「むぎゅー」
大量の人形に囲まれてうつ伏せで倒れているアリスの前で、膝に手を乗せて肩で息をしつつ、「勝った……」と呟いた。
一対多の戦いを強いられて苦戦必須だったけれど、さしもの人形遣いも、接近戦を挑まれてはどうしようもなかったようだな。
仰向けやらうつ伏せやらでアリスを囲むように落ちている無表情の人形達を眺めながら、ずきりと痛んだ股に、下腹に手を添えて顔を顰める。
しかし……強力な蹴りだった。気を失いかけるほどの、ものだった。下手すれば、金的より痛かったかも。
額に浮かんだ嫌な汗を拭い、ひょこひょことアリスの元まで行って、人差し指で後ろ頭をつっつく。やめてえと声を上げるので、股座を蹴り上げられた仕返しはその辺にして、助け起こしてやって家の中へ戻った。
「うあ゛ー」と呻くアリスをリビングにあるソファーに寝かせて、人形達を回収した後に、ソファーの前に椅子を持ってきて腰掛ける。
すっと手を伸ばして頭を撫でると、なにすんのよー、と無気力に言われたので、髪を弄らせて、と頼んでみる。
いいや、頼むまでも無い。敗者に拒否権は無いのだ。あとついでに今日泊めてくれたら嬉しいなあと思ったり。
そこら辺を簡潔に纏めて口にすると、「何よ、やっぱり泊まるんじゃない……」とアリス。はて、泊まっていくか、なんて聞かれた記憶は無いんだけど。
暫くの間髪を弄っていると、その内に復活したアリスが「あなたの髪も弄ってやる」と言うので、大人しく弄ってもらう事にした。
自分で櫛を通すのも気持ちが良いけど、他人に櫛を通してもらうってのも悪くはないね。
寝室で、鏡台を前にして髪を梳いてもらっていると、楽しげに昔の事を話していたアリスが、ふと寂しそうな顔をしたのが鏡越しに見えた。
どうしたの、と声を掛けると、だって、と彼女は手を止めずに言う。
「宴会で、何度もあなたに話しかけようとしていたの。でも、その度にあなたはいなくなっていて……やっと見つけたと思っても、二言ほどで終わっちゃうし……」
あー、うん。それはまあ、悪いとは思ってるな。お酒が入ったら結構口は回るほうだと思うんだけど、やっぱり何喋ればいいのかわかんないし。……たびたびいなくなるってのは、乱れた髪を整えに寝室に戻る時の事かな。
でも、それは良いのよ、とアリス。
「あなたが本当に無口になってしまっているのは、知っているから。魔理沙から聞いたわ。だから、それは仕方の無いことなんでしょうし……」
それに、今日ここへ来てくれたから、とアリスは言って、俺の肩に手を置いた。
憂いを帯びていた顔に、笑みが浮かぶ。嫌われていたわけじゃなかった、と囁く程に小さな声。
……気持ち良いな。
心地良さに細めていた目が、閉じる。何度も櫛が上下し、髪の一本一本の間を通っていくのに、眠ってしまいそうだった。
アリスの声が遠くに聞こえる。
ねえ、私の人形――――てみない? きっと――――。
ゆっくりと聞こえる優しい声にこくりと頷いて、そのまま、暗闇の中に落ちていった。
ふと目を開けると、視界一杯に少女の顔が広がっていた。
ぎょっとして起き上がろうとすると、ひょいと避ける。良く見ればそれは、アリスの操る人形だった。
手をついたその柔らかさに周りを見れば、俺が乗っているのはベッドで、この部屋は……寝室、では無いな。壁際の本棚には所狭しと本が並べられ、下の段の方には横一列に様々な服を着た人形が並んでいた。
壁に掛かっている柱時計が、カチコチと規則正しく振り子を揺らしてリズムを刻むのを耳にしながら、ベッドから降りる。人形はすっと俺の前からどいたが、その顔は監視でもするかのように俺に向けられたままだった。
素足に、カーペットの毛の感触。見下ろせば、自分が裸足だという事に気がついた。それから、なんというか、一度だって着た事もないような、やたらとフリフリの多い洋服を身に着けていた。
いつの間に、着替えたのだろうか。……体がほかほかと暖まっているのは、なんでだろうか。
本棚から本を抜き出して、表紙を見る。アルファベットが踊っているだけで、意味はわからなかった。左の端に年号が書いてあるのを見て、それが大分古い物だと知ったが、本は痛んだ様子も無く真新しい物に見えた。
本を戻し、人形を眺めながら、近くにあった作業机のような物の前に立つ。机には樹脂でできているのか、分厚い板が乗せられており、筆立てには鉄製の定規やらが入っていた。脇に積まれた様々な色の布を見て、触ろうとして……やめる。勝手に触ったら怒られそうだ。
さて、目を逸らしてしまっていたが、そろそろ現実を見よう。これ、なんだろう。いや、答えはわかるわかってるんだけど……わからない。
鈍い黒と木の茶色。鋭い一本の鉄に、人型の藁。……トンカチと五寸程の長さの釘と、藁人形だ。藁人形には長方形の紙が貼り付けてあり、丸っこい字で『霧雨 魔理沙』と書かれていた。
恐る恐る手にとって、回転させたりして見てみる。変な力なんかは感じない。ただの藁人形に見える、けど。
人形を置こうと手を下ろした時、ガチャリと戸の開く音がして、肩を跳ね上げた。「あら、起きたの」と、アリスの声。
振り向けば、彼女はお盆に湯気の上がる何かを乗せて、閉まる扉の横に立ち、こちらを見ていた。
「あなた、大分疲れていたみたいね。いくら声をかけても起きなかったから……その、お風呂、入れさせといたわ」
言いにくそうにしてそう言いながら俺の方へやってきて、机の物をどかしてお盆を乗せる。シチューに見えるものと、ガラスのコップに入った水。
人形を弄るのと大して変わらなかったから、手間でもなかったのだけど。そう彼女は言って、それから、ああ、と手を合わせた。
「その服、
ちょいちょいと、俺のお腹辺りの服を引っ張ってよれを直すアリス。されるがままになっていると、アリスはお盆からスプーンを取って、俺に手渡してきた。シチューを作ったから、食べて、だって。
お腹が空いていたので、椅子に座ってさっそく頂くことにした。中身を良く混ぜてから、スプーンですくって口に運ぶ。むむ、クリーミーな味わいの中にぴりっとした刺激。新感覚のシチューだな。このお肉 は……なんだろう。柔らかいけど、鳥って感じはしない。
ふーふーと息を吹きかけて熱を飛ばし、もくもくと頬張っていると、ああ、これ? と聞いてもいないのにアリスは藁人形を取り上げて、呪いなのよ、と説明してくれた。
あなたにもかけてあげましょうか、なんて言うので首を振ろうとしたら、ちゃんとしたものよ、と補足される。それなら、いいかな。
よく子供の頃には母なんかにやってもらっていた記憶がある。痛いの痛いの飛んでいけー、ってのが有名だよね、お
……む、なんだこの野菜っぽいの。……苦っ!? おえ、駄目だ飲み込めない……。
緑色の
じーっと見ていても、布に顔を落としてこちらを見もしないので、シチューを食べる事に集中した。
流石に作ってもらったものを残すのは不味いので、野菜もろとも全てを胃に収める。美味しいんだけど、うーん、野菜……。
かちゃんと食器を置くと、アリスが顔を上げて「お粗末様」と言った。あああ、ごちそうさまって言えなくてごめんなさい~。かわりにスマイルしときますね!
アリスは、ふっと笑って、俺の顔を指差した。髭、と言われて、シチューが上唇に付いているのに気付く。
袖で拭おうとして、今は自分の服を着ているのではないと思い出し、何か拭うもの、と探す。
と、アリスがこちらに手を伸ばして、指先で唇をなぞってきた。そのまま口へ運び、指をぱくりと。
………………。
「……ひょ、ん、しょうがないでしょ、ここに拭うものなんて無いんだから」
口に手を当ててアリスを見ていると、流石に今の行動は不味かったと気付いたのか、頬に汗を垂らしながらそう弁解した。
ティッシュとか無いんだ。いや、神社にも無いけどさ。しかし、それでも『指で拭ってぱくっ』はないと思う。
…………あれ、美味しいシチュエーションだったかな? シチューだけに。
心の中に吹いた北風を無視していると、そろそろ寝る? と聞かれたので頷くと、場所を開けてくれた。そのベッドで寝ろ、という事らしい。
いそいそとベッドに入り込みながら、アリスはどうするのかと聞けば、私は下で作業をしてるわ、と言った。下……地下室? それともここは二階かな。
いや、そうじゃなくて。眠る場所は大丈夫なの、と聞けば、そもそも眠る必要はないし、と返ってくる。
それに、下にも寝室があるのは知ってるでしょう? だってさ。って事は、やっぱりここは二階なんだ。
裁縫道具を持って部屋の出入り口まで行ったアリスが振り返り、おやすみなさいと挨拶をするので、こちらも挨拶をする。アリスが指を鳴らすと、照明が落ちた。その後すぐに、ドアの閉まる音。
満腹だしさあ寝るか、と布団をかぶって横になると、暗闇の中に人形の顔が浮かんで見えた。
……一瞬、漏らしてしまいそうになったのは内緒だ。…………寝れるといいなあ。
おばけきらい。
◆
Feast Day 12:00 博麗神社
Steage5 寂しがりやな妖怪
-Game Master-
ふっと目を覚ますと、目の前に鏡があった。
だが、なぜか鏡に映る俺の顔は、横向きだった。
動かない頭に頼らずに腕を伸ばし、鏡に映る自分の顔を触ろうとすると、ひょいと避けられる。良く見れば、それは俺に良く似た小さな人形だった。
目を擦りながら上体を起こし、掛け布団をのけて体をずらし、カーペットに足を下ろす。うーん、と伸びをすると、いつもとは違った服の感触が、肌に擦れて伝わってきた。
あー……そういえば、俺の服、アリスはどこにやっちゃったんだろう。後で返してもらわないと。スカートはちょっと、落ち着かないし。
ひらひら~、と黒い布地のスカートをつまんで揺らしていると、何か、違和感を感じて動きを止めた。
なんだろうと集中すれば、それは……視線? 人形達のものじゃない。本棚に並んだ人形達は動いていないし、後ろにいる俺を模した人形の視線でもない。窓の外から……か。
作業机に面した窓のカーテンを開き、外を覗く。薄暗い。いや、かなり暗い。これじゃあ先も見通せないな。だけど、視線だけははっきりと感じられた。
窓を開け、窓枠に足を乗せて身を乗り出し、上を見る。あんまり屋根は出っ張ってないな、よし。
ぴょん、と飛び上がり、屋根の淵に手を掛け、腕を引いて屋根の上へと飛び上がる。着地すると、トン、と良い音が聞こえてきた。
突き出た煙突まで歩いて行き、煙突に手を掛けつつ座り込む。スカートを持ち上げてあぐらを掻き、それから、前方の森を見渡した。
何か、いる。何にもいないように見えるけど、確実にいる。……たぶん。
じーっと前方を見ていると、流石は博麗の巫女……とどこからともなく声が聞こえてきた。
前方の空間にぴぃっと横線ができたかと思えば、三日月形に歪みながら開いて、中から金髪の少女がひょっこりと顔を覗かせた。八雲さんだ。
八雲さんは、そのまますっと隙間から出てきてそこに腰掛け、俺に顔を向けて
「ごきげんよう、博麗靈夢。霊夢が探していたわよ」
にやにやと笑いながら、そんな台詞。
あー……やっぱり怒ってるか。怒ってるんだろうなー。無断外泊しちゃったし。
さあ、戻りましょう? と八雲さん。やだよ。妖霧がなくなるまでこの森にいる。そう決めたの。
首を振ると、あら、と、声。
「そんなにおめかししてるというのに、行きたくないというの? それは好都合だわ。貴女を手土産にして、私も宴会に混ぜてもらうことにしましょう」
おめかし? ああ、ひらひらね。ひらひら~。
なんてドレスのような服をばたばたやっていると、足元に隙間が開いて落とされた……と思ったら、そこは神社の境内で。
濃くなった妖霧に慌てていっそう霊力を纏うと、目の前に降り立った八雲さんの服がばたばたとはためいた。
う、う、ううおあああーーーー!!! 霧が、霧が俺を、俺の回り、この、このっ離れろ!!
ぶんぶんとあたり構わず気合砲を飛ばしていると、あら、あら、あら。と八雲さんの暢気な声。あ、むかついた。今ちょっとむかついた。俺がこんなに苦労してるのに暢気な声を上げるなんて、許されないよ。
「あらら、霊夢がいない。きっと、貴女を探しに行ってしまったのね。行き違いだわ」
そう言って、こちらに向き直る彼女。轟々と俺から風が放たれているというのに、彼女は顔色一つ変えず、むしろ楽しそうにしていた。
「もう。霊夢が帰ってくるまで、貴女を押さえ込んでおかなくっちゃ」
「あなたには、無理です」
「そうかしら? やらなくたって、結果は見えてるわ!」
彼女が腕を広げた瞬間、ごう! と妖気が広がり、突風が放たれた。
ついでに、俺の素足が彼女の顔に突き刺さっていた。
「むぎゅ……」
顔を蹴って飛び退くと、前向きにぱったりと倒れた彼女が、顔を上げぬままに白旗を振った。
顔は酷いわ~、としくしく泣く声が聞こえてきたが、俺は一刻も早く魔法の森に戻るべく、彼女に背を向けた。う、石畳が熱い。
森とは違う暑さに、ぶわ、と全身から汗が噴き出すのを感じつつ、胸元をぱたぱたやる。
そこで立ち止まっていると、ひゅっと空から人が降って来て、目の前にずだん! と着地した。うーん、二日前とおんなじパターン。
前屈した姿勢から立ち上がったのは、ああ、妖霧だ。じゃなくて妖夢だ。
「謀反か? それは流石に見逃せんぞ、靈夢!」
それ、勘違いだから。
◆
Feast Day 16:00 博麗神社
Steage6 目に見える霊
-Friend-
いきりたった妖夢が刀を抜くので、八雲さんの隣まで飛び退って、自然体で立つ。
どうした、構えろ靈夢! と叫ぶ妖夢を尻目に、なんで妖夢は空から降ってきたんだろうと関係の無い事を考えていた。
謎を解くために考えていれば、刀が振られ、弾幕が飛んでくる。当たるのは嫌なので、八雲さんの首根っこを掴んで前に突き出した。
「ちょっ」
野球のボールが連続で当たるような音を耳にしながら一歩前に出て、八雲さんを振りかぶり、動揺が見て取れる妖夢に投げつける。
涙を流して飛んでいった八雲さんを、妖夢は刀を取り落として大慌てで受け止める体制に入り、しかし受け止められずに頭同士をぶつけて撃沈した。
お前はそこで眠っているが良い、妖夢。俺は安らぎの森に帰る。帰るったら、帰るの。
ふー、と一息ついて、踵を返す。
機嫌が悪いのが自分でもわかる。せっかく気が休まる場所にいたっていうのに、引きずり出されれば、そりゃあ誰でも怒るでしょ。
寝起きを襲われるのとおんなじくらい嫌な事だもん。
「いやいやー、それはないでしょ、あんた」
玄爺を呼ぶか、それともこのまま行くかと悩んでいると、拡声器越しのような高い声が響き渡って、目の前に妖霧が集まりだした。
◆
Feast Day 19:00 博麗神社
太古の鬼の巫女退治
-Lost Dream-
「まあ、冗長な余興よりかはよっぽどいいとは思うけどね」
霧が、人型を形作っていく。現われたのは、空中に横になって、肘をついた手で頭を支える、薄茶色の髪をした少女。……いや、それよりもずっと幼い。細めた紅い目で俺を覗き見て、口を歪めて笑っている。
じっと見ていると、私は伊吹萃香、と自己紹介をされた。ああ、こりゃどうも。でもこっちからの自己紹介はなしね。今機嫌悪いから。
そう思ってると、少女は空いている方の手をひらひらと振って、ああ、言わなくても、あんたの事は良く知ってる。と言った。別に、何も言おうとはしてないんだけど。
「ずっと見てきたからね。あんたはいつも自己中心的だったね。自分の嫌な事からは遠ざかり、好きなものには近付いていく。それから、あんたはいっつもだんまりだった。黙して語らずってやつか。ま、嘘を吐くよりかはマシだけどね」
なにやら分析されているらしいみたいだけど、興味が無かったので、少女の腕やら服から下がる鎖と、それに繋がって揺れるぶんどうのようなものを眺めていた。三角四角。あんなものを付けて何がしたいんだろう。腕輪だけでなく腹にも鉄のベルト……縛られ趣味?
随分とアダルティックな、と考えている間も、彼女はぺらぺらと一人で喋っている。
「だけど、時として喋らない事は、問題になる。何を考えてるかわからないのは、不快だからね。その点あんたは表情が変わりやすいからわかりやすかったけど……ちょっとだんまりがすぎやしないか?」
ほれ、と手を振って、彼女は続ける。
「喋りやすい雰囲気を萃めてやったからさ、あんたの本当の気持ちを教えとくれよ。なぜ、非力でありながらその拳で戦う?」
あー? そんなもん、迷ってる内に人が死ぬからだろ。それならさっさと行動して殴って黙らせるのが早い。
……それにしても、喋りやすい雰囲気を集めたって?
なるほど、たしかに。なんだか舌が三寸ばかりまで伸びたような気がする。今ならぺらぺら喋れそうだけど…………別に、特に喋る事も無いな。
あー……あるか。言いたい事。
ぴっと、少女を指差すと、不思議そうに指先を見つめてくる。それに構わず、俺はとりあえず言いたい事を言うために口を開いた。
「あなた、センスがないのね」
ずる、と少女が頭を落とした。微妙な表情をして、あんた、中々口が悪いね、と言う。
んな事言われたってねえ。正直な感想を口にしたまでだし。…………あれ? なんか、恐ろしいものを敵に回してしまったような気がする。強大な妖怪とかじゃなくて、なんというか、そう……創造主?
ぶんぶんと頭を振って、続きを言う。
「鎖なんか巻いちゃって、親が悲しむでしょう? ピアスはしてないみたいだけど」
俺の言葉に少女は一瞬ぽかんとして、次には憤怒の表情を浮かべていた。
これは我らの誇りだとかなんとか言って地面に足をつけ、かと思えばぐんぐん大きくなっていく。
心地良い妖気だ。あー、むかつく。
ずしんと地を揺らして、少女が俺を見下ろす。
「あったまきた。あんた、後悔するよ。鬼を怒らせたこと」
「あなたは後悔するでしょう。この私に挑んだことを」
ぐっと腰を落として構えて見せれば、少女は「減らず口を!」と怒鳴った。
というか思い出したよ、伊吹の萃香。四天王の萃香。のんだくれの萃香。
「来いよ、息吹西瓜」
「行くよ、博麗の……発音が違う!?」
うがー! と腕を振り回して怒る萃香から距離を取って、出方を窺う。鬼って、強いんだっけ。いや、どうでもいいか、そんな事。さっさとやっつけてアリスの家に戻ろう。
「お前はもう、黙っていろ!」
怒号と共に飛んできた腕を受け止めるために、体勢を整える。
鬼退治が、始まった。