『霊異伝』   作:月日星夜(木端妖精)

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第三話 強襲! 魔法使い

「なんだ、えらく変わったな……お前」

 

 翌日の事。

 あまり眠れずに朝を迎え、霊夢が起きるのと同時に布団から引きずり出され、お風呂に叩き込まれて、その後は朝食を作らされ、さらには境内の掃除を言い渡された。

 眠い目を擦りつつ竹箒で石畳を掃いていると、箒に乗って魔理沙がやってきて、俺を見て一番にそう言った。

 手を止めて、俺の前にてとてとと歩み寄ってくる魔理沙を上から下まで眺め回す。

 服装や姿はあんまり変わってないけど、やっぱり雰囲気とか、力の感じとか、目とかが違う。

 ……力の感じ? 俺はいつの間に気を探れるようになったんだ?

 俺を見上げて心底不思議そうに首を傾げる魔理沙の力を、注意深く感じ取ってみる。

 んー、とこめかみに指を当てて集中すれば、なんとな~くそれっぽい感覚が掴めた。

 あ、これか。ぼやけているようで正確な。これが魔力ってやつか。

 ふと見れば、じーっと見つめてしかめっ面をしていたせいか、魔理沙が引いていた。

 俺をどう判断すればいいのかわからないらしく、複雑な表情で、箒の柄の先を小さく揺らして俺に向けたり戻したりしている。

 なんとなく箒で魔理沙の持つ箒の柄をこつんと叩いてみたら、物凄い勢いで後ずさった。

 それから、完全に怪しい者を見る目つきで隙無く俺を注視しつつ、腰の後ろに手を伸ばした。

 何をするのかと見てみれば、取り出したるはミニ八卦炉。やる気か、この俺と。

 ……不思議と恐怖も何も無いけど、微妙な焦りはある。

 困ったな、なんとかして誤解を解かないとー。

 サッサッと箒で地面を掃きつつ打開策を練る。手を動かしていた方が考え事がはかどるたちなのだ。

 うーん、なんて言ったら魔理沙は矛を収めてくれるだろうか。

 ただの雇われ巫女ですよー、とか? 敵じゃないよみたいな事を言えば納得してくれるだろうか。

 掃く手を止めて、改めて魔理沙に体を向ける。と、魔理沙が八卦炉をぐっとこちらに向けて、腰を落とした。

 いやいや……なんでそんなにぴりぴりしてるんだよ。俺何もしてないのに。ただ掃除してただけなのに~……。

 はあ、もう。これじゃあ何か言っても納得してくれそうにないな。

 でも何かを撃たせるのだけは阻止しないと。その位置からマスタースパークなんか撃たれたりしたら、俺は無事でも神社が無事ではすまない。

 神社に何かあったら霊夢に叩き出されちゃうでしょ。そしたら俺は生きていけない。

 断固阻止しなければ。

 ついっと空を見上げて台詞を考えること五秒。酷く緊張した気配が伝わってくるが、こちらは気楽にものを考える。

 ……が、何か思いつく前に魔力の高まりを感じて、顔を戻した。

 八卦炉に魔力を溜めている。当の魔理沙は、かなり切羽詰った表情だ。額には汗まで浮かべている。

 何が彼女をそこまで焦らせるのだろうか。

 このままじゃ本当に撃たれてしまいそうだ。……いや、本当に撃つ気か?

 後ろに神社があるのは魔理沙にだってわかっているはずだし、まさか、友達の家を無くそうだなんてしないはずだ。

 ……とりあえず撃つのか撃たないのか確認して、それから自分が何者か明かして気を静めてもらおう。

 

「……撃つ気?」

 

 口を開けたはいいものの、すぐには声が出ず、さらにはなんだか冷たいように聞こえる声になってしまった。

 魔力がさらに高まった。撃つ気満々だあね。

 魔理沙の魔力に呼応するかのように風が吹き、それとは関係なく魔理沙の髪が揺れていた。

 ほお、力を高めるとそんな感じになるんだ。

 昨日霊力を玉にして放ったりはしたけど、身に纏ったりはしなかったな。

 ……あ、霊力纏えば空飛べるんじゃね? 玄爺には悪いけど、飛べるかもと思うとちょっとわくわくしてきた。

 昨日の感覚と、今までの感覚を擦り合わせつつ体の中から力を押し出すと、簡単に霊力を纏うことができた。

 ぶわ、と俺を中心に風が広がり、魔理沙の帽子が取れそうになった。

 あ、何やってんだ俺。魔理沙をほっぽっておいて空を飛ぼうとするだなんて。

 それに、こう、目に見えて霊力を纏い、轟々と唸らせていると、ちょっとばかし視界も悪いし、何よりどんどん霊力が減っていくのがわかる。

 その量は少ないといえるけど、ずっとこの状態を保とうとしたらあんまり長くは持ちそうにないな。

 まあ、その代わり随分体が軽く感じるんだけどさ。

 お、この状態なら万が一魔理沙に撃たれても受け止められるかも。

 そう思って、いつでも受け止められるように足を開いたら、魔理沙がぎりっと歯軋りをした。

 なんでそんな険しい顔するんだろ。

 ああ、でもこうして対峙してると、魔理沙と修行してたのを思い出すなー。

 こんな変な雰囲気じゃなくて、もっとおちゃらけてたけど。

 

 箒は地面に置くかなー、でもなんか動いたらすぐ撃ってきそうだし、どうしようかなー、と考えていると、「え……」と魔理沙が呆けたような声を出した。

 何かと思って後ろを振り向こうとすると、腰に衝撃を受けて前によろけた。

 慌てて足を出し、何とか踏みとどまる。危うく魔理沙にぶつかる所だった。

 ミニ八卦炉を俺に向けたまま横に移動する魔理沙を追って振り返ると、そこには……お怒りの霊夢さんが。

 

「霊夢、何なんだこいつは」

「何してんのよ、あんたは」

 

 魔理沙の問いに答えず、怒気を孕んだ声で、霊夢は静かに言った。

 思わずしゅんと霊力を引っ込めて、そ、掃除です……と、声こそ出なかったが、何もしてないと主張するために両手で持った箒を前に出して見せた。

 ……控えめに。

 だって、霊夢怖いんだもん。

 お手上げ、降参と箒を緩く振っていると、霊夢はふっと息を吐いて、怒気を引っ込めた。

 

「それで、何しにきたの? 魔理沙」

「え? あ、いや……久しぶりにここで飯でも食おうかと思って。そしたら、なんか変な奴がいたからさ……」

「久しぶりって、あんたおとついもきたじゃない。……まあいいけど」

 

 何がいい? と聞く霊夢に、いや、まずこいつの説明をだな、と八卦炉で俺を指し示す魔理沙。

 

「その人? ちょっとわけあって神社に住ませてるの。気にしないでやって」

 

 あくびをしながら、霊夢。

 そんなてきとうな説明で魔理沙が納得するかといえば、もちろんしないみたいで、でもやけにお前に似てるじゃないか、と霊夢に詰め寄った。

 まさか、お前のお袋さん……なわけ、ないよな。全然違うもんな。

 ちら、と俺を見て、魔理沙がそんな事を言う。

 

「そんなわけないでしょ」

 

 お母さんは、随分前に死んであの世に行っちゃったわよ。

 それに対して、霊夢はそう返した。

 申し訳無さそうにする魔理沙に、「行きましょ。あ、あなたはちゃんと掃除しててね」と霊夢は言って、二人して神社へと行ってしまった。

 うむむ……霊夢の方は家の中の掃除は終わったのかな。そういう話だったはずだけど。

 それにしても、お母さん、か。

 全然記憶に無いな。俺の方の親の顔ならはっきり思い出せるけど。

 ……そういや全然親孝行できなかったな。母さんも父さんも、「お前が生きていてくれるだけでいいから」とは言ってくれていたものの。

 俺はこっちきちゃったし……。

 というか、精神だけがこの体に入ったとしたら、俺の体はどうなってるんだろうか。

 気になる……が、確かめるすべは無い。

 まあ、好き勝手して生きる傍ら、元の体に戻る道も模索してみようかな。

 この体にはなんの不満も無いけど……この体の元々の持ち主はそう思ってるかどうかわからないし。

 俺なら自分の体を乗っ取られたら文句言うなあ。靈夢もそう思ってるのかな。

 なんにしても、この体のまま幻想郷の外に出るわけには行かないし……あれ? 俺、今何考えてたっけ?

 

 思考がこんがらがって、よくわからなくなる。

 うーん、うーん。

 ……ま、いっか。さて、掃除掃除。

 考えても仕方ないので、言われた通りに掃除をすることにした。

 しかし、おんなじ場所ばっかり掃除しても仕方ないし、そろそろ移動しよっと。

 

 

 ふわあ、とあくびをする。

 うーん、眠い。基本的に、生活習慣はあんまり整ってなかったからなあ。

 霊夢のように朝は日が昇ったら起きて夜は暗くなったらその内寝る、みたいな生活は、ちょっちきつい。

 靈夢としての生活習慣が無かったらきっと今朝は起きれずに霊夢に蹴られていただろう。

 これからはしっかりリズムを整えないとなー。

 それにしても、眠い。

 

 時間はお昼近く。

 おてんとさまも高い所まで昇り、ぽかぽかと陽気を放っている。

 そりゃあ、眠くもなるもんさ。

 さっさらさー、と神社の裏手を箒で掃く。うんうん、だいぶん綺麗になってきたんじゃないの?

 こんだけやったんだから、少し休憩してもいいよね。

 いいよね、いいよねー、とリズムをつけて口ずさみつつ、神社の脇の池まで歩いていく。

 水面をつんつくと箒の柄でつっついてみれば、少しして、ざばりと音を立てて玄爺が姿を現した。

 

「何か御用ですか」

 

 のそのそと陸に上がる玄爺に歩み寄り、甲羅を撫でる。

 今池から上がったというのに、これっぽちも濡れていない。不思議なもんだ。

 甲羅の上によじ登って、べたー、と引っ付く。

 それから、なんのごようですかー、と聞いてくる亀に「昼寝」と短く答え、目をつぶった。

 溜息を吐く気配が伝わってくる。が、特に意見も無いらしく、そのままじっとしていてくれた。

 数分もする内に背中が暖まってきて、さらには甲羅もいい感じに。

 ぽとりと箒を落とし、そのまま眠った。

 

 

 目覚めると、なぜか俺は神社の中にいた。

 霊夢の部屋。布団はしかれておらず、直接畳の上に寝かされていた。

 部屋の外に出てみれば、外はもう暗くなり始めており、夕食でも作っているのか、台所の方からは霊夢の鼻歌が聞こえてきていた。

 ぐーっと伸びをすると、ぐーっとお腹が鳴る。

 そういえばお昼を食べてない。

 今日のご飯はなんでしょー、と居間に顔を出せば、卓袱台にはすでに魔理沙がついていた。

 俺に気付くと、「あ……」と声を漏らし、軽く会釈してくる。

 何その反応。

 とりあえず会釈を返し、魔理沙の反対側に座ろうとして、ふと魔理沙の金髪が目に付いた。

 座りかけの体勢で、そいや、綺麗な髪だけど、染めたのかしらなんて考えてみたりして、それから、細く息を吐いて、ずっと昔から魔理沙に言ってみたかったことを言ってみる事にした。

 

「……サイヤ人」

「え?」

 

 例の如くすぐには声が出ず、変なところで言葉が途切れてしまった。

 しょうがないじゃん、寝起きなんだし。

 で、言ってみたい事。結構前に某動画共有サイトだったかでみた東方もので、金髪のキャラクターを見るたびに「サイヤ人だな?」と問いかけるネタがあったのだが、それを見て以来、どうしても俺も言ってみたかったのだ。

 もちろん幻想郷にいけるはずが無いので、金髪のキャラクターどころか幻想郷の地を踏むことすらできず、代わりに金髪の外人さんなんかを見かけたときなんかに密かに心の中で呟いていたりした。

 何の因果か、幻想郷に入ることができたので、言ってみたというわけだ。

 ……幻想郷に入ったらやりたい事がこれなんて、間違ってるよなー……俺。

 まあでも、俺は俺のやりたいようにやると決めたのだ。何をしたって勝手だろう。

 ……それでどう思われるかは別だけど。

 やばい、変人だと思われるじゃないか、唐突にサイヤ人だなんて。

 正座して、ちらっと魔理沙を伺うと、何だか神妙な顔つきで考え事をしていた。

 あれか。『こいつと関わらないようにしよう』とか考えてるのかな。

 だとしたらちょっと悲しい。

 正直、綺麗な子とはお近付きになっておきたいし……。

 魔理沙ってば、小さくて可愛いんだもの。人形みたいで。

 それでいて、どこか日本人の部分がしっかり残っていて……って、何考えてんだ俺は。

 好き勝手にも限度があるな。うん。しっかり自分を律して、度を過ぎた行動をしないようにしなければ。

 ゲームやなんかじゃないんだし、一度信用を失えば取り戻すのは難しい。

 特に今は、霊夢の信用を損なえば死に繋がるし。

 

 …………まあ、サイヤ人だなって台詞はあと何回か言ってみたいけど。

 あと、せっかく霊力とかで演出ができるようになったんだから、ハイパーインフレごっこしたい。

 子供っぽいとかいってくれるな。長年の夢だったんだ。

 弾幕ごっこにも挑戦してみたいし、萃夢想式や緋想天式も……あるかわからないし、滅茶苦茶痛そうだけど、やってみたくはある。

 ああもう、考えるだけでわくわくするな。童心に返っている気分だ。

 リボンの位置を直し、袴をつまんで気持ちの高ぶりを抑える。

 超常的な事ができるようになったからといって、奇行が許されるわけじゃない。

 落ち着けー、落ち着け俺ー。

 落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせてると、台所から魔理沙を呼ぶ声が。

 料理を並べてくれって事らしい。俺は何もしなくていいんだろうか。

 ……言われないんなら、いいのかな。

 

 台所で二人が話す声が聞こえてくる。

 くぐもっていて、よく聞こえないが、なんだか重そうな話だ。

 聞いちゃいけないんだろーなー。でも、何か困ってるのなら力になりたいもんだ。

 ただ飯食らいは気が引けるし。

 

 

 

 夕食もおいしかったです。

 こんなご飯が毎日食べられるのなら幸せだろうな。

 今日は、魔理沙が泊まっていくらしい。

 しかし、布団が一組しかないはずなので、俺は空気を読んで玄爺の所に行くことにした。

 空なら安全に眠れるだろうと考えてのことで、玄爺も問題は無いと言ってくれた。

 が、夜の空はとんでもなく寒かった……。

 お風呂に入った直後に外に出たために、余計に冷える。

 こりゃあ、明日の朝日が拝めるかわからないな……。

 ぼそぼそと玄爺と話している間に、いつのまにか眠りに落ちた。

 

 

 ちなみに翌朝目覚めると、また神社内に戻ってました。

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