有名なSSの噛ませゲス提督に転生してしまった俺~寡黙な提督は今日も内心をひた隠す~ 作:霧夢龍人
更新再開致します!
コツコツと廊下を歩く音が、二階に響く。
私が歩くそのすぐ後ろを提督が付いてきます。
「すまない、私の部屋・・・執務室はどこだ?」
あぁ、やはりですか。
執務室に行かないように時間稼ぎをしていたつもりですが・・・無意味だったようです。
「あ、え、はい・・・。執務室・・・ですよね、すぐ・・・ご案内致します・・・」
執務室───前任の提督が、よく私達に暴力を振るっていた場所。
その部屋を通るだけで、提督に殴られ、蹴られ、罵倒されたトラウマを思い出してしまいます。
ですが、時間稼ぎをしていたのはそれだけが理由ではありません。
───執務室は、この鎮守府にいる多くの艦娘達が恐れている場所。
精神的にも肉体的にも幼い駆逐艦の子達が、その恐れを抑えきれない筈がなく・・・これがバレたら、どんな提督でも即刻解体を命じるでしょう。
何せ自分達に危害を振るう可能性があるんですから。
解体は免れない。
───駆逐艦の子達はまだ未来があります。
こんな地獄から解体されて解放されるか、解体されずに延々と深海棲艦や、棲姫達と戦うのか・・・どちらが幸せで、どちらが不幸なのかわかりません。
しかしそれでも、私にはあの娘達を死なせるわけにはいかないんです。
解体されそうになれば、「私がやった」と告げましょう。
私が解体されても別にいいんです。
どうせこの傷では、海に出ても沈むだけですしね。
死ぬのが早まっただけです。
「執務室がどうなっていても私は気にしない。だが、なぁなぁで案内されないのは困る」
私が覚悟を決めた瞬間、新任の提督がそう告げました。
思わず、取り繕っていた笑みが消えました。
「ッ!?・・・はい・・・。申し訳ありません・・・」
あり得ない。そんなことはあり得ないはずです。
・・・いや、この提督。気にしないといいつつ、執務室をあんなにボロボロにした艦娘の処遇については、全く触れていませんね。
危ないところでした。
一瞬、本当に?と思いかけましたが、やはり絆されたり、信用してはいけませんね。
「こ、こちらです・・・」
提督を連れ、忌々しいトラウマが残る執務室に入る。
散乱し焼き焦げた書類や、割れた窓を見るに、相当暴れたようですね。
まぁこちらの方が、昔見ていた執務室を思い出さずに済むので、幾分か楽ですが。
「掃除と・・・修理をする必要があるな・・・」
流石にこの惨状に驚いたのか、目を見開き、帽子を深く被り直して、私にそう言ってきました。
「・・・はい・・・」
確かに、ここは提督が艦娘に暴力を振るう時以外、居座ること自体が珍しい部屋です。
長年の汚れがあちらこちらで存在をしゅちょうしています。
掃除をする必要が───って、え?
掃除?
執務室を?
誰が?
もしかして提督が?
その言葉に理解が追い付かず、少しフリーズしてしまいました。
と、そうこうしている内に────
「少し・・・執務室の扉前で待機してもらってもいいか?」
提督からそう言われ、動揺を隠しきれずに足早に執務室を飛び出してしまいました。
お、落ち着くんです私。
提督は、掃除をするとは言っているものの、誰が掃除するとは言っていません。
もしかしたら、過去にトラウマのある執務室を無理矢理私達に掃除させるつもりかも知れません。
そう、それに修理だって。
いくら執務室がボロボロだからと言って、私達の鎮守府には、修理するお金も残されていません。
前任の提督が行っていたように、他の艦娘達を解体し、そのお金を使うなどしなければら到底払える金額ではないでしょう。
わ、私の解体された金額で足りるでしょうか?
足りないからといって、他の艦娘達を解体するような真似はして欲しくないんですが・・・。
「・・・すまない、もう入ってきてもいいぞ」
───暫くして、提督の声が聞こえたので、恐る恐る執務室へと足を踏み入れます。
執務室には、ボロボロの椅子に座っている提督が。
何かを探していたのでしょう。
先ほど見たとき開いてなかった引き出しが、ちらほら開いているのを見かけます。
そして、私を呼んだのはそれが見つかったから───。
私にこの提督は何をするつもりなのでしょう?
もしかして解体ではなく、前任の提督のように暴力を振るうつもり・・・?
い、いえ、暴力を振るえるような場面はいくらかあったはず。
それなのに、何故か振るわなかったあたり、別の理由があるのでしょう。
いずれにせよ、警戒が必要ですね。
「大淀」
「は、はいっ!」
来た。
今まで提督は何をしたいか分かりませんでした。
しかし、恐らくこれで提督は何をしたいか分かるはず。
一言一句聞き漏らさないように、耳を傾けます。
「変えたいか?」
「・・・へ?は、はい!」
し、失敗しました!
もっとこう、お前には解体を命じる!とか、罵声を浴びせられるとか思ってたのに、出てきた言葉は、真意が掴めない「変えたいか?」の一言だけ。
理解しようと努めているのに、ますます分からなくなってきました。
「焦らなくてもいい・・・君達は・・・ここの鎮守府を変えたいか?」
変えたいか?
変えたいに決まってるじゃないですか!
今まで・・・今まで私達がどんな扱いを受けたと思って・・・変えられたら変えてますよ!
今、今ようやく理解しました。
この人、絶対可哀想な私達を救いたい!とか思っている偽善者です。そうに違いありません。
「・・・」
ですが、こんな事を口に出せば、下手すれば連帯責任で沈むことを命じられるか・・・もしくは解体か。
ですが、思いっきり言ってやりたいです。
貴方に何が出来るの?と。
「正直に言って貰っても構わない・・・そうだな、少なくとも私は変えたいと思っている」
ええ、そうでしょうね。
こんなボロボロな環境では深海棲艦達がいつ攻めてくるか分かりませんから。
「変えていくためにはキッカケが必要だ。どんな些細なことでもいい。それで変えたいと思えるなら構わない」
キッカケ?
何を今さら。
貴方達提督が・・・貴方達人間がよくもそんな偉そうに・・・。
今更変えても意味が無いんです。
沈んだ・・・解体された娘達は戻らないんですから。
「・・・だから、“私”と一緒にこの鎮守府を変えてくれないか?」
ですから、今変えても意味なんて───そう思って、提督の顔を見ると・・・まるで、必死に泣くのを抑えているような・・・感情を抑えているかのような顔に目を見張りました。
───そうでしたね。
安心できる───信頼出来る人かどうか見極めるって思っていたのに。
今、この
悪感情になれている私だからこそ分かります。
あぁ、それなのに、この人を信頼出来ないと切り捨ててしまえば・・・次こそどうなるか分かりません。
この人に賭けるしかないんです。
艦娘達の・・・トラウマを忘れさせてくれる人は、この人しか居ないんです。
「・・・私で・・・私なんかで、良ければ・・・」
他の娘達の幸せにするためには、この人の力がないと実現出来ないんです。
何せ私達は艦娘だから。
提督の命令が絶対だから。
「今は・・・君の力が必要だ、大淀。だから、私なんか、ではない。胸を張っていいんだ」
───ッ!?
・・・やはり、この人しかありません。
艦娘達を変えるキッカケは貴方なんです。
確かに、私の力も必要かもしれない。
ですが、本当に必要なのは貴方の力です。
───もしこれで、この人が私達を不幸にするような人なら・・・私もろとも沈めばいいだけです。
ですが、流石に私の目もここまで耄碌していません。
「これから宜しく頼む、大淀」
ですから私はこの人に託します。
信じます。
命令だって聞きましょう。
それであの娘達が救われるなら。
沈んだ娘達が報われるなら。
「・・・ふふっ。えぇ、宜しくお願いしますね、司令官」
そんな気持ちを込めて、私は提督の握手に応じました。
今までの提督とは違う、そう信じて呼び方まで変えて。
ですから見守っていて下さい。
私達を助けて沈んでいった艦娘達。
私達を庇って解体された艦娘達。
私が・・・いえ、私達がこの鎮守府を変えて見せます。
全ては、私以外の艦娘達の為に。