第二十五話 かつての自分たち
『なにそれ。イメージチェンジ?』
様変わりした魔理沙にそう問いかけると、くるんと回ってスカートを翻し、いめちぇんだぜー、と楽しそうに言った。
だぜだぜー、と一緒になって繰り返すと、靈夢もイメチェンしてみない? と誘われた。うーん、どうしよう。してみよっかな。うん、そうしよう。
するする! と頷いた次の日には、私の姿も様変わり。大胆でしょー、ほらほら、この腋とか。時代の最先端を行ってるね。
□
『温泉に入りながら飲むお酒は格別ねー』
『怨霊もあらかた追っ払ったし、快適だぜー』
神社の裏手に湧き出した温泉につかりながら杯を掲げると、隣の魔理沙が同調した。んー、極楽極楽。
紫の奴は地底に行けなんてせっつくけど、もう温泉から離れられないね。
ねー、と魔理沙と笑い合って、それから、一緒に杯を傾ける。
あー、
□
『最近足とか腰とか痛くってさー』
『あー、座る時とかが酷いよなー』
魔理沙の家の、日の差し込む窓の前に椅子を並べて、静かにカップを傾ける。穏やかに流れる時間がいつも身を包んでいるような気がして、最近気分が良い。
そろそろ船に乗る時かね、と隣の魔理沙に語りかけると、やりたい事はやりつくしたしなあ、と満足げな声が返ってきた。
そうだね。もう、やりたい事は全部やった。思い残す事は……あー、ある、なあ。
何が、と首を傾げる魔理沙に、カップを揺らしてみせる。だって、ほらさ。最後はやっぱり、お酒で締めなくちゃね。
そりゃあ、私たちらしいな、と、魔理沙は笑った。
次の日に私たちは、川を渡った。
■
『私がはくれー神社のみこよ、えっへん!』
『なんだ、よわっちそうなヤツ』
腰に両手をやって、胸を張って声高に言い放つと、とんがり帽子の少女は、そんな風に返してきた。しつれーな奴。あんただって、なんかすっごく古臭い格好してる癖に。
『ええい、やっつけちゃえ!』
『受けてたつよ!』
全力全開、思いっきり腕を振り回して霊力弾を飛ばして、魔力弾を避けて、一時間くらい。背中を合わせて荒く息を吐く私たちは、互いに名前を教えあって、それから、お友達になった。
□
『あの遺跡に入るのは私なの!』
『いいや、私だね!』
神社の隣に突如現れた遺跡。手に入れたチラシには、魅力的な文章が踊っていた。
そういうわけで、魔理沙と戦闘中! 定員一名、その座は絶対渡さなーい!
……と息巻いていたところ、魅魔に強襲されて二人揃ってリタイアさせられてしまいましたとさ。
むむむ、入ってみたかったなあ、遺跡。
□
『おーよしよし、泣き止んでー』
『なんだなんだ靈夢、どこから攫ってきた』
むむ、攫うとは人聞きの悪い。神社の横で拾ったんだよ! きっと捨て子だから、私が育てるの。おーよしよし。泣き止まないなあ。
魔理沙と一緒になってだぜだぜあやしていると、次第に泣き止んで、疲れちゃったのか、眠ってしまった。子育ての道は厳しそうだけど、やる気出てきた!
□
『はい、お母さんの』
『ありがとう。はい、魔理沙』
『さんきゅー。しかしなんだ、時間の流れはかくも早いものだな』
座布団の上で胡坐を掻いて、湯飲みを片手に、ちょっと前までこんなにちっちゃかったのに、と手で示す魔理沙に、そうね、と返す。
私の隣にちょこんと座るのは、頭に大きなリボンをつけた、私の子供。名前は、私と同じでれいむ。拾い子でありながら、私そっくりに育ったものだ。
『お母さん、湯飲みの持ち方が悪い』
『あっはっは、子供に言われてどうするんだお前は』
……こういうところは、全然似てないんだけど。
うーん、なんだか凄く達観した子に育ってしまった。育て方を間違えたとは思ってないけど、あんまり注意されるのはやだなあ。
湯飲みを持ち直して、これでいい? と聞くと、うん、いい。と素っ気無く言う。
自然と手が伸びて、頭を撫でてしまう。愛しい、愛しいって気持ちが溢れて、体が勝手に動いちゃうんだね。
にこにこしながら右に左に手を動かしていると、片手で持つのは危ない、と指摘される。
やめてえ……お母さんの立場が……私の威厳が……。
しくしく泣くのもみっともないので、ぐっと堪えて、魔理沙の昔々の武勇伝に耳を傾ける事にした。
意外と、そういう話にこの子は興味を示す。やんちゃしてもいいのに。
ずぞぞ、とお茶を啜ると、舌を火傷した。……情けない。
□
『早すぎたんだよ……。しっかりしてるから……私なんかよりずっとしっかりしてるからって、巫女の座を譲ったから……あの子は』
血塗れたリボンを握り締めて、流れる涙も、零れる嗚咽もそのままにそれだけを吐き出す。隣に立つ魔理沙の拳が、硬く握り締められているのが、ぼやけた中に映っていた。
なにが、この世界が欲しい、だ。憤りを隠さずに、魔理沙が言う。……幻想郷が欲しい。巫女の力が欲しい。だから、代替わりしたばかりの巫女が襲われた。あの子が殺された。
紫は、と、魔理沙が小さく呟くのに、首を振って返す。ぽたぽたと落ちて石畳に染み入る涙に、胸が張り裂けそうだった。
そうか……、と目深にかぶった帽子の淵を押さえて、顔を落とす魔理沙。
紫は、信じてる。まだ、あの妖怪の事を。古くからの友人だって言ってたから、だから、信じてる。
どうしてそこまで信じる事ができるの? 同じ妖怪だから? あの子が殺された事になんの感情も抱いてないの?
胸の奥から噴き出した悲しみに、石畳に拳を叩きつけようとして、差し伸べられた手に動きを止めた。
『それなら、私たちがやるしかない』
見せてやろう。あの世に行ってしまったあの子に。それがせめてもの手向けだろ?
冷たい口調で言い放つ魔理沙の声は、でも、熱っぽかった。事実を突きつけられて、どうしようもない怒りと悲しみがせり上がってきたけど、魔理沙が隣に立っていてくれるから、なんとか抑えられた。
悲しんでる暇はない、泣いてる暇なんてない。そんな事をするなら、その気持ちを全部力に変えてぶつけてやれと、背を押してくれるから。
……一番悲しいのは、殺されたあの子。私は、代わりに悲しむんじゃなくて、
『……一緒に、来てくれるの』
魔理沙の手を取ると、ぐっと引かれて、勢いで立ち上がった。私の目を見て、『ああ』と、力強く頷く。
『一緒に戦おう』
涙を拭って、頷いた。うん。私たちなら、敵を討てるよ。ぜったい、ぜったいに討つ。
頭に結んだリボンを解き、血塗れて、ぼろぼろになったあの子のリボンを変わりに結ぶ。それから、魔理沙と向き合って、数度拳をぶつけ合った。絶対に――――を倒そうって、誓った。
待ってて。お母さんもすぐに、そっちに行くからね。
■
『どうしたの、その子』
神社の裏手に、布に包まれて捨てられていた赤子を抱えて神社に戻ると、居間でお茶を啜っていた母は、眉を顰めてそう聞いてきた。
正直に話すと、興味を失ったらしく、二度三度、青い髪を撫で付けてから、今日の夕食は何が良いかと聞いてきた。
いつもながら物事を深く考えない母に頭が痛くなるのを堪えて、この子についてどうすればいいのか、一応の判断を仰ぎ、予想通りどうでもいいよと答えられたので、私が育てる事にした。
いい加減な母や、面倒くさがりの父に任せては、きっとこの子は死んでしまう。それなら、私が頑張るしかないだろう。私ももう十三になる、いい大人だ。きっとどうにかなる。
人を生かすのはそんなに簡単な事じゃない。生半可な気持ちでやっても死なせるだけだよ。
苛々した様子でそう言う母は、だけど、色々と教えてくれた。赤子のあやしかた。食べ物の与え方。寝かしつけ方。私にそうしてきた事を、全部教えてくれた。
父は、一緒に名前を考えてくれた。霊夢。何日も考えて、良き未来がありますようにと、二人で名付けて。
お前の名前は霊夢だよ、と笑い掛けると、理解したのか、偶然か、顔いっぱいに笑みを広げて声を上げた。
□
霊夢が三つになった。
よちよちと歩き、無邪気に笑い、今日あった初めてを、精一杯に私に語る。肩を撫で、髪を撫で、服を正してやり、何度も頷いて相槌を打つ。
一人前に母親になった気分だった。もうなんだってしてやれる。目に入れても痛くないと思うくらいに、愛情を抱くようになっていた。
□
幻想郷に、新たに妖怪がやってきた。赤い着物を着た、とても儚い印象を受ける女性だった。
母が珍しく満面の笑みでその妖怪と会話を交わしていた。柔らかな物腰。丁寧な口調。常に浮かぶ、優しい笑み。長い黒髪など、いくつもの魅力的な要素にその妖怪に近づこうとしたが、どうしてか霊夢が
その妖怪は、何度も神社に足を運んでは、母や父と親しげに言葉を交わしていた。里での生活。人々に何をしたか。何をしてもらったか。
会話の中から、その妖怪の能力を知ることができた。とても幻想的な力だ。私は堪えきれなくなって、惹かれるままに声の溢れる居間へと踏み込んだ。
あら、こんにちは、と、妖怪。いつも遠くから見ていた笑顔は、近くで見ると余計に魅力的だった。
話す事が思い浮かばなくて、何を言えば良いのかわからなくて、とりあえず、一番の自慢を話題にする事にした。
私の袴を引っ張って、必死に部屋の外に行こうとする霊夢の背を押して、挨拶をさせる。
聞き分けの良いはずの霊夢は、この時ばかりは素直じゃなかった。
名を、交わす。
私の名と、妖怪の名を、それから、霊夢の名を。
――――。素敵な名前だと言えば、彼女は笑って、ずっと昔に親しかった妖怪の名を貰ったのだと語った。それから、外で生きてきた事を。
彼女の語る物語に、私はただただ引き込まれるだけだった。
□
『――そう。それで、ここが、こう』
『……こう?』
上手ね、と頭を撫でてやると、得意気に胸を張る霊夢につい笑みが零れてしまう。
それにしても、この子はとても物分かりが良い。早いとは思いながらも、御札の作り方を教えてやると、あっという間に上達して、実戦でも使えるものを作れるようになってしまった。
今は、その御札に霊力を込めて自在に飛ばす方法を伝えているのだが、どうやらこれももうできてしまったようだ。
霊力もとても強いし、もしかしたらこの子は、母や父を超える巫女に育つかもしれない。今からそれが楽しみで仕方ない。
……いけない、戦闘狂いの気は静めなければ。この子が感化されでもしたら大変だ。
札を投げ、褒めて褒めてと私を見上げる霊夢を抱き上げてやって、ほっぺどうしをくっつける。良くできたね、偉いね。
きゃあきゃあと喜ぶ霊夢に、私も声を上げて喜びたくなった。流石に、それはできないけど、でも、その代わりいっぱい褒めて、霊夢の笑う顔を見る事にする。
□
霊夢が六つになった。
これくらいにもなると、普通は勉強をさせるものだけど、霊夢はもう子供とは思えないくらいに賢いし、何より達観してしまっているから、それは必要ない。
不思議な成長に首を傾げていたが、それがあの子の能力ゆえのものだと気付くと、納得がいった。
宙に浮き過ぎないように、制御させてやらなければと誓った日だった。
□
父と母が、人里に行ってから一週間経つ。だというのに、まだ戻らない。
そろそろ食料も少なくなってきたし、どうせ酒を浴びているのだろう両親を連れ戻すために、人里へ飛ぶ事にした。
□
どうして?
どうしてあの人が、こんな事を。
焼けるように痛む腕を庇いつつ、森の中の木の一つに背を預けて、痛みが引くのを待つ。
裏切られたという気持ちも、両親を食われたという怒りも、ただ痛みを引き立たせるだけだった。
血も流れず、ただびくびくと痙攣する右腕に霊力を纏わせた手を押し付けて、少しでも早く治るように祈る。
こんな姿、あの子には見せられない。……いや、見られたくない。
強い母としての私だけを見て欲しいから……だから、早く治って。
投げ出した足の先に、妖怪の気配。足から流れる血の匂いにつられてきたのか。そういえば結界も張ってなかった。
じっとりと滲む汗を拭くこともなく、ただ木々の向こうを眺めていれば、影が飛び込んでくる。それは、武器である爪を振るい、私の胸に突き立てた。
胸の上に並ぶ四つの爪を見て、息を吐く。と、ぎしりと右腕が痛んだ。
痛みをなくそうとして、反射的に左腕を振るう。ぼん、と不快な音がして、妖怪の体が消し飛んだ。
荒く息を吐く。
悔しい。
こんなに力があるのに、どうしてあの妖怪に敵わないのか。
怒りに身を任せて、力の全部をぶつけたというのに、どうして届かないのか。
初めての負けは、私の心に深く影を落とした。
……あいつは、巫女の力が欲しいと言っていた。
私で終わればいい。でも、もしあの子に手を出す気だったら?
あの子は、巫女として育てた。その能力を与えた。あいつが欲しがらない理由がない。
いくら才能があるからといっても、あんな力じゃ、すぐに殺されてしまう。
……どうしよう。どうすれば、あの子に手を出させずに済むのだろう。
願いなど聞き届けられないだろうし、殺して阻止する事もできない。私には、あいつは倒せない。
……倒せないなら、だったら、私の命に代えてでも。
蔵に、禁じられた術を記した本があったはずだ。帰ったら、それを読もう。
■
『うん、霊夢って名前だよ。魅魔が一緒に考えて――』『いい? 巫女のやるべき事というのは――』『へえ、魔理沙っていうの? 私は――』『ええい、しっかり掃除を――』『なんであの子が死ななきゃ――』『私が一番乗り――』『お母さんになるって、大変な事なの――』『お月様が欠けて――』『霖之助さん、新しい洋服――』『だから、魔法なんか必要ないって――』『そう、私がこの神社の――』『おーい、おいぼれさんや――』『この子は、空を飛べる――』『だから、私が巫女だって――』『霊夢が死んじゃった――』『吸血鬼はお呼びじゃな――』『初めまして、あなたの名前は――』『だから、この子はどうする――』『寒いから外出たくな――』『一緒に戦かって――』『どうして勝てな――』『いやだ――』
◆
ゆっくりと、目を開けた。
視界に広がる白い光に目を細めて、それから、地面に手をついて上体を起こした。
一面に広がる、真っ白な花の
……えっと、どこだっけ、ここ。
記憶を探る事十数秒。すぐに思い出す。あー、神社の
俺が神社で寝こけている内に、霊夢がいなくなってしまったので、探しに行こうとして、ここで眠ってしまったんだった。
最初に見た時は、異常な花の繁殖とその綺麗さに惹かれて、ついつい包まれて寝転がってしまったけど、今考えると、虫とか何かが体に付きそうでやだな。
付いてないか、と体を見回し、それが無いと知ると、立ち上がって袴に付いた草や花弁を払った。
空を見上げ、神綺、と呟くと、『はーい。はい、羽』と答える声。それから、背に漆黒の翼が広がった。
花を散らさないように注意しながら空へと舞い上がり、一度振り返って神社を見てから、遠く、花の続く向こう側に顔を戻した。
まだ花は咲き誇ってる。これが異変なのだとして、霊夢がその解決に乗り出しているのだとしたら、きっとまだ解決には至っていないのだろう。
なんだっけ、花……なんとかって異変だったような。……ん? それはゲームのタイトルだったかな? ちょっと覚えてない。まあ、いいか。霊夢を探しに行こう。
あの子に限ってそんな事は無いだろうけど、怪我でもしたら大変だ。
空を飛翔し、勘を頼りに行く先を決める。人里には行きそうにない。冥界も違うだろう。というか、どこまで行っても眼下に咲く花たちがありそうで、それを辿って霊夢の元まで行くという事ができないのが、非常に面倒くさかった。
湖に差し掛かった頃だろうか。霧の向こうにほとばしる弾幕に気付き、そこへ向かうと、チルノとフランが光弾を撃ち合っていた。
弾幕ごっこが終わるのを待ち、こちらに気付いて飛んで来た二人に、霊夢を見なかったかを聞く。
「ふははー、十二勝目! ぜっこうちょー!!」
「うるさいな、私の方が二十回は多く勝ってる!」
へえ、フラン、珍しく結構負けてるな。……って、そんな情報はいらないよ。霊夢を見なかったかって聞いてるの。見てないんなら、もう行くよ?
「待ってよ靈夢、ちょっと血を吸わせてよー」
「見た見た。というか戦ったわ! 残念ながら負けちゃったけど、妖精の多さにうんざりしてたみたいだったから、ざまあみろって言ってやったわ!」
抱きつこうとしてくる……いや、馬鹿力で拘束しようとしてくるフランの顔を押しのけて、やたらテンションの高いチルノに、どっちに行った? と聞くと、あっち、と北を指差す。
短く礼を言い、すぐにその方角へ飛び出した。後ろからフランの声が聞こえてくるけど、さて、何を言ってるのやら。どうせ帰ったら血を吸わせろとか、そういう事でしょ。別に構わないけど。
……ところで、こっちって北だっけ。あれ、南? 西? やば、まったくわからん。
◆
わらわらと湧いてくる妖精は無視して、どこまでも続く花を眺め、自分が眠っていた場所の綺麗さを思い出していると、急に辺りが暗くなった。なんだなんだ、ルーミアの宵闇にでも捕らわれたか? でも、それだったらもうちょっと見えててもいいはずなんだけど。
不思議な現象に首を傾げつつ、何かにぶつかると危ないので、念のために速度を緩めようとすると、上機嫌な歌声が耳に届いた。
あー、鳥目か。
とりあえず歌の聞こえる方向に錐揉み回転しながらぶつかっていくと、確かな手応えと共に「きゃぴい!!」と悲鳴が上がった。ほぼ同時に、地面にぶつかる重々しい音。
目を
何やってるのと聞くと、
じゃあなぜ鳥目にしたのと聞けば、歌うのをやめたミスティアは、「最近お店に来てくれないお得意さんがお店に来てくれるようにしたの」としれっと言った。
「今度行ってあげるから、とりあえずこれ、治して」
「本当? 絶対よ! 夜明けまで歌ってあげるからね!?」
あー、うん。歌は聞いてやるから。だから早くこれを治してよ。なんも見えなくて困ってるんだけど。……え? 治せない? そうか、ぶっとべ。
罰として帽子取り上げの刑に処そうとしたら、待って待って、嘘だから! 治せるから! と必死に言ってくる。なんで嘘ついたし。
だって、治すためになら確実に屋台に来てくれるじゃない、だって。たしかにそうだろうけど、俺の機嫌の事は考えないんだね。
戻った視界に安堵して、それから、霊夢を見なかったかと聞いた。
「見た見た。というか、戦ったわ。残念ながら負けちゃったけどね。花を見ながらなら、歌を詠う方がいいじゃないかとか言ってたわ」
……霊夢、異変を解決する気はあるんだろうか。
一応、あるんだろうけど……話を聞いただけの印象じゃ、散歩してるのと変わらないような。まだ異変の原因を見つけてないのかな。
異変の原因といえば、八雲さんが全ての異変を俺が解決しろとか言ってたけど、この異変も解決するべきなんだろうか。
霊夢が頑張ってるみたいだから、任せたいんだけどなあ。というかそもそも、全部の異変を解決とか、八雲さんは俺に何をさせたいんだろう。……ああ、いや、異変を解決させたいというのはわかるんだけど。
……それに、なんだ。全ての異変を、って、まるでこれからたくさんの異変が起こる事を知っているような口振り。
……怪しい、のはいつもか。
……ひょっとして、八雲さんは……俺の事を知っているのだろうか。
今度会ったら聞いてみようと思いつつ、ミスティアに、霊夢がどこに向かったかを聞く。指差した先は……永遠亭か。
ちょっと、行きたくないな……。何せ、あそこで腕を切られたんだもの。
勘違いだったとか、お姫さまを守るためだったからとか、そういうのとは関係なくて、あそこに行くと肩が
肩を押さえながらミスティアに礼を言い、今度絶対に来てねー、と手を振られながら空に上がった。
まあ、なんにせよそっちに霊夢がいるなら、俺は行くんだけど。
◆
高く高く、花びらが舞い上がる。遠く、花に囲まれたどこかで、緑の髪の妖怪が笑っていた。