事はないだろうけど、心配だし。もちろんフランの身が、ってのもあるけど。
んー、と考え込んだフランは、すぐにぱっと顔を上げて、
「わかったわ。留守は任せて? 微生物すら通さない自信があるわ」
そこまでしたら神社が壊れるわ! と霊夢からつっこみが入った。さすが博麗の巫女。
そこまできばらなくていいから、と意思を込めて、短く「ゆっくりしていなさい」とだけ言うと、フランは頷いて神社の中へと入っていった。
うむ、これで神社は安心だろう。取られるものなんて殆ど無いが。悪霊コレクションはこないだ逃げ出しちゃったし。
さて、と玄爺の上によじ登り……めちゃくちゃ冷たいー……霊夢を中心とした横一列の後ろにくっついて寒空へと浮かび上がったのだった。