目覚めたら 博麗靈夢に なっていた
なんてこった。就活に失敗して目の前が真っ暗になったと思ったら、何だか実家の自室のよーな所にいて、んでもって身体が縮んでいて、さらにさらに女体化していたかと思えば、鏡を見ればそれはどう見ても博麗靈夢で。
……髪の色があからさまに違うのに最初は霊夢だと思った。だってそっちの方だと思うじゃん、普通。
いや、普通も何も、憑依なんてものは普通はしない……憑依? この場合は憑依なのか?
いやしかし、う~ん、どうなんだろ。
…………ま、考えた所で仕方ないね!
俺は靈夢になっちまった! そこに事実としてあるならば、認めざるを得ないだろう。はっはっは!
……はぁ。
空元気も長続きしないものだ。
確かに俺は、人生お先真っ暗で、こんな事を考えない世界に行けたらいいのになー、なんて考えたさ。
でもそれで憑依とかねーよ。
おかしいよ。だってさ、憑依ってあれでしょ?
元々の身体の持ち主追い出して、または消滅させちゃったりして身体乗っ取るんでしょ。
目覚めた時からそんな重い罪背負うなんて、一瞬で俺の良心潰れるっつーの。
まあ、これが夢ならそんな事を考える心配も無いわけだけど。
ただ、ここまでリアルな夢なんて俺は今まで経験したことが無いわけで。
意識だってはっきりしてるし。自分の身体の柔らかさに戸惑ってるし。服の
……あれ? 自分で自分が何を言ってるのかわからなくなってきた。
まあとりあえず、俺は博麗靈夢になった。それを認識した。つまり今日から俺が靈夢だ!
……?
うーん、やっぱりしっくりこない。
なんだか深い眠りから目覚めたばかりというか、風呂上りみたいな、というか。
とにかく身体が動かし難い。まるで水の中にいるかのように。
くいくいと腕を上げると、肘元まで袖がずり下がってくる。
細い腕を見つめること暫し、手に視線を移し、握り拳を作って開くという動作を三度程やってみた。
左っかわも同様に。
それから、準備体操を一通りやってみる。
伸脚。かいせん。伸びて、息を吐く。
その間に、思考の整理。
俺は、靈夢。靈夢とは、東方projectの古い方の主人公。新しい方の主人公と同一人物だとか。
んでもって、髪の色はほんとは黒。でも俺は紫。ゲームそのまんま。
それから、それから。
古い方……旧作と呼ばれている方は、新しい方、WIN版と呼ばれている方が出るのに合わせて、設定も登場人物もその殆どを闇に葬られている。
消されたはずの靈夢。それが、今の俺。
ってことは、今は靈異伝とか、怪綺談とか辺りの時期な訳だ。
もしかしたらそうでないかもしれないけど。
まあ、とりあえずはそうなんだろう。
……お? って事はなんだ。俺は空を飛べないのか?
靈夢って亀に乗って空を移動してたし。
ふと思い立って、準備体操も終わったことだし、外に出て空を飛べるか試してみる事にした。
移動している最中に、この建物が博麗神社なんだと大した根拠も無しに確信する。
何だか急に気が大きくなって、後ろ手に腕を組み、むむんと胸を張って、ついでにスキップなんかしちゃったりして、我が物顔で廊下を歩いてみた。
らんたった♪ らんたった♪ と、鼻歌まで出てくる始末。
凄く気分が良い。準備体操を終えてからというもの、急速に身体が馴染み始めて、さらになんだか不思議なパワーが溢れかえっていて、とにかく気分が良かった。
長くなった髪を、スキップに合わせて揺らし、その重みを堪能する。
男であった時には――つまりは昨日までの事だけど――感じる事の出来なかった感覚。
それから、優越感がひしひしと。
なんたって、主人公。そのパワーは中々のものだろう。
万能感が胸を占めていた。
今なら空だって飛べる気がする。気功波だって撃ててしまいそうだ。
この有り余る力をありったけ放出したらどうなるんだろうかと考えるだけでわくわくする。
さあ、早く外に!
とん、と音を鳴らして止まり、曲がり角を曲がろうとした所、誰かにぶつかりそうになって慌てて尻餅を付いた。
あいたぁ~……。何だ誰だ? 魔理沙か?
博麗神社に人の影といえば魔理沙だろう。旧作の方じゃどうかわからないが、とりあえずそうなんだろうと思いつつ目の前にいるだろう人物を見上げて……固まった。
紅白のカラーリングに、俺とは違って大胆に開いた腋巫女服姿の少女。
それは、正真正銘の博麗霊夢だった。