床は木製、壁はコンクリートで固められた素朴な部屋。その一室に九日ヨッカとその弟分、鉄華オーカミはいた。
「へぇ、ここが今のオマエの拠点か。案外いいとこ住んでんじゃねぇか」
「姉ちゃんが仕事頑張ってるからね」
「そう言うオマエも、ウチでしっかり働いてるだろ?…大したもんだよオマエは」
ここは鉄華オーカミの家。その一室、バイト先のカードショップ「アポローン」が本日定休日と言う事もあり、オーカは店長且つ兄貴分である九日ヨッカを自宅に招いていた。
その家は3LDのそれなりに良いマンションである。オーカは4つ上の姉とここで暮らしているのだが、様子を見る限りではその姉は外出しているようだ。
「それはそうと、この間渡した鉄華団のモビルスピリットカードは上手くデッキに組み込めたか?」
「あぁグシオンリベイク。うん、まぁぼちぼち」
「ぼちぼちって……オマエなぁ」
ヨッカがオーカに聞いたのは現状彼しか手にしていない珍しいデッキ、鉄華団のバルバトスに次ぐ新たなるモビルスピリットカード「グシオンリベイク」………
間違いなくバルバトスと並んでデッキの双璧となるであろうスピリットカード。それを加えるため、オーカは一晩中初心者でありながらデッキレシピを独自で考え、ようやく新しいデッキが完成した。
「よし。じゃあ早速今年の界放リーグに向けてオレと特訓………と言いたいところだが、今日は折角のオフだ。息抜き用に、オレがオマエにあるプレゼントを用意した」
「プレゼント?………美味しい奴?」
「そんな生半可なモンじゃねぇぞ」
ここ界放市で行われる界放リーグと言うお祭り騒ぎの大会。その中の夏に行われる中学生以下、即ちジュニアクラスに出場予定の鉄華オーカミ。当然最近はバイトに通いながらそれに向けて特訓の日々が続いていた。
しかし、オフの日まで根を詰めては身が持たないと考え、ヨッカが気を利かせてある物を買って来ていた。それを背中のリュックから取り出して………
「さぁ見ろオーカ!!…近頃品薄で手に入らない最新ゲーム機『全天堂シュワッチ』とそのゲームカセット『ムエ太郎カート31』だ!!」
それはゲーム機とそれを使ってプレイできるゲームカセットだった。
『全天堂シュワッチ』とはテレビでできる高性能、高燃費、高画質三拍子揃った優れ物の最新ゲーム機であり、
『ムエ太郎カート31』は『ムエ』と言うオレンジ色の犬みたいな愛らしい小動物が他の変な生き物達と一緒にカーレースを行うと言う内容の大人気シリーズ『ムエ太郎カート』の最新作。
巷でこのセットは大変流行を極めており、その総額は計り知れない。きっとヨッカの財布にも相当なダメージが蓄積された事であろう…………
それでも彼は日頃頑張っている弟分のためにと思い、大奮発したのだ。
しかし、受け取る側である当の本人は…………
「………何それ、パソコン?」
「え……何って巷で話題のゲーム機だよ!!…オマエだって聞いた事くらいあるだろ?」
「あー…そんなに有名だったら聞いた事はあるんだろうけど、オレ興味なかったらすぐ忘れるしな」
全くもってその存在を知らなかった。一度くらいその名を耳にしたことはあるのだろうが、いかんせん興味がない事にはさっぱり忘れるタチであるため、いざそのゲーム機を見せつけられてもわからずにキョトンとしていた。
「……オマエゲームとかやった事ないな?」
「うん。お金の無駄だし」
「そこざっくり言っちゃう?」
仮にもプレゼントで渡そうとしたゲーム機をヨッカの気も知らず、素っ気ない感じであっさり無駄だと口にするオーカ。余程ゲーム機には興味がなかったのだと理解できる。
「モノは試せ。食わず嫌いはオマエの悪い所だ、テレビ借りるぞ」
兎にも角にも、溜まりつつあるであろう日頃のストレスを発散させるにはゲームの力に頼るしかない。
ぶっちゃけオーカにストレスなど微塵もないが、お節介故にそう考えているヨッカはオーカに勝って来たゲームをやらせようと部屋のテレビの方へと向かうが…………
「あ、気をつけてアニキ………そこ、偶に爆発するから」
「………え?」
オーカの突拍子もない忠告。現実離れもしているその忠告を聞くなり、ヨッカは「どう言う事!?」と聞く前に………
部屋の壁が爆発した。そこに無闇に近づいてしまっていたヨッカはテレビとゲーム機ごとその爆発に巻き込まれしまう。何を思っているのか、オーカはその爆発によって巻き上がった爆煙を冷たい無表情で見つめていた………
いや、正確にはその爆煙の中を歩いてくる1人の人物にその顔を向けていた………
「またアンタか、いい加減にしろよ………」
「おはよう少年!…今日は親戚からヤモリを貰ったらから一緒に食しようじゃないか!!」
「いらないし。つーか普通に玄関から来いよ」
後髪を一本に纏めたポニーテールにぐるぐる目。オマケに白衣。明らかに科学者ですよと言った見た目の若い女性。親戚からヤモリを貰って食しようとするだけでなく、玄関から入らずに人の家の壁を爆破するあたりが普通の人間とは常軌を逸している。
「少年は塩焼き派?…それとも醤油焼き派?……それとも意外と茹でる派?」
「だからいらないって。どんだけヤモリ推すんだよ」
ヤモリを推し続ける科学者的な女性に流石のオーカも顔が引き攣る。いつも冷静で表情が全く変わらない彼であるが、どうやら彼女には苦手意識がある様子。
そんな折、爆発に巻き込まれたヨッカは頭がアフロヘアになりながらも復活して………
「オイィィィイ!!!……何なんだオマエは!!!……隣人だからって普通人の家の壁爆発する!?」
「おっ…少年誰?…この良い顔面の青年は?」
「良い顔面の青年って何!?……普通にイケメンって言えよ!!」
怒りに満ちた様子で女性に詰め寄るヨッカ。彼女が繰り出す訳のわからない言語にまたはらわたを煮えくり返す。
「九日ヨッカ。オレのアニキ分だよ」
「お〜〜貴方が九日氏!…名前は存じ上げてた気がしますよ!!」
「気がするだけかい!」
オーカからヨッカを紹介される。そしてどこまでもマイペースな女性もまた己の名を名乗っていき………
「申し遅れました!!…アタシの名前は天下メメ!!…誰が呼んだかスーパー美少女マッドサイエンチストとはこのアタシの事です!!」
イタイ自己紹介に冷たい風が通り過ぎた気がした。そうこの女性こそオーカの家の隣人にして謎の科学者、天下メメ。
今回のようにしょっちゅう家の壁を壊してはオーカの前に出現するのだ。
「……どうでもいいけど、取り敢えず壊れたゲーム機を弁償してくれ」
「ゲーム機?」
「おう。全天堂シュワッチとムエ太郎カート31。さっきの爆発で木っ端微塵になっちまったんだよ」
先程の爆発で壊れたゲーム機。ヨッカはその弁償を彼女に求める。オーカはこの時「そんなモンより壁を直してくれないかなー」と思ったが、野暮であるとも考えたので敢えて黙った。
「成る程成る程〜…それで九日氏はそんなにムキになっていたのですね」
「いや、それだけじゃないけど」
頷くメメにツッコミを入れるヨッカ。もう正直相手にするのが疲れて来たからさっさと終わってくれないかと思っている。
「それだったらアタシが修理しますよ。こう見えてその手のブツも精通してるんでね」
メメはそう告げながら爆破により空いた穴から自分の部屋を見せつける。鉄屑やシリンダー、その他諸々のガラクタだらけの部屋はとてもではないが年頃の女性の部屋だとは思えない。
「おう、それなら話が早い。さっさと直してくれ………」
「いや。その前に条件があります」
「あ?…条件?」
無料では修理をしないと言い出すメメ。自分から勝手に爆発しておいて図々しいとは思うヨッカだが、一応その条件を聞く姿勢を見せる。
「そう。その条件とは………このアタシにバトルスピリッツで勝つ事!!」
「………なんでバトスピする必要があんだよ。オマエが100悪いじゃねぇか」
「まぁ本当はアタシも無料で直してあげたい所だけど、そろそろバトスピしないとダメって言うご通知がさっき作者から届いたんだよね」
「それは口にしたらダメなヤツだろ!!!」
そう。そろそろバトスピをやらないといけないのである。
だってこれはバトスピ小説なのだから!!
「と、言うわけでアタシとバトスピやるぞ九日氏。久し振りに科学者たる力を見せつけてあげようじゃないか」
「いや、アンタの実力は知らんけども………まぁでも、そうだな……オーカ、オマエがやれ」
「!」
話に興味が無さ過ぎて欠伸をしていたオーカ。ヨッカに突然呼ばれてようやく意識をそちらへと向ける。
「この間散々つけてやった修行の成果。今ここで見せてくれ」
「あぁ、バトルね。はいはい、わかったよ」
頼み事がアニキであれば大体は言う事を聞くオーカ。今回もあっさりと承諾する。
「アレ……少年バトスピやってたんだ。てっきり興味がないもんだと」
「うん。最近始めた」
「……そっか……ふふ。よし、それじゃあこのマンションの屋上でレッツバトスピと行きますかね〜」
「うん」
メメはオーカがバトスピを始めた事を今ここで初めて知った様子。どこか趣のある笑顔を浮かべる。
その後、3人はバトスピをやるため見るためにこのマンションの屋上へと足を運んだ………
******
「うーーーん!!!…久し振りのナチュラルエアーは美味しいですな〜」
場所は8階建マンションの屋上。界放市ジークフリード区の一部を眺められる程に絶景が見えるこの場所にて、オーカとメメのバトルスピリッツが幕を開けようとしていた。
因みにメメの言う「ナチュラルエアー」とは自然な外の空気と言う事だ。この言葉から研究詰めで外出は殆どしていなかった様子。
「よし、やろうか爆弾の人」
「いやアタシの覚え方!!」
「頑張れよオーカ!!…何たってこのバトルは全天堂シュワッチとムエ太郎カート31が掛かってるんだからな!」
「まぁそれは正直どうでもいいかな」
ある程度会話を交えた所で、オーカとメメは己のBパッドを取り出し、展開して腕にセット。デッキも置いてバトルの準備を整える…………
「よし。では少年にしかと見せてしんぜよう。このスーパー美少女サイエンティスト天下メメのバトルを!!」
「行くぞバルバトス……バトル開始だ……!」
………ゲートオープン、界放!!
ヨッカが見守る中、マンションの屋上にて鉄華オーカミとその隣人の通称爆弾の人メメ。2人のバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける………
先攻はメメだ。テンションが高いのか、何故かドヤ顔を華麗に決めながら己のターンを進めていく………
[ターン01]メメ
「メインステップ!!……そいじゃ行きますか、アタシの可愛い可愛いデジタルスピリット、幼年期のクラモンちゃん、いらっしゃ〜い!!」
「!」
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
メメが召喚したのは余りにも小さなスピリット。一つ目のクラゲのようなデジタルスピリットで、確かに可愛いと呼ばれるだけの愛嬌はある。
因みに幼年期とはデジタルスピリットにおいて成長期よりも前の形態。このクラモンそのもののパワーは見た目通り低いと考えられる。
「ちっさ」
「むっふっふ……少年、バトルはスピリットの大きさで測れるものじゃないぞ!!…このスーパー天才美少女科学者であるアタシが導き出した最強のスピリットに死角はないのだ!!……ターンエンド!」
手札:4
【クラモン】LV1
バースト:【無】
自身に満ち溢れた笑顔を浮かべながらそのターンをエンドとするメメ。オーカのターンが幕を開けて行く。
[ターン02]オーカ
「メインステップ……行くよ、鉄華団モビルワーカー…!」
ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3S)BP3000
オーカが呼び出したのは銃火器を備えた車両型のスピリット、鉄華団モビルワーカー。いつものように1コストと言う軽いコストでのご登場だ。
「アタックステップ……鉄華団モビルワーカーでアタック」
一切の迷いなく淡々とアタックを宣言。鉄華団モビルワーカーがメメのライフを狙い走り出した。
「その程度、このクラモンが受け止めてしまおう!!」
「だけどBPはこっちの方が上だ」
そのライフバリアを守らんと小さなクラモンが鉄華団モビルワーカーの前に立ちはだかるが、あっさりと轢かれて爆散してしまう。
序盤のアタックは無理なブロックをせずにライフで受けるのが一般的な定石。一見無駄なブロックに見えるが、このクラモンはここからが真骨頂、対戦相手であるオーカにとって一番厄介な効果を発揮させて………
「クラモンの破壊消滅時、デッキを1枚オープンして、それが同名のカード、つまり同じクラモンなら召喚できる」
「!?」
「聞くより見ろだ!…効果でオープン!!……よし、クラモンなのでこれを召喚!」
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
「ッ……復活した?」
メメの場にデジタルの粒子が集まると、それは先程破壊された幼年期のデジタルスピリット、クラモンとなる。
「これがクラモンの能力、破壊されようが消滅されようがデッキの上がクラモンだったら何度でも蘇る事ができるのさ!」
「………偶々同じカードが捲れただけだろ、ターンエンドだ」
手札:4
場:【鉄華団モビルワーカー】LV2
バースト:【無】
メメがクラモンの効果を説明、それを理解すると今のは単なるまぐれで、次は失敗すると考えながらそのターンをエンドとするオーカ。
だが、彼はまだクラモンの本当に恐ろしい効果を知らない………
[ターン03]メメ
「メインステップ!……それでは本日3体目となるクラモンを召喚しようじゃないか」
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
「3体目……」
今回のバトルで3体目となるクラモンが姿を見せる。バトルスピリッツにおけるルールとして、同名のスピリットは3枚まで、これでクラモンの復活効果は必ず成功しないはずだとオーカは考える。
「アタックステップ!……召喚したてのクラモンでアタック!」
「ライフだ……!」
〈ライフ5➡︎4〉オーカ
クラモンの体当たりがオーカのライフバリアを砕き割る。
「ターンエンド」
手札:4
場:【クラモン】LV1
【クラモン】LV1
バースト:【無】
1体のクラモンをブロッカーとして残しそのターンを終了するメメ。オーカにターンが巡って来る。
そしてこのターンから勝負がより大きく動き出す事になる………
[ターン04]オーカ
「メインステップ……大地を揺らせ、未来へ導け……ガンダム・バルバトス・第4形態……LV1で召喚!」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1)BP5000
「不足コストは鉄華団モビルワーカーのLVを1に下げて確保する」
地上に降り立ったのはメイスと呼ばれる黒い鈍器を武器とした白いモビルスピリットバルバトス。その基本となる第4形態。
「この早いタイミングで第4形態……オーカのヤツ、一気に行く気か!……ただ」
バトルを見守るヨッカがバルバトス第4形態を召喚したオーカを視界に入れながらそう呟く。それはメメの場のスピリットであるクラモンの効果を知っているからこそ言えるものであり………
「アタックステップ……行け、バルバトス!!」
オーカの指示を聞き、やる気を見せるように瞳部の眼光が緑色に輝くバルバトス。背部のスラスターを噴射させ、低空で地を駆け抜ける。
「アタック時効果!…スピリットのコア2つをリザーブに……よってクラモン2体は消滅」
「!」
ー【クラモン】(1➡︎0)消滅
ー【クラモン】(1➡︎0)消滅
メイスを振い、その空に伝わる衝撃だけでクラモンを吹き飛ばし消滅させるバルバトス。
だが、ここでもクラモンの効果は発揮されて………
「クラモンの破壊消滅時効果!!…デッキを1枚オープンして、それが同名だったら召喚できる。2体消滅したから効果も2回使うよ」
「でも、もうクラモンは3枚揃った……同じカードが捲れる事はない」
「ふっふっふ……甘いな少年」
「!?」
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
「ッ……4枚目と5枚目のクラモン……??……バトスピって同じカードは3枚しかデッキに入れられないんじゃなかったっけ?」
普通ではあり得ない現象が起こる。本来なら同名カードは3枚しかデッキに入れられないバトルスピリッツ。
だがメメは4体目と5体目のクラモンをこの場に呼び出して見せた。この光景にオーカも思わず目を丸くする。
「確かに基本はそうだが、アイツのクラモンみたいに何枚でもデッキに投入できるって言うカードもある。まぁ星の数ほどあるデッキタイプの中でもレア中のレア効果だけど」
「なにそれ、インチキじゃん」
「NO NO!!……インチキじゃない、これがクラモンデッキの実力って事さ!……バルバトスのアタックはライフで受けるよ!」
〈ライフ4➡︎3〉メメ
アニキ分であるヨッカがクラモンのルールをも変えてしまう特殊な効果を説明。思惑が外れたオーカは少し不機嫌になるが、彼の使役するバルバトスは今一度メイスを振い、メメのライフバリアを1つ破壊した。
「………ターンエンド」
手札:4
場:【鉄華団モビルワーカー】LV1
【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1
バースト:【無】
未だクラモンの効果に動揺しているのか、一度ターンを終了するオーカ。そんなクラモンを操るメメにターンが移り変わって行く。
[ターン05]メメ
「メインステップ、青マジック、ストロングドローを使ってみよう。デッキから3枚引いて、その後2枚をトラッシュに破棄」
「……クラモン以外のカードも入ってるのか」
メメは手札入れ替えとしてはかなり強力なカードであるストロングドローを使い、その質を向上させる。
「それじゃあ手札が良い感じになったところでアタックステップ、クラモン2体でアタック!」
「………ライフだ」
〈ライフ4➡︎3➡︎2〉オーカ
クラモンの攻撃をライフで受けようかブロックしようか悩むオーカだったが、また復活してしまう可能性を考慮し、ここはライフで受けた。
風船のようにふわふわと飛んで来た2体のクラモンが彼のライフバリアをまたしても砕いた。
「ターンエンド!!…さぁ、スーパー天才美少女科学者メメが操るクラモンを突破できるかな?」
手札:5
場:【クラモン】LV1
【クラモン】LV1
バースト:【無】
クラモンと言う小さな幼年期のデジタルスピリットのみを操りオーカを追い詰めるメメ。しかしオーカも黙ってやられ続けるわけがない。
[ターン06]オーカ
「ドローステップ……ッ」
このターンのドローステップ、引いたカードを目にするなりオーカの堅い表情が一瞬綻ぶ。その様子に彼のアニキ分であるヨッカはあのカードを引けたのだと推測して………
「引いたかオーカ。今のオマエに足りないモノを補うあのスピリットを……」
ヨッカが仁王立ちで腕を組みながらそう呟くと、オーカも淡々とターンを進めて行く。
「メインステップ……2体目の鉄華団モビルワーカーを召喚、バルバトス第4形態のLVを3に上げる」
ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3
小型スピリットの追加召喚に加え、エースのバルバトス第4形態のLVの増強。攻撃の準備は一見整ったかに見えたが、ここでオーカはさらにスパイスを加える………
「さらにバーストをセットだ……!」
「ッ……ふむ、バーストか」
バトスピにおける罠カードであるバーストを裏向きでセットするオーカ。彼がこれを伏せるのは今までのバトル内容には一切存在しない。
「行くぞ爆弾の人、アタックステップ……鉄華団モビルワーカー1体でアタック!」
「それはライフで受けよう!」
〈ライフ3➡︎2〉メメ
初撃は2体いる鉄華団モビルワーカーの内1体が勤める。両脇に備え付けられた銃火器から弾丸を放ち、メメのライフバリアを1つ砕いた。
そして次だと言わんばかりにバルバトスがメイスを両手で強く握りしめ、構える。
「バルバトス第4形態!!……効果でクラモン2体からコア1つずつをリザーブに置き、消滅させる!」
ー【クラモン】(0➡︎1)消滅
ー【クラモン】(0➡︎1)消滅
薙ぎ払うように振るったメイスが空を切り裂き、クラモン2体を吹き飛ばして消滅させる。
当然このままでは終わらないわけだが………
「クラモンの破壊消滅時効果!……おっと、今回は1体だけか〜……まぁでもOKでしょう!」
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
流石にそう何度も上手くはいかないか。2体いたクラモンは1体だけ復活を果たしたが、残り1体は失敗してしまった。
「バルバトス第4形態のLV3アタック時効果で紫のシンボルを1つ追加!…ライフを2つ破壊できる!」
「なるほど!!…良い効果だ!!……けど、それくらいでへこたれていたら受け継いだDNAが騒ぐと言うものだよ!!」
言っている意味はさっぱりわからないが、ニュアンスは反撃してみせようと気概そのモノ。
メメは手札から1枚のカードを取り出し、その効果を発揮させる。
「アタシは手札にあるアーマゲモンの効果を発揮!」
「ッ……別のスピリット効果??」
「このスピリットはトラッシュにあるクラモンを好きな数手札に戻し、戻した数1枚につきコストを3つ下げ召喚できる!!……今回は4枚手札に戻して、そのコストをマイナス12、つまり0コストで召喚する!」
「!!」
彼女は4枚戻して召喚だと口にしていたが、実際の場には数多くのクラモンが召喚、密集を繰り返して行く。その夥しい光景はまるで悪夢でも描いているかのよう…………
そして、完全に一体となって完成したそのスピリットはこの地上へと降り立った…………
「コトワリを覆す魔神の使い、アーマゲモンをLV2で召喚!」
ー【アーマゲモン】LV2(3)BP15000
出現したのは禍々しさと異端さで固められたような黒い竜。マンションの屋上にピッタリ収まってしまうほどの大きさに、今までのスピリットとのスケールの違いをオーカに印象付けさせる。
「今度のはヤケにデカいな」
「デカいのは見た目だけじゃないぞ!!……効果ももう派手の中の派手!!……召喚アタック時効果、シンボル2つ以上のスピリット1体を破壊!」
「!!」
「察したかな?……バルバトス第4形態には消えてもらう!」
登場するなり咆哮を張り上げると、アーマゲモンは漆黒の雨のように背中からミサイルを投下させる。
バルバトス第4形態はそれを回避できずに全弾命中。堪らずオーカの目の前で爆散してしまった。
「くっ……ターンエンドだ」
手札:3
場:【鉄華団モビルワーカー】LV1
【鉄華団モビルワーカー】LV1
バースト:【有】
手痛いカウンターを貰ってしまったオーカ。鉄華団モビルワーカーを1体をブロッカーとして残す形でターンを終えた。
次は見事にアーマゲモンと言う特大級の大型デジタルスピリットを着地させたメメのターン。既に勝ち誇ったようにターンを進めて行く。
[ターン07]メメ
「メインステップ……クラモンを追加で1体召喚して、アーマゲモンのLVを最大に」
ー【クラモン】LV1(1)BP1000
ー【アーマゲモン】(3➡︎5)LV2➡︎3
前のターンに手札に戻していたクラモンが追加で1体召喚され計2体になる。アーマゲモンもLVが上がり、その数値は22000といよいよ手がつけられない値まで上昇する。
「その鉄華団とか言うデッキ、攻撃は得意みたいだけど防御はイマイチみたいだね〜」
「!」
「このターンでフィニッシュ決めちゃおうかな!!……アタックステップ、攻撃だアーマゲモン!!」
互いにターンを交わして行く中でオーカの持つ鉄華団デッキの特徴を把握したメメ。確かに鉄華団デッキはバルバトスと言う圧倒的な力の存在から攻撃は得意だが、逆の受け身は弱い。
防御力があるとすればそれは汎用性の高い白の防御マジック程度。そう認識し、メメは自身の持つ最強のスピリットであるアーマゲモンに攻撃を命じた。
「アーマゲモンの更なる効果でこのアタックは相手が相手のスピリット1体を破壊しなければブロックできないよ〜」
「………疲労している鉄華団モビルワーカーを破壊して、回復状態の鉄華団モビルワーカーでブロック。破壊時効果でデッキから1枚を破棄して1枚ドローだ」
逃げ惑う道もスペースもなく、アーマゲモンのまるで蜘蛛のような脚で串刺しにされ爆散してしまう1体の鉄華団モビルワーカー。
そしてもう1体も全く同じ手法で瞬殺。一気にオーカの場はガラ空きとなってしまう。ここにさらにクラモン2体のアタックが飛んで来たらひとたまりもないだろう………
だが…………
「フ………!」
「ん?……何笑ってるのさ少年。やられ過ぎて脳細胞がイカれたのかい?」
「人の部屋の壁爆発させる人にイカれたは言われたくないな」
秘策があるのか、オーカは薄く笑みを浮かべる。
「アンタはさっき、鉄華団デッキは防御がイマイチと言った」
「うん」
「でもあるんだ。オレの鉄華団にも、頼れる守護神が………スピリットの破壊によりバースト発動!!」
「ッ……ここでバースト!?」
その秘策とは前のターンにさり気なく伏せて置いたバーストカードの事。オーカはそれを全力で反転させ、効果を発揮させる………
それこそ、そのカードこそ………
バルバトスと双璧を成す新たなモビルスピリット…………
「轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイク!!……LV3で召喚!」
ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV3(5)BP12000
上空から降り立ったのは薄茶色の分厚い装甲を持つ一機のモビルスピリット。
その名はグシオンリベイク。オーカのデッキにおける第二のガンダムの名を持つモビルスピリットである。
左手に持つシールドと右手に持つハルバードは正しく守護神としての存在を顕著に表しているかのよう………
「来たか、グシオンリベイク……!」
「まさか2体目のモビルスピリットを隠し持っていたとは……」
「グシオンリベイクのバースト効果。このターンの間、コア2個以下のスピリットのアタックじゃオレのライフは減らない」
「!!」
早速発揮される守護神たる効果。これにより、このターンの間はコア1個しか置かれていないクラモンによるアタックではオーカは負けない。
そしてそれだけではなく………
「さらに召喚時効果、相手フィールドのコア2個をリザーブに!!」
「む、又してもコア除去!?」
「クラモン2体を消滅させる!」
ー【クラモン】(1➡︎0)消滅
ー【クラモン】(1➡︎0)消滅
肩部に存在するサブアームを展開し、そのアームで背部にマウンティングされた滑空砲を握るグシオンリベイク。そのままその滑空砲を2体のクラモンに向けて連射。見事命中させて爆散させる…………
だがしかし、ここからが本番であって………
「クラモンの破壊消滅時効果………デッキから1枚をオープン、ケラモンなら召喚できる!」
今回もまた発揮される。2体やられたのでその効果は2回使える…………
勝負の命運を分けるであろうこのカードオープン。だが、勝利の女神は鉄華オーカミに微笑む…………
「ッ………2回ともハズレた!?」
「よし。運がこっちにも回って来た。これでクラモンはもう復活できない……!!」
「むむ……仕方ない、ターンエンドだ」
手札:6
場:【アーマゲモン】LV3
バースト:【無】
まさかの2回ともハズレ。いや、鉄華オーカミの勝利を捥ぎ取るような強烈な運命力によってハズされたと言うべきか…………
どちらにせよ彼にとっては好機。ここぞとばかりにターンを進めて行く………
[ターン08]オーカ
「メインステップ!!……バルバトス第1形態を召喚!」
ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000
地中から地響きと共に飛び出して来たのはバルバトスの最初期の姿であるバルバトス第1形態。肩のアーマーが無く、剥き出しになっている事から、それが不完全であると確信できる。
だがそんな不完全な状態であってもバルバトスはバルバトス。これで鉄華団デッキの双璧たるモビルスピリット2体が揃った。
「アタックステップ!!……グシオンリベイクでアタック、その効果で疲労状態のアーマゲモンを破壊!」
「なんですと!?」
背部のスラスターで上空に飛び立つグシオンリベイク。そのまま急降下、右手に持つハルバードを振り下ろし、アーマゲモンを上から斬り裂いた。
堪らず爆散するアーマゲモン。そしてそれにより視界が良好。アーマゲモンを倒したグシオンリベイクはメメのライフを狙い地をゆっくりと歩き出した。
「グシオンのアタックは続いてるぞ!」
「ッ……ライフで受ける!!」
〈ライフ2➡︎1〉メメ
グシオンリベイクはメメの目前まで迫ると、再びハルバードを縦に振り下ろし、ライフバリアを砕く。その数は遂に残り1つ………
トドメはやはりあのモビルスピリットが持っていく。オーカはラストのアタックをコールして………
「これで終わりだ………バルバトス第1形態でアタック!!」
背部のスラスターで低空を走るように駆け抜けるバルバトス第1形態。その拳を構え、メメの元へと急接近して行く………
そしてここで敗北を確信したか、メメはその瞳をゆっくりと閉じると………
「負けたか、意外とやるじゃないか少年。ライフで受けるよ」
〈ライフ1➡︎0〉メメ
バルバトス第1形態の拳の一撃がスーパー天才美少女科学者を自称する彼女の最後のライフバリアを砕いていった…………
これにより、勝者は鉄華オーカミだ。新たなモビルスピリット、グシオンリベイクを使いこなし、見事勝利を収めて見せた。
「ん、オレの勝ちだな。取り敢えずアニキとの約束は守ってもらうぞ」
「了解。直して置くよ、ゲーム機」
「………正直家の壁から直してほしいんだけど」
勝利したにもかかわらず淡々とした口調で話し出すオーカ。年頃の少年のように喜んだり笑ったりしないのが彼の特徴と言えば特徴である。
「勝ったよアニキ。これでいいんだろ?」
「あぁ、また腕を上げたな」
「グシオンリベイクのお陰だよ」
「何事も経験が大事だ。それがオマエの血となり肉となり支えて行くんだぞ」
「ふーーん。まぁ取りあえず腹減ったから部屋に戻るよ」
「……オマエってヤツは本当にどこまでも野生的と言うか本能的と言うか……」
勝利に驕らず、減った腹を満たすべく階段を降りて行くオーカ。アニキ分であるヨッカとしては、感情の起伏が乏しい彼の事が将来的に少し心配になる。
そんな折、メメが口角を大きく上げた笑みを浮かべながらヨッカの元まで歩み寄って来て………
「少年、バトスピやってからちょっと変わったかもね。ちょっと前、ここに来たばかりの時は一切笑った顔なんて見せなかったし………って言っても今でも笑う姿が見れるのはバトルしてる時だけみたいだけど」
数ヶ月前、オーカとその姉がこのマンションの自分の部屋の隣に越して来て、初対面した時の事を思い出していたメメ。普段のオーカとバトルをしている時のオーカとではかなり違うと感じていた。
「これも多分、九日氏のお陰なのかな?」
メメにそう言われ、ヨッカは手を顎に当て「う〜〜ん」考え込み………
「いや、オレの出会いよりも多分「鉄華団」との出会いの方が影響は大きいだろうな………アイツと鉄華団の出会いは何か大きな運命を感じるんだ」
「………どうしたの九日氏、ちょっとキモイぞ。ポエマーっぽくて」
「オマエが言わせたんだろ!!」
マンションの屋上、だだっ広い大空に向かってヨッカの叫び声がコダマした。こうしてまた平和な1日が過ぎ去って行く…………
******
後日、オーカとヨッカは無事に修復されたムエ太郎カート31を壁の直ったオーカの家で遊んでいた。テレビ画面に映るチンチクリンなキャラクター達を彼らは操ってレースを繰り広げている。
「………アニキ、これのどこが楽しいの?」
「楽しいって!!…オレの家ではマジで大流行してんだぞ!!……度々バグってるからそう感じるだけだ!!」
イマイチ面白さを理解できないオーカ。ヨッカは自信満々にこのゲームを持って来たばかりにどうにも引き下がれない。どうしてもオーカにこのゲームの素晴らしさを伝えたい………
はずなのだが、何故か所々起きてしまう画面が止まると言うバグのせいで確かに面白味に欠けるのかもしれないとも考えていて………
「あのグルグル目の女!!……本当に完璧に直したんだろうな!?……ったく」
怒るヨッカが立ち上がり、ゲームを直そうとテレビ画面に近づくが………
ここでもまた事件は起こった…………
直ったはずの壁が又しても大爆発。その爆煙にヨッカは吹き飛ばされてしまう。そして犯人は当然あの人………
「おっは〜!!…スーパー天才美少女科学者のメメです!!……少年、親戚から貰ったイモリいる?」
「………いらない。早く壁直せよ」
また壁を壊された怒りからか、オーカはこれでもかと言わんばかりの冷たい目をメメに向けるのだった………
次回、第11ターン「剣帝、赤羽カレン」