『霊異伝』   作:月日星夜(木端妖精)

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第二十話 永夜異変の始まり

 

「なんか久しぶりな気がする」

 

 あー、何が?

 隣を飛ぶフランに顔を向けると、いや、わかんないけど。と言われた。わからない事を口に出されてもね。

 

 永遠に続きそうな夜。空に浮かぶは、歪な月。そう、今は永夜異変の真っ只中。

 ……お昼寝して、起きたら霊夢がいないんだもん。びっくりした。俺の夜ご飯は!? って。

 で、フランが月が変だなんだと騒ぐので、ちんたら出掛ける準備をしていたら連れ出された。流石に玄爺は呼び出させてくれたけど。

 

 玄爺の上で、寝ぼけ眼を擦りながら月を見上げていると、妖精をことごとくオーバーキルしていたフランが、何か来ると呟いた。んー? 俺はなーんも感じな…………羽音?

 ぶぶぶぶぶ、と羽音を立てて、小さな何かが大量にやってくる。ぞわりと総毛だった。ああ、アレがくる。来るのは、アレだ。

 

「焼け、フラン」

「いいの? いいのね」

 

 聞き返してきたフランが、俺の返事を待たずに手に黒棒を出現させ、炎の大剣を作り出して振るった。

 炎に当てられて消滅すればいいものを、熱さにやられるだけでばらばらと落ちていく虫達から目をそらしていると、ちょっとちょっと! と叫び声。見やれば、緑色の髪をした少女がこちらへ飛んできていた。

 怒り心頭の様子で、頭に生えた二本の触角を…………ああ。

 

「私の可愛い虫たちに何ぃいいいい!?」

 

 台詞の途中で、フランが炎の剣を振って虫少女を叩き落した。夜の暗闇に少女は消え、伸びた声が空しく響き渡る。

 虫は無視しないとね、とフランが言ったので、こくこくと頷いて全力で同意をしておいた。

 

 

「ざんぎり頭を叩いてみれば~、文明開化の音がする~っと」

 

 月が欠けてるだとか、迷惑な話よだとか、フランの愚痴を聞いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 ふわふわと向こうから飛んでくるのは、ああ、ミスティア。黒棒を振り上げようとするフランを手で制し、そのまま手を上げて軽く振る。

 俺に気が付いたミスティアは、あ、お得意さん、と言って、嬉しそうに笑った。

 

「こんな夜中に、久しぶりね。靈夢は何をしてるの? 今日は人間とよく会うんだけど」

 

 その問いに、さあ? と肩をすくめて返せば、そう。と割とどうでもよさそうに言って、ららら~と歌いだす。

 

「レイムの頭を叩いてみれば~、ざっくばらんと音がするぅ~♪」

 

 なんとも珍妙な歌を気持ち良さそうに歌うミスティアに、私には挨拶はないの? とフラン。

 一応屋台に何度か顔は出しているし、結構話したりもしてたはずだから、友達みたいなもんだと思うけど、なんでミスティアは俺にだけ話しかけてきたんだろう。

 

「だって、人間以外には用は無いもの。さあ靈夢、満を持して鳥目にしてあげるわ!」

 

 ぶおんと、炎の剣が振られた。きゃぴぃと悲鳴を上げて落ちていく哀れなミスティアに手を振って、それから、むすっとしたフランの肩をぽんぽんと叩く。あ、玄爺、もうちょい左。

 でもフラン。弾幕ごっこしましょうよ。

 

 

 よいせよいさとフランが進む。まるで始めから異変の首謀者の居場所がわかっているかのように、その足取り(?)には迷いが無い。

 だから安心して任せていたのだけど、フランが向かったのは、人里だった。

 ……ん? あれ、鳥目にでもなっちゃったかな。人里が見えない。代わりに見えるは、先生じゃないか。

 ようし今度こそ、と先生は腕を振るって、こっちに飛んできてから、おい! と声をかけてくる。

 

「お前達だな! こんな真夜中に里を襲おうとする奴は! って……」

「あらら、ばれちゃあ仕方が無い。ねえ靈夢、わたし小腹が空いちゃった」

 

 フラン目掛けてすっ飛んできた先生が、ふっと俺に気付いて動きを止めた時に、フランがそんな事を言った。あー馬鹿、あの真面目さんにそんな事言ったら……。

 

「な、血迷ったか、巫女よ!」

 

 ほうら、血相変えて、怒鳴ってくるんだから。

 俺、あの人苦手なの。会うたびにお小言言うんだもの。やんなっちゃうでしょ、ねえ。

 

「こんな月じゃあ、血迷えるものも血迷えないわ。さて、で。人間はどこかしら」

「ふん、お前達に人間は渡さない。今夜を無かった事にしてやる!」

 

 小馬鹿にするようにフランドールが肩をすくめると、先生はすぐさま言い返し、それから弾幕を展開してきた。フランが横へ飛んでいくのを見ながら、ぽん、と玄爺の頭を叩く。おーいじーさん、船漕いでる場合じゃないですよ。

 飛んでくる妖力弾をひょいひょいと避けさせていると、フランが反撃と弾をばら撒く。酷い量だ。明らかに難易度が違う。

 その理不尽さに、先生の悲鳴が聞こえてくるようだった。実際は、先生は声も出さずに必死に避けてるけど。

 ああ、もう、面倒くさい。こんな事になるんだったらフランを先生に会わせておくんだった。お小言言われるの嫌だから、絶対会わせなかっただろうけど。

 玄爺の後ろ頭を撫でている内に、弾幕の波が寄せては返し、弾け、消え、打ち上がり、爆発する。

 ぴたりと、弾幕がやんだ。

 

「く、目を覚ませ、巫女よ!」

「ほれほれ、力の差とはこういうものだ」

 

 肩で息をして、こちらに呼び掛けてくる先生に、肩をすくめて見せる。あ、別に喋るのが面倒くさかったわけじゃないよ。フランが先に喋ったせいで、タイミングを見失っただけ。

 先生は、声が届かないと知るや否や、身を翻して向こうの空へと飛んでいった。こちらに顔を向けたフランが「追っかけましょ」と言って飛んでいくので、慌てて後を追わせる。せわしないなあ、あの子たちは。

 

 ひょうひょうと風の中を抜けて先生のお尻を追いかければ、急に先生が速度を緩め、それに続いて俺達も速度を緩めた。振り返った先生が、俺達が付いて来ているのを見て舌打ちする。

 

「く、これ以上は下がれないな」

「それじゃあ、夜食といきましょう」

 

 ぱんぱんと手を叩くフランに目を向けて、それから、歯噛みする先生に目を向ける。むむむ、なんだか難しい言葉の応酬が始まる予感。でも、連想ゲームみたいなものなんて、俺にだってできるはず!

 夜食とくれば……太る。太るとくれば、お団子。お団子とくれば……うーん。……まんまるお月様?

 ぽんと手を打って、そうね、お月様を食べましょう、と言うと、ぱっと二人がこちらをみた。一瞬冷やりとして、だけど、胸を張って屹然とした態度を保つ。

 さあ、ここからが勝負だ。ぱっと考えて物を喋らないと、あっという間に置いていかれてしまう。

 

「食べるのは、月じゃない。お前達の歴史を頂こうか」

「あら、いいじゃない。月とスッポン。生き血が美味いってね」

「すっぽんぽん?」

「……」

「…………靈夢」

 

 な、何だよ、そんな顔で見るな。仕方ないでしょ、頭がおっつかないんだもの。内心であわあわしていると、様子が変だな、と先生。いつもの事よ、とフラン。あ、酷い。

 気を取り直すように頭を振って、吸血鬼が、ここには何もないぞ、と先生。まあ、何も無いねえ、見た感じ、とフランが返す。

 

「そうだ。ここには何も無い。だからほら、さっさと通り過ぎろ」

「そうは言っても、ちょいと飲みたいんだけどねえ、いっぱい」

 

 すすっと寄ってきたフランが後ろから抱き付いてきて、首筋に口を寄せた。やめてフラン、くすぐったい。あ、う、息が…………おいこら、ちょーしこいてると転がすぞ。

 眉を顰めて先生を眺めていると、「しょうがないから、靈夢の血で我慢ね」、とフラン。いつも美味しいって言うくせに、我慢ってなんだよ。吸血鬼も、やっぱり質より量なのかな。

 先生は動揺しているようで、かと思えばキッと睨みつけてきた。

 

「くそ、巫女は操られたか?」

「そうそう、こう、ぱかっとわってもう一人。本物と偽者の感動のワルツね」

「……ジーン」

「クローンじゃなくて、グールだろ。あと、そこの巫女。無理して難しい事言おうとしなくていいから」

「それは、わたしも思う」

 

 そんな酷い! 頭を捻って考えたのに!

 でも、フランの言ってる事の意味がちょっとよく分からなかったから、間違ったのは当たり前かも。何だよ、感動のワルツって。くるくるり?

 さて、もういい? とフラン。自信たっぷりの様子に、先生は眉を顰めて答える。

 

「どうあれ、お前達も追い出すしかないようだな」

「さあて、どうだか」

「今夜は、もう何人も追い返してるんだ。今更お前ら如き、追い返すのはわけない!」

「ほざけ青二才が!」

 

 お前『達』? と頭を捻っていると、また激しく弾幕の撃ち合いだ。流れ弾を体を揺らして避けながら、爺さんに後方に下がってもらう。

 お腹が空いてるから参加したくなーい。

 でも、こっちを狙って撃ってもくるもんだから、時々撃ち返すか、撃ち落とすかはする。

 大人しくフランの相手をしていればいいのに。

 スペルカードを使い合い、白熱するごっこ遊び。それは数十分にも及び、その間俺は、お腹をさすって待っている羽目になった。

 そして、少しすれば、先生が被弾する。フランの勝利だ。

 まあ、そりゃあそうか。難易度が違うものね。そりゃ、負ける負ける。

 明後日の方向を眺めていると、「くそ、厄日だ」と先生。苛立っているのか、口調が荒い。なんて言うのは、白々しいか。ぼろっちくなった服から覗く肌が扇情的で、俺はなおさら明後日を見た。後日に怒られたくないんだもの。不埒なー、って。容赦ないよ、先生。

 瞬く星を眺めながら、フランと先生の会話を聞く。なんという挑発のし合い。争いしか生まないような気がする。

 

「あー、満月の異変か。それを追うなら、向こうに行くといい」

 

 その内に先生が、そんな風に教えてくれた。

 フランが、人間を襲う態度をしなくなったから、安心したらしい。

 今日は変な奴が多い、と先生は言って、それから、しっしっと手を振った。

 

「それじゃ、行きましょうか、靈夢」

 

 おー、いきましょー。あー、お団子食べたい。

 

 

「動くと撃つ!」

 

 あんまりにもあんまり暇だったものだから、手を合わせて親指同士をぶつからないようにくるくる回していたら、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 見れば、特徴的な、あー……白? 暗闇に白黒は、見えにくい。それから、その横には呆れ顔のアリス。どうしてか二人は、少し服がぼろっちくなっていた。

 あ、魔理沙となんか、とフランが言うのに、魔理沙は気にせず言葉を続ける。

 

「間違えた。撃つと動くだ。さっさと動く」

「そっちの巫女には強気なのね」

 

 肩をすくめるアリスに、おい、水を差すなよ、と魔理沙。微笑ましい光景である。

 近くの竹林を眺めていると、こんな所で遭うなんて珍しいわね、というフランに、そうでもない、と魔理沙。

 

「こう賑やかな夜だと、会う事だって不思議じゃないな」

 

 靈夢もいるし、と付け加えられて、顔を戻す。ん、魔理沙の後ろの方から、誰か来る。真っ直ぐな気配と、ぐにゃぐにゃな気配。

 

「止まりなさい!」

 

 びゅーんと飛んできたのは、おや、俺のご飯を作ってくれなかった霊夢さんじゃないですか。怒り心頭だよ。でも霊夢、機嫌が悪そうだから黙っとこう。

 遅れて八雲さんが飛んでくる。こっちに目配せしてきて、にやりと笑った。うわあ、胡散臭い。何がかはしらないけど。

 

「ちょっと、何で神社で大人しくしてないのよ。あんたが動くものでもあるまいし」

 

 ぷんすかと怒る霊夢に、おい霊夢、今いいとこだったんだぞ、と魔理沙が詰め寄って押し返されていた。

 大人しくしてるとかそれ以前に、フランに連れ出されたんだもん。怒るならフランを怒ってね。俺は逃げる。そしてご飯食べて寝る。

 と、またまた向こうから人の気配。いや、人じゃないな。人ならざるものの気配、だ。

 

「あ、靈夢! あなたも来てたのね」

 

 切り込むように突っ込んできて姿を現したのは、やけにぼろぼろになった妖夢だった。や、と手を上げると、ちょいと手を上げて返してくれる。

 

「待って~ようむ~」

 

 ふわふわとした声が聞こえてきたかと思えば、妖夢が来た方から、ふわふわとした幽々子がやってきた。

 もう、早いってば、と妖夢に言って、それから、こっちに笑顔を向ける。やあ、奇遇だね。君も妖夢に引っ張り出された口かな?

 遅いんですってば、と妖夢。それに幽々子は脹れて返し、それから、つまらなさそうに妖夢の横に浮かんだ。

 

「そっちの人は初めましてか」

 

 そう言って妖夢がぺこりとお辞儀をするので、フランもぺこりと返していた。礼儀正しい子に育ったものだ。鼻が高いよ。その内折られそうな気もするけど。

 六人がフランとわいわいがやがやとしているので、ぶんどうを垂らして重心を移動させて玄爺を困らせていると、またまたまた向こうの方から二つの気配。

 

「あいやまたれい」

 

 ぱっと、一瞬でその場に現われたのは、咲夜さんだ。何、その台詞。

 というか、あんたらは何か言わないと登場できない病気でも患ってるのか。

 今度俺も試してみよう。

 びゅうと風が吹いて、さて、もう一人がやってきた。あら、お姉さま、とフラン。

 

「やあ、久しぶり?」

 

 疑問系に言うのは、レミリア。あの咲夜さんいるところにレミリアありなのか、霊夢いるところにレミリアありなのか、それが問題だ。

 しかし、二人もぼろぼろだ。そのぼろぼろ具合は、およそ魔理沙とアリスとおんなじくらい。一番ぼろぼろなのは妖夢だ。何があったんだか。

 

「ふむ、なんだ。おそろいのようで」

 

 ぽつりとレミリアが言うと、それぞれが返答する。とんちんかんのオンパレードだ。俺にはさっぱり意味が分からん。眠くなってきたかも。

 ごしごしと目元を擦っていると、さて、とみんながこっちを向く。

 

「ぼろぼろになっていないのは、貴女だけね? 靈夢」

 

 と幽々子。何、俺にもぼろぼろになれと? と首をひねっていると、

 

「さあて、続きと行こうじゃないか」

 

 と、魔理沙。続きも何も、まだ何もしてないじゃないか。

 

「私にできる事は、ここで叩いて神社に帰ってもらう事だけね」

 

 なんて、霊夢が物騒な事を言う。フラーン、あの巫女さん怖いよ。やる気だよ。殺す気だよ。夕飯抜きにするつもりだよ。もうされたけど。

 

「どうせなら、靈夢もぼろぼろになったらどうかしら」

 

 咲夜さん、あなたもか。

 まったく、みんな血気盛んなんだから、と膝を叩いて、立ち上がる。フランが隣に来るのを見てから、それぞれの顔を見回した。さあ、誰とやる? と魔理沙。

 

「全員でかかって来なさい」

 

 ざわりと、空気が一変した。八雲さんとレミリアはにやりと口の端を吊り上げて、幽々子は袖で口元を隠して笑い、妖夢はむっとした顔をして、霊夢は明らかに怒り顔。咲夜さんはいつも通りの冷たい表情に、アリスは呆れ顔。魔理沙は不敵な笑みを浮かべて、いやに強気じゃないかと言った。

 当たり前よ、私がついてるんだもの、と言うフランを手で制して、玄爺の頭を小突き、前に出てもらう。各々が構え、スペルカードを手に持った。

 いいだろう、いいだろう。見せてあげよう、この博麗靈夢の恐ろしい真のパワーを。

 

「ただし肉弾戦で」

 

 瞬きしたらみんないなくなってた。

 あれえ、と首をかしげて、みんなどこに行ったのかとフランに聞けば、呆れ顔で竹林の奥を指す。あー、そう。逃げたの。吹っ掛けてきたのは向こうなのに。

 不完全燃焼というか、燃え始めてすらいない胸に組んだ腕を押し付けて座り込む。

 まあ、いいや。進みましょうか、フラン。

 

 そうして、俺達は竹林へと踏み込んだ。

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