一巻読んでる最中に突然鼻血が落ちてダメになった。orz
その腹いせに書いた。
「いたたたたたたっ!? 痛いってば要ちゃん!!」
「うふふふふ。こっちで適任の人に頼んでおくから大人しくしててねって言った直後にコレ? もうちょっと自分を大事にしてくれないかなぁ?」
人斬り抜刀斎に付けられ、今手当したばかりである薫の左腕を思いっきり掴む要。
既に手当てした比留間は帰り、ここには要と薫が居り、それを見ていた赤い髪の流浪人が困った顔で止めに入る。
「まぁまぁ。要殿もその辺で。それ以上掴んだら手当てした傷が悪化するでござるよ」
言われてまだ仕置き足りないような顔をしたが、すぐに手を離した。
すると流浪人に頭を下げる。
「うちの師範代を助けてくれてありがとうございます。もしも流浪人さんが逃げてくれなかったら取り返しのつかない事になってました。お礼に、夕飯くらいはご馳走させて下さい」
「ちょっと要ちゃん!?」
「いや、拙者はただ逃げただけでござるから」
「そうしてくれなかったら、薫ちゃんのことです。勝てないと判っても立ち向かって行ったでしょうし。せめてそれくらいのお礼はさせてください」
「う……」
遠慮する流浪人に要がお礼を、と言う。
「それじゃあ、夕飯を作るから、台所借りるね」
「あ、それなら私が!」
「薫ちゃんの料理をお客様に出せるわけないでしょう? おにぎりしか作れないんだから」
「う」
自分が料理を不得意な自覚があるため言葉が詰まる。
さっさと要が台所に消えると流浪人が苦笑する。
「何だか要殿は薫殿の姉か母親のようでござるな」
「子供の頃はこっちが話しかけないとずっとボーッとしてる子だったけどね」
子供の頃の要は大人しいを通り越して殆ど反応に乏しい子供だった。
この道場に通うようになり、少しずつ今の性格になっていった。
「人斬り抜刀斎の件で皆が辞めたり、他の道場に移っても、要ちゃんだけは残ってくれたのよ。店の手伝いから逃げる丁度良い口実になる、なんて誤魔化すけど」
要の実家は外来品を主に扱う雑貨屋だ。
その娘が騒ぎの中心である道場に通い続けるなど外聞にも悪いだろうに。
だからこそ早く濡れ衣を晴らしたいのだ。
「きっと、要殿にとってはこの道場や薫殿の事がとても大事なのでござろう」
そんな話をしていると夕飯が出来たと要に呼ばれて居間で食事を始める。
そこで薫が気になっていたこと訊く。
「そういえば要ちゃん。人斬り抜刀斎の件を誰かに頼むって言ってたけど。どういう人なの? 私、そんな知り合いが居るなんて知らなかったんだけど」
「……喧嘩屋なんていう儲からないし、怪我して危ない上に将来性のない事を仕事にしてる駄目人間よ。家で力仕事が必要だったり、遠出する際に手伝って貰ってるの。ほら、私のお父さん、数年前に腰やっちゃったし。まぁ、プー太郎一歩手前の人よ」
「おろ」
散々な評価に流浪人と薫が顔を見合わせる。
「それでも強い人だからね。巷を騒がせてる人斬り抜刀斎も、すぐに倒して警察に突き出してくれるでしょ。だから薫ちゃん。もう危ない事はしちゃダメよ」
「……なんだかすごく信頼してるように見えるんだけど」
「そう? 野蛮な事は野蛮な人に任せれば良いってことよ」
自分より強さに対して信頼してるようすに薫が面白くなさそうな顔をするが、要はあしらうだけ。
それから流浪人も交えて雑談しながら食事を摂る。
いつもは独りか要と二人で食べる食事。
それに一人加わっただけの夕食はいつもより少しだけ騒がしく、美味しかった。
「煙草とマッチを」
「いつものですよね、藤田さん」
「えぇ」
常連の警官が煙草とマッチを注文すると要は三箱取って渡し、代金を受け取る。
「毎度です。ここ最近は危ないですから、藤田さんも気を付けてくださいね」
「はは。例の辻斬りですか。あんなのはすぐに警官隊が取り押さえますよ」
「そう願います」
警官はそんな会話をして店から出ると、奥から要の父が出てくる。
「これからまた道場か?」
「ううん。薫ちゃんが怪我しちゃったから今日はお休み。あ、でも後で様子だけは見に行くから。ちょっと気になることもあるし」
要の父と薫の父は元々酒飲み仲間で、要が神谷活心流の道場に通っているのもその縁だ。
だからこそ要の父も、薫の事を気に掛けていた。
「神谷の娘に伝えろ。もしも本当に危なくなったら、道場を手放してうちに来い。嫁に行くまでは世話してやるってな。俺も、親友の娘が不幸になるとこなんざ見たくねぇからな」
「うん。でもたぶん頷かないよ。頑固だから」
そんな事は知っていると品簿の確認をする。
要は晴天の空を見上げて呟いた。
「早く捕まってくれないかぁ……人斬り抜刀斎」
「たのもー。たのもー」
流浪人は鬼兵館という道場を訪ねていた。
薫が例の辻斬りはこの道場が怪しいと聞いて訪れたのだ。
しかし、一向に中から人が出る様子はなく、戸に手をかけようとすると────。
「おわぁっ!?」
戸の横の壁に人が飛んできて破壊される。
ゴロンと転がって気絶した男を見て流浪人は戸を開けた。
すると道場内の破落戸や士族崩れと思われる者達が倒されており、その中心には逆立った髪に赤いハチマキを額に巻いた男。
彼は流浪人に気付くとボキボキと拳を鳴らした。
「なんだまだ居たのか。それとも、テメエが比留間って奴か? 噂じゃ、大男だって聞いたんだがな」
「いや拙者は────」
「ま、とにかくこいつらの仲間なら、この喧嘩に付き合ってもらうぜ!!」
流浪人により少しだけ早く来ていた相楽左之助は拳を振り上げた。