「ほら、きびきび動く。宴会は明々後日なのよ?」
ぽん、と霊夢に背を叩かれ、抱えた食器類を境内へと運ぶ。
うえー、もう足が限界だよ。宴会の準備は飽きたよー。
連日連夜宴会続き。いや、毎日って訳じゃないけど、流石に三日おきくらいで宴会してると、だれてだれてしょうがない。
美味しいものが食べれるのはいい。いいんだけど……流石に鍋ばっかりはさあ。
お酒だって飲まされすぎて二日三日抜け切らないのなんてざらだし、これ以上飲まされたら吐いてしまう。
というかもう何度か吐いてるよ。もうやだ宴会。飽きた飽きた飽きたー!
と、言う訳で。
かしゃんと音をたてて重ねた食器を木の机に置き、霊夢が見張っていない事を確認して足に力を込め、森の方へ飛び出し……あ、霊夢。ううん、ちょっと森を見てただけよ。逃げようとなんかしてないから、いやほんと。
◆
1st Day 13:00 博麗神社
Stage1 神社と巫女
-yaraideka-
「もう我慢できません」
ぽつりと、今の自分の気持ちの全てを込めて、呟いた。
縁側に立つ霊夢が、何が? と問い返してくる。わかってるくせに。
宴会は良いよ。お酒を飲まされるのも良いよ。弄られるのも良い。それは霊夢も一緒だし。大事に取っといたお肉をひょいと掻っ攫われるのも、まだ許せ……あ、やっぱ許せない。魔理沙後でぶっ飛ばそう。
そうだね、そう。そこら辺は良いんだよ。でもね、もう我慢できないの。
宴会をするたびに濃くなるこの妖気の霧。みんな気付いてんだろ。気付いててほっといてんだろ。
八雲さんとかふとした時に霧を見つめたりするし、霊夢だって霧を見て何か考え込んだりしてるし、誰も彼もそんな雰囲気出してるし。
なのに。なぜ誰も動かん。この、忌々しい霧をどうにかせんと思わんのだ。もう駄目。頭おかしくなりそう。だってこの霧、払っても払っても寄って来るんだもん。最初は気にならなかったから良かった。でも、一度気になり出すと、どうしようもなかった。体中が痒くなるような感覚に襲われて、転げ回りたくなった。
でもきっと、すぐに誰かが霧を出した犯人をとっちめると思ったから、今日今この時までずっと我慢してきたんだ。
あんなに力のある人妖が集まってる。すぐに解決するさ、と。
なのになんで誰も動かないの? もう限界だよ? 俺はこの霧の無い場所に逃げるけど良いよね?
ふわ~っと辺りに漂う霧を気合砲で払い飛ばす。うざったい。ああ、うざったい。
そのまま霊夢に背を向けて、この霧から逃れようと飛び出そうとすると、俺を飛び越えて目の前に霊夢が降り立った。
まだ準備は終わってないわよ、と霊夢。うん知ってる。でもきっとフランがやってくれるだろう。今も蔵で食器と格闘してるんだろう?
それでも邪魔をするか、霊夢。
構えて見せる霊夢に、心の中で嘆息する。哀しい。分かり合えないとは。
止めるべくか、走りより腕を伸ばしてきた霊夢の足を引っ掛けて転ばし、袖から取り出した御札を額にぺったりと貼り付ける。
俺のありがた~い言葉がびっしり書かれた御札だ。暫くは体が動かせないだろうよ。
とか思いながら立ち去ろうとすると、霊夢は御札を破り去ってすっくと立ち上がった。やっぱりだめかー。
仕方が無いので、すっと近寄って腋の下に手を入れ、背を押して半ば強引に石畳に叩き付けた。
きゅうと呻いて目を回す霊夢に背を向け、里の方に体を向ける。うーん、ちょっと強引にやりすぎたかも。腕が痛い。
さあ逃げるぞやれ逃げるぞと足早にその場を立ち去ろうとした時、木の陰からひょっこりと顔を出した者がいた。
「あら? これはどういう状況かしら」
あー、えーっと、名前、なんだっけ。大図書館の紫芋? ウゴ=カナイさんだっけ。
彼女は眠たげに半分だけ開いた眼を霊夢に向け、それから、ゆっくりと俺に向けた。
揺れる紫色の髪に、なんとなく自分の髪に手を通してばさりとやりながら、目を合わせる。
もしかして、君も俺の邪魔をする気かな?
がさがさと葉を掻き分けて出てきた彼女は俺の前に立ち、脇に抱えていた本を両手で握って戦闘態勢を――俺にはそう見えた――整えた。
むむむ、やる気らしい。俺としては一刻も早くこの霧の無い場所に行きたいんだけど。具体的には……具体的にはー、どこだろう。まあ、いいや。それは後で考えよう。
紫色な彼女さんは、表情通りに眠そうな声で、こうして面と向かい合って話すのはこれが初めてね、と話を切り出した。
◆
1st Day 14:00 博麗神社
Stage2 惑う魔女
-It wavers Witch-
「お噂はかねがね聞いているわ、博麗神社のもう一人の巫女」
それはどうも、と軽く頭を下げる。目は紫色の人に向けたまま。
あまり機嫌が良くないようね、なんて。そりゃあ、見てわかるでしょう。急いでるの。逃げたいの。苛々してるの。
邪魔をするなら、いや、それ以上話をするなら、なんとなーくはっ倒してから行きますがよろしいですか?
ぐっと腰を落として構えると、あら、色々話がしたかったのだけど、それは無理そうね、と紫色。
「しかもやる気。どうしてかは知らないけど、でも、貴女の対策はばっちりよ。えーっと、巫女の苦手なものは……」
何やら腰の後ろに手をやってごそごそとした紫色は、その手に白くて丸い物を持って、こちらに差し出してきた。
「おまんじゅうでしょう? 知ってるわ。常々まんじゅうが怖いと言っている事を」
……言ってないよ。それに、お饅頭は大好物だよ。でも、だからと言って目の前に出されて飛びつくほど好きって訳でもないけど。
俺が反応しないのを見て、紫色は目に見えて動揺していた。どうやら見当違いのようね、と言ってお饅頭をぱくつき、すぐに平らげて手をはたく。もしもし、口の端に餡子がくっついてますよ。
それから紫色は、また腰の後ろに手をやって、今度は金色の毛むくじゃらを取り出し、布帽子の上からかぶって見せた。
……ウィッグ?
「今度こそ、貴女の苦手とするものよ。金髪……」
ほれ、と作り物の毛をひらひらして見せる紫色をじとっとした目で見ていると、これも違うの!? とショックを受けている様子だった。
「むむむ、レミィが言っていたのは、どれもこれも嘘っぱちじゃないの。後はこの……」
愚痴りながらウィッグを外し、どこかへと仕舞った彼女は、今度はよくわからない、とても柔らかそうな黒く太い棒状の何かを取り出した。
「やけに飛ぶのが早いなまこしかないんだけど……」
彼女がそれを手放すと、その何かは凄い速さで空中を縦横無尽に飛び回りだした。
……何このナマコ、はやい。
飛び回るそれを目で追っていると、紫色にぶつかって爆発四散した。
体液を浴びせられた彼女は、一瞬後にその事実に気付いて、そのままばったりと倒れ伏してしまった。
…………なんだったんだろう。というか、何しに来たんだろうな、この人。
構えを解き、ばっと辺りの霧を払って、深呼吸をする。ふう、なんだか気分まで悪くなってきた。さっさと逃げよう。
嫌な臭いのするその場から足早に立ち去ろうとした時、目の前に何かが飛来した。
箒を乗り捨ててすたっとそこに着地したのは、魔理沙だった。
魔理沙は遠くを見るように額に手を当てて辺りを見回した後、怪訝そうに「何が起こったんだ……?」と聞いてきた。知るか。
◆
1st Day 16:00 魔法の森
Stage3 癒しの魔法使い
-uhuhu marisa-
倒れた二人を神社に寝かせつつ魔理沙に訳を話すと、じゃあ魔法の森に来ると良いぜと彼女は言った。
あそこなら体も休まるだろうし、私の家なら飲み物くらい出せるぜ、との事で、それなら行くー! と箒の後ろに乗せてもらって魔法の森に行った訳だが。
森に入って早々、森の瘴気にやられて吐いた。それはもう、箒から降りてない時だったので、うえぇええと雨を降らすように。
魔理沙は引かずに背を撫でて慰めてくれたけど、あれだ。なんというか……ちょっと、顔を見れなくなった。
私も吐くよ、とか気にする事は無いよ、とフォローしてくれるのが逆に痛かった。色々終わった気がする。
魔理沙の家でうがいをさせてもらって、口直しに紅茶とクッキーを貰ったけど、その間会話も無く、気まずい沈黙だけがあった。
いつもは喋らずとも魔理沙の方から笑顔で話しかけてくれるんだけど、今は、テーブルを挟んだ向かい側に座って、顔を落としてティーカップに口をつけている。
……何が気まずいかって、原因が原因だからだよ。うう、恥ずかしいやら情けないやらで……。
こうなりゃやけ食いだ。クッキー全部食べてやる!
猛烈な勢いでぱくぱくとクッキーを頬張る俺を、魔理沙はちらちらと見ているだけだった。
結局その日は霧雨邸で一泊した。
少なくとも霧はあまりなかったし、ぽつぽつと魔理沙と話していて気分も落ち着いてきたからだ。
お風呂を浴びれば大分気分も良くなって、魔理沙の料理でさらに気分を良くして、それから、慣れない服を着て一緒に眠った。
布団で寝るのは久しぶりだったので、かなり良く眠れた。
そして、その翌日。目を覚ますと、横ではまだ魔理沙が眠っていて、寝巻き代わりの肌着の肩紐がずれていたので直してやって、布団から出た。
手早くいつもの服装に着替えていると、薄いながらも妖気の霧が漂っているのに気付いてびしりと固まった。
家の中まで入ってくるか……!
ぱっぱとリボンを結び、袖から御札を引き抜いて霊力を込め、振りかざす。
外にいる時は「そんなの無駄だよ」とでもいう風になんともなかった霧が、こうも薄いためか御札から離れていく。
うーん、良い逃げ場所を見つけたと思ったんだけど……ここもじきに霧に飲み込まれてしまうだろう。
ちらりと魔理沙に目をやると、掛け布団に抱きついてむにゃむにゃと言っていた。暢気だなあ。
一宿の礼に、てきとうにあった材料で朝食を作っておき、外に出た。霊力を纏っておけば、森の瘴気などなんのその。しかし、瘴気よりも妖霧のほうが濃いとは、おかしな事になってるなー。
瘴気が混じっている分、まだ頭を掻き毟りたくなったりだとかいう衝動には襲われなくて、妖霧が無くなるまでこの森でのんびりやっていようかしらと散策していると、川を跨いだそのずっと先に、一軒の家を見つけた。
薄暗い森の中に建つ洋風の家。やあ、ホラーだねえ。ひょっとしてお化けでも出るのかなーと窓を見れば、小さな影がひゅっと窓の向こうを横切っていった。
……何だ、今の。
どきどきとうるさい胸を押さえつつ、札を前に突き出してちょっとずつ近付いていく。いきなり化け物が飛び出してきたりするのは、パニックホラーの定番だからだ。
周囲の気配を探って警戒しつつ……ああもう、妖霧のせいで気配が全然掴めない! 妖夢でもやっつければ妖霧も晴れるか、と考えていると、窓の前についた。
窓の横の壁に背をつけ、片目だけで家の中を覗き見る。小さな少女が宙を浮き、移動していた。
……ああ、ホラーだ。小人の館とか、そういうのだ、これ。
緊張に、額に浮かんだ汗を拭って、小さな少女の動向を窺う。一体何をしてるんだ……手に持っているのは、はたきのようにも見えるけど……。
見ている内に、少女の数が増えていく。どこからともなく同じ背格好の少女が現われては、わらわらと本棚に群がったり、花瓶に群がったりして手に持ったはたきのような凶器を振り回していた。
それらが一斉に窓の方へ群がってくるのに、緊張の糸が張り詰めた、その瞬間。
「私の家の前で何をやっているの?」
少女の声に、悲鳴を上げた。
◆
2nd Day 11:00 魔法の森
Stage4 究極の七色
-Revenge of magatoro-
「はい、どうぞ」
かちゃりと音をたてて、ティーカップの乗ったお皿が自分の前に置かれる。
どうも、という気もちを込めて頭を下げると、そんなに縮こまらなくても良いのに、と彼女は言った。
青い瞳に見つめられて、仕方なく背を伸ばす。ううん、まだちょっと震えてる。あのタイミングで声をかけられたせいで、相当びっくりしてしまったみたいだ。怖くもなんともないけど、体の震えが抜けきらない。
そんな俺を見て、彼女はふふ、と口元に手を当てて上品に笑った。
「ハーブティーは、きっとあなたの緊張を
すすめられるまま、カップを手に取り、口をつける。熱い。当たり前か。すっとした匂いが鼻の奥に届くと、不思議と体の震えが収まり、胃の中に流れ込んだ熱い液が、緊張を解した。
……いや、緊張とかしてないけどね。
ハーブティーを冷ますために口をすぼめて息を吹きかけていると、この森は、涼しいでしょ。とアリスが言った。
話の糸口を掴もうとしているのか、目をあちこちに動かしながらカップに口をつけていた。熱くはないのだろうかと疑問を持つ。
ああいや、涼しいかどうかだったな。最近は日差しも強くなってきて、暑い日が続いてきていたけど、この森は日の光がかなり遮られているためか、確かに涼しい。
でも、ちょっと暗すぎて先の方が見えないのは困り者かも。
こくりと軽く頷けば、そう、と彼女。
……あれ? やっぱりなんか喋らなきゃ駄目だったかな。
だったら、どうして家の中に招いたのかを聞くとか、この間は俺の事を知っている素振りを見せていたけど、それはどの程度なのかとか聞いてみようかな。
せわしなく動き回る小さな
アリスと俺の間に置かれた木製の皿に手を伸ばしかけて、止める。ちらりとアリスの方を見ると、人形の頭を撫でていて、俺が見ている事に気付くと、どうぞ、と言った。なので遠慮なくぱくつく事に。
美味しい。何が入ってるかは知らないけど、昨日食べたものとはまた違った味わいが……。
そういや、魔理沙もそうだけど、幻想郷の少女達は軒並みお菓子作りができるのだろうか。
あー、霊夢が作ってるのを見た事ないし、そうでもないか。俺だって作れないし。
アリスもクッキー(かどうかは知らないけど)に手を伸ばして一口齧り、それから、口に合うかと聞いてきた。
「とても、美味しい」
何も言わずに頷くだけなのは失礼なので、どうにか感想を口にする。う、カタコトっぽいけど、気持ちが伝われば良いよね。
アリスは笑って、良かった、と嬉しそうに言った。やっぱり作ったものを食べてもらって、美味しいと言ってもらえるのは嬉しいよね。
「このスコーンはね、細かく刻んだミドルマレチェーを生地に混ぜて焼いたものなの。二日間月明かりに当てて、それから蒸すと香りが深くなるのよ」
アリスが指を立てて得意げに語ってくれたのだが、生憎とミドル……なんとかが何かわからなくて、説明も良くわからなかった。果物か何かかな。
あなた、好きだったものね、とアリス。昔を懐かしむような目で俺を見て、ねえ、あの頃が懐かしいわ、と言った。
「神社の掃除の合間に、あなたが『お菓子が食べたい』と言い出したのよ? それも突然。ただのお菓子じゃなくて、私が慣れ親しんできたものを食べたいというから、毎日作ったわね」
俺の知らない俺の過去を、アリスは目をつぶって、手に持っているカップを揺らし、思いを馳せるように語って聞かせた。
「最初に作ったのは……そう。クスレプッツォね。苦労して材料を集めたっていうのに、あなたは口に合わないと怒ったわ」
クスレプッツォ……それは、何だろう。聞いたこと無いなあ。お菓子、なんだろうな。
スコーンをつまみつつ、彼女の話に耳を傾ける。うーん、デリシャス。でもスコーンとクッキーってどこが違うんでしょうか。
そんな事を考えながらも、俺も目をつぶって、耳に心地良い彼女の声を聞いていた。
「その次は、トット・オ・リパ。これも、あなたの口には合わなかったわ。シャクヤクを練りこんだ生地が人間には刺激が強すぎたのね。でも、中に挟んだオワニモの肉は、気に入ったみたいだったけど」
……段々アリスが何を言ってるのかわからなくなってきた。いや、最初からわからなかったような気もするけど。オワニモってなんだよ。どこかで聞いた事があるような……?
それで、最後に作ったこれが、あなたに大好評だった。毎日食べるくらいには、気に入っていたわね、と言って、アリスはカップに口をつけた。
そうだねえ、たしかにこれは美味しい。気がつけば皿に伸ばした手は空気を掴んでいたし、気に入ったのは間違いないかも。
しょうがないのでハーブティーを飲んでいると、人形が飛んできてお皿をさげていった。ついでに、俺のカップにおかわりを注ぎ足していく。良くできたお人形さんだ。
その親玉である彼女こそ、良くできたお人形さんに見える。癖毛がそこに生きた印象を与えていた。
あ、弄りたい。めっちゃ弄りたい。弄らせてくれないかなー。『昔のよしみ』で、さあ。
自分の髪を弄りながら、彼女の髪を見ていると、「~わよね?」と彼女が問いかけてきた。
あー、聞いてなかった。またお菓子の話かな。……お菓子の話だろうなあ。
「食べる」
という訳で、そう短く返してみれば、アリスはぽかんとして、次には激しく動揺して見せた。
顔の前で手を振って、「な、な、ななな……!?」なんてわかりやすい台詞のおまけ付だ。どうやら俺は言葉を間違えてしまったらしい。
で、なんて言ったんだろう、アリスは。『食べる』と言われてそこまで動揺する事といえば……あれか。あれだな。あれしかないな。
ひょいと乗り出してアリスの顎に手を添えて、くいっと持ち上げ、目を見つめてみる。
おお、どんどん目の中がぐるぐるしていって、顔も赤くなって……見ていて楽しい奴だ。
「あなたを、食べる」と囁いてみれば、くっと顔を上げて手から逃れられ、馬鹿! と怒鳴りつけられてしまった。なんだ、違ったのか。
元の姿勢に戻りつつ、襟元を正すアリスを見る。
「まったくもう! あなたってほんと、見境がないのね!」
失礼な。美人美男子限定だよ。胸張って言える事じゃないけどさ。そしてどちらかというと幼い方が好みなのは、うーむ、どうしてだろうか。あ、男の人は雄々しい人とか好みです。でもジェントルマンも捨て難いけど、そういうのって小賢しい妖怪に多いんだよね。
それにアリスは、文句なしに綺麗だから、ああうん、そっちの気があるならぜひお近付きに。無くてもお近付きー。
なんてね。別に、そっちの気はないし。
「もー」とか「まったく」とか、顔を赤くしたままあんまりにも落ち着かない様子だったから、ハーブティーを指差して、
「それを飲みなさい。落ち着くわよ?」
びしりと、アリスの表情が固まった。
わなわなと肩を震わしているかと思えば、周りの人形達があわあわと右往左往し始めて、すぐにアリスが両手を机に叩きつけて勢い良く立ち上がった。
「やっぱりあなたにはお灸をすえる必要があるようね? そのおちゃらけた態度、私が教育しなおしてあげるわ!」
人形が三体程で本を抱えて持ってきた。それをアリスが受け取って、俺に向かってびしっと指を差す。
「さあ、表に出なさい! かつて覚えた五色に加え、新たに編み出した二色。七色にして究極の魔法を味わうがいい!!」
……のりのりだね、アリス。怒ってるみたいだけど、怒ってないでしょ、ほんとは。
しかし、売られた喧嘩は買うまでよと立ち上がり、彼女に背中を押されるままに外へと飛び出した。